ド直球な陵辱エロゲ世界で何も知らずニチアサやってる奴 作:らっこ
『対魔強化人間用強化外骨格加速型』――――つけられたコードネームはイグナイト。
超人的な加速力と、全身各部位に設けられたブースターによる爆発的な推進力を得意とする対魔獣用の強化スーツだ。
単純な防御力よりも機動力と打撃力に全振りした設計思想は、いかにも真っ直ぐな人間と呼ばれた父、朔間らしいと言えばらしい。
ともかく速く動いて、速く殴って、速く終わらせる……そのためだけに設計されたスーツだ。
もっとも、誰でも使用できるわけではない。この鎧を動かすには、改造手術によって作り変えられた特異な体質が必要だ。知らぬ間にその体質を手に入れていた日夜だからこそ変身できる姿である。
「オルァッ!!!」
「ギギィ………!!」
腕部のブースターから紅蓮の炎が噴き出した。
その爆発的な推進力を乗せた拳が、目の前の魔獣の体表を連打する。連打連打連打連打連打連打……勢いがつけばもう止まらない。
加速が加速を呼び、打撃が打撃を重ねる。
速攻で終わらせるというイグナイトの、日夜の言葉通り、本気の悪即殴を繰り返していた。拳が唸る。ブースターが吠える。路地のコンクリートが衝撃でヒビ割れる。
――――だが。
(……効いてねぇな)
日夜は打ちながら、冷静に感じ取っていた。
何度打撃を叩き込んでも、目の前の魔獣が怯む様子がない。のけぞりはする。吹き飛びもする。しかし決定打にならない。ダメージが、通っていない。
原因は明らかだった。鱗だ。
背中だけでなく全身を覆うその鱗が、日夜の拳の衝撃を分散させている。硬い、などという生易しい話ではない。
まるで打撃そのものを吸収しているかのようだ。拳を打ち込むたびに手首に返ってくる嫌な感触が、それを如実に語っていた。まるで液体に手を突っ込んだ感覚だ。硬いのに。
「……っ、妙な感覚だなこりゃ!」
バイザーの内側で、日夜は舌を打った。
ブースターの出力を上げれば腕への負荷も上がる。長くは続けられない。どこかに活路を見つけなければ……膠着は、じわじわとこちらの消耗になる。
魔獣がついに反撃に転じた。分厚い尾が薙ぎ払われ、日夜は咄嗟に足のブースターを吹かせて跳んで距離を取る。
「ギャァァァッ!!」
反撃の雄叫びと共に、魔獣が地を蹴った。その巨体からは想像できない踏み込みの速さで間合いを詰めてくる。巨大な前腕が振り下ろされ、イグナイトは横に跳んでそれを躱す。風圧だけでバイザーが軋んだ。
続けて薙ぎ払い。日夜は今度は上に跳ぶ。壁を蹴り、ブースターで軌道を変え、魔獣の頭上を通過しながら後方へ着地する。
「はっ……!」
息が上がり始めていた。
回避そのものは問題ない。イグナイトの機動力は本物だ。
しかし回避のたびにブースターを吹かせる。それが積み重なる。それを制御するブレスレットの温度が、じわりと上がっていた。
(……まずいな、ペースが速すぎる)
エネルギーの消費が想定より早い。いつもの雑魚相手なら速攻で片をつけられるから問題にならない。だが今回は打撃が通らず、膠着したまま回避を繰り返している。
これは……じわじわと、燃料を垂れ流しにしているのと同じだ。このまま走り続けられるだろうか?
魔獣が再び突進してくる、今度は直線だ。
単純だが、その質量がそのまま凶器になる。
日夜は右のブースターを全開にして横へ跳んだ。巨体が脇をすり抜ける。すれ違いざまに腕のブースターを叩きつけ、側面に一撃……しかし鱗が受け止める。またあの嫌な感触が手首に返ってきた。
「ッチ!!」
せめて遠距離用の武器はないだろうか?射程外から攻められたならば楽なのに……
このイグナイトの姿を手に入れてからずっと考えていたことではあるが、未だに遠距離武器の出現方法を知らない……というか、あるのさえ分からない。
一々エンジン全開でぶん殴るのも早いが、こうした時に武器がないとジリ貧だ、打撃が有効でないのはわかりきっている……ならば、どうすべきか?
イグナイトの強さの秘訣はただの物理的な強さだけではない。常に全速力を攻撃に乗せて叩きつけているからでもある、故に打撃の効きにくい相手にも無理やり攻撃を通らせる……要はごり押し戦法の極みがイグナイトだ。
一旦逃げるか?その分のエネルギーは残っている…………だが、そうもいかないらしい。
少し後ろに下がると、何もない所に急に見えない壁があらわれる……いつぞやに見た見えない壁……結界と言ったか。どうやら、はじめから仕組まれた戦いだったらしい。
「ならっ……得意な獲物じゃねぇが。やってやるか」
そう言ってイグナイトはブレスレットのボタンの一つを押し込む……すると、また独特な音声が流れ始めた。
『ブーストイグニッシャー!!』
「どんだけブーストって単語好きなんだよ親父」
そう言うと彼の手元に現れるのは、バイクをデザインに組み込んだ剣だ……こういった武器は日夜としてはあまり得意ではない。普通に殴ってやるほうが早いし強いからだ。だが、敵に打撃が無効な以上……試すしかない。
すると、魔獣がこちらの隙を見逃さず突進してきた。日夜は考えるより先に動いた。回避しながら、半ば投げやりに刃を横に薙いだ。
狙いも何もない。ただ軌道上に刃があっただけだ。
次の瞬間、やけに小気味よい音がした。まるで切れ味のよい包丁で肉を切ったような音だ。
「…………あ?」
すると魔獣の前腕が鱗ごと、綺麗に斬れていた。
断面は滑らかだった。まるでバターでも切ったかのように。あの打撃を何十発叩き込んでも傷一つつかなかった鱗が、一薙ぎで両断されていた。
「ギャァァァァァァッ!!!!!!」
魔獣が絶叫した。さっきまでの悠然とした構えが消え、切断された前腕の断面を押さえるように身をよじらせる。黒い体液が路地に飛び散った。
日夜は呆然と、自分の手の中の剣を見下ろした。
「……マジか」
一薙ぎだ。たった一薙ぎだ。どうやら、打撃にはめっぽう強いが斬撃にはあまり強くないらしい。
「なんで最初からこっち使わなかったんだ俺は……!」
答えてくれる者は誰もいない。日夜は内心で猛烈に反省しながら、剣を構え直した。
魔獣が怒り狂いながら残った腕を振り回してくる。痛みと怒りで動きが荒くなっていた。さっきまでの得体の知れない重厚さが消えている。
日夜はブレスレットのスイッチを押してブーストイグニッシャーを翳す……すると、エネルギーがワイヤレスに剣へと向かい、刃に熱が籠る。
「さぁて……一撃で叩き切ってやらぁ」
魔獣が荒れ狂う痛みと共に咆哮と共に突進してきた。日夜は動かなかった。来い、と言わんばかりに仁王立ちのまま待ち構える。間合いが詰まる。巨体の圧力が目の前に迫る。
そして、剣を構えて踏み込んだ。
残りのエネルギーを集中させ、ブーストイグニッシャーを真正面から叩きつける。斬るというよりも、叩き割るような一撃だ。
すると、まるで技名を叫ぶようにブーストイグニッシャーから音声が鳴り響く。
『マキシングブースト!!GO!GO!』
次の瞬間、刃が赤熱化し突撃する魔獣を唐竹割りのように一刀両断………すると、魔獣は2つに割かれそのまま爆散していく。辺りを囲った結界も、順繰りに砕けていった………
「ふぅ……勝ったぜ」
イグナイト——いや、日夜が呟いた。
爆散した魔獣の残骸が路地に薄く漂い、じきに霧のように消えていく。ブレスレットの光が弱々しく瞬いている……体の節々が重いが、それでも勝った。
悪くない余韻だった。
すると次は上空から人影が降ってきた。
軽い着地音。白と紫の薄手の衣装。腰まで伸びた黒髪。深紅の瞳が、路地を見渡してから日夜へと向いた。
いつぞやぶりの顔だ。討魔士……水無月志保である。
「はぁ……はぁ……魔獣が現れたって聞いて全速力で来たのに、アンタのほうが先なんてね……」
「遅かったな………痴じっ……うん」
「アンタまた痴女扱いしたわよね!?ふざけんじゃないわよ!?」
「……ごめん!」
だって格好が本当にただの痴女……なんて意見をぐっと飲み干して日夜は謝罪する。すると、日夜は軽く手足を揺らして逃げる準備を整えながら問いかける。
「それより、何の用だ?また俺を尋問しに来たか?」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、私は貴方の力について知りたいだけ……」
「同じような事前にも聞いてきた奴がいたよ……俺も知らねぇ。いつの間にか持たされていた力だ」
また含みのある言い方をする日夜……それに対して追及したくなる志保だが、今日はグッとこらえてみる。折角助けてくれた恩人と会えたのだ、家柄にとらわれた詮索だけで会話を終わらせて逃げられたくない。
そうこうしている間にもイグナイトは大きく舞い上がり、その場から離れようとしていた……志保は思わず声を大きくして張り上げる。
「ねぇ!イグナイト……だっけ!!初めて会った時、助けてくれてありがと!助かった!!」
「……はっ?」
その一言にイグナイトは少し面を食らったような声を上げてしまう…………魔獣退治というのは孤独なものだ。
こうしてお礼を言われる機会はない、討魔士はそれこそ身内から大なり小なり礼の言葉はあるのかもだが……彼はそれは初めての経験だった。
少ししてからイグナイトは、日夜は、そのままいつもの様に体を加速させてその場から消え失せてしまう。去り際の突風が、志保の肌を刺激した。
「うわっ………あぁ!もう!また消えた!?」
志保は自身がその残像すら見切れなかったことに腹を立てながらも、一応のお礼は言えたと安堵する……最初に会った時は、言えなかったから。
勿論姉の昴に釘を差されたというのもあるが、そうでなくても助けてもらってお礼もなしというのは彼女にとって気持ちのよいものではなかった。
「……今度こそ取っ捕まえなきゃなあ……今度は素顔にお礼言ってあげないと!」
一人そんな若干ずれた決心をしながら、報告のための情報収集を始める志保なのであった。
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旭野日夜は今まで、一人で戦ってきた。
そう長い間ではない……父のビデオメッセージを見て、ガジェットの使い方を覚えて、気がつけば戦い始めていた。
それだけの話だ。始まりに決意も覚悟もなかった。ただ気がついたら、そういう日常になってしまっていた。
だから誰かに話したこともない。話せる内容でもないし、話したところで信じてもらえる内容でもない。
誰にも認知されない。誰にも助けてもらえない。誰にも、見えていない。
戦って、魔獣を倒して、黒煙を吹かせながら夜道を帰る。それだけだ。それだけの繰り返しだった。
孤独、という言葉を日夜はあまり好まない。なんとなく、負けを認めているような気がするからだ。
だが正直に言えばなかなかに心を抉る日々だ、誰にも見えていない場所で戦い続けるというのは。
だが、今日彼は初めて助けたことに対して『お礼』を言われた。たったそれだけの話のはずなのになぜか、うまく処理できなかった。
魔獣を倒す理由は今まで一つだった。
父の手がかりを追うこと…旭野朔間が何を考えてこの力を自分に与えたのか、その答えを見つけること。
言ってしまえば、戦いはそのための手段に過ぎなかった。見えない糸をつかむような戦いの日々だった。
誰かのためとか、世界を守るためとか――――そういう話ではなかった。少なくとも、今まではそのつもりだった……だが。
(……悪くないな)
日夜はそう思う。
それは父の手がかりとは全く別のところにある話だった。
答えなのかどうかも分からない……これにどれほどの意味があるのかどうかも分からない。ただ、孤独な戦いの中に、初めて別の色が混ざった気がした。
ブレスレットが、一度だけ点滅した。まるで何かに相槌を打つように。
「……なんだよ」
日夜は小さく呟いて、ブレスレットを軽く小突いた。