未来のゴブ太、過去に逆行する!   作:ポップ

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【第7話(IF)】未来へは行けない!? なら、リムル様が生まれるまで待つっす!

【第7話(IF)】未来へは行けない!? なら、リムル様が生まれるまで待つっす!

 

「――いくっすよ。うおおおおおおおおっ!!」

 

ドゴォォォォォォォォォンッ!!!

ゴブタの小さな体から、白氷宮を揺るがすほどの規格外の魔素(オーラ)が爆発的に噴き出し、ギィとラミリスが構築した魔法陣に注ぎ込まれる。魔法陣は太陽のような眩い光を放ち、空間がグニャリと歪み始めた。

 

「よし! 時空の門(ゲート)が開くわよ!」

 

ラミリスが歓声を上げた、その時だった。

パキィィィィィンッ……!!

無情にも、空間に開こうとしていた亀裂が、まるでガラスが割れるように砕け散り、魔法陣が霧散してしまった。

 

「なっ……!? 嘘でしょ!?」

 

「……どういうことだ、ラミリス。魔素量は十分すぎるほど足りていたはずだぞ」

 

ギィが顔をしかめる。

 

「魔素のせいじゃないわ! 『未来』の座標が、世界そのものの理(システム)によって完全にブロックされてるのよ! 過去から未来へ飛ぶなんて、時の精霊(クロノア)の権能でもない限り、世界が許容しないんだわ……ッ!」

 

ラミリスが頭を抱えて絶叫した。

 

「ええっ!? じゃあオイラ、テンペストに帰れないんすか!?」

 

ゴブタもさすがに驚いて目を丸くした。

 

「……そういうことだな。お前はこれから、この時代のホブゴブリンとして生きるしかない。気の毒だが、寿命で死ぬ前にスライムに会うのは不可能だ」

 

ギィが哀れむように肩をすくめた。

普通のゴブリンの寿命は短く、ホブゴブリンになったとしても数十年、長くて百年程度。数千年後のリムル誕生まで生きられるわけがない。

だが、ゴブタは数秒だけ腕を組んで「んー」と悩んだ後、ポンと手を叩いた。

 

「ま、いっか! オイラ、ハクロウの爺ちゃんに鍛えられすぎて、なんか寿命とかよくわかんない体になっちゃってるんすよ! 多分、数千年くらいなら余裕で生きられるっす!」

 

「……は?」

 

「だから、リムル様が生まれるまで、この時代でのんびり待つことにするっす! ギィさん、しばらく居候させてほしいっす!」

 

「しばらくってレベルじゃないぞお前……」

 

こうして、未来への帰還をあっさりと諦めたゴブタの、太古の時代における数千年の果てしない暇つぶし(サバイバル)が始まった。

 

 

 

【第8話(IF)】白氷宮の食卓革命と、堕天した女王様

 

ゴブタが白氷宮に居候を始めてから、数百年が経過した。

 

「ゴブタ様! 本日の『から揚げ』の下味ですが、醤油とニンニクの配分はこれでよろしいでしょうか!」

 

「んー、ミザリーさん、もうちょっと生姜を効かせた方が俺好みっすね! レインさんは、付け合わせのキャベツの千切りが完璧っす!」

 

「「ありがとうございます、ゴブタ大師匠!!」」

 

厨房では、原初の悪魔であるミザリーとレインが、フリル付きのエプロンを着てゴブタに平身低頭で教えを乞うていた。未来のテンペストの味を完全に再現すべく、彼女たちはゴブタを「食の神」として崇めるようになっていたのだ。

 

「ふむ……。今日の『はんばーぐ』とやらも、見事な出来だ。ノワールの執事の件はさておき、未来の食文化だけは本当に素晴らしいな」

 

ギィが玉座でナイフとフォークを器用に使いこなし、満足げに肉汁を堪能している。

そんな平和(?)な白氷宮に、突如としてボロボロに傷ついた小柄な影が飛び込んできた。

 

「う、うわぁぁぁん! ギィ! ゴブタぁぁぁっ!」

 

「あら。どうしましたの、ラミリス」

 

かつての全盛期の姿を失い、手のひらサイズになってしまった――未来のゴブタが知る通りの『ちんちくりんの妖精サイズ』になったラミリスだった。

彼女は精霊女王としての重責と、世界を救うための代償として、ついに『堕天』を経験してしまったのだ。

 

「私、精霊の力を失って、魔王になっちゃったのよ……! 本当に、未来で聞いた通りになっちゃったの……ぐすっ、もうお嫁に行けないわ……!」

 

大泣きするラミリスの前に、ゴブタがスッと一枚の皿を差し出した。

 

「ラミリス様、元気出すっすよ。シュナ様の味にはまだ遠いっすけど、オイラとミザリーさんで『特製ショートケーキ』を作ったっす」

 

「……けーき?」

 

涙目でケーキを口に運んだラミリスの動きが、ピタリと止まる。

 

「……美味しい。なにこれ、すっごく美味しいわ……!」

 

「でしょ? 堕天しても、生きてりゃ美味い飯が食えるっす。オイラがリムル様に会うまで、俺がずっとケーキ作ってあげるっすよ」

 

「う、うわぁぁぁん! ゴブタぁ、あんたってば最高のゴブリンよぉぉ!」

 

こうして、ラミリスは本来の歴史よりも数千年早く、見事におやつ依存の引きこもり(ニート)魔王として完成してしまったのだった。

 

 

 

【第9話(IF)】暴風竜ヴェルドラ、太古のオタクになるっす

 

さらに時は流れ、ゴブタが過去にやってきてから千年以上が過ぎた頃。

 

「ねえ、ゴブタ。最近、私の弟(ヴェルドラ)が暴れ回ってうるさいのですわ。百年ほど氷漬けにしてきたいのだけれど、あの暴れん坊、素早くて逃げ回るのよね……。ちょっと手伝ってくださらない?」

 

ヴェルザードが優雅にお茶を飲みながら、物騒な相談を持ちかけてきた。

 

「あー、ヴェルドラさんっすね。昔はただのヤンキーだったんすね。オイラがちょっと『教育』してくるっすよ!」

 

ゴブタは木片や紙の束を抱え、ヴェルドラが暴れ回っているという荒野へと向かった。

 

『クアハハハハ! 我は暴風竜ヴェルドラ! 全てのものを破壊し尽くしてくれようぞ! 姉上もここまでは追ってこれ――む? なんだ貴様は。ただのゴブリンが我の前に立つか!』

 

「ヴェルドラさん、暴れるのはやめて、オイラと一緒に遊ぶっす!」

 

『馬鹿め! 弱者の遊びなど興味はないわ! 消し飛べぇ!』

 

ヴェルドラが放った暴風のブレスを、ゴブタはハクロウ直伝の歩法で完全に躱し、カリオンをも凌駕する力でヴェルドラの鳩尾に強烈な蹴りを叩き込んだ。

 

『ごふぁっ!? な、なんだ貴様、ただのゴブリンのはずが、なぜこれ程までの力を……!?』

 

「力自慢はここまでっす。これからは『頭脳』の勝負っすよ」

 

ゴブタは地面に木の板を広げた。ゴブ太が自作した『将棋』の盤と駒だ。

さらに、ゴブタが記憶を頼りに下手くそな棒人間で描いた『マンガ(のようなもの)』をパラパラと見せる。

 

「これ、オイラが考えた『しょうぎ』っていうゲームと、『まんが』っていう絵物語っす。どうっすか? 破壊するより絶対面白いっすよ!」

 

『……ふん。我を愚弄するか。そんな木切れや落書きで、この我を……ん? なんだこの、次の展開が気になる絵は……。この『しょうぎ』の王はどう動くのだ……?』

 

数時間後。

そこには、将棋盤の前で頭を抱えて唸る暴風竜と、その横で寝転がって棒人間のマンガを読むホブゴブリンの姿があった。

 

「ヴェルドラさん、そこ飛車取られるっすよ」

 

『むむむっ……! 待て、待つのだゴブタ! 今のは無しだ、もう一度待ったを……!』

 

リムルが転生してくる遥か昔、暴風竜ヴェルドラは、未来から来たゴブタの手によって完全に牙を抜かれ、「オタク」への道を第一歩から歩み始めたのだった。

 

 

 

【第10話(IF)】そして数千年後。その伝説はテンペストの影となる

 

時は流れ、星が巡り――ついに、ジュラの大森林の洞窟に、一匹の異世界人スライムが誕生した。

リムル=テンペストの建国史は、本来の歴史通りに進んでいった。

牙狼族との戦い、オーガたちの合流、オークロードの討伐。

その激動の歴史の裏で、誰も気づかない「影」の存在があった。

 

「……ふぅ。リムル様、今日もかっこいいっすね」

 

テンペストの森の奥深く。

漆黒の外套に身を包んだ、恐ろしく洗練されたオーラを放つ隻眼のホブゴブリン――数千年の時を生き抜き、太古の魔王たちとも対等に渡り合った「古代ゴブタ」が、静かにその様子を見守っていた。

彼の視線の先には、リムルから「ゴブタ」という名前を貰い、調子に乗ってランガに蹴り飛ばされている、若き日の(本来の時系列の)自分の姿があった。

 

「あいつ、相変わらずアホっすね。……でも、オイラが歴史の表舞台に出るわけにはいかないっす。二人のゴブタがいたら、世界がバグっちゃうっすからね」

 

古代ゴブタは、静かに森の奥へと姿を消そうとした。

 

その背後から、声がかけられる。

 

「クフフ……。本当に、それでよろしいのですか? 『始まりのゴブリン』殿」

 

振り返ると、そこにはリムルの執事として召喚されたばかりのディアブロが立っていた。

 

「……ディアブロさん。気づいてたんすね」

 

「ええ。この国を裏から守護する、異常なまでに強大なホブゴブリンの気配。私が気づかぬはずがありません。ギィ・クリムゾンからも、『テンペストには絶対に手を出してはならない裏の番人がいる』と聞かされておりましたから」

 

ディアブロは恭しく一礼した。

 

「リムル様はまだ、あなたという太古の英雄の存在をご存じありません。表に出られないのであれば、私が設立する『裏組織(ブラックナンバーズ)』の最高顧問として、私と共にリムル様をお支えいただけませんか?」

 

「……オイラが、ディアブロさんの顧問?」

 

古代ゴブタは、数千年ぶりに「へへっ」と子供のように笑った。

 

「悪くないっすね。オイラ、表舞台でシオンさんの料理食わされるの、もう限界だったんで」

 

「クフフ、賢明な判断です。では、早速リムル様の観察日記の執筆をお手伝いいただきましょうか」

 

「それは勘弁してほしいっす……」

 

かくして。

未来へ帰還できず、数千年の時を生き抜いた一匹のホブゴブリンは、テンペストの最強の「影」となった。

表舞台では、お調子者のゴブタがリムルと共に笑い合い。

裏舞台では、歴戦の古代ゴブタが、原初の悪魔たちと共に、愛する国と主を静かに護り続ける。

魔国連邦(テンペスト)の最強伝説は、こうしてひっそりと、しかし確固たるものとして完成したのだった。

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