ド直球な陵辱エロゲ世界で何も知らずニチアサやってる奴 作:らっこ
「ッ!!雷閃連射!!」
「ッ!!オゥルァッ!!!」
夢見の銃弾が雷光のように奔り、イグナイトの拳が音を立てて魔獣の体表を叩く。二方向からの同時攻撃に、魔獣の四本腕が対処しきれずに揺れた。だが、その身は滅されない。
一発一発はしっかりと入っている。ダメージも通っている。しかし致命打にならない。与えても与えても、黒い肉がぐずぐずと盛り上がって傷口を塞いでいくからだ。
「ちっ……こういうタイプは面倒くさくて嫌だね」
「同感ね」
今ここで初めて出会ったはずの二人が、息の合った軽口を叩き合う。魔獣はそんな二人に苛立つように雄叫びを上げ、副腕を大きく伸ばして薙ぎ払ってきた。
先ほどは不意打ち気味に貰いかけた夢見も、一度見てしまえば対応は容易い。二丁拳銃の銃口を副腕の根元へ向け、高密度の魔力の貫通弾を叩き込んだ。
「雷閃徹甲!!」
副腕の一本が切断される。
「デリャァッ!!!」
イグナイトも負けじと足のブースターを全開にして炎を舞い上がらせながら跳躍し、回し蹴りを副腕へ叩き込む。ブースターの推進力を乗せた蹴りは、副腕をそのまま蹴り砕いて切り裂いた。
しかし……魔獣が一際大きな咆哮を上げた瞬間——切り口から、何かが伸び始めた。
副腕の断面から、まるで木の枝が分岐するように、細い腕が次々と生えてくる。一本が二本になり、二本が四本になり、四本が八本になる。うねうねと蠢く無数の腕が、体育館の空間を埋めるように広がった。
「うわっ!?」
夢見が心底気味悪がりながら二丁拳銃を乱射する……だが、いくら撃ち落としても迫る触腕に夢見は身体を取られ、十字架にかけられるように縛り上げられる。
ヌメついた粘液が肌を刺激しながら夢見の体を締め付けていく。じゅわっと何かが溶かされるような音も響くが、それに構う暇はなく何とか脱出しようと夢見は藻掻く。
「かはっ!?ぐ……ぁ……!!」
「オイっ!!……ったく!」
イグナイトは猛スピードで先ほど地面に突き刺しておいたブーストイグニッシャーを素早く引き抜き、夢見を縛る触腕をまとめて叩き斬り、空中で抱き寄せるように回収する。
「はぁ……はぁ……やばかった……!!」
「無事か?もう少し働いてくれよ!」
そう言ってイグナイトは剣を振るって触腕を斬りつける。すると、夢見はイグナイトを踏み台に飛び上がって前面に魔力を込めた弾丸を連射した。
「ねぇ!このままだとジリ貧じゃない!?応援は!?」
「俺もやっとさっき結界を破って入ってきたんだ、呼んでもすぐにはこれん!つか呼ぶ宛がない!」
「やっぱり結界が張ってあったのね……!」
会話する間にも枝腕が追撃してくる。二人は大きく跳んでそれをかわし、弾丸と剣でさばき続けた。
しかし……どちらにしろ限界が近い。
弾丸を放つたびに夢見の魔力が削られていく。イグナイトはブースターのエネルギーが底をつきかけている。持久戦になれば不利なのは明らかだった。
腕が増える速度と、二人が対処する速度が、拮抗し始めていた。
(このまま疲弊するだけだなこりゃ……!!)
イグナイトは瞬時に判断した。夢見の弾丸も無限ではない……事実魔力を消耗して放たれる弾丸には限りがある。彼女の残りの魔力としては余裕があるが、このまま持久力は火力不足でこちらが不利だ。
であるならばもはややるべき事は一つだけだろう。
「こうなりゃ再生が追いつかなくなる速度で切り刻むか……!!」
「ちょっ、脳筋過ぎない!?」
夢見の至極真っ当な指摘が飛んでくる。しかしイグナイトは迷わずブレスレットのボタンを押し込んだ。
『マキシングブースト!! GO!GO!』
「さっきっから聞きたいんだけどその音何!?」
「知るか!気にするな!!」
連続で飛ぶ夢見の至極真っ当な意見に答えるその言葉と共に、イグナイトの全身が赤熱した。
ブースターが唸りを上げ、装甲の各所から炎が吹き荒れる。黒煙が上がる。機械の悲鳴のような駆動音が体育館を揺らした。
次の瞬間……イグナイトは、音を置き去りにした。
残像すら見えなかった。気がついたときには魔獣の懐に入り込んでいて、ブーストイグニッシャーが唸りを上げていた。
斬。斬。斬。斬。
再生が追いつかない速度で、イグナイトは魔獣を切り刻んでいく。腕が、胴が、首が、次々と分断されてはまた切り刻まれて吹き飛ぶ。肉片が体育館の空間を舞った。
「ッ!!」
夢見は咄嗟に二丁拳銃を構えた。
飛び散った肉片……放置すれば再生の核になりかねない。
一発一発、確実に。銃口が肉片を追い、引き金を引くたびに弾丸が命中してさらに粉砕する。
「雷閃乱撃!!!」
弾丸の雨が体育館を縦横無尽に飛び交い、舞い散る肉片を余さず撃ち抜いた。イグナイトの斬撃と、夢見の弾幕が、夢幻のように広がっていく。
ひたすらに斬って撃って斬って撃って……続く連撃には魔獣の再生も追っつかなくなる……不思議な話だ。先ほどまではイグナイト達のほうが防戦していたと言うのに、一度攻めに回るとイグナイト達に一気に戦況が傾いた。やはり速さとは力ということなのだろうか。
体育館の床に、黒い体液が広がっていた。もはや再生の兆候はない。肉片すら残っていない。魔獣は――――完全に消えていた。
「ぜぇ……はぁ……!!」
「キツそうね……」
イグナイトが肩で息をしながら剣を下ろした。全身から黒煙が上げながら、全身の赤熱化がもとに戻る……そんなイグナイトを見て夢見が一言問いかける。
「先ずは……助けてくれてありがとう。」
「あぁ?」
「……私は、私達はあなたが何者なのか知らなきゃならない」
……下手に事を荒立てるなと言われたばかりだと言うのに……若いながらも雷蔵家当主たる夢見の使命感からか、或いは焦燥感からそう銃を向ける。
夢見は彼の力が何から成り立つのか知ることは重要であると考えている……確かに、目の前の戦士……イグナイトはそう悪い人物には思えない。
だが、だからといって無防備に背を預ける気にはなれなかったのだ。イグナイトは肩を落として語る。
「知らねぇっての。逆に教えてほしいね、俺がなんなのか。勝手に改造されて、ガジェットの使い方だけ教えてもらって、気がついたら魔獣と戦ってた。それだけだ。俺が何でできてるのか、この力がどういう仕組みなのか……正直なにも分からん」
淡々とした口調だった、怒りでも悲しみでもない。
本当にただの、事実の報告のような口ぶりだ。それがかえって夢見には重く聞こえた。
それは、イグナイト……日夜の本音だった。勝手に改造され、勝手に戦いの渦中に身を収めている日夜の……何事もない本音だ。
銃口を向けたまま、夢見はしばらく動けなかった。敵対するような反応でも、誤魔化すような反応でもない。ただ本当に、知らないのだ。この男は、自分がなんなのかを。
夢見はゆっくりと、銃を下ろした……すると、イグナイトは目を合わせないように他所をむきながら軽くつぶやく。
「……あとお前、服少し溶けてるぞ」
「はぁっ!?」
夢見が驚き自身の衣装を見れば……腕や腹などの先ほどあの触腕に巻き付かれた部分が少し服が溶け、その肌があらわになる。幸い帯のような溶かし跡しか付いていない為に大事な部分は隠れているが……さらに際どい衣装になっている。
どうやら、服か魔力により形成した物だけ溶かすような溶解液を身体にまとっていたようである。
「ちょっ!まっ……なんで言わなかったのよ!」
「どのタイミングで言うんだよ自分で気がつけ馬鹿」
イグナイトは黒煙を吹かせながら、ゆっくりとイグナイトはダイヤルを回す。
『フルブースト!』
「じゃあな」
そう言ってイグナイトはその場から高速で姿を消す……残像を目で追うことすら叶わない夢見は、そっともとの制服に着替えて天窓から空を見上げるのだった。
―――――――――――――
その晩のことだ。
夢見はとある事を報告するために、水無月家の、昴の元を訪れた。
渡り廊下を案内された夢見が執務室の引き戸を開けると、文机に向かっていた昴が顔を上げる。
年が近く比較的気安い相手とはいえ、普段は滅多に顔を合わせない相手だ。昴の深紅の瞳が、珍しい客人に僅かに目を見開いた。
「雷蔵家の当主が直々に……珍しいですね」
「急いで話したいことがあって」
夢見は遠慮なく部屋に入り、昴の向かいに腰を下ろした。礼儀より速度を優先する……それが夢見のやり方だ。昴はそれを咎めず、静かに筆を置いた。
「……今日イグナイトに会ったわ」
昴の目が、わずかに動いた。
「今日。学校の体育館に魔獣が出て……そこに来た。結界を破って」
「把握してます、貴方怪我は?」
「ない。助けてもらったからね」
夢見は端的に戦闘の経緯を話した。副腕型の魔獣やイグナイトの乱入。共闘。撃破。昴は一言も遮らず、全て聞いてくれていた。
「それで」
……そう昴は静かに促した。
「報告だけなら使いを寄越せばよかった。直接来たということは……」
「私なりに考えた仮説がある」
夢見は真っすぐに昴を見た。まだ仮説の段階だが、早めに伝えておきたい説だ。
「イグナイトの正体……私の学校にいると思う」
昴の筆を置いた手が、文机の上で静止した。少し息を吸い、また促すように問いかける。
「根拠を」
「まず、あの場に結界が張られていたのは?」
「存じてるわ。イグナイトに破られたようだけど」
さすがと言わんばかりに頷く夢見。
「私が気配を察知して体育館に向かうまで、それほど時間はかかっていない。なのにイグナイトが現れたのは、私が魔獣に捕まりかけた瞬間だった」
夢見は続けた。
「あのタイミングで駆けつけるには、よほど近くにいなければおかしいわ。結界が張られていたことを考えると、外から察知して駆けつけるのはほぼ不可能なはずよ。事実あなたの妹の時は40分掛けて乱入してきたのだから」
「……つまり、結界の内側か、あるいは近くに最初からいた、と?」
「そう。学校の敷地内に。昼休みにね」
昴はしばらく黙った。細い指が、文机の上で一度だけとんと鳴る。筋は通っているが……鵜呑みには出来ない。と入っても、屁理屈と断ずる事も出来ない。
「状況証拠ね」
「状況証拠よ。でも筋は通ってる……無視はできない理屈でしょ?」
「否定はしませんけれど……」
昴は静かに答えると、その視線が少し遠くなる。頭の中で何かを整理しているときの、昴特有の表情だ。
「あなたの学校の在籍生徒数は」
「300ちょっとかと」
「その中に、正体不明の対魔戦士が紛れている可能性がある、と」
「可能性の話。でもありえる仮説だと思う」
確かに有益になりうる手がかりだ。イグナイトに対するとっかかりがあまりにも少ない今、ささいなことでも調べはつけなければならない。
結界についてもそうだ……一体誰がどんな目的で張っているのだろうか。
「あとは……そうね、勝手に改造されたって言ってたわ」
「勝手に改造された?」
「えぇ……力のソースについては何も知らない、って」
その言葉を聞いて昴の脳裏に思い浮かぶのは……例の魔力に頼らない対魔の力を研究していた者についてだ。人間の強化を謳った、学会から追放されたマッドサイエンティスト。
どうやら、あまり気にもとめていなかったが、本格的に調べをつけてもいい頃合いなのかもしれない。この際だ、聞いておこう。
「
「旭野……?居たような、居なかったような……」
歯切れの悪い返答だが、まぁ調べればわかることだ。昴はそうですか、と。ひと言つぶやいて言葉を終える。
旭野朔間……かつて人間の強化を研究したマッドサイエンティスト。その名は、討魔士の世界にも広がっている……この一連に関連性がないと断ずることは、昴には出来ないのであった。
余談だが、暫くして昴が夢見にあるものを勧める。
「そう言えば、この間美味しい杏仁豆腐を売ってくれる喫茶店を見つけたのですが……今度妹も誘ってみんなで行きませんか?」
「えっ、構わないけれど…………えっ、喫茶店で杏仁豆腐……?」
混じり合わない2つのものに、夢見はそっと小首を傾げるのだった。