ド直球な陵辱エロゲ世界で何も知らずニチアサやってる奴 作:らっこ
とある日の夜、その日も日夜はブレスレットに導かれるように夜の道を駆けていた……魔獣の現れた感覚。もはや身体の方が覚えてしまっている感覚だ。
「ちっ……ブレスレットもまだ治りたてだって言うのに……」
路地裏に入り、人目がないのを確認すると、日夜はブレスレットのダイヤルを回す。
『チェンジ!ブースト!!』
「点火」
『イグニッション!!』
日夜の言葉に反応し、機械音声が一斉に響き渡る。同時に、アーマーが日夜の身体へと装着されていった。
『BOOST! BOOST! イグナイト!! ブースト!!』
赤熱と排熱を纏いながら全身にアーマーを纏い、日夜はイグナイトへの変身を完了させる。そしてすぐさまブレスレットを操作し、マフラーから炎を吹き出しながら高速移動を始めた。
『フルブースト!!』
「ちょっと急ぐか……!」
イグナイトは持ち前の高速移動を駆使し、ビルとビルの隙間を縫うようにして反応のあった場所へと駆けつける。だが、そこに魔獣の姿はなかった……代わりに、腰を抜かした一人の少女が倒れているだけだ。
「おい、アンタ。大丈夫か?」
「ば、化け物が……化け物が……私を……!!」
要領を得ない返答を繰り返しながら、少女はガタガタと肩を震わせている。よほど恐ろしいものを見たのだろう……そう判断したイグナイトは、油断なく辺りを見回しながら、少女を庇うように前へ出た。
(周囲に反応はない……だが、油断はできない。)
いったいどんな魔獣が相手なのか。神経を研ぎ澄ませ、闇の奥に潜む気配を探る。
だが、それは間違いだった。本当の敵は──既に、彼のすぐ後ろにいたのだ。
イグナイトが少女から目を離し、周囲の警戒に意識を割いたその瞬間。先程まで怯えきっていたはずの少女の顔に、にたりと嗤う笑みが浮かんだ。
指先が虚空を撫でると、そこから一振りの剣が滲むように現れる。少女はそれを大きく振りかぶり、迷いなくイグナイトの背中へと叩きつけようとした。
「!!」
気配に気づいた時にはもう遅い。剣が振り下ろされる、その刹那──
「でりゃぁっ!!」
鋭い声とともに、一つの影が割り込んだ。新たな愛刀……進爆刀を手にした志保が、イグナイトの背を守るようにその刃を弾き返す。金属同士がぶつかり合う甲高い音が、路地裏に鋭く響いた。
「……ちっ、邪魔しないでよ。」
少女の声色が、先程までとはまるで違うものに変わっていた。震えを帯びた弱々しい声ではない……低く、冷ややかな、明らかに人間離れした響きだ。
「イグナイト、下がってて!!」
「……あぁ、助かった。」
冷静にそう返しながらも、イグナイトは内心で舌打ちする。守ろうとした相手に、まさか背後から刺されかけるとは思っていなかった。油断していたつもりはない……だが、詰めが甘かったのは事実だ。
すると志保はその少女の顔を改めて目にして、信じられないような顔になる。
「貴方は……真木紅羽!?」
「ん?あー、貴方私のことを知ってるのね。」
「当たり前です!貴方の気配……とても討魔士のそれとは思えません!何があったんですか!?」
イグナイトは急な展開に小首を傾げた。この様子だと、目の前の少女もかつては討魔士と呼ばれる側の人間だったのだろう……そう察するには十分なやり取りだった。
「何があったって……はぁ……討魔士ってやっぱり馬鹿真面目ばっかりね。」
少女――紅羽は忌々しげにそう吐き捨てると、剣を構え直す。人の輪郭を保ってはいるが、纏う気配は明らかに異質だった。次の瞬間、紅羽が指を鳴らせば、周囲の闇からずるりと無数の下級魔獣が這い出してくる。
「っ!?魔獣……貴方、まさか魔獣の側に……」
「ようやく分かった?ここまでヒント与えないと分からないなんてね。」
「えぇ……しかしお陰で一つ分かりました、今のあなたは……正気ではないと……!!」
志保はそう言うなり、進爆刀を握り直して前へ踏み込む。まだ馴染みきっていないはずの新しい得物だが、その太刀筋には迷いがなかった。
イグナイトもまたブレスレットに手をかけ、態勢を立て直す。相棒を得た心強さと、油断していた己への苛立ちを胸に抱えながら、敵へと向かう。
「――説明はあとで聞かせてもらう。まずは、目の前のそれを片付けないとな。」
「賛成です。積もる話は、こいつらを黙らせてからで。」
二人の意思が噛み合った瞬間、下級魔獣の群れが一斉に牙を剥いて襲いかかってきた。
「はっ……数だけは一丁前ってか!」
イグナイトはブレスレットのダイヤルを軽く弾き、拳に炎を纏わせる。最も近くにいた一体の顎を正面から打ち抜くと、魔獣は黒煙を噴き上げながら霧散した。
続けて左手を突き出し、加速の勢いのまま二体目を薙ぎ払う。フルブーストの余韻がまだ足に残っている……普段より一段階、動きが軽い。
「そっちは何体いける!?」
「数は問題じゃありません……この剣、思った以上に手に馴染む!」
志保の進爆刀が弧を描くたび、青白い光が刃を伝って魔獣を斬り裂いていく。折れた愛刀を惜しむ間もなく振るわれるその太刀筋は、以前よりも鋭さを増しているように見えた。
だが、群れを蹴散らしても、その奥に立つ紅羽の余裕は崩れない。むしろ愉快そうに口角を上げながら、剣先で己の肩をとんとんと叩いている。
「あらあら、思ったよりやるじゃない。特に――」
紅羽の視線が、イグナイトへと向く。剣先を、まっすぐこちらへと突きつけた。
「そこの魔力なしのお兄ちゃん。魔力もないのに魔獣を倒すその力……ずっと気になってたの。」
「……あんたも、その情報どこで仕入れてきたんだよ。」
「討魔士を辞めたって、耳と目までなくなるわけじゃないもの。私はずっと見てたから、貴方達の戦いぶりを。」
紅羽はそう言って、地面を軽く蹴った。姿勢を低くし、こちらの出方を窺うような構え……先程までの烏合の衆じみた魔獣の動きとは、明らかに質が違う。
「油断できねぇな……」
「言われなくても……!」
二人が同時に身構えたその瞬間、紅羽の姿がふっと掻き消えた。
「っ……速い!」
志保が咄嗟に進爆刀を構え直す。だが、消えた紅羽の姿はどこにもない。気配を探る間もなく――
「後ろよ。」
声は、真後ろから聞こえた。イグナイトが振り向くのと、紅羽の剣が振り下ろされるのはほぼ同時だった。
ブーストイグニッシャーを咄嗟に呼び出し、辛うじてその一撃を受け止める。金属同士がぶつかり合う甲高い音とともに、腕に痺れるような衝撃が走った。
「――軽く見てたけど、意外と反応するじゃない。」
「褒め言葉として受け取っとくよ……!」
鍔迫り合いのまま、紅羽が薄く笑う。その瞳の奥には、明らかに人間のものとは思えない昏さが揺れていた。イグナイトは力任せに剣を弾き返し、距離を取る。
「イグナイト、下がって!囲まれます!」
志保の声に視線を巡らせれば、いつの間にか周囲には先程の下級魔獣がじりじりと輪を狭めてきていた。だが本命は目の前の紅羽だ……そう判断したイグナイトは、意識を彼女一人に集中させる。
「数だけの雑魚はそっちに任せる!こいつは俺が――」
「あら、余裕ね。」
紅羽の指先が、すっと虚空をなぞった。まるで見えない糸を手繰るような、優雅な仕草だった。次の瞬間、彼女の背後の空間が微かに歪み――そこから、太い蔓のようなものが幾筋も飛び出してきた。
「なっ……!」
禍々しい紫色の光を帯びたそれは、まるで生き物のようにうねりながらイグナイトへと殺到する。咄嗟に身を捻ってかわすが、一本が肩を掠め、装甲の表面を鋭く抉った。
「ぐぁっ!?な、なんだ……これ……!」
「どう?魔界に行って手に入れた力……中々、悪くないでしょう?」
紅羽はそう言いながら剣を振るい、同時に蔓を操ってイグナイトを翻弄する。剣と蔓、二つの間合いが重なり合い、逃げ場を封じるような立体的な攻めだった。
「イグナイト!」
背後から迫っていた蔓の一本を、志保の刃が斬り払う。切断された蔓の断面から、どす黒い体液がじわりと滲み出た。
「悪い、助かった!」
「お礼はあとで!こっちも数が減らない……!」
志保は進爆刀を振るいながら、後方から迫る下級魔獣を次々と斬り伏せていく。だが群れは尽きる気配がなく、彼女の呼吸は徐々に荒くなっていた。
「はっ……こっちに集中してくれないと、ボスの相手ができないだろ!」
イグナイトは拳に炎を纏わせ、蔓の一本を正面から殴り飛ばす。だが千切れた端から新たな蔓がすぐに生え、まるで無限に湧き出てくるかのようだった。
「無駄よ。私に
「彼……?」
問い返す間もなく、紅羽が地を蹴った。剣を低く構え、真っ直ぐに突き込んでくる。イグナイトはブーストイグニッシャーでそれを弾き――だが、剣の軌道はフェイントだった。紅羽の懐から、もう一本の蔓が死角を突くように伸びてくる。
「くっ……!」
完全には躱しきれず、腹部に鈍い衝撃が走った。装甲が軋み、身体が後方へ押し飛ばされる。地面を数メートル滑り、ようやく体勢を立て直したところで、紅羽が愉しげに口角を上げた。
「剣術だけの相手なら、退屈だったんだけどね……あなた、思ったより粘るじゃない。」
「褒められてもちっとも嬉しくねぇよ……!」
イグナイトは荒い息を吐きながら立ち上がる。フルブーストの反動か、それとも先程の衝撃のせいか、足元がわずかに覚束ない。だが、退くわけにはいかなかった。
「志保、そっちは!」
「――もう少し!でも、キリがない……!」
志保の声にも焦りが滲んでいた。減らしても減らしても湧いてくる下級魔獣に、確実に体力を削られている。このままでは、二人揃って消耗戦に飲まれる――そう悟ったイグナイトは、ブレスレットに再び手をかけた。
「悪いが……全部まとめて片付けさせてもらう!」
「あら、まだ何か隠してるの?」
紅羽が興味深そうに目を細める。イグナイトはダイヤルを大きく回し、残っている出力を全て一点に集中させるように意識を研ぎ澄ませた。
『マキシングブーストォッ!! GO!GO!』
両腕のブースターが唸りを上げ、拳に纏う紅蓮の炎がひときわ強く燃え上がる。地を蹴った瞬間、視界が一気に流れた。
「――速――」
紅羽が言葉を切る間もなく、イグナイトの拳がその剣を弾き飛ばす。体勢を崩した紅羽へ、間髪入れずに二撃、三撃と畳みかける。防御に徹する紅羽の足が、じりじりと後退していった。
「あはっ!そうこなくちゃ!」
紅羽が歓喜とともに両手を広げると、虚空から一斉に十を超える蔓が飛び出した。四方八方から迫るそれに、さすがのイグナイトも全てを避けきれない。
「――そこまでです!」
間一髪、志保の刃が横合いから割り込み、密集する蔓の半数を薙ぎ払う。残る下級魔獣を強引に片付けてきたのだろう、その息はひどく上がっていたが、目に宿る闘志は消えていなかった。
「合わせて!」
「上等だ……!」
二人は自然と背中合わせの位置に収まる。イグナイトが拳と剣で、志保が刃で――交互に、時に同時に、迫る蔓と紅羽の猛攻を捌いていく。呼吸を合わせるまでもなく、動きが噛み合っていくのが自分たちでも分かった。
「――なるほど、ね。」
紅羽の声から、わずかに余裕の色が薄れていた。二人の連携に押され始めていることを、彼女自身も認めざるを得ないようだった。
「一人ずつなら容易かったのに……面倒な組み合わせ。」
「悪いが、俺たちも今日初めて手合わせしたばっかりでね……!」
イグナイトはそう返しながら、拳を握り直す。紅羽の背後――蔓の供給源であろう歪んだ空間に、視線を据えた。
「頼めるか。えぇと……」
「――志保です。水無月志保、覚えてください。」
言葉少なに交わされたそれだけで、互いの意図は十分に伝わった。二人は同時に地を蹴り、紅羽へ向かって踏み込んでいった。