ド直球な陵辱エロゲ世界で何も知らずニチアサやってる奴 作:らっこ
夜の廃工場に、血の匂いが満ちていた。
正確には、血に似た何かだ。魔獣が傷付いたとき滲む、どす黒い体液。それが床に広がり見えない蒸気となって立ち昇り、人の鼻腔から侵入し、その本能に「ここは危険だ」と直接語りかけてくる。
「五体……七体……九体目……!!」
そんな魑魅魍魎跋扈の建物中央で、少女が静かに数えていた。名前は
身に纏うのは白と紫を基調とした、どう見ても戦闘向きとは思えない薄手の衣装だった。胸元は大胆に開き、脚は太ももの付け根近くまで露出している。
布地の面積だけで言えば、水着と大差ない。手足に軽い装甲が付いているが、些細なものだ。
そんな謂わばほぼ公然わいせつ、完全に陵辱モノのエロゲーに出てきそうな格好をしているが……それこそ彼女達の力の証。彼女達の力の源はその肌の上を流れる魔力、そして彼女達——『討魔士』の敵にある。
彼女の目の前にいる敵の名は……魔獣。魔界より現れる悪しき獣。その獣に何よりも効果的にダメージを与えられるのは、討魔士の魔力。
その魔力が相手にも武具にも一番効率よく流せるのは素肌で触れた時。その魔力を全力で扱えるのも、軽装の時が一番だ。
要するに彼女達は、露出すればするほど、服が薄手なら薄手ほど魔力を強固に繊細に強く操り、魔獣相手により優位に立てるのだ。
無論、それを知らない者が見れば……ただの痴女である。
「はぁ……はぁ……まだっ……!」
刃を立てながらも全身から疲労があふれる水無月。仕方がない。すでに40分間、無限湧きしてくる小鬼のような魔獣と神経をすり減らしながら戦い続けているのだ。
大多数の人海戦術ほど厄介な戦法はない。どう足掻いたとしても、やがて体力が途切れ……隙が生まれてしまうからだ。
そしてその隙は——今、訪れた。
「っ!? きゃっ!?」
腕が異様なほどに肥大化した
なんとか脱しようとしても、40分近い戦闘による疲労は計り知れない。そのまま地面に倒れ伏し、巨腕に押し捕らえられる。バタバタと唯一動く足で抵抗しても、身をよじらせることすらできない。
(ぐっ……不覚っ………!!)
そもそもはなから疑うべきだったのかもしれない。こんな廃墟に現れた魔獣など……これは、はじめから罠だったのだ。
現に水無月は魔獣退治に向かったところ、何者かによって張られた結界により外部との通信が遮断され脱出も不可能。こうしてモンスターハウスのように無理やり戦わされた挙句のこれだ。
恐らくは討魔士を生け捕りにするための罠。なんのための生け捕りかは……考えたくはないが……周りに集る小鬼の下衆な笑顔を見れば、何となくの想像はつく。
「は……離せっ!……こっ、殺せっ!」
このままこんな化物の慰み者となるくらいなら——涙を浮かべてそう語るのは当然だ。だが、それを目の前の小鬼やオーガが受け入れないのも当然。
そしてこのまま、水無月はこのオーク達に慰み者にされボロ雑巾のように
「ダァァァァイナミックゥッ!!!!」
天井から声が聞こえる。
だが、小鬼達は無視した。どうせ何かしらの錯覚か幻聴か、あるいは酔っ払いだろうと。
なにせこの近辺に張られた結界は彼らの
「……っ!?」
しかし、小鬼達は理解していなかった。
「エントリィィィィィィ!!!!!!!」
廃工場の屋根が、上から何かに踏み抜かれた。錆びた鉄板が盛大に吹き飛び、砂埃と破片が嵐のように舞い散る。視界が白く煙る。魔獣達の怒声と水無月の悲鳴が重なり、次の瞬間には全部がかき消えていた。
小鬼達が怯んで動きを止めた。水無月も思わず目を瞑り——次の瞬間、彼女を掴んでいたオーガの巨腕の力が緩んでいた。
これがチャンスだと、痛む体を押さえながらオーガの腕からするりと抜け出した水無月は、砂埃の晴れた先に見えた《それ》に思わず瞬きした。
全身を覆う赤と黒の装甲。バイザーの付いたヘルメット。腰には複数のホルスター。
どこかでバイクに乗ってたりロボに乗ってたりしそうな意匠だが、とにかく全身これでもかと硬そうな装甲に包まれていた。着地の衝撃でクラック状にひび割れた床が、その質量を物語っている。
「……っすーーーはぁぁぁ………!!」
ゆっくりと、バイザーが左右を見回した。
小鬼。小鬼。小鬼。そしてオーガ。数にして十数体、廃工場を埋め尽くす魔獣の群れを、男はまるで品定めでもするように静かに一瞥した。値踏みしているのか、怯えているのか——バイザーの奥が見えないせいでまるで読めない。
(……何者……なの?この人)
水無月は距離を取りながら考えた。魔力の気配がない。かといって、霊力とも違う。では一体あの力の源は何だ。
思考の答えが出るより早く、痺れを切らした一匹の小鬼が動いた。
バイザーはその動きを迷いなく捉える。一撃を紙一重でかわし——そのまま拳を握りしめ、地面と拳の間に小鬼を挟み込むように撃ち付けた。
「オゥルァッ!!!」
べチャリ、と肉の潰れる嫌な音が廃工場に響いた。小鬼の残骸が飛び散る。
それを合図に、残りの魔獣が一斉に動き出した。だが男のバイザーは既に全体を見渡していた。
(……数だけは多いけど……!)
男の頭の中で、瞬時に算段がついたのだろう。百近い数をのして消耗しきっていた水無月ならともかく、万全の状態であれば普通の戦士がこの程度の雑魚の群れに後れを取る道理はない。
「んじゃ……最速速攻でかますか!」
独り言のように呟いて、男は腕に装着した謎のガジェットのスイッチを押した。まるで子供の玩具のような、どこかチープな電子音が廃工場に響き渡る。
『マキシングブースト!!GO!GO!』
次の瞬間……全身の装甲が赤熱した。
文字通り、装甲が熱を帯びて赤く輝く。そして誰も知覚できないようなスピードで動き出し、小鬼を、オーガを、片っ端からねじ伏せていく。
ものの数秒だ。その数秒で十数体が、文字通り跡形もなく薙ぎ払われた。
同時に、全身から明らかに機械に悪そうな黒煙も盛大に吹き散らしているわけだが……同時にそれ相応の負荷もかかるのか、次の瞬間スーツを着ているにしては軽々しい動きでしゃがみ込む。
「ぜぇ……はぁ……あ゛ぁ゛! キッツい!!」
装甲の男が盛大にぼやいた。完全に油断モードだ。だからこそ気付かなかった……背後から迫る、一瞬やり損ねた最後の一体の小鬼に。
しかし次の瞬間、軽く空気を切る音の後……一本の刀が、正確にその小鬼を貫いた。
投げたのは——水無月だ。
彼女はゆっくりと、労わるように装甲の戦士に近づいた。全身から噴き出す黒煙。ひびだらけの床。そしてぜえぜえと息を吐く装甲の男を、どこか心配そうな目で見る。
「大丈夫ですか?」
しかし、肝心の男からは——何か信じられないものでも見たような目つきで、バイザー越しにこちらを見て、ほんの少し距離を置かれた。
「あっ……あの……?」
「……えっ、なんでそんな肌出して……えっなんでそんな露出してんの……痴女?」
「はぁっ!?」
水無月の声が廃工場に木霊した。助けられた感謝も吹き飛んだ。深紅の瞳がすっと細くなる。
「助けてもらってなんだけど、第一声がそれ!?」
「いやだって……」
男は視線だけが水無月の全身を一往復した。ほんと、少し眼福と思わなくもないが、すぐに軽く唸りつぶやく。
「どう見ても……なぁ?」
「ちょっ!?待って!違うの!理由があってこの格好なの!!私達は魔力を肌から放出して――」
「あぁ、うん、趣味は人それぞれだからな。うん。否定はしねぇよ。うん」
「ちょっ!?待ってよ!!」
水無月は慌てふためき誤解を解こうとしながら、装甲の男を指差して問い詰める。
「それ言うならだいたいあんたこそ!そんな全身装甲ガチガチで、なんでマトモに動けるの!?さっきの動き、絶対おかしかったでしょ!!」
男は一拍間を置き考える素振りを見せると……格好をつけて軽く腕を振るい答える。
「……鍛えてますから。シュッ。ってね」
「嘘つかないでください!!」
沈黙。男はしばらく黙った後、どこか居心地悪そうに黒煙を噴く腕のガジェットを見下ろした。
「……まぁ、お約束って奴だよ!痴女よりかはなんぼかマシだろ!!」
「誰が痴女だ!こっちにだって理屈があるの!!」
怒鳴り声が廃工場に木霊する。錆と煙と魔獣の残骸が漂う中、全身装甲の男と水着程度の露出量の少女が向かい合い言い合っているのだった。