未来のゴブ太、過去に逆行する!   作:ポップ

13 / 14
【番外編】数千年の時を越えて。古代ゴブタ、堂々の(?)お披露目と極秘会議っす!

魔国連邦(テンペスト)の迎賓館、その最奥にある最高会議室。

そこには、リムルを筆頭に、ベニマル、シオン、ハクロウといった国の中核を担う幹部たちが集結していた。普段は賑やかなこの部屋も、今日ばかりは異様な緊張感に包まれていた。

原因は、中央で恭しく一礼をしている悪魔――ディアブロの報告である。

 

「――というわけで、私が統括する裏組織(ブラックナンバーズ)に、太古の昔からこのテンペストの誕生を陰ながら見守り続けてきた『最高顧問』を迎え入れました。本日は、リムル様にその者をお引き合わせしたく存じます」

 

「…………はい?」

 

リムルは、頭を抱えていた。

ただでさえディアブロが魔界からスカウトしてきた白(テストロッサ)、紫(ウルティマ)、黄(カレラ)の原初三人娘の扱いで胃(スライムだからないはずだが)が痛いというのに、太古の昔からテンペストを見守っていた存在だと? どんな神話級の化け物を連れてきたというのか。

ディアブロが芝居がかった仕草でパチン、と指を鳴らす。

すると、会議室の空間が陽炎のように揺らぎ、音もなく『一人の人物』が姿を現した。

 

「なっ……!?」

 

ベニマルが息を呑み、シオンが咄嗟に大太刀へ手を伸ばす。

無理もない。現れたその人物から漏れ出ている『覇気』が、あまりにも異常だったのだ。

漆黒の外套を目深に被り、顔は見えない。しかし、纏う魔素の密度は間違いなく覚醒魔王クラス、あるいはそれ以上。部屋の空気が一瞬で重力場のようにのしかかってくる。

 

「(ヤバいヤバいヤバい! なんだこいつ、完全に災害級(カラミティ)……いや、天災級(カタストロフ)の一歩手前じゃないか!?)」

 

冷や汗を流すリムルの前で、その人物はゆっくりと外套のフードに手をかけた。

 

「……えっと、リムル様。お久しぶり……って言うのも変っすかね。オイラにとっては数千年ぶりっすけど!」

 

バサッ。

フードが下ろされ、その素顔が会議室の照明に照らし出される。

そこにいたのは、歴戦の猛者であることを示すように片目に眼帯(傷跡)をつけ、恐ろしく精悍に引き締まった顔つきの――ホブゴブリンだった。

 

「「「………………は?」」」

 

会議室に、全員の間の抜けた声が響き渡った。

 

「あの、ディアブロさん。これ、本当にオイラがここに出てきてよかったんすか? 今の時代のオイラと鉢合わせしたら、世界の理的にマズいんじゃないんすか?」

 

「クフフ、ご心配なく。現代のゴブタ殿には、先ほどシオン殿の試作品ケーキを差し入れておきました。現在、医務室で三日三晩は目を覚まさない深い眠りについておりますゆえ」

 

「シオンさんの料理を睡眠薬みたいに使うのやめるっす! 医務室のオイラが可哀想っす!」

 

歴戦のオーラを纏った隻眼のホブゴブリンが、いつもの調子でツッコミを入れる。

その光景に、リムルは震える指で彼を指差した。

 

「お、お前……! その声、その喋り方……ゴブタ!? いや、でもお前、さっきまで広場でランガに振り回されて泥だらけになってただろ! なんでそんな、酸いも甘いも噛み分けた歴戦の老将みたいになってんだよ!?」

 

「あー、リムル様。実はかくかくしかじかで、オイラ、少し先の未来で起こる事故で太古の昔に飛ばされちゃって、それからずっとリムル様が生まれるの待ってたんすよ!」

 

古代ゴブタは頭を掻きながら、数千年のサバイバル生活を――ギィやヴェルザードの城で居候し、ラミリスにケーキを与えてニート魔王に仕立て上げ、暴風竜ヴェルドラに将棋とマンガを教え込み、ノワール(ディアブロ)に未来の予言を語って聞かせたという、世界の歴史の裏側で起きていた超特大のやらかしを、五分程度で軽く説明した。

 

「…………」

 

説明が終わった後、会議室は水を打ったような静寂に包まれた。

 

「……嘘、だろ?」

 

ベニマルがポカンと口を開けている。

 

「このゴブタが……あの最古の魔王や竜種たちを手懐けて……?」

 

シオンの目からは、思考放棄の光が宿っていた。

 

「フォッフォッフォ……信じられん話じゃが、お主から漏れ出るその途方もない覇気を見れば納得じゃ。実力そのものは、とうの昔にワシなど足元にも及ばぬ次元に達しておるな。力だけでなく、その太刀筋すらも数千年かけて神域へと昇華させたか。……まったく、自慢の弟子じゃわい」

 

ハクロウは武人としての直感で、目の前のゴブタが積んできた修練の重みを確信し、満足げにヒゲを撫でていた。

 

「いやいや、ハクロウの爺ちゃんにはまだまだ頭が上がらないっすよ! 昔の空気吸って魔素の最大値がバグっただけで、オイラの中身は下っ端のままっすから!」

 

古代ゴブタは謙遜して笑うが、その笑顔の奥には、太古の混沌を生き抜いてきた凄みが隠しきれていなかった。

 

「クフフ……我ら原初の悪魔からすれば、数千年の時などほんの瞬きに過ぎません。しかし、あなたが太古のギィたちを翻弄し、私に『リムル様』という至高の存在を伝えてくれた功績は高く評価しております」

 

ディアブロが、古代ゴブタの横で優雅に微笑む。

 

「我がブラックナンバーズの『最高顧問』として、これからも有意義な助言を期待していますよ。……もっとも、リムル様への愛と忠誠心、そして第一の腹心の座はこの私ですがね」

 

「わかってるっすよ。オイラは裏でこっそりシュナ様のご飯をつまみ食いしながら、裏から国を守るだけで十分っす」

 

長命な悪魔特有のプライドと敬意が混じったディアブロの言葉に、古代ゴブタは苦笑しながら頷いた。

 

「もうやだこの世界……」

 

リムルは完全にキャパシティを超え、机に突っ伏した。自分が生まれる遥か前から、自分の部下が歴史を裏から操っていたのだ。

 

「……だが、ちょっと待てよ」

 

不意に、リムルが弾かれたように顔を上げた。

 

「ゴブタ。お前が『少し先の未来』で太古に飛ばされたってことは……医務室で寝ている『今の時代のゴブタ』も、近いうちにその事故に遭って過去に飛ばされないと、歴史の辻褄が合わなくなるんじゃないか?」

 

リムルの指摘に、会議室の空気がピリッと引き締まった。

 

「その通りっす、リムル様。でも……」

 

古代ゴブタが真剣な顔(眼帯のせいで余計に凄みがある)で、力強く首を横に振る。

 

「今のオイラを過去に飛ばしたら、あいつにもあの数千年のお留守番を味わわせることになっちゃうっす。いくらオイラでも、それはあんまりにも可哀想っすよ。だから、あの事故を未然に防いで、絶対に過去へ飛ばされないための対策を練りたいんす!」

 

「なるほど……。因果の輪を断ち切り、現代のゴブタ殿を過去の悲劇から救うことで、世界線を分岐させ、あなたという存在を独立した特異点として定着させるのですね。時空の理を欺き、主の配下を守り抜くとは、素晴らしい盤外戦術です」

 

ディアブロが嬉々として悪巧みの笑みを浮かべる。

 

「よかった……身内を意図的に過去に放り投げるなんて鬼畜なこと、俺は絶対にやりたくなかったからな……」

 

リムルは心底ホッとしたように、深々と安堵の溜息をついた。

 

「当時の状況は完全に記憶してるっす。少し先の会議中にオイラが居眠りしてて、突如発生した時空の歪みに飲み込まれたんすよ。だから、その日時が来たら、ディアブロさんに時空の歪みを完全にブロックしてもらって、オイラが絶対に居眠りしないように見張っててほしいっす!」

 

「クフフ、造作もありませんね。いっそ、その日はゴブタ殿を会議室から遠ざけ、私が強固な結界内で保護しておきましょう」

 

「あと、念のためにシュナ様のおにぎりを持たせておけば、お腹が空いて寝落ちすることもないっす!」

 

「お前、数千年の命運がかかってる作戦におにぎりを絡めるなよ……!」

 

リムルが思わずツッコミを入れるが、その声にはもう深刻さはなく、いつものテンペストの温かい響きがあった。

 

「まあ、いいさ。タイムパラドックス回避の件は、俺とディアブロ、そしてお前で極秘裏に進めよう。……おかえり、ゴブタ。一人でよく頑張ったな。長かっただろ」

 

リムルのその言葉に。

数千年の間、たった一人で未来を待ち続けていた古代ゴブタの隻眼が、ほんの少しだけ潤んだ。

 

「……はいっす! 長かったっすけど、待ってた甲斐があったっす!」

 

古代ゴブタは、世界で一番嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

「それじゃ、最高顧問としての初リクエストをさせてもらうっす! 数千年ぶりに、シュナ様のご飯がお腹いっぱい食べたいっす! あと、シオンさんの料理は絶対に裏組織には持ち込み禁止でお願いするっす!」

 

「なっ!? なぜですかゴブタ最高顧問! 私の料理は原初の悪魔をも唸らせる至高の――」

 

「シオン殿、顧問の命令は絶対です。今すぐあなたの厨房を物理的に封鎖しますよ」

 

「ディアブロ、貴様ァァァッ!!」

 

いつもと変わらない、しかし圧倒的にカオス度と安心感が増したテンペストの日常。

数千年の時を越え、最強の「影」となったゴブタの新たな生活、そして「自分自身を過去の悲劇から救う」という前代未聞の極秘ミッションは、こうして賑やかに幕を開けたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。