Hack The World   作:Hide.

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ep.8 Initial Foothold

 翌朝。オレは一人で、幸福同期教団総合本部の前に立っていた。

 

 郊外の山中に建てられたその施設は、宗教施設というより巨大な研究所に近い。

 

 ――想像していたより、ずっと物々しいな。

 

 潜入方法は、入信希望者を装って内部へ入るだけだ。単純な方法ほど疑われにくい。これはソーシャルエンジニアリングの基本でもある。

 

 彩子とは別々に入る。偽名で事前登録した入信希望者として、30分の時間差で。中では赤の他人だ。

 

 門前には「新規同期希望者受付」と書かれた看板がある。

 

 オレは腕時計を確認して、門へ向かった。

 

 

 受付で端末に名前を入力すると、教団職員が現れた。

 

 全員、白い法衣。全員、同じ笑み。

 

「ようこそ、同期の園へ」

 

 機械のように揃った声だった。

 

 ――気味が悪い。

 

 施設内部に入ると、白い法衣に着替えさせられ、巨大なホールへ案内される。

 

 数百人の信徒が無言で座り、正面を見つめていた。

 

 その中央。壇上に、神代隆真が現れる。

 

「人は皆、ノイズに苦しんでいる」

 

「だが同期すれば、世界は一つとなる」

 

 信徒たちが恍惚としたように頷く。

 

 神代が両手を広げた。

 

 次の瞬間、壇上脇に置かれた金属製の壺が、ふわりと浮いた。

 

 ――来た。

 

 信者たちがざわめいた。感嘆とも祈りともつかない声が広がる。

 

 オレはその声を聞いていなかった。

 

 壺を見ていた。浮き方が均一すぎる。神代の手の動きと、壺の動きが、微妙にずれている。

 

 オレは神代の傍にいる幹部たちに目を向けたが、特に不審な点は見当たらなかった。

 

 

 ホールでのセレモニーが終わると、信徒の一人が近づいてきた。

 

「新しい同期の方ですね。昼食のご案内をいたします」

 

 案内された食堂は、修道院の食堂を思わせる長テーブルが並ぶ広い部屋だった。メニューは白米と野菜の煮物、味噌汁。質素だが清潔だ。

 

 離れたテーブルに彩子の姿が見えた。目が合ったが、互いに視線を外した。

 

 食事を終えると、午後の研修を経て、職員に宿舎へ案内された。

 

「新入同期の方はこちらです」

 

 案内された宿舎棟は、男女別のドミトリー形式の相部屋が並ぶ構造だった。

 

 部屋に通されると、職員は一礼して去った。

 

 オレはすぐにSignalを開いた。

 

『彩子は施設内を散策してマッピングしてくれ。目的は神代の部屋の特定だ。オレは教団の実態を洗う』

 

『りょ』

 

 了解......ってことだよな?

 

 オレはスマホを置いて、ベッドに腰を下ろした。

 

 この施設のどこかに、USBの所持者がいる。洗脳されているなら、まず敵ではない。

 

 ――だが、まだわからない。

 

 自分の意志でここにいる可能性も、ゼロじゃない。

 

 どちらにせよ、明日には輪郭が見えてくる。

 

 オレは静かに息を吐いた。

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