未来のゴブ太、過去に逆行する!   作:ポップ

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【第10話】太古の魔王様たち、テンペストの宴会で胃袋を掴まれるっす!

テンペストの迎賓館に設けられた大宴会場。

そこには、シュナを筆頭とする料理番たちが腕によりをかけた、和洋中あらゆる豪勢な料理がズラリと並べられていた。最高級の魔物肉のロースト、新鮮な魚介の刺身、そしてドワーフ仕込みの極上な果実酒。

 

「……信じられん。本当にここが魔物の国なのか?」

 

最上座に案内されたギィ・クリムゾンは、手元のグラスで揺れる琥珀色の液体を口に含み、その芳醇な香りと深い味わいに目を見開いた。太古の時代、人間ですら文明の黎明期にある世界からやってきた彼にとって、テンペストの食文化はまさに異次元の代物だった。

 

「お気に召したなら何よりだよ、ギィ……さん」

 

その隣で、人間の少女のような愛らしい姿(しかし中身は冷や汗ダラダラのサラリーマン)のリムルが、愛想笑いを浮かべながら杯を傾けている。

 

「スライム……いや、リムルと言ったな。ノワールたち原初を四柱も従え、この豊かすぎる国を束ねる主。どんな凶悪な化け物かと思えば、随分と気の抜けた気配じゃないか」

 

「あはは……まあ、基本的には平和主義なんでね。うちの連中がいつも世話になってるみたいで、過去のギィさんには悪いことしたなぁって」

 

リムルの全く魔王らしからぬ(しかし底知れぬ余裕を感じさせる)態度に、ギィはふっと笑みをこぼした。

 

「悪くない。お前のその底の知れなさ、そしてこの酒。俺がわざわざ時空を超えてきた甲斐があったというものだ」

 

ギィが機嫌を直したその一方で、彼の側近であるミザリーとレインは、別の意味で衝撃を受けていた。

 

「ミザリー……この『すき焼き』という料理、お肉が口の中で溶けました……」

 

「ええ、レイン……。私たちが太古でギィ様に焼いていたお肉は、もしかしてただの『炭』だったのではないでしょうか……?」

 

原初の悪魔である二柱が、シュナの作った料理の美味さに感極まり、瞳にうっすらと涙を浮かべている。

それを見た現在のディアブロが、ワインボトルを片手にスッと近づいてきた。

 

「クフフ……お分かりいただけましたか? リムル様が統治されるこの国の素晴らしさが。あなた方も太古へ帰らず、このままリムル様の足拭きマットとして下働きから始めてみては?」

 

「……ノワール。お前のその思考回路だけは、未来でも全く理解できないわ」

 

ミザリーがドン引きしつつも、箸の動きだけは止まらない。

そして、宴会場の片隅では、もう一つの「教育」が静かに進行していた。

 

「さあ、ヴェルドラ。正座の姿勢が崩れていますわよ。しっかり背筋を伸ばして、この『般若心経』を百回書き写しなさいな」

 

『あ、姉上……! 我はもう百年分くらい反省した! どうか、どうかその冷気で我のケーキをカチコチにするのだけは……!』

 

完全に解凍されたものの、ヴェルザードの隣で綺麗な正座を強制され、涙目で筆を握る暴風竜の姿があった。

その向かいの席では、大小二人の精霊女王が凄まじい勢いでデザートを平らげている。

 

「ちょっと! そのイチゴのタルトは私のよ! 過去の私がなんで未来の私の分まで食べてるのよ!」

 

「うるさいわねちんちくりん! 私が未来でこんなポンコツになることへの慰謝料よ! ああ、でもこの『ぱふぇ』っていうのも捨てがたいわね……!」

 

全盛期のラミリス(大人)は、完全に威厳を放り投げ、現在のラミリスと本気のスイーツ争奪戦を繰り広げていた。

 

「いやー、やっぱりみんなで食べるご飯は最高っすね!」

 

ゴブタは、山盛りの唐揚げを頬張りながら、満足げに宴会を眺めていた。

 

「お前なぁ……。これだけ規格外の連中を集めておいて、よくそんな呑気に飯が食えるよ」

 

リムルが呆れたようにツッコミを入れるが、ゴブタは「へへっ」と笑うだけだ。

 

「おい、ゴブタ」

 

ふと、ギィがグラスを置いてゴブ太に声をかけた。

 

「お前のおかげで、退屈な太古の日常に最高の暇つぶしができたぜ。この国も、このスライムも、最高に狂っていて面白い。……お前が元の時代に帰ってきたことで、時空の繋がりはもうすぐ切れる。俺たちも、そろそろ元の太古へ強制送還される頃合いだろう」

 

ギィの言葉通り、彼ら太古のメンバーの足元が、淡い光を放ち始めていた。

時空の修正力が働き、本来の時代へ帰還する時間が迫っているのだ。

 

「えっ、もう帰っちゃうんすか? 残念っす。でも、またいつでも遊びに来てほしいっす!」

 

「くはははっ! バカ言え、時間を跳躍するなんて二度とごめんだ。だが……数千年後、俺がこの時代まで生き延びた時、またこの国を訪ねてやろう。その時まで、お前もそのスライムも、せいぜい面白いままでいろよ」

 

ギィが不敵に笑い、立ち上がる。

ヴェルザードも、涙目のヴェルドラの頭をポンと撫でて立ち上がった。

 

「ええ。弟がこれ以上堕落しないか、私も数千年後にまた確かめに来ますわ。……ふふっ、本当に楽しい時間でした」

 

「ちょっと、待ちなさいよ! 私、まだプリンを三口しか……ああっ、体が光って……! スライム! 私がそっちの時代で堕天しても、絶対に毎月ケーキを送ってきなさいよ! 約束だからねーーっ!」

 

スイーツを両手に抱えたままのラミリスが絶叫する中、太古の絶対者たちは眩い光に包まれ――そして、一陣の風と共に完全に姿を消した。

後に残されたのは、綺麗に平らげられた料理の皿と、テンペストの面々だけ。

 

「……嵐のような連中だったな」

 

リムルがどっと疲れたように肩を落とす。

 

『……助かった。これでやっと、平和な引きこもりライフが戻ってくる……』

 

ヴェルドラが真っ白に燃え尽きたように床に突っ伏した。

 

「リムル様! お疲れのようですので、私が特製の滋養強壮シチューを作ってまいります!」

 

「シオン! お前は絶対厨房に行くな! ゴブタ、止めろ!」

 

「えーっ!? 俺、もうお腹いっぱいっすよー! 逃げるっす!」

 

いつものテンペストの、いつもの騒がしい日常。

ゴブ太の壮大で迷惑な太古へのタイムスリップ劇は、こうして誰も欠けることなく(太古の魔王たちの胃袋と常識を完全に破壊して)、大団円を迎えたのだった。

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