ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
2人の激しい試合を見届けてヒビキが息を吐いたその時、いつの間にか隣にアオバが立っており、フィールドを見下ろしながら静かに口を開いた。
「リンちゃん、負けちゃったみたいね」
「そうだね……。まぁ、勝負事なんだからどちらかが負けるのは仕方ないことだろ? 姉ちゃんの時だってそうだったろ?」
「まぁね〜。さてと、それじゃ私はリンちゃんを慰めに行ってきますか!」
アオバは小さく息をついて歩き出そうとしたが、ふと足を止め、ヒビキの頭を軽く小突いた。
「アンタは、次の試合も油断しないようにね? さっきの試合、アンタの立ち回りをもう少し変えていれば、フーディン1体だけでストレート勝ちできたわよ」
「う……うん」
図星を突かれたヒビキが気まずそうに頷くのを見届けると、アオバはひらひらと手を振ってリンの控室の方へと向かっていった。
「……姉ちゃんには何でもお見通しか。よし、俺も次の4回戦の相手の情報を調べないとな」
気持ちを切り替え、データを分析するために宿舎に戻ろうとしたヒビキ。だがその途中、すれ違った同年代とおもしきの少年と少女が、ヒビキの姿を見てボソリと声を漏らした。
「今の奴……かなりの強さだな。ここから先は注意しといたほうが良いな……」
すれ違いざまの言葉に、ヒビキは「向こうも俺を警戒してるな」と表情を引き締めた。──が、その直後、ヒビキのお腹が「ぐぅ〜〜」と盛大に音を立てる。緊張が解けて一気に空腹が襲ってきたらしい。
「……まずは何か腹に入れてからにするか」
苦笑いしながら、ヒビキはひとまず食堂へと足を向けることにした。
一方その頃。
変装して身分を偽り、一般トレーナーとしてリーグに参加しているムサシとコジロウは、死に物狂いの地獄特訓の成果もあって、なんとか3回戦を突破していた。
宿舎にて、通信機でシラサギへとその結果を報告する。
「──ふむ、同士討ちという最悪の事態は避けられたようだな。よくやった」
シラサギは画面の向こうで冷徹に頷くと、手元の資料に目を落とした。
「そして、次の4回戦だが……これは僥倖だ。ムサシ、お前の次の対戦相手は、我がロケットカンパニーが支援をしているトレーナーだ。実力差を見るにはちょうどいい。そしてコジロウ、お前の相手は……あのボスの本気の手持ちを最後に出させた上で、それを打ち倒した猛者だ。その上で、どうやらまだリーグでは奥の手を隠しているようだな」
「ええッ!? ボスの本気の手持ちを打ち倒したぁ!?」
コジロウが文字通り飛び上がって驚愕する。
「そこでだ、コジロウ。お前は試合中、出来るだけギャラドスに【吠える】を使用させ、相手の手持ちを強制的に引きずり出して確認しろ。運が良ければ奴の奥の手が見られるかもしれん」
「りょ、了解しましたぁ!」
「ムサシ、お前は対戦相手と出し惜しみせず全力で戦え。その選手もまた、ボスの本気の手持ちを倒している。その秘められた実力を全てさらけ出させろ」
「分かりました! 任せて下さい!」
一通りの指示を終えたシラサギは、画面の隅に映るニャースに視線を向けた。
「ニャース、お前の個人の感想で構わん。今までの試合を見ていて、お前が特に有力だと感じた選手はいたか?」
聞かれたニャースは、肉球で顎をさすりながらしばらく考え込んだ。
「ニャーの感想なら、さっき言われたムサシとコジロウの次の相手は、どっちもバケモノみたいに強そうだと思いましたニャ。……あとは、ヒビキというマサラタウンのジャリボーイが、桁違いに強いと思いましたニャ」
「成る程……。そのヒビキという少年はな、伝説のファイヤーを従えていたとはいえ、ボスが本気の手持ちを3体も繰り出し、その上でメガシンカまで使用されながらもボスを倒している」
「マ、マジですニャ!?」
ニャースの目が飛び出す。シラサギは眼鏡の位置を静かに直した。
「恐らくだが、その3人のうちの誰かがこのまま優勝するだろうな。確か、決勝リーグとなると再度選考があった筈だな?」
「……そういえば、そうでしたニャ!」
「……そうか。ならば5回戦からは、この私自らが直接会場へ観戦しに行くとしよう。まずは報告ご苦労。それとくれぐれも余計なことはしないように」
最後に冷たく釘を刺され、シラサギとの通信が切れた。
重苦しい緊張感から解放され、3人は大きく息を吐き出す。
「……取り敢えず、俺達は今回の任務を真面目にキッチリやるとしましょうか、ムサシ」
「そうね。あの特訓を思い出すだけでゾッとするわ。シラサギ様を怒らせたら本当に命がいくつあっても足りないもの」
「そうだニャ。ここは大人しく任務を果たすのが一番だニャ」
地獄のしごきを生き抜いた3人は、完全に気持ちを切り替え、まずは3回戦の祝勝のために、ガッツリ食べようと食堂へと向かった。
奇しくも、同じ食堂へと向かうヒビキ。セキエイリーグ4回戦、そしてその先に待つ決戦への歯車が、裏舞台の思惑と共に静かに回り始めていた。