ド直球な陵辱エロゲ世界で何も知らずニチアサやってる奴   作:らっこ

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脳筋による脳筋の攻略法

 

 一人の討魔士と一人の戦士が対峙した魔獣は――――拙い言葉を喋りながらも荒々しく二人を追い詰めていた。

 

 さらにはその剛腕による鉤爪の斬撃はとても無視できるような技ではなく、徐々に二人を劣勢へと追いやった。

 

「ガァァァァ………!殺゛………イグナ゛!討魔゛!抹゛!!」

 

 明らかに正気を失っている魔獣……こんな魔獣は志保も見るのは初めてだ。普通、言葉の通じない魔獣と言っても理性と言うか感情と言うか、そういう生物じみた行動原理はのこっている。

 

 だが、目の前の魔獣はただ与えられた目的……イグナイトと討魔士の抹殺のみを信じて動くように、まるで狂った機械のように動いている。

 

「もはや何言ってんのか分かんねぇわ……!!」

「くっ……しかも硬い……!」

 

 志保の愛刀と彼女の持ったブーストイグニッシャーが魔獣の装甲を斬りつけ火花が散る。だがそれだけだ。刃が滑り、腕に嫌な痺れだけが返ってくる。傷一つ、入らない。

 

 イグナイトの拳が装甲を叩く。轟音が路地に響き、魔獣がわずかによろめく。だがすぐに四肢を踏ん張り、何事もなかったように向き直った。

 

 攻撃が通らない、という感覚はこれほどまでに消耗するものだったか。打っても、斬っても、叩き込んでも……全て等しく弾き返される。まるで分厚い壁に向かって素手で殴り続けているような、終わりの見えない徒労感だ。

 

 逆に魔力を込めて輝くその鉤爪を魔獣は振るうと、その斬撃に斬り裂かれ、イグナイトは地面を転がり、志保は地面に叩きつけられた。

 

「ぐあっ!?」

「ぬぁっ!?」

 

 アスファルトに背中を打ちつける。志保は歯を食いしばって即座に跳ね起き、イグナイトも装甲を軋ませながら身を起こした。

 

 鉤爪の斬撃が掠めた脇腹が、じくじくと熱い。装甲越しでこれだ……直撃を貰えばどうなっていたか。よくもまぁあの軽装で討魔士は平気なものだと思う。もっとも彼女らも魔力で作った鎧をまとっているようなものなので条件としてはイグナイトと同じなのだが。

 

(……まずい。じり貧どころじゃない。)

 

 イグナイトは素早く状況を整理した。打撃は弾かれ、斬撃も通らず、飛び道具まで飛んでくる。このまま消耗戦を続ければ、先に限界を迎えるのは間違いなくこちら側だ。

 

 志保も同じ結論に至っていた。刀を構え直しながら、横目でイグナイトを一瞥する。

 

「……このままじゃジリ貧ね。」

「分かってるよ」

 

 魔獣が唸りながら間合いを詰めてくる。その巨腕が、また紫の光を帯び始めた。

 

「来る!」

 

 二人は反射的に左右へ散った。紫の斬撃が路地を薙ぎ払い、アスファルトに深い切断面を刻む。着地した瞬間、志保の脳裏に一つの考えが閃いた。

 

「イグナイト……さっきから打撃も斬撃も弾かれてるけど、」

 

 走りながら叫ぶ。

 

「あれだけの装甲で身を守ってるってことは、中は柔いんじゃないの!?」

「つまり!?」

「内側に直接攻撃を叩き込むのよ!」

 

 とんでもない脳筋理論だ。それができないから悩んでいると言うのに……イグナイトは思わずさける。

 

「どうやって中に叩き込むんだ、隙間もないのに!」

「作るのよ、隙間を……!」

 

 そう言いながら志保は魔獣の正面へと踏み込んだ……だが、それは囮だ。愛刀を大きく振りかぶり、魔獣の意識を正面に引きつける。

 

 鉤爪が志保へと向いた……その瞬間、志保は横へ跳んでそれを躱し、すかさずブーストイグニッシャーを装甲へ叩きつけた。火花が散るが、傷一つ入らない。

 

「っ……やっぱり硬い……!」

 

 弾かれた衝撃が腕を痺れさせる……これほどの強度とは。

 やはりブーストイグニッシャーですら傷をつけられないとなれば……隙間を作るには、尋常でない一撃が必要になる。

 

「イグナイト!」

 

 志保が叫んだ。

 

「貴方の全力……あの装甲にぶつけてみて!傷さえ入れば、あとは私がやる!」

「全力って言っても今の俺じゃ……!」

「やるしかないでしょ!!」

 

 とんだ無茶振りだ。彼女らは何時ものこんな無茶を押し通しているのか……?だが確かに、ここで終わらせるためにはやるしかない。イグナイトは奥歯を噛んで、ブレスレットのダイヤルに手をかけた。

 

 正直体の方はガタが来始めている、今にも力が抜けてしまいそうだ……それでも、全力を一点に絞るなら、今しかない。打撃が通らないなら、通るほど加速を込めて叩き込むしかない。それがイグナイトの、旭野日夜の戦い方だ。

 

「しょうがねぇ……なッ!!!」

 

 そう言ってイグナイトはブレスレットを操作し、自身の全力を無理矢理にでも引き出そうとする……全身が赤熱化し、ブースターが限界を超えて唸りを上げ、機械の悲鳴のような駆動音が路地に轟き黒煙が爆ぜる。

 

 エネルギーが腕の一点へ、拳の一点へ、ただその一点だけへと絞り込まれていく。

 

『マキシングブーストォッ!! GO!GO!』

 

 次の瞬間、イグナイトがまるで瞬間移動でもしたかのように即座に炎の軌跡を描いて突撃……魔獣の至近距離まで迫る。

 

 その速度にはこの魔獣も対応しきれなかったようで一切反応できずにイグナイトの次の手を食らう。

 

 ……そう、次の手。その装甲の合わせ目に対して勢いよくその拳をぶちかます。

 

「ウオォォォォラァァァァッ!!!!!!」

 

 これまでで最大の衝撃が、魔獣の胴の装甲へ叩き込まれた。轟音が路地全体を揺らす。アスファルトにひびが走る。砂埃が爆発的に舞い上がり、視界が一瞬白く霞んだ。

 

 イグナイトの右腕が、悲鳴を上げた。反動が肩から背中まで突き抜けて、思わず膝が折れそうになる。それでも堪えて、砂埃の晴れた先を見据えた。

 

「まだまだァッ!!!」

 

 イグナイトは腕に力を込めて拳を突き抜けさせる……か細い希望の糸のように……魔獣の装甲に、一筋の亀裂が走った。

 

 次の瞬間、全身のブースターが限界を超えた。腕から、肩から、脚から……各部位のブースターが立て続けに黒煙を上げ、爆発的な逆流衝撃がイグナイトの全身を内側から打ち抜いた。

 まるで張り詰めた糸が、一気に弾け飛ぶような感覚だった。

 

「がっはっ!?」

 

 声が漏れ、膝ががくりと折れた。

 全身の感覚が遠くなり、視界がぐらりと揺れる。燃え尽きたブースターの残骸が、装甲の各所でじわりと煙を燻らせていた。

 

 魔獣は、その隙を見逃さなかった。

 

 膝をついたイグナイトへ向き直り、巨腕を大きく振りかぶる。装甲に亀裂が入ってもなお、その膂力は衰えていない。鉤爪が唸りを上げ――――

 

 次の瞬間、魔獣の巨腕がイグナイトの胴を捉えると、イグナイトはその一撃をまともに喰らった。避けることさえ叶わなかった。

 

 装甲が軋み、路地の壁まで吹き飛ばされる。背中が壁を打ち抜き、砂埃と破片が爆発的に舞い散った。アスファルトに激突し、そのまま転がる。装甲の各所に亀裂が走り、バイザーの端にノイズが走った。

 

「イグナイト!!」

 

 志保の声が、路地に響いた。

 魔獣がイグナイトから志保へと向き直る。

 鉤爪に紫の光が灯り始めた。次の斬撃の予備動作だ。あの光が最大になれば……路地ごと、薙ぎ払われる。

 

 だがそれでも志保は、走り出して止まらなかった……魔獣へ向かって、真っすぐに。愛刀に残った魔力を絞り込みながら、その切っ先を一点に定める。イグナイトが刻んだ亀裂……あの細い、か細い一筋へ向けて。

 

 魔獣が鉤爪を振るった。

 躱せる。躱せる距離だ……だが躱せば、軌道がずれる。亀裂への角度が、崩れる。志保は歯を食いしばって、躱さなかった。

 

 鉤爪の斬撃が志保の脇腹を薙いだ。本来は切り裂かれないはずの討魔士の薄手の衣装が切り裂かれ、その肌が露わになる。

 勿論魔力による肉体強化の補強は続いているが、それでも大幅な防御力の低下だ。

 

 それでも、志保の足は止まらなかった……止まれるか。

 ここで止まれば、イグナイトのしてくれた事が無駄になる。確実なチャンスは今しかないのだ。

 

「――――――ッ!!」

 

 声にならない気合いが、喉の奥から絞り出された。魔力が収束する。これまでの連撃で分散させてきた全ての力を、今この瞬間、刀の切っ先ただ一点へと叩き込む。

 

 斬るのではない、貫くのだ。

 

 刀が、光を帯びた。白い光だ。魔力が限界まで圧縮され、刃の先端に凝縮されていく。周囲の空気が、ぴりぴりと震えた。

 亀裂が、目の前に迫る。

 

 切っ先が、吸い込まれるように亀裂へと入りこむ………だが、足りないギリギリのところで突っかかってしまうような感覚だ。どうしてもあと少し足りない……ならば、足せばいい。

 

「借りるぞイグナイトォッ!!」

 

 志保はブーストイグニッシャーを同じ亀裂に思いっきり差し込む……加速のついたその刺突は、志保の刀の一撃と合わせてより深くまで突き刺さる。

 

 次の瞬間、パリンと音を立てて志保の愛刀がへし折れ……同時に魔獣の内側で何かが弾けた。

 

 装甲の外からでは傷一つつかなかった……だが内側からなら違う。

 魔力を纏った刺突が、加速の力を得た刺突が、装甲に守られていた柔らかな内部へと直接叩き込まれ……爆発的な魔力と力が、内側から解き放たれた。

 

「グル゛ァァァ゛ァァ゛ァァァ゛ァ!!!!」

 

 魔獣が絶叫した。これまでとは全く質の違う声だ。ただの威嚇でも、命令に従った咆哮でもない……純粋な、苦悶の叫びだ。

 

 亀裂が広がっていく。一筋だったひびが蜘蛛の巣のように装甲全体へと伝播し、内側から押し広げられるように硬質な外皮がひび割れ、剥がれ、崩れていく。

 

 志保は刀を引き抜くと、大きく後ろへ跳んだ。切り裂かれた脇腹が、跳躍の衝撃でじくりと痛む。だが足は動く。動ける。それだけでいい。

 

 魔獣が、断末魔を上げ、内側から弾けるように……爆散した。

 轟音。閃光。黒い残骸が路地に舞い散り、体液が霧のように空気へと溶けていく。装甲の破片がアスファルトへと降り注ぎ、乾いた音を立てながら転がった。

 

 少ししてから静寂が、戻ってきた。

 

「……はぁ、はぁ……」

 

 志保は膝に手をついた。全身が重い。魔力を絞り切った後のこの感覚は、何度経験しても慣れない。衣装を切り裂かれたからすこしスースーするのと同時に、斬撃を受けた熱さが、じわりじわりと主張を強めてくる。

 

 大した傷ではない……大した傷ではないが、痛いものは痛い。

 震える手で、刀を鞘へと納めた。

 路地の向こうで、がくりと崩れ落ちそうになっているイグナイトが見えた。壁に背を預けながら、かろうじて立っている……という状態だ。

 

 志保はゆっくりとイグナイトへ歩み寄った。

 

「……生きてる?」

「……生きてる」

 

 くぐもった声がバイザーの内側から返ってきた。掠れているが、確かにある。志保は小さく息をついた……すると、イグナイトはそっと手を伸ばして息も絶え絶えで呟く。

 

「返せよ、ブーストイグニッシャー(俺の剣)

 

 

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