ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
「開催まで残り1ヶ月と3週間はある。どうせアイツら(シアンたち)もお前らに何かを教えると思うから、それを生かして後は自分達で強くなれ! お前らはまだ新人なんだ、予選で負けても仕方ない事だ。……だからって、手は抜くなよ? 全力で取り組まないと、頑張って戦うポケモン達に失礼になるからな。頑張れよ! ひよっこ共!」
ジストは最後にそう力強く激励の言葉を残すと、不敵に笑ってジョウトへと帰っていった。
その後、入れ替わるようにしてマサラタウンにやって来たシアン、ソル、カナタの3人も、それぞれの得意分野からヒビキたちへ的確なアドバイスを授けると、多忙な身ゆえに風のようにすぐさま帰っていってしまった。
偉大な先輩たちからの言葉を受け、引き締まった空気が流れる裏庭。
最初に動いたのはシゲルだった。
「さてと。悪いけど、僕は僕のやり方で強くなる。それじゃ、リーグで会おうか」
シゲルはそうクールに言い放つと、いつものように派手なオープンカーと応援団を引き連れて、自身の特訓へと出発していった。
「んじゃ、俺も別の場所に行くか……。まだファイヤーとの連携が上手くなってないからな。お前らはどうする?」
ヒビキが残った面々に視線を向けると、セナが真っ先に、しかし芯のある声で口を開いた。
「私も、ヒビキ君に頼りっぱなしじゃ駄目だと思うんで、個人で特訓してみようと思います」
「ウチもやな。メカの調整も含めて、一人でじっくり手持ちと向き合ってみるわ」
リンが工具を弄りながら不敵に笑う。
「俺も、もっともっと特訓して強くなるぞ!」
サトシが拳を突き上げると、タケシが肩をすくめて笑った。
「サトシだけじゃ、色々と心配だから俺も手伝うよ」
「アタシもね。また変な無茶をしないように見張っててあげるわ」
カスミも腕を組んでクスクスと笑う。
「そんなぁ!」
サトシがガクッと肩を落としてふてくされ、その場にどっと笑いが起きた。
「あっ、そうそう。ジスト兄さんから頼まれたから、全員のところへ時折様子を見に行かせてもらうわね」
アオバがニンフィアを撫でながらそう告げると、ヒビキはにやりと笑った。
「助かるよ! 姉ちゃんは練習相手にはもってこいだからな」
「……姉をそんな便利屋みたいに扱わないの」
アオバは笑顔のまま、背後にうっすらと凄まじい圧を込めて釘を刺す。さすがのヒビキも、これにはまだ冷や汗を流して逆らえなかった。
「んじゃ、またなサトシ! 開催場所、間違えるなよ?」
「間違えるわけ無いだろ!」
そんな賑やかなやり取りを最後に、少年少女たちは各々の決意を胸に、別々の場所へと特訓に旅立っていった。
一方その頃、ロケット団のとあるアジトにて。
ムサシ、コジロウ、ニャースの三人組は、直立不動の姿勢で緊張の面持ちを浮かべていた。
「シラサギ様! 言われた通りに手持ちを集めました!」
ムサシが報告すると、目の前のデスクに腰掛けたシラサギが、不敵な笑みを浮かべて眼鏡のブリッジを押し上げた。
「ほぉ、ならば見せてみろ」
言われるがままに、二人は手持ちのモンスターボールを一斉に解放する。
フィールドに現れたムサシの手持ちは、お馴染みのアーボックとベロリンガの他に、パルシェン、ルージュラ、サワムラーという、一癖も二癖もある強力な面々。
対するコジロウの手持ちは、マタドカスとウツボットの他に、ナッシー、ドククラゲ、カイロスという、重量感のある布陣だった。
「あの……シラサギ様、本部からお預けになったという、例のポケモンたちも拝見して宜しいでしょうか?」
コジロウが恐る恐る尋ねると、シラサギは短く「構わん」と許可を出した。
二人が特別に支給された重厚な漆黒のボールを開くと、ムサシの前には禍々しい角を持つ巨体・ニドキングが、コジロウの前には狂暴に牙を剥く凶悪なギャラドスが姿を現した。その威圧感に、三人組は思わず息を呑む。
「……フッ、悪くない。その獰猛な面々を完全に使いこなせるよう、この私が直々に特訓してやろう」
シラサギが静かに立ち上がった瞬間、ムサシたちの脳裏に猛烈な嫌な予感が走った。しかし、本部の最高幹部に逆らえるはずもなく──その後彼らは、リーグ開催直前まで、声も出ないほどの地獄の苦痛と猛特訓を味わうことになるのだった。
そして、時は流れ──。
1ヶ月と3週間が瞬く間に過ぎ去った。
風の香りが変わり、セキエイ高原が世界中のトレーナーたちの熱気で包まれる。
リーグ開催の数日前。
極限の特訓を耐え抜き、一回りも二回りも逞しく成長したヒビキと相棒達は、ついに決戦の地、セキエイリーグの会場へと足を踏み入れたのだった。