ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド   作:ガチャガチャクツワムシ

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トキワジム決着後

「規定に則り、これを渡そう! グリーンバッジだ!」

 サカキから手渡されたのは、深く輝くグリーンバッジだった。それを受け取り、大切にバッジケースへと収めたヒビキだったが、先ほどサカキが口にした一言がどうしても引っかかり、思い切って尋ねてみることにした。

「あの……サカキさん、さっき『最後』って言ってましたけど、それって……?」

「ん? ああ、私の個人的な事情でな。私は今シーズンを最後に、トキワのジムリーダーを降りる予定なのだ。……本業の方が、少々忙しくなってきてな」

 サカキがフッと意味深な笑みを浮かべて答えたその時、カツカツと足音を響かせて黒服の秘書が駆け寄り、彼の耳元で何かを素早く耳打ちした。

「……フッ、やはりか。──このように、どうやらもう仕事の時間のようだ。これにて失礼させてもらう。ああ、そうだ。去り際に一つ、良いことを教えておこう」

 秘書に促されてバトルフィールドを後にしようとしたサカキだったが、ふと思い出したように足を止め、振り返ってヒビキを見据えた。

「私がジムリーダーとして『本気』を出し、プライベートの手持ちを使って真っ向からバトルをしたのは、今シーズンにおいては君を含めてわずか3人だけだ。といっても君のように三体目からではなく最後の1体からではあるが、しかし残りの2人もかなりの実力を持つ。いずれリーグの舞台で相まみえるかもしれないから、楽しみにしているといい」

 それだけを言い残し、カントー最強の男は重厚なジムの奥へと去っていった。一人残されたヒビキは、バッジケースを見つめながら拳を強く握りしめる。

「……ファイヤーみたいな伝説のポケモンを使わずに、あのサカキさんを本気にさせた奴が、俺以外にあと2人もいるのか。……だったら、なおさらモタモタしてられないな。もっともっと特訓しないと!」

 決意を新たにしたヒビキは、激闘を戦い抜いたリングマたちを休ませるため、まずはトキワシティのポケモンセンターへと向かった。

 一方、ロケットカンパニーの一室では、ジムバトルを見終わったシラサギがマトリに向かってとある頼みごとをしていた。

「マトリ君、念のために全団員へ通達を頼む」

「……例の少年、ヒビキの邪魔を絶対にしないこと、ですね? 承知いたしました。すぐに手配いたします」

 マトリが有能な一礼をして部屋を出ていく。シラサギは、面白そうに眼鏡のブリッジを押し上げた。

「今回の新規事業で目をつけた若者たちも優秀だが、ボスが本気で相手をしてなおバッジを捥ぎ取っていく少年まで現れるとはな。……今シーズンのセキエイリーグは、間違いなく荒れる。実に楽しみだ」

 底知れない笑みを浮かべ、シラサギもまた静かに部屋を後にした。

 ポケモンセンターで手持ちを完全に回復させたヒビキは、すぐさまマサラタウンへと引き返し、皆が特訓しているであろうオーキド研究所の裏庭へと向かった。

 しかし、敷地に足を踏み入れた瞬間──ドゴォォォ──ンッという、鼓膜を震わせるほどの凄まじい衝撃波と爆風がヒビキを襲った。

「うわあああっ!? なんだぁ、一体何が起きてるんだ!?」

 慌てて爆風の発生源である特別区画へと駆けつけると、そこでは想像を絶するパワーとパワーの激突が行われていた。

「ドサイドン! 【アームハンマー】!!」

「ボスゴドラ! 【ボディプレス】で受け止めろ!!」

 声を荒らげているのは兄のジスト。そして、その対面にいるのは見覚えのある、一目でタダ者ではないと分かる青年だった。ジストの親分ドサイドンの超重量の一撃を、青年のボスゴドラが文字通り「鋼鉄の盾」となって真っ向から相殺している。

「あっ、ヒビキ! お帰り!」

 サトシが爆風に目を細めながら叫んだ。

「サトシ! 一体何が始まってんだよこれ!?」

 ヒビキが詰め寄ると、リンがやれやれといった様子で肩をすくめて説明する。

「それがな、ヒビキ君いない間にあの人が突然ここに来てな。ジストさんと一言二言喋ってたと思ったら、いきなりこんな大バトルが始まってまったんよ」

「もの凄い応酬だよ。技の精度も、タイミングも、お互いの読み合いも……一瞬でも目を離すのが惜しいくらいさ」

 シゲルがバトルフィールドから一切目を離さずに、興奮を抑えきれない様子で呟く。

「でも、あの人いったい誰なんでしょう……? 凄まじいプレッシャーなのに、どこか空気が澄んでいるような、不思議な方ですね……」

 セナが呟くのも無理はなかった。

 そこに立つ青年は、いかにも一匹狼を思わせる凄味のある風貌をしていた。ジャケットを少し着崩したニヒルな外見は、一見すると近寄りがたい殺気すら漂わせている。

 だが、その口を開けば、荒々しさとは無縁の、極めて冷静で理知的な知性が溢れ出していた。

「あの人はグレイさんだよ! 兄貴の大親友で、ずっと競い合ってきた最高のライバルなんだ!」

 ヒビキの声に、サトシもセナも驚愕の表情を浮かべる。

「ええっ!? あの人が、ジスト兄ちゃんのライバルと言われてるグレイさん!?」

「噂の……。もっと荒っぽい人かと思っていましたぁ~!」

 一同が盛り上がる中、ジストとのバトルを終えたグレイは、ボスゴドラをボールへ収めると、こちらへ歩み寄ってきた。その歩調は静かで、研ぎ澄まされている。

 彼はヒビキの前で立ち止まると、その鋭い三白眼を穏やかに細め、落ち着いた声で口を開いた。

「久しぶりだな、ヒビキ。まずはカントーのジム全制覇、そしてリーグ参加決定、心から祝福する」

 その言葉には、一切の虚飾がなく、理路整然とした深い慈愛が籠もっていた。

「ありがとう、グレイ兄! でも、なんでまた急にカントーに? 教員採用試験の勉強はどうしたの?」

 ヒビキの問いに、グレイは少しだけ肩をすくめて苦笑する。

「お前が人生の大きな転換点に立つ以上、僕も現場でその『変革』を見届けたくなったんだよ。それに、マサラに来るのは僕だけじゃない」

 グレイは懐からタブレットを取り出し、さらりと指で画面を操作して、複数のスケジュール情報をヒビキたちに見せた。

「シアンやカナタ、ソルたちにも声をかけてある。彼らも自分の担当業務を最速で片付け、順次ここに合流する予定だ。……いいか、ヒビキ。リーグで勝つためには、お前自身の技術だけではなく、多角的な視点による戦術の構築が必要になる。お前がその場に立つために、最高の『壁』を用意してやろう」

 その冷徹なまでの分析と、ヒビキの成長を促すための理知的な配慮。外見の威圧感とのあまりのギャップに、サトシたちも感銘を受けたように聞き入っている。

「……これからもっと賑やかになるから、期待しておけよ」

 クールな風貌から放たれる、知的な指導者の言葉。

 最強の先輩たちの集結という報せに、ヒビキの胸は武者震いするほどの高揚感で満たされていった。

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