ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド 作:ガチャガチャクツワムシ
食事会が終わり、お茶を飲みながら一息ついていると、ヒビキはふと気になっていたことを質問した。
「そういえば、クロバネさんの遠征ってどこに行ってて、何をしてたの?」
聞かれたクロバネは、答えを濁すようにジストへ視線を向けた。ジストは腕を組み、短く頷く。
「ここには俺の身内か、信頼できるジムリーダーしかいない。ソニアはこう見えて口が固いし、他地方のこういう事情には元々詳しいから話しても大丈夫だ」
「ちょっと、ジスト。一言多いわよ」
ジストへツッコミを入れるソニアを尻目に、クロバネは小さく微笑んだ。
「それじゃあ、話しちゃいましょうか。私が遠征で行っていたのは『パルデア地方』よ。元々はそこが私の生まれ故郷で、ダークシティはダーリンの故郷なのよね」
「そうなんですか。じゃあ、里帰りも兼ねてたんですか?」
ヒビキが納得したように言うと、クロバネの表情が少し真剣なものに変わった。
「それだけなら公務扱いの遠征にはならないわ。実はね、パルデア地方には『テラスタル』という、ポケモンが宝石のように輝く特殊な現象が起こるの。元々は野生のポケモンだけに見られる現象だったんだけど、向こうの技術開発が進んで、ここ最近になってようやくバトルでも意図的に発動できるようになったのよ」
その言葉に、それまでお菓子を食べていたソニアの目の色が変わった。
「テラスタル……。それって、ガラル地方の『ダイマックス』のような、エネルギーの局所的な解放現象の一種かしら?」
「なんか、ソニアさんの雰囲気が急に変わったような……」
驚くヒビキの耳元で、ルリナが小声でそっと教えてくれた。
「ソニアはね、ガラル地方の歴史やポケモンの権威であるマグノリア博士の孫娘なのよ。彼女自身も優秀な博士だから、こういうエネルギー問題には目が無いの」
「テラスタルの最大の特徴は、『ポケモンの持つタイプがその場でガラリと変わる』ことよ。例えば、本来は悪タイプのポケモンが、テラスタルによって水タイプに変化したりするの」
「それは……バトルの戦術に、とんでもなく大きな影響を与えますね」
アオバが瞬時に実戦でのシミュレーションを始めると、現役ジムリーダーであるルリナやエリカも、もし自分のジム戦でそれを使われたらどう対処すべきか、真剣に考えを巡らせ始めた。
「それでね、そのテラスタルを他地方の公式戦でも導入・使用できるかどうかの試験運用について、カントーの本部があるセキエイリーグと、ジョウトリーグで協力してほしいって打診が向こうからあったの。その橋渡し役として、私がパルデアへ選ばれたってわけ」
ジストがそこまで話し終えると、クロバネが話を締めくくった。
「向こうのリーグ委員会ともかなり前向きな話がまとまったから、もしかしたら数年後には、どこの公式リーグでもテラスタルの使用が認められるようになるかもしれないわね」
「お前らも気になるだろうが、まだ正式決定したわけじゃない。余計な混乱を生まないためにも、この話は他言無用だぞ」
ジストが最後にしっかりと釘を刺すと、他地方の最新技術に関する極秘の会話は静かに幕を閉じた。
それからあっという間に3日が経ち、いよいよ決勝リーグ当日の朝を迎えた。
会場の特設ステージには、熾烈な予選を勝ち抜いた5回戦進出の精鋭トレーナーたちが集結していた。ステージ中央の受付前には、巨大な水槽がドンと置かれている。
決勝リーグのトーナメント決めは一風変わっており、選手たちが順番に釣竿を使って水槽内のコイキングを釣り上げ、そのコイキングのお腹に書かれた番号をスタッフが確認することで枠が決定するシステムだった。
ヒビキが順番を待っていると、先に名前を呼ばれたサトシがステージへ上がった。サトシが勢いよく釣り上げたコイキングの番号は『A-3』。
続いて、あのシゲルを圧倒的な力で破ったマサトシが呼ばれる。彼が静かに釣り上げた番号は『B-1』だった。
そして、ついにヒビキの名前がアナウンスされる。
「マサラタウンのヒビキ選手、どうぞ!」
ヒビキは手渡された釣竿を握り、水槽へと糸を垂らした。ピクピクとウキが沈み、手応えが伝わった瞬間に一気に竿を跳ね上げる。丸々と太ったコイキングが水しぶきをあげて宙を舞った。そのお腹に刻まれていた文字は──『B-3』。
「マサトシ選手とは、お互いに勝ち進めば準決勝で当たるブロックか……」
誰にも聞こえない声でそう呟きながらステージを降り、残りの抽選を見守る。
最後にステージへ上がったのはセナだった。彼女が少し緊張した面持ちで釣り上げたコイキング。スタッフがそのお腹を確認し、拡声器で番号を読み上げる。
「最後、セナ選手は『B-4』です!」
その瞬間、トーナメント表の『B-3』と『B-4』の線が結ばれた。
決勝リーグ、栄えある第5回戦──ヒビキの最初の相手は、共に特訓を乗り越えてきた同期のセナに決定したのだった。