「足りないなら、オイラが足すっすよ!」
深刻な顔をする絶対者たちの横で、ゴブ太が準備運動をするように肩をぐるぐると回しながら、いつもの軽いノリで前に出た。
「おい、ゴブ太。いくらお前がとんでもない力を持っているとはいえ、時空魔法の起動に必要な魔素量は戦闘の比じゃないぞ? 下手をすれば干からびて死ぬぞ」
ギィが真顔で忠告するが、ゴブ太は「へへっ」と笑って親指を立てた。
「心配無用っす! 未来のテンペストじゃ、ハクロウの爺ちゃんやシオンさんに殺されかけては、回復薬(フルポーション)がぶ飲みして無理やり魔素を限界突破させる……っていう、ブラック企業も真っ青な修行を毎日やらされてたんすから! 魔素の総量と燃費の良さなら、誰にも負けないっす!」
「……それが自慢になる環境って、本当にどうなってるのよあの国」
ラミリスが完全にドン引きする中、ゴブ太は魔法陣の中央に立ち、足を開いてスゥッと息を吸い込んだ。
「――いくっすよ。うおおおおおおおおっ!!」
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!
瞬間、白氷宮全土を揺るがすほどの規格外の魔素(オーラ)が、ゴブ太の小さな体から爆発的に噴き出した。
それは闘気(オーラ)の奔流となって天を衝き、ヴェルザードが展開していた絶対零度の極寒の空気を、物理的な熱量と魔力摩擦だけでゴリゴリと削り取って融かしていく。
「なっ……!?」
吹き荒れる暴風の中、ギィが腕で顔を庇いながら目を見開いた。
一匹のホブゴブリンが、魔王としての魂の覚醒すら経ずに、ただ純粋な鍛錬と死線の連続だけでここまで魔素量を引き上げたというのか。
「すごいっすねー! オイラ、昔の空気(魔素が濃い環境)吸ったら、なんだかリミッターが外れたみたいに力が出るっす! これなら一時間くらい出しっぱなしでも余裕っすよ!」
「お、お前……本当にただのホブゴブリンか!? いや、あり得ないわ、こんなの精霊の加護すら超えてるじゃない!」
ラミリスが吹き飛ばされそうになりながら絶叫した。
「ギィさん、ラミリス様! 魔法陣が光り始めたっす! 今なら行けるっすよ!」
ゴブ太の放つ無尽蔵の魔素を吸い上げ、ギィとラミリスの構築した魔法陣が太陽のような眩い光を放ち始めた。空間がグニャリと歪み、その中心に未来へと続く『時空の門(ゲート)』がぽっかりと口を開ける。
「くははははっ! 最高だ! 面白すぎるぞゴブ太! お前の国、ぜってぇに見届けてやる!」
ギィが歓喜の声を上げながら、躊躇うことなくゲートへと足を踏み入れた。
「ええ。弟の情けない姿、早く見たいですわね」
ヴェルザードも優雅な足取りでそれに続く。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私が最初に行くんだからーっ!! スライム、覚悟しなさいよね!」
全盛期のラミリスが慌てて飛び込み、最後にミザリーとレインが一礼してゲートの中へ消えた。
「よーし! それじゃ、オイラも帰るっす! 待っててっすよリムル様〜!」
ゴブ太は最後にポンッと地面を蹴り、光の中へと飛び込んだ。
直後、魔法陣は役目を終えてスッと消失し、白氷宮の中庭には再び静寂と極寒の空気が戻った。
太古の絶対者たちを巻き込んだゴブ太のタイムスリップ劇は、こうして過去の世界では幕を下ろした。
そして――彼らが向かった先の未来(テンペスト)で、原初の悪魔たちをも巻き込む、更なる未曾有の大混乱が始まろうとしていたのだった。