ド直球な陵辱エロゲ世界で何も知らずニチアサやってる奴   作:らっこ

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ニチアサでは青春シーンは案外珍しい。

 

「やっほ〜日夜君!」

「……おはようございます」

 

 喫茶店MASKでの一幕の後、日夜の日常に少し変化が現れた。クラスメイトである雷蔵夢見に、なぜだかよく話しかけられるようになったのだ。

 

 話しかけられる……と言っても、こういった挨拶を積極的にされる程度のものだが、それでも今まで居ても居なくても変わらないような奴とは思えないほどにしっかりと目を見て挨拶をしてくる。

 

 この程度で勘違いするやわな心臓は持っちゃいないが、バイト先で出会い少し話しただけでここまで変わるものなのかと純粋に驚く。

 

 それと同時に何かの探りを入れに来ているのではという、妙な勘ぐりも頭をよぎる。なにせ相手は変な格好で魔獣と戦う謎の人間だ(人のことは言えないが)

 

 まあそれでも、あの仮面の姿から自分にたどり着くわけがないと……日夜は内心高をくくっていた。装甲を纏ったイグナイトと、エプロン姿のバイト少年では、結びつく要素がない。そのはずだ。

 

 正体をバラす……と言うことも考えたが、向こう側からのアクションを待つことにしてみた。彼女達が敵だとは思えないが、味方と断ずることもできない。一歩引いて関わるのが一番……そう感じていた。

 

 もちろん夢見にも、雷蔵家当主としての思惑がある。

 

 相手は討魔士の重鎮である水無月昴が怪しいと睨んだ旭野の苗字を持つ男。

 夢見が聞いた話だと、なんでも人間の強化を目的にし、対魔の力を独自に研究していた男の名が旭野朔間……夢見の仮説と合わせると、偶然と断ずることはできない。

 

 さりげなく父親の名前を聞くという手もあるが、討魔士の基本は人にバレずに行動すること。下手に勘ぐられて怪しまれるのは避けたい。まずはこうして挨拶で少しずつ距離を縮めて、情報を掠め取ろうという魂胆だ。

 

 こういった距離の縮め方は得意だ。学校でも、こうやってさりげなく友人を増やしてきたのだから。

 

――――――――――――――――

 

     

 昼休み。

 

 日夜はいつものようにコッペパンを一人で貪っていた。机に肘をついて、窓の外をぼんやり眺めながら。別に感傷的なわけではない。見る場所がそこしかないだけだ。

 

 そこへ弁当箱を抱えた夢見が近づいてきた。

 

「ねぇ、ここいい?」

「……? 大丈夫ですけど」

 

 特段一緒に昼飯を食べて困ることもない日夜は、特に深く考えずそれを受け入れた。夢見はしめしめとばかりに机をくっつけて、手際よく弁当箱を広げる。

 

 中身は手の込んだ料理だった。臣下……所謂メイドのような人が作ってくれた昼食だが、これを楽しみに毎日学校に来ていると言っても過言ではない。

 

 二人は各々、昼食を取り始めた……………のだが。

 

「……」

「……」

 

 ひたすらに無言が続いた。

 それはそうだ、という話でもある。

 あまりにも接点の薄い二人がいきなり食卓を囲んだところで、どれほどの話題作りができようか。夢見は弁当を食べながら内心で焦っていた。距離を縮めに来たのに、このままでは縮まるどころか気まずくなるだけだ。

 

 思わず口を開く。

 

「ねぇ、あのバイト先ってどうなの? 大変?」

「大変っすよ……だってみんな訳わかんない注文しかしないんすもん」

 

 日夜はコッペパンを片手に、遠い目をした。

 やれ杏仁豆腐だの、やたら長いキャラメルなんたらだの、あまつさえ牛丼だの………大抵の客が本来喫茶店にない物を注文してくる。

 

 そしてマスターがその全てに100%完璧に応えてしまうものだから、日夜の立場がない。業務的な負担はさほどでもないが、気疲れが凄まじい。

 

「しかもマスターが毎回普通に出してくるんで……俺が気まずくなるんすよ、最初に『ない』って言っちゃうから」

「あー……ごめんね?」

 

 同じようなやらかしをしでかした夢見はそっと手を合わせると、日夜は軽く首をふるって浅く笑いながら言う。

 

「いや謝ってもらうことでもないんですけど……まあ、でも楽しくはありますけどね」

 

 そんな風に言ってから、また日夜はコッペパンを齧った。

 夢見は弁当箱の一段目の中身を綺麗に平らげながら、ちらりと日夜を見た。

 

(思ったより、話しやすい……)

 

 警戒しているようでいて、話しかければちゃんと返ってくる。素っ気ないが、無愛想というわけでもない。ただ……人と関わることに、慣れていないのだ、この男は。それは夢見にも、なんとなく分かった。

 

 だが、余計にあの仮面をかぶった戦士と繋がらなくなってくる……あのイグナイトとか言う戦士は熱苦しいまでは行かなくても、もう少し饒舌だった気もするのだが。

 

 しかし、考えるのは後にして会話に花を咲かせようと夢見は努力する。

 

「毎日コッペパンなの?」

「偶に。別に毎日ってわけじゃないですよ」

「購買のパンよね?お弁当とか作ってもらわないの?」

 

 なんてことない質問のつもりだった、親族に触れるためのただの世間話だ。しかし次の瞬間、日夜はなんてことないように言った。

 

「親父も母さんももう居ないし……俺が作るのもめんどくさくって」

 

 夢見の箸が、止まった。

 聞いてしまった……と理解したのは、言葉が返ってきた後だった。地雷という意識すらなく踏んでしまったのだから、タチが悪い。夢見は咄嗟に声を上げた。

 

「ごっ……ごめん」

「えっ、あぁ……別に、もう吹っ切れてますから。父さんの事に関しては覚えてすらないですし」

 

 日夜はコッペパンを齧りながら、本当になんてことないような顔で言った。……半分嘘で、半分本当だ。

 

 母については、ある程度吹っ切れている。……悲しくなかったとは言わないが、ただ時間というのは残酷なほど正直で、痛みを少しずつ風化させていく。

 

 今では「そういうことがあった」と受け止められる程度には、落ち着いていた。

 

 だがあの親父については、話が別だ。

 

 あのビデオメッセージを見てから、ずっとそうだ。勝手に自分を改造して、勝手に蒸発して、勝手にガジェットだけ送りつけてきた男のことを、気にしないわけがない。

 

 怒りとも呼べない、苛立ちとも少し違う、何か引っかかったままの感情が、今でも胸の底にくすぶっている。

 

 だがそれをここで声を荒げたところで、何の意味もないことも分かっている。だから黙っているのだ。

 

 別にその境遇を不幸だと思ったことはない。不幸というのは、もっと他に使うべき言葉だと思っている。ただ気に食わない、とは常々に思っている。

 

「……本当に、気にしなくていいですよ」

 

 日夜は夢見の表情を見て、フォローのつもりで言い添えた。それでも、親父のことを考えて少し荒々しくコッペパンを噛みちぎってしまった。

 

 ……すると、夢見も少し声を上げる。

 

「いや……その……奇遇、と言うか。私も実は両親居ないの」

 

 思わず日夜はコッペパンを喉に詰まらせかける……やってしまった……と頭の中で盛大に後悔する。

 

 地雷を踏んだと思って謝ったら、相手も同じ立場だったというオチだ。人付き合いとはままならないものだなと、自分のコミュ力の低さを静かに憂いながら、とりあえず黙って頷いた。

 

 気の利いた言葉など何も出てこなかったが、夢見は少し間を置いてから、ぱっと明るい声を出した。

 

「……まっ!私も吹っ切れてるんだけどね!十年も前の話だし!でも凄いよね日夜は、バイトって生活費稼ぐため?」

「えぇ、まぁ。父の友人が手を貸してくれてはいるんですけど、自分で稼げる分くらいは……と思って」

「へぇ……しっかりしてるじゃん」

 

 感心したような声だった。お世辞ではなく、純粋に驚いている感じだ。

 

 日夜は少しだけ視線を窓の外へ逃がした。褒められ慣れていない、というより……こういう話を誰かにしたことが、そもそもなかった。

 

 たったそれだけのことなのに、妙に居心地が悪い。なんだこれ、と内心で首をかしげる日夜には気づく様子もなく、夢見は二段目の弁当箱に箸を伸ばしながら平然と続けた。

 

「お父さんって、そんな前に?」

「俺が生まれた頃は生きてたらしいですけど、すぐに蒸発しましたから……」

 

 気がつけばそんな話をぽつりぽつりと流してしまっていた。

 ……まぁ、知られて困る秘密はない。まさかそこから自分の正体を当てるなんて真似はしないだろうと高をくくっていたからだ。まさか、既に狙いの的を絞られているとも知らずに。

 

「へぇ……」

 

 夢見は相槌を打ちながら、箸を動かす手を少し止めた。根掘り葉掘り聞くわけでもなく、かといって流すわけでもない。ちょうどいい塩梅の反応だなと、日夜はぼんやり思う。

 

 思わず、日夜も問いかけた。

 

「雷蔵さんのほうは?」

「夢見でいいよ!……私の方は……厳しい人だったかなあ」

 

 不意に思い出すのは、両親二人に討魔士として鍛え上げられた修行の日々だ。秘境に拉致られ只管に実戦訓練のタコ殴り……だが、おかげで多少は戦える討魔士になることができた。そのぶんには感謝もしている。

 

 それに誕生日や、クリスマスみたいな行事ごとはしっかりしていたし、愛してくれていたのは伝わっていたし、自慢の両親だった。

 

「厳しかったけど……好きな親だったよ」

 

 ……5年前に、ある魔獣との戦いで消息不明になるまでは。と思わず頭に出そうになるのをこらえて、夢見はそう言った。

 

 言い方はあっけらかんとしていた。重さを持たせるつもりがない、そういう言い方だ。それでも隠しきれない何かが、その言葉の端にわずかに滲んでいた。

 

 日夜はそれを聞いて、少し間を置いてから誰にも聞こえないほどに静かにつぶやいた。

 

「……それが、結局一番だよな」

 

 自分でも意外なほど、すんなりと口をついて出た言葉だった。

 自分をこんな体にした親父も、そんな親父を「まっすぐな人」と表した母親すらも、心のどこかで恨めしく思っていた。それは今も変わらない……変わらないのだが。

 

 好きな親だった、と。そう言い切れるものが、自分にあったなら。

 

 答えの出ない問いが頭の中を一瞬よぎって、日夜は黙ってコッペパンの残りを口に押し込んだ。

 

 夢見はそんな日夜をちらりと見て、何かを言いかけて……やめた。代わりに、弁当箱の蓋をぱちりと閉める。すると、夢見はニコっと笑って日夜に言う。

 

「……日夜って、思ったより話せる奴じゃん」

「そうですかね」

「そうだよ。もっと無愛想な感じかと思った」

 

 失礼なことをさらりと言う奴だな、と日夜は思ったが、怒る気にもなれなかった。……まぁ実際、そう思われているだろうとは自覚していたので、否定もしなかった。

 

「雷蔵さ……夢見さんは、誰とでもそんな感じで話せるんすか」

「わりとね。まあ、今日は日夜が話しやすかっただけかも」

 

 夢見はそう言って、にっと笑った。探りを入れているのか、本音なのか、あるいはその両方なのか。読みきれない笑顔だった。

 

 日夜はそれに特に返事をせずに、二人はお互いに手を合わせて食事を終えるのだった。

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