ド直球な陵辱エロゲ世界で何も知らずニチアサやってる奴   作:らっこ

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父親の友人という便利設定

 魔獣とはそもそもなんなのか。

 簡潔に説明すれば、魔力や霊力といった所謂非科学的な呪術を持ち入らなければ倒せないはずの存在……それが魔獣だ。

 

 問題はそのルーツ、つまりは出元であるが……人間のいる現世とは隣同士の世界『魔界』に奴らは存在している。

 

 どうやら、現世から魔界へ行くことは困難だが、魔界からこちら側へ来るのは容易いことらしく、魔獣が現世に迷い込むことがある。まるで、薄い膜一枚を隔てた隣の部屋から、望んでもいない訪問者が勝手に上がり込んでくるような話だ。

 

 或いは、何かの策謀によって魔界から意図的に連れてこられるか……いずれにせよ、人々を都合のいい家畜か食料か、一つの命として見ない魔獣……それを退治するのは討魔士の務めでもある。

 

 そんな彼女らに求められるのは、隠密……つまり、世界に魔獣という恐怖が存在するということを一般人に悟らせないことにある。

 

 故に彼女達は記憶の改変の呪術も平然と使用するし、自らの手の届かない所にいる魔獣や魔界と関連する力や存在は非常に厄介となる。イグナイトや、魔獣の存在に感づいていた旭野朔間もその口の者達だ。

 

 それはそうだろう、何処でどう目立つか分からないのだから。幸いイグナイトの方はさして目立った行動は取っていないが……

 

 旭野朔間の方は魔獣の存在を自力で感づき、その実態に漕ぎ着こうとした人間だ。勿論、討魔士側も事態を察知して彼を確保、保護をしようと動いた。しかしそれよりも彼の失踪のほうが、一足先に起きてしまった。

 

 おそらくは魔獣か、魔界に与する何らかの存在に消されたのでは……と討魔士の世界では長らくそう言われてきた。

 

 だが……であれば、何故その研究が黒塗りにされている?消された人間の記録を、わざわざ隠す理由がどこにある。彼は一体何をしたのだ。何をしでかしたのだ。消されたのではなく……自ら消えたのだとしたら?

 

 どちらかさえも分かりはしないが、思考は思考を呼ぶ。水無月昴はここしばらく、その事で考えっぱなしだ。

 

 折角、朧家に足を運び、討魔士の重鎮の一人朧源十郎の息子で研究職に就いているという『朧九郎(オボロクロウ)』と直接話せる機会を得たというのに……目の前の茶が、すっかり冷めてしまっていた。

 

 そっと襖が開き、一人の男性が入ってくる。白衣に身を包んだ、少しズボラそうな男……彼こそが朧九郎。魔力と科学の融和を信条とした研究者であり、源十郎の息子でもある。

 

 父親の厳格な雰囲気とは、似ても似つかないような優男といった雰囲気だ。

 

「いやぁ、はやぁ申し訳ない。待たせてしまったかなぁ?」

「いえ、そんな……態々お時間をいただきありがとうございます」

 

 昴が深々と頭を下げるのを見て、九郎は面倒くさそうに手を振った。

 

「いいよいいよぉ。そういう堅苦しいのは……僕は討魔士じゃないんだから」

 

 そう言ってアハハと、つかみどころのない笑いをする九郎。こういうところがあるから昴はこの男が苦手だ。

 

 腹の中で何を考えているのか読めたものじゃない。にこにこと笑み一つで全部を覆い隠してしまうような、そういう種類の男だ。父である源十郎の苦労が、少しだけ分かる気がした。

 

 九郎は湯呑みを一つ手に取り、昴の向かいにゆったりと腰を下ろした。昴はそっと問いかける。

 

「研究の方はよろしかったので?」

「行き詰まってるからねぇ、良い気分転換さ……」 

 

 嘘か本当か分からない返事だ。昴は内心でそう思いながら、口を開く。

 

「それで、僕に話って?」

「……では、単刀直入に伺います」

「どうぞどうぞ」

「イグナイトと呼ばれる戦士について、何か分かることはありますか?」

 

 九郎の目が、細くなった。笑みの形は変わらない。ただ、一瞬だけ……その奥にある何かが、微妙に動いたような気がした。昴はそれを、見逃さなかった。

 

「ズバリ聞くね」

 

 九郎は湯呑みを口元に運びながら、どこか呑気な声で続ける。

 

「悪いけど確証はあげられないなぁ。実物を見ないと何とも言えないし……ただ、君たち討魔士が魔力を感じられないというなら、多分それは純度100%、人間の科学で構築された代物だってことくらいは言えるかな」

 

 言いながら九郎は湯呑みをゆっくりと卓に戻す。笑みは崩れていない。だが、その言葉の選び方は……どこか、慎重だった。

 

「人間の科学で……ですか。しかし魔獣には……」

「そう、魔獣には本来、現世の法則は通用しない。だから魔力や霊力といったものを使って戦うのがセオリーだ」

 

 九郎は指先で卓をとんと叩きながら、続ける。

 

「だが……物事に再現性を求めるのが科学だ。君達が魔力と呼ぶものを、科学によって再現できたなら。話は、変わる」

 

 昴は思わず身を乗り出した。

 

「そんなことが可能なのですか?」

「可能なら討魔士はもっと増えてるし、魔獣の存在ももっと大々的になってるよ。討魔士だって人工的な退魔の力の生成には、これまで何度も失敗してきてるんだから」

 

 そう言ってまた茶化すように笑う九郎。それはそう……という話だ。できないから討魔士も苦労しているというのに。

 昴は乗り出していた身を少し引き、コホンと一つ咳払いをした。気持ちを落ち着けてから、次に聞きたかったことを静かに問いかける。

 

「では……そんな真似ができる科学者に、心当たりはありますか?」

 

 九郎の手が、湯呑みの上で静止した。ほんの一瞬だ。気づかなければ何でもない間だったが、昴は既に気づいていた。

 

「居ないことはないけど」

 

 九郎はゆっくりと湯呑みを置いた。

 

「その人はもう……この世に居ないだろうしねぇ」

「……旭野朔間氏ですか?」

 

 部屋に、静寂が落ちた。すると九郎は笑みを浮かべたまま言う。

 

「知ってるんじゃない」

 

 声は相変わらず軽かった。だが笑みの質が、ほんのわずかに変わっていた。さっきまでの飄々とした色ではなく……何かを測るような、静かな目だ。

 

「まぁ、彼とは良い友人であったとは思うけれど……彼は自分の研究している詳しい内容や研究している意味については、僕に話したことは一度もなかったよ。」

「本当に、ですか?」

「そんなに気になるなら、君達特有の魔術か何かで心でも読んでみたらどうだい?」

「……読心の心得はありませんので」

 

 トゲのある言い方だった。九郎は常々、魔力や霊力といったものには穿った見方をする。

 

 討魔士の力……魔力による戦いとは、言ってしまえば原理不明の力への依存だ。そんな物に頼りすぎてしまっては、いつしっぺ返しが来るか分からない。それが九郎の持論だった。

 

 勿論、討魔士を敵に回しているわけではない。ただ根本にその姿勢があるからか、父の源十郎とは折り合いが悪いとも聞く。

 

 ……それでも実際、討魔士の武具の多くは朧家、ひいては九郎の手を借りている者が少なくない。仕事に私情は持ち込まない、ということだろう。そこだけは、昴も素直に認めていた。彼のお手製の武具は、品質が良いのだ。

 

 九郎は湯呑みを両手で包むようにして持ち、少し遠い目をした。

 

「人間の強化……それをメインに研究していたのは知っているよ。その強化のための朔間の論文はいくつか読んだこともある。どれも取り留めのない話だったけどね。」

 

 一拍、間が空く。

 

「けれど……そこからどうやって魔獣や魔界に繋がったのかは、僕も正直知りたいところさ」

 

 知りたいところ……その言葉を昴は心の中で繰り返した。知りたい、ということは……まだ答えを持っていない、ということだ。あるいは、持っていても明かすつもりがない、か。どちらかは、この男の顔からは読めない。

 

「……研究仲間として、彼に感じていたことはありませんでしたか。失踪する前後で、何か変化があったとか」

 

 昴が静かに問いかけると、九郎は少しだけ目を伏せた。笑みが、わずかに薄くなる。

 

「変化……ねぇ」

 

 しばらく、九郎は黙っていた。この男がこれほど間を置くのは珍しい……昴はそう感じながら、口を挟まずに待った。

 

「いつも思ってたのは、妙にまっすぐな人間だったな……最後に会ったのは、失踪の少し前のことだ」

 

 九郎はぽつりと言った。

 

「その時の朔間は……まぁ、普通だったよ。いつも通り飄々として、研究の話は一切しなくて、居酒屋の枝豆をやたら褒めてた」

 

 おかしいな、と思ったのは……と九郎は続ける。

 

「帰り際に一度だけ振り返って、『九郎、人が人を超えるには何を捨てればいいと思う?』って言ったんだよね」

「……っ!?」

「それだけ言って笑って、行っちまった。こっちの答えなんか聞きもせずにね」

 

 九郎は湯呑みを卓に置いた。からん、と乾いた音がした。

 

「今にして思えば……あれが最後だったわけだけど」

 昴は静かに、最後の問いを口にした。

「……イグナイトと旭野朔間には、関連性があると思いますか?」

 

 九郎はすぐには答えなかった。湯呑みを眺めながら、しばらく黙って……それから、顔を上げた。

 

「あるんじゃない?」

 

 あっさりと、笑顔で言った。

 昴は内心で息を呑んだ。肯定だ。曖昧な言い回しではなく、この男にしては珍しいほど率直な肯定だ。

 

 だが九郎はそれ以上を語ることなく、ふと何かを思い出したように「あっ」と声を上げた。

「そうだ、君の妹さん……確か武器は刀だよね?新調したかったら言ってくれよ、いい武器が作れたんだ!」

 

 その笑顔は、まるで子供のように純粋だった。

 ……今しがた重大な肯定をした男とは、とても思えない顔だった。昴は一瞬だけ言葉に詰まってから、静かに頭を下げた。

 

「……検討します。本日はありがとうございました」

 

――――――――――――――

 

 昴が屋敷を出た後、朧家の廊下を歩きながら、九郎はポケットから携帯を取り出した。

 

 登録名は『旭野日夜』……連絡先に入れたのはもう随分前のことだ。発信音が数回鳴って、少し間があってから繋がる。

 

「……やぁ、日夜君。元気かい?」

 

 返ってきたのは、警戒心をうっすらと滲ませた「……どうも」という声だった。相変わらずだな、と九郎は思う。

 

「またお金は振り込んでおいたから。ちゃんと確認しておいてね」

『……そんな、毎回振り込まなくても』

「いいのいいの」

 

 九郎はひらひらと、誰にも見えない手を振った。子供のいない九郎にとっては、日夜が息子代りみたいな物だ。驚くべきは、それを『朧家』にバレないように援助しているというところだろう。

 

「気にしないでよ、君のことは君のお父さんから頼まれてるんだ。成人するまでちゃんと面倒見てやってくれってね。その分の金も預かってるし」

 

 電話の向こうで、日夜が少し黙った。朔間の話が出るたびにこうなる……責めているわけじゃない。責める気もない。ただ、この間が九郎には少しだけ堪えた。

 

『……九郎さん。一つ聞いてもいいですか?』

「なんだい?」

 

 少し、また間があった。言葉を選んでいるのか、それとも言うべきか迷っているのか。

 

『俺の親父は……本当は酷い人だったんですか?』

 

 廊下の窓から、夕暮れが差し込んでいた。橙の光が廊下に長く伸びて、九郎の白衣の裾を静かに染める。

 

 九郎は立ち止まった。

 答えはある……あの男が息子のことをどう思っていたか……それは九郎が誰より近くで見てきたことだ。だから答えられる、故にこう答えた。

 

「君が感じた通りでいいんじゃないかな」

 

 九郎は静かに言った。

 

「酷い人だと思うなら、それでいい。良い人だと思うなら、それでいい。どう思うかは君の権利だよ」

 

 電話の向こうが、静かだった。否定も、肯定もしない沈黙だ。当人としては納得しがたい答えだろうが……致し方ない。今はまだ、そういう頃合いじゃない。

 

『……そうですか』

 

 日夜の声は、平坦だった。何かを受け取ったのか、受け流したのか……読めない声だった。この辺りは、確かに朔間に似ている。似てほしくないところばかり似るものだな、と九郎は思った。

 

「ご飯ちゃんと食べてる?コッペパンだけで生きてたりしてない?」

『そんな訳ないでしょ。お母さんかあなたは』

「ちゃんと食べなさいよ、育ち盛りなんだから」

『止してください……もうそんな年じゃないですよ』

「君くらいの年はみんな育ち盛りだよ。じゃあね、日夜君」

 

 通話を切って、九郎はそっと携帯をポケットに戻した。廊下に静寂が戻る。夕陽が、じわりと沈んでいく。

 

 久しく見ていない日夜の顔を、九郎は思い浮かべた。

 きっと相変わらず不愛想で、相変わらず一人で抱え込んで、相変わらずお前のことを気に食わなそうにしてる。

 

 ……でも、きっと。一度火がついたら、お前と同じくらいまっすぐな人間になる。良くも悪くも。

 

 それだけ心の中でつぶやいて、九郎はまた歩き出した。白衣の裾が、廊下の橙の光の中に消えていくのだった。

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