「ノワールが……あのノワールが、スライムに名付けられて執事を……」
玉座に深く沈み込みながら、虚空を見つめるギィ。まるで世界の終わりでも見たかのような絶望的な表情である。
「ま、まあ待て。落ち着け俺。ノワールは昔から変人だった。面白いおもちゃ……いや、スライムを見つけて、一時的な気まぐれで従っているふりをしているだけかもしれん」
ギィは必死に自分に言い聞かせるように呟いた。玉座の後ろに控えるミザリー(原初の緑)とレイン(原初の青)も、顔面を蒼白にしながら無言でコクコクと激しく頷いている。
しかし、無情にもゴブ太の口は止まらない。
「あー、でもディアブロさん、一人だとリムル様のお世話(という名のストーキング)に専念できないからって、魔界に行って知り合いを三人スカウトしてきたんすよね」
「……スカウト? ノワールが知り合いを?」
ギィが胡乱な目を向ける。嫌な予感しかしなかった。
「はいっす。ディアブロさんがボコボコにして連れてきて、リムル様が全員に名前と肉体を与えたんすよ。えーっと、テストロッサさん、ウルティマさん、それにカレラさんっすね」
「テストロッサ? ウルティマ? カレラ? ……聞いたことのない名だな。ノワールの眷属か何かか? どんな悪魔だ?」
リムルが名付けた後の名前だけでは全くピンときていないギィに、ゴブ太は思い出すように指を折りながら答えた。
「えっと、テストロッサさんは、真っ白な髪のすっごい美人で、外交官やってるんすけど、笑顔のまま国を一つ滅ぼしそうな圧があるっす。ウルティマさんは紫色の髪の女の子なんですけど、性格がめちゃくちゃ陰湿で、拷問が大好きっすね。で、カレラさんは黄色の髪で、超脳筋っす。暇さえあれば核撃魔法をぶっ放そうとして、いっつもリムル様に怒られてるっすよ」
白、紫、黄。
その三つの色と、あまりにも合致しすぎている異常な性格を聞いた瞬間。
ガシャァァァァァンッ!!!!
背後で、今度はミザリーが手元の銀のトレイを盛大に取り落とした。
そして、ギィ・クリムゾンの顔からは、一切の血の気が引いていた。
「……ミザリー。レイン。今、あいつが言った悪魔の特徴……心当たりはあるか?」
ギィの声は、もはや死人のように低く掠れていた。
「……はい。外交で優雅に振る舞うであろう白き髪の悪魔……『原初の白(ブラン)』」
「……ええ。残忍にして陰湿な拷問を好むであろう紫の悪魔……『原初の紫(ヴィオレ)』」
「……そして、魔法をぶっ放して遊ぶ、あの脳筋で破壊衝動の塊のような黄色の悪魔……『原初の黄(ジョーヌ)』かと……」
ミザリーとレインは、耐えきれずに膝から崩れ落ちた。
「あ、それそれ! たしかそんな名前だったって言ってたっす!」
「うおおおおおおおおおおおおおいッ!!!」
ギィが玉座から跳ね起き、頭を抱えて絶叫した。
「原初が四柱!? あの問題児どもが揃いも揃ってスライムの配下だと!? なんだその国は!? 地獄のテーマパークか何かなのか!?」
原初の七柱のうち、実に四柱が一つの国に、しかも一匹のスライムの配下として集結している。それはもはや、世界のパワーバランスなどというチャチな言葉で片付けられる事態ではない。世界を数回滅ぼしてもお釣りが来るほどの、異常すぎる戦力過剰(オーバーキル)だ。
「えええええええええっ!? なにそれ、どうなってるの未来の世界は!? 私、そんな恐ろしい国に迷宮(ダンジョン)なんて作ってるの!?」
ラミリスが涙目で床にへたり込んだ。彼女もまた精霊女王として、原初の悪魔たちの恐ろしさはよく知っている。それが四柱も同じ屋根の下にいるなど、想像しただけで胃が痛くなる光景だった。
「原初の悪魔が四柱もうろうろしてる迷宮なんて、絶対に嫌ぁぁぁぁっ!」
「あ、ラミリス様は魔王っすから、魔王の特権で迷宮を作ってるんすよ! 悪魔の皆さんも迷宮の中で遊んだりしてるんで、別に怯える必要ないっす!」
「遊び場になってるじゃないのよおおおっ!!」
太古の絶対者たちが揃いも揃って頭を抱え、絶叫と混乱が渦巻く白氷宮。
未来のテンペストの常識外れな日常は、過去の最強たちにとっては純度百パーセントのホラー怪談でしかなかった。