ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
「はい! ジムバッジの確認は終わりました。セキエイリーグ出場おめでとうございます!」
受付の女性たちから祝福の拍手を受け、ヒビキは手渡されたガイドブックを手に、指定された宿泊場所へと向かった。
その道すがら、近くにいた他のトレーナーたちが、ヒビキの胸元で輝くバッジを見てざわめき始める。
「おい、アイツ……ホワイトバッジを持ってるぞ!?」
「マジかよ! あのトキワジムのクスノキさんを倒したってことかよ!?」
「うわ、アイツとだけは予選で当たりたくないな……」
背後から聞こえるそんな怯えと驚嘆の混じった会話を、ヒビキは意に介さず、ただ前だけを向いて歩き続けた。
「やっぱ、会場はすげぇ熱気だ。どの出場選手もやる気に満ちているな」
翌日、会場近くを適当に散策していると、ふと受付周辺が騒がしくなった。
「なんだ?」
見に行くと、どうやら幼馴染みのサトシが聖火ランナーに選ばれたらしく、大はしゃぎしているのが見えた。
「アイツ、相変わらず運だけは良いな」
そんな風に微笑ましく眺めていたが、すぐに飽きたヒビキは宿舎に戻り、じっくりとファーストステージのメンバー編成を考えることにした。
その後、盛大な開会セレモニーが執り行われ、ついに1回戦の幕が上がろうとしていた。
「トレーナーカードをお願いします」
受付のスタッフに促され、ヒビキはトレーナーカードの代わりとして、オーキド博士から渡されているポケモン図鑑を手渡した。スタッフは素早くデータを読み取ると、笑顔で告げた。
「ヒビキさん、第1試合となります。フィールドは──『草のフィールド』です」
対戦相手のデータを確認すると、そこに映っていたのは眼鏡を掛け、いかにも陰険そうな表情をした少年だった。
「開始時間は午前11時となります」
そう告げられたヒビキは、すぐに控室へと向かった。改めて対戦相手のデータを端末で調べ上げる。
「名前はムーシ……虫使いか。なら、コイツだな」
ヒビキは迷うことなく3体のメンバーを選出すると、目を閉じて深く精神統一を行った。
そして、運命の開始時間が訪れる。
「行くか!」
短い呟きと共に、ヒビキは光の射すフィールドへと足を踏み出した。
『さぁ、セキエイリーグ第1試合が行われます! 実況はワタクシ、ジフテレビのベカンと、そしてこの方!』
『どうも、解説で呼ばれたジョウト四天王のジストです』
『この2人で行わせて頂きます! さぁ、まずは赤コーナー、クヌギタウンのムーシ選手!』
大歓声の中、眼鏡を指で押し上げながらムーシが現れる。
『対するは緑コーナー、マサラタウンのヒビキ選手!』
アナウンスと共にヒビキがフィールドに姿を現すと、対面したムーシが鼻で笑いながら、聞こえよがしに挑発してきた。
「なんだ、弱そうな相手だ。これなら初戦は楽勝そうだな」
ヒビキはその挑発を完全に無視し、ただ不敵な笑みを口元に浮かべた。
「それでは両者、ポケモンを出してください!」
審判の鋭い声が響く。
「行ってこい! ポリゴンZ!」
「リリリッ!」
ヒビキが放ったボールから飛び出したのは、奇妙な色合いをした色違いのポリゴンZだった。
「行けー! ストライク!」
「ライク!」
対するムーシは、鋭い鎌を持つストライクを繰り出す。
「それでは、試合開始!」
「ポリゴンZ! 【悪巧み】!」
「リリリ!」
ポリゴンZが頭部を不気味に傾け、自身の特攻を爆発的に高め始める。
「させるか! ストライク、【シザークロス】!」
「ラァイク!」
ストライクが猛烈なスピードで肉薄し、鋭い鎌を交差させて切りかかる。しかし、ポリゴンZはカクカクとした不可解な挙動で、その一撃を紙一重でひらりと避けた。
「ちょこまかと! 【連続切り】だ!」
「ララァイク!」
さらに速度を増した連続の斬撃が襲いかかる。だが、ポリゴンZはさらにその全てを異様な動きで回避しながら、淡々と2度目の【悪巧み】を積み重ねていく。
その様子を見たムーシは、勝ちを確信したようにニヤニヤと笑い出した。
「おいおい、避けるだけかよ。バッジの噂の割には拍子抜けだな!」
ヒビキの目が、冷徹に光った。
「──なら、これを喰らいな。ポリゴンZ、【騒ぐ】!」
「リリィィィィリ────ッ!!!」
ポリゴンZの口(空間)から、フィールド全体を激しく震わせるほどの凄まじい爆音の衝撃波が解き放たれた。直撃を受けたストライクは、防御する間すら与えられず、一撃でその場に消し飛ぶように転がった。
『な、なんということでしょう! まさに文字通り、一撃でストライクを戦闘不能にしましたァ! なんという圧倒的な強さだ、ポリゴンZ!』
実況のベカンが絶叫する中、解説席のジストが呆れたようにマイクに声を乗せる。
『そりゃ、あんだけフリーで【悪巧み】を積ませりゃあな。多分、特防が高めの半減タイプであろうが、あの火力を喰らえば下手したら一発で落とされるぞ』
「くっ……ならば! いけ、モルフォン!」
「キュイ!」
『ムーシ選手、お次はモルフォンを繰り出した!』
「モルフォン、まずは【どくどく】だ!」
紫色の毒胞子がポリゴンZを包み込む。しかし、ヒビキは表情一つ変えずに言い放った。
「構うな、そのままいけ!」
【騒ぐ】の効果はまだ続いている。毒状態のダメージなどお構いなしに、ポリゴンZが再び放った狂気的な爆音の波動がモルフォンを直撃し、そのまま一瞬で戦闘不能へと追い込んだ。
「ち、畜生! 負けるかよ! 行け、カブトプス!」
「カブット!」
『なんとお次は、化石ポケモンのカブトプスです!』
「ここで切り札を出すことになるなんてな……! だが、岩タイプのお前なら、多少はどうにかなるはずだ!」
ムーシが焦りを隠せない声で叫ぶ。
ようやく【騒ぐ】の効果が落ち着いたポリゴンZは、首をカチカチと左右に振りながら、挙動不審な動きでカブトプスを見つめていた。
「カブトプス! 【アクアジェット】!」
「トップス!」
全身に激しい水を纏い、弾丸のような速度で突撃してくるカブトプス。
その必死の猛攻を正面から見据え、ヒビキは極めて冷静に、最後の引導を渡した。
「──【破壊光線】」
「リリリッ!!」
ポリゴンZの全身から、フィールドの草を瞬時に蒸発させるほどの極太の破壊光線が放たれた。激突。突撃してきていたカブトプスは、その圧倒的な光の濁流に完全に飲み込まれ、次の瞬間には黒焦げとなって地面へと崩れ落ちた。
「カブトプス、戦闘不能! よって勝者、マサラタウンのヒビキ!」
静まり返る会場。
ヒビキは手持ちを僅か1体しか見せることなく、完璧なる圧勝でセキエイリーグの初陣を飾ったのだった。