ド直球な陵辱エロゲ世界で何も知らずニチアサやってる奴   作:らっこ

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戦う背景を持て。

 

 イグナイト、討魔士志保、そして謎の魔獣の一つの戦いが終わった頃。その戦いを見つめる目があった。

 

 その目は、現世も魔界も関係なく見通していた…………その目を持たされた少女は、笑みを浮かべて呟く。

 

「へぇ、結構良いところまで行ったじゃん。」

 

 感心したような、それでいてどこか物足りなさそうな声だった。

 

 彼女がいるのは現し世の隣、その境界を一枚隔てた先……赤く染まった天を持つ魔界だ。現世の空が青ならば、ここの空は血のように昏い赤だ。光源がどこにあるのかも分からない。

 

 ただ赤い、ただ濃すぎるほど黄昏ている。生き物が踏み込んでいい場所の色ではないと言うのが直感で理解できる。

 

 そんな景色の中に、少女はいた。

 そして少女の背後には――――巨大な大木があった。

 

 木、と呼んでいいのかすら怪しい。幹の太さは建物を呑み込めるほどで、その表面には脈打つような筋が幾重にも走っている。まるで生きた何かの皮膚のように。

 

 枝は無数に伸び、それぞれが意志を持つように、ゆっくりと、ゆっくりと蠢いていた。風もないのに揺れている。呼吸でもするように、収縮を繰り返している。

 

 目はない。目のような器官は、どこにも見当たらない。

 それでも確かに……()()()()

 路地の戦いを。イグナイトを。志保を。まるで最初から知っていたように、興味深そうに。

 

「んんっ。今日はもういいんですかぁ?」

 

 少女は、その枝の一本へ頬ずりするように身を寄せた。

 艷やかな所作だった。人が木の枝へ向ける仕草ではない。まるで大切な何かへ、あるいは信頼する誰かへ……そっと身を預けるような、そういう親密さだった。

 

 枝が、応えるように少女の頬を撫でた。

 その少女の名を、かつての討魔士の世界で知る者が見れば声を失うだろう。

 

 紅蓮の討魔士として名を轟かせ、討魔士の中でも重鎮とされる鬼切家の臣下として数えられた女……『真木紅羽』。

 

 その名は、討魔士の世界では今も語られるが……数ヶ月前に消息がぷつりと途絶えたのだ。例の結界にとらわれた44分後に、まるで存在ごと切り取られたように、消えたのだ。

 

 その紅羽が今、魔界の得体の知れない巨木に愛おしそうに寄り添っている。

 

 信じたくない光景だ。目を背けたくなる光景だ。だが――――紅羽の顔には、苦しみの色が一切ない。恐怖も、後悔も、狂気すらもない。ただ平然と笑っていた。

 

 そんな紅羽の背後で、巨木がまた揺らめいた。

 さざ波のように、枝から枝へと震えが伝わっていく。

 

 風ではない、もっと内側から来る、生理的な収縮だ。まるで巨大な何かが、深く息を吸い込んでいるような……そういう動きだった。

 

 枝の先には、もう花が咲いていた。

 現世の花とは似ても似つかない。花弁は黒く、縁だけが鈍く赤く光っている。香りはない。虫も寄らない。ただ静かに、昏い魔界の空の下で……咲いていた。

 

 その花が、蕾へと戻り始めた。

 逆だ。まるで逆再生の早回しのようだ。開いていた花弁が内側へと閉じ、まるで何かを飲み込むように収縮していく。蕾が膨らむ。膨らみ、また膨らむ。

 

 最初は拳ほどの大きさだった。

 次の瞬間には、人の頭ほどになっていた。

 そして次には――――人の胴体ほどの大きさになっていた。

 

 木の実、と呼ぶには大きすぎる。卵、と呼ぶには歪すぎる。表面には細かな脈が走り、それが脈打っていた。規則的に。まるで心臓のように。ドク、ドク、と。

 

 気がつけば、無数の枝の先にそれが実っていた。大きいもの、小さいもの、まだ花の形を残しているもの。それぞれが、それぞれのリズムで脈打っている。無数の鼓動が、微妙にずれながら重なり合って……巨木全体が、一つの巨大な生き物のように蠢いていた。

 

 やがて、一番大きな実が――――割れた。

 音はなかった。

 

 亀裂が走り、表面がぱくりと口を開けた。内側から何かが滲み出す。黒い体液だ。どす黒い、血に似た何かが、割れ目から静かに垂れていく。そしてその奥から……何かが、這い出してきた。

 

 形は人に似ていた。最初だけは。

 四肢があった、頭があった、だがそれだけだ。

 そこから先は、人と呼ぶにはあまりにも歪だった。関節が逆を向いている。腕の数が合わない。

 

 頭部には目らしきものが複数あるが、それぞれが別の方向を向いている。そしてその全身から、あの路地の魔獣と同じ……禍々しい気配が、じわりじわりと滲み出していた。

 

 魔獣だ。

 

 生まれたばかりの、魔獣だった。

 胎児のような魔獣が割れた実からずるりと落ち、地面に着地する。四肢が、ぎこちなく動く。立ち上がろうとして、倒れる。また立ち上がろうとして、今度は立った。

 

 濡れた体を一度だけ震わせて……それから、動かなくなった。いや、身体が育つのを待つように静止したと言うべきか。

 

 隣で、また別の実が割れた。

 また別の実が割れた。

 また、また、また――――。

 

 次々と割れていく実の数だけ、魔獣が生まれていく。這い出して、立ち上がって、動かなくなる。その繰り返しが、静かに、淡々と続いていく。悲鳴もない。産声もない。ただ……増えていく。

 

 紅羽はそれを振り返りもせずに見ていた。

 いや、正確には……見る必要がなかった。この巨木の枝に触れている間、紅羽にはここで起きる全てが分かる。

 何が生まれたか。どれほどの数が生まれたか。全て、分かる。それほどまでに深く、彼女とその大木は繋がっていた。

 

「今度は何処に送ろっかな。」

 

 紅羽は枝を指先でそっとなぞりながら、独り言のように呟いた。楽しそうだった。本当に、楽しそうだった。

 

 背後では今も、実が割れ続けている。魔獣が生まれ続けている。静かに、静かに……まるで、当たり前のことのように。

 

 この木は、ずっとこうしてきたのだろう。

 誰にも知られないまま、誰にも気づかれないまま、この昏い魔界の空の下で……ずっと、ずっと。

 

 実を実らせ、割り、生み出し続けてきたのだろう。

 そしてこれからも――――止まることなく―――――

 

―――――――――――――――

 

 場面は映り現世……ブーストイグニッシャーを返してもらったイグナイトであったが、度の過ぎた加速によって遂にブースターがオーバードライブし、完全に動けなくなっていた。

 

 指一本動かすのも億劫なほど、全身から力が抜け切っている。黒煙がまだ各所から燻っており、路地のアスファルトに寝そべったままのイグナイトはどこからどう見ても戦闘不能だった。

 

 志保からすれば、絶好の捕縛のチャンスだ。

 動けない。逃げられない。今なら縄の一本でも巻けば終わりだ。討魔士として、追い続けてきた正体不明の戦士が、目の前で無防備に転がっている…………だが。

 

「……無茶したわね、あなたも。」

 

 志保はそれをしなかった。捕縛も、尋問も、素顔を暴こうとすることも……何もしなかった。その代わりに、動けない彼の前にそっと跪いて、静かにそう呟いた。

 

 なぜか。と聞かれれば、志保自身もうまく答えられなかっただろう。ただ……できなかった、したくなかった、それだけだ。それに彼女の人柄や当主を任せられなかったりゆ

 

 イグナイトは黒煙を上げたまま、力なく志保を見上げた。

 

「お前もな。」

 

 志保もまた、大概だった。

 戦闘衣装は体の半分が鉤爪の斬撃によって切り裂かれ、白い肌がかなりの面積で露わになっている。元々露出の多い衣装ではあったが……これはもはや別の意味で目のやり場に困る状態だ。

 

「……服、着替えろよ。半裸みたいになってんぞ。」

 

 それに、その切り裂かれた部分から、薄く血が滲んでいるのがイグナイトには気になった。しかし、志保は若干恥ずかしそうに体を隠しな皿も呟く。

 

「でも今魔力で無理矢理体を強化してるからね。今衣装を解除すると体の強化術も切れて……血が噴き出すよ?」

「お前のほうがよっぽど重症じゃねぇか!!」

 

 思わず声が出た……よくもまぁイグナイトを心配する余裕があったものだ。白のほうがよっぽど重症である。しかし、志保はなんでもないように言う。

 

「大丈夫よ、慣れてるから。」

「慣れていい怪我じゃないだろ!?なんでそこまで……」

「貴方に言われたくないわ、全身から黒煙出してる人に。」

「俺はスーツのオーバーヒートなだけだからいいんだよ、そろそろ冷めて元に戻るし。」

「そうなの。」

 

 そう言って志保は静かに呟いた……イグナイト……いや日夜はよくわからなくなる。

 

 なぜこんな無茶をしてまで魔獣と戦っているのか……日夜には、自分の正体を、父についてもっとも知る可能性が高いからこの道を進んでいる。必死に魔獣を倒せば何か掴めるんじゃないかと。

 

 しかし、この少女にはいったい何があるというのだろうか?

 

「……なんで戦ってんだ、お前は。」

 

 気がつけば、疑問は言葉となって口に出ていた。

 志保は少し目を瞬かせた。唐突な問いだったかもしれない。だが日夜は引っ込める気にもなれず、バイザーの内側から志保を見た。

 

 志保はしばらく黙っていた。答えを探しているのか、それとも答え方を探しているのか……やがて、路地の向こうへ視線を流しながら、静かに口を開いた。

 

「生まれた時から、そういうものだったのよ。」

 

 淡々とした声だった。諦めでも、嘆きでもない。ただの、事実の報告のような口ぶりだ。

 

「私達みたいな討魔士の家に生まれたということは……魔獣と戦うということ。人知れず、誰にも言えないまま、ずっとそうしていくということ。選んだわけじゃない。気がついたらそうだった。」

 

 日夜は黙って聞いていた。

 

「……嫌じゃないのか。」

「嫌だと思ったことが、ないわけじゃないわ。」

 

 志保は少し苦笑するような顔をした。

 

「昔はよく、なんで私だけってぐずってたし。姉に怒られてばかりだった。」

 

 それはそうだろうな、と日夜は思った、なんたって日夜も勝手に親父に体を改造手術をされて、なんどそう思ったことか………だが、志保は繰り返す。

 

「でも……。今日だって、魔獣が出て私と貴方が戦って倒した。」

 

 志保はゆっくりと、路地の入り口の方へ視線を向けた。そこには何もない。ただの夜の路地だ。車の音が遠くで聞こえる。

 

「あの向こう側の世界では……普通の人たちが、普通に夜を過ごしていたのよ。魔獣なんて知らないで。怖い思いもしないで。」

 

 ただそれだけのことだ、と志保は続けた。

 

「誰も気づかない。お礼を言われるわけでもない。知られることすら、あってはいけない。……でもそれでいい。それで十分なのよ、私には。」

 

 日夜は何も言わなかった。

 

「誰かの普通が、今日も普通のままでいられた。それだけで……やってきた意味があると思える。」

 

 志保はそう言って、視線を戻した。恥ずかしそうでも、誇らしそうでもない。ただ……本当にそう思っている、という顔だった。日夜はしばらく、黙ってアスファルトの天井……もとい夜空を見上げた。

 

 誰も気づかない場所で戦う。誰にも知られないまま、誰かの普通を守る。それに甲斐を感じる。

 

 自分とは、ずいぶん違う話だと思った。自分は正体を知りたくて戦っている。誰かのためなんて、考えたことすらなかった。

 それが……正しいのか間違いなのか、今の日夜には分からない。分からないが。

 

「……そういうもんか。」

 

 ぽつりと呟いた。答えでも感想でもない、ただの……相槌だった……やがて黒煙が少しずつ冷めていく。漸くイグナイトも逃げることができそうだ。

 

 すると感傷もなさそうにイグナイトは言う。

 

「……俺は、もう行く。」

「……そっか。」

「まぁ、でも……そうだな。一つだけ言えることがあるとするなら………()()()()()()

 

 そう言って、イグナイトはダイヤルを回転させるとその姿が高速で消えてしまう……また取り逃したと自分を嘲笑して、志保はまた天を見上げた。

 

 俺は味方だ。それは彼ですら意図せず出てきた言葉……その言葉にどれほどの信憑性があろうが、志保はその言葉を信じたくなっていた。

 

「でも、絶対一緒に戦ったほうがいいと思うんだけどなあ………」

 

 そう、取り残された志保は静かにつぶやくのであった。

 

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