ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド   作:ガチャガチャクツワムシ

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セキエイの休日

 予選がすべて終了し、決勝リーグへの切符を手にしたメンバーが発表された。

 ヒビキの同期で決勝に駒を進めることができたのは、サトシとセナの2人。シゲルとリンは惜しくもここで敗退となったが、マサラタウンからは計3名が残る快挙となった。

 決勝リーグ開始までは、3日間の休日が設けられていた。

 ここまでの緊張と激闘から解放されたヒビキは、宿舎の部屋で泥のように眠り、文字通りの惰眠を貪っていた。そんな時、低く落ち着いた声と共にドアが開いた。

 「入るぞ」

 見流しの私服に身を包み、入ってきたのは解説を務めていた兄のジストだった。

「だらけるのは良いが、明日までにしておけよ?」

 ベッドから気だるげに体を起こしたヒビキは、小さく伸びをする。

「うん、思ったより疲労が溜まってたみたい。でも、明日には完璧に回復すると思う」

「初めてのリーグならこんなもんだ。何回か大きな舞台を経験すればすぐに慣れるさ」

 そんな他愛のない会話を交わす中、ヒビキは昨日から頭の片隅に引っかかっていた疑問を口にした。

「なぁ、兄貴……シゲルを破った、あのマサトシって選手、どう思う?」

 その名が立ち上がった瞬間、ジストの目が鋭いプロのそれに変わった。

「彼な……。かなりの実力を持っているのは間違いない。4回戦までに彼がバトルで見せたのは4体。ガラルヒヒダルマ、キングドラ、ウルガモス、ゲンガーだ。どれも一線級で、極限まで育てられていた上に指示も的確だった」

 厳しい分析を口にしつつも、ジストは不敵に笑ってヒビキの頭を小突いた。

「……唯一の救いは、ポケモンの質においてはお前も負けてないってことだ。戦術眼も同等レベルにある。あとは本番でどう立ち回るか、それだけだ」

「わかった」

 ヒビキが力強く頷くのを見て、ジストは持ってきた大きめの包みを机に置いた。

「後、ほれ。お袋がお前にって、弁当を作って持たせてくれたぞ」

 包みを開けると、そこにあったのは母・ツバキの手作りの三段重だった。

「わぁ! サンキュー、兄貴! 所で母さんたちは?」

「決勝リーグが始まる時に応援に駆け付けるってさ。今はアオバが飲み物を買いに行っているから、冷める前に準備して食っちまおうぜ」

「了解。俺は皿を取ってくるから、兄貴は箸を並べといて」

 兄弟で手際よく食べる準備を進め、アオバの帰りを待っていると、間もなくしてドアが開いた。

「お待たせー」

 飲み物の袋を下げたアオバが帰ってきた──のだが、その後ろから賑やかな声が何重にも続いて部屋へと流れ込んできた。

 「ハロー、お邪魔するわよ?」

「おっ久〜、ジスト」

「失礼いたしますね」

「あら!? 先生たち、お昼でしたの?」

「お邪魔します」

 アオバの背後から現れたのは、ルリナ、エリカ、クロバネ。そして、見知らぬ男性と女性が1人ずつ。総勢5人の突然の訪問に、ヒビキは目を丸くした。

「あれ? ルリナさ……」

「ん?」

 ルリナのジロリとした視線に気づき、ヒビキは慌てて言い直す。

「ル、ルリナ姉ちゃんと、エリカさん、クロバネさんと……えっと、そちらの方は?」

 すると、クロバネが隣の男性の腕に手を絡め、嬉しそうに微笑んだ。

「彼は私の愛しのダーリンの──」

「初めまして、ハクトと言います。いつもクロバネがお世話になっています」

 眼鏡をかけた優しそうな男性・ハクトが丁寧に頭を下げる。

「私はソニア。ジストの友人ね。よろしく!」

 もう一人の明るい茶髪の女性・ソニアも、快活に自己紹介をしてくれた。

 「会場でたまたま会ってね。母さんが弁当を作りすぎてたから、ちょうど良いかなって誘っちゃった」

 アオバが笑うと、ジストは三段重を見つめて眉をひそめた。

「そうはいっても、この人数で足りるか?」

「問題ないわよ。私たちも自分たちの分を用意しているから」

 ルリナがそう言うと、彼女たちも持参した弁当をテーブルに広げ始めた。

 「まぁ、そういうことなら追加の皿を出してくるね」

「お願いね、ヒビキ君」

 ヒビキが急いでキッチンへ追加の皿を取りに行き、ジストは奥から臨時のテーブルを持ってきて部屋の中央に並べた。こうして、大所帯の賑やかな食事会が始まった。

 ツバキが用意したお重には、ヒビキ、ジスト、アオバの三兄弟それぞれの好物のおかずが、これでもかとぎっしり詰め込まれていた。

「俺やアオバの好みよりも、ヒビキの好きなものを多めに入れてやればよかったのにな」

 ジストが苦笑いすると、アオバも同意するように頷く。

「ふふ、でもこれが母さんらしいわよね」

 二人が微笑ましそうにおかずを取り分けていると、ルリナがスッと自前のタッパーをジストの前に差し出した。

「あっ、これ……私が作ったサンドイッチ。良ければどうぞ」

「お、美味そうだな。ありがたくもらうよ」

 ルリナはさりげなく自作の料理をジストに手渡し、少し耳を赤くしている。するとすかさず、エリカも上品な仕草で重箱を差し出した。

「こちらは今朝、私がお作りしたものですので、よかったら皆様で」

「おっ、さすがエリカさん、相変わらず手が込んでるなぁ」

 「あらあら、先生たち、相変わらずモテモテねぇ」

 クロバネがハクトに寄り添いながらニヤニヤとからかうと、ジストは照れ隠しに声を荒らげた。

「そう言うならお前らも遠慮せず食えよ! ほら、ハクトさんもどうぞ!」

 ジストが敢えておかずをハクトの皿にてんこ盛りに移し、部屋の中にはどっと笑い声が響いた。

 決勝を前にした静かな休日。母の味と、ルリナやエリカたちの手料理、そして大切な仲間たちの笑顔に囲まれながら、ヒビキは心おきなくエネルギーを蓄えていくのだった。

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