未来のゴブ太、過去に逆行する!   作:ポップ

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【第8話】ただいま帰りましたっす! ……って、なんでテンペスト大パニックなんすか?

その頃、魔国連邦(テンペスト)の中央広場は、かつてないほどの異様な緊張感に包まれていた。

 

「……ディアブロ。空間の歪みの解析は終わったか?」

 

「申し訳ありません、リムル様。ゴブ太が消失したと思われる座標を中心に、時空の乱れが尋常ではありません。強引にこじ開けようとする巨大なエネルギーが……しかも、複数接近しています」

 

リムルは冷や汗を流しながら、空中に発生した巨大な『黒い亀裂』を睨みつけていた。

会議中に突如としてゴブ太が消滅してから数時間。行方を捜索していた矢先、今度はテンペストのど真ん中に、世界が破滅しそうなほどの異常な魔素(オーラ)の奔流を伴った時空の門(ゲート)が開こうとしていたのだ。

 

「リムル様、お下がりください。何が飛び出してこようと、この第一秘書であるシオンが、愛用の剛力丸で微塵切りにして差し上げます!」

 

「俺たちもいる。テンペストのど真ん中で好き勝手はさせん」

 

軍事司令官のベニマルが刀の柄に手をかけ、シオンが大太刀を構える。さらにその後方では、テストロッサ、ウルティマ、カレラの悪魔三人娘までもが、面白そうな獲物の気配に目を輝かせて臨戦態勢に入っていた。

 

『クアハハハハ! 心配いらんぞリムルよ! いざとなれば、この暴風竜ヴェルドラの全力のブレスで、まとめて消し飛ばしてくれよう!』

 

ヴェルドラが腕を組み、自信満々に笑い声を上げる。

テンペストの最高戦力がズラリと並ぶ中――ついに、時空の亀裂が弾け飛んだ。

バチィィィィィィンッ!!!!

凄まじい衝撃波と共に、広場に濃密な冷気と神気が爆発的に広がる。

その煙の中から最初に姿を現したのは、燃えるような真紅の髪を持つ男だった。

 

「……ほう。随分と盛大な歓迎じゃないか、スライム」

 

「……は? ギ、ギィ!?」

 

リムルの声が裏返った。

現れたのは、最古にして最強の魔王、ギィ・クリムゾン。しかも、普段の彼からは感じられない、どこか「過去の時代からそのまま持ってきたような」荒々しい覇気を纏っている。さらにその後ろには、見慣れたミザリーとレインの姿。

 

「おいおいおい、なんでギィが時空の亀裂から出てくんだよ!? しかも、その後ろにいるのは……ッ!」

 

リムルの胃(スライムだからないはずだが)がキリキリと痛み始めたその時、ギィの背後から優雅な足取りで白銀の髪の美女が歩み出た。

 

「あら、本当に賑やかな国ですわね。……ふふっ、見つけましたわ」

 

『————ゲッ!? ア、ア、ア、アネウエェェェェェッ!?』

 

ヴェルザードの姿を見た瞬間、先ほどまで「まとめて消し飛ばしてくれよう」と豪語していたヴェルドラが、カエルを丸呑みしたような悲鳴を上げてリムルの背後にスライディング土下座の勢いで隠れた。

 

「ちょ、ヴェルドラ!? お前、さっきの威勢はどうしたんだよ!」

 

『バカを言え! 姉上の冷気は俺の天敵なのだ! なんでテンペストにいるのだ!? ぎゃあああ目が合ったあああ!』

 

「あらあら、ヴェルドラ。スライムの後ろに隠れて震えるだなんて……ゴブ太の言った通り、本当に情けない姿になっていますのね。お仕置きが必要ですわね」

 

ヴェルザードが扇子で口元を隠しながら、凍てつくような(しかし極上の)笑顔を向ける。

だが、驚きはそれだけでは終わらなかった。

 

「ちょっと! なんなのよこの魔素の薄さは! 本当にここが未来の世界なの!?」

光と共に飛び出してきたのは、虹色の羽を背中に生やした、絶世の美女。

圧倒的な神気を放つ全盛期の精霊女王の姿に、テンペスト陣営は息を呑んだ。

 

「……誰だ、あのすっごい美人は? 神聖な気配がするけど……」

 

リムルが目を白黒させていると、リムルの肩に乗っていた『現在のラミリス(手のひらサイズ)』が、目を丸くして飛び立った。

 

「あ、あれ!? あんた、もしかしてアタシ!? アタシの全盛期の姿じゃない!! なんでこんなところにアタシがいるのよ!」

 

「……は?」

 

全盛期のラミリス(大人)と、現在のラミリス(妖精サイズ)の視線が交差する。

 

「……嘘でしょ。本当に、こんなちんちくりんになっちゃってるの……? しかも、その口の周りについてるのって……」

 

「ん? ああ、さっきまでヴェルドラと一緒にショートケーキ食べてたのよ! アタシってば迷宮(ダンジョン)の管理人で魔王だからね! 毎日おやつ食べ放題の最強のニートなのよ!」

 

「自分でニートって言っちゃったわよこのちんちくりん!! ああもう、絶望しかないわ!!」

 

大人のラミリスが頭を抱えてしゃがみ込む。

カオス。テンペストの中央広場は、完全に意味不明なカオス空間と化していた。

そして――そのカオス空間のど真ん中に、一匹のホブゴブリンがとてとてと歩き出てきた。

 

「ふぃ〜! いやー、時空の穴開けるのに魔素(オーラ)出しっぱなしだったんで、ちょっと腹減ったっすね!」

 

「「「ゴブ太(様)!?」」」

 

リムル、シオン、ベニマルたちが一斉に叫ぶ。

 

「おっ、リムル様! ただいま帰りましたっす! なんでみんな武器構えてるんすか?」

 

ゴブ太は呑気に手を振りながら、ギィやヴェルザードたちの間をすり抜けてリムルの元へと走ってきた。

 

「お前っ! 会議中に急に消えたと思ったら、なんでギィやヴェルザードさん、おまけに見たことない大人のラミリスまで引き連れて帰ってくんだよ!! 心臓がいくつあっても足りねえよ!」

 

リムルがゴブ太の胸ぐらを掴んでガクガクと揺さぶる。

 

「いやー、実は寝て起きたら太古の昔に飛ばされてまして! 森で巨獣をぶった斬ったら、ギィさんに拾われて白氷宮に居候してたんすよ。で、俺がオーラ出して時空の門(ゲート)開けたら、みんな『未来のテンペストが見たい!』って言ってついてきちゃったっす!」

 

「お前が時空の門を開けただと……? どんだけ規格外なことやってんだよ!」

 

呆れ果てるリムルをよそに、ギィ・クリムゾンの鋭い赤い瞳は、広場に控える『悪魔たち』を射抜いていた。

 

「……おい。そこの黒いの」

ギィの声に、リムルの背後に控えていたディアブロが、恭しく一礼して前に出た。

 

「おや。過去の時代からいらっしゃるとは、随分と数奇な運命ですね。ギィ・クリムゾン」

 

「……ノワール。お前、本当にスライムの執事をやってるのか?」

 

ギィの顔には、まだ信じられないといった感情が張り付いていた。

しかし、ディアブロは悪びれるどころか、最高にうっとりとした笑顔で胸を張った。

 

「ノワール、という古臭い名は捨てました。私はリムル様より『ディアブロ』という素晴らしい名を賜った身。リムル様の素晴らしさを語るには時間が足りませんが、手始めにこちらの『リムル様観察日記(全100巻)』をお読みになりますか?」

 

ディアブロがどこからともなく分厚い本を取り出し、ギィに差し出す。

 

「……ッ!! 本当に狂ってやがる!!」

 

ギィが頭を抱えた。そして、その視線はさらにその後方へ。

 

「クフフ……あら、ギィじゃない。こんなところで会うなんて奇遇ね」

 

「うふふっ、過去のギィかぁ。ちょっと手合わせしてみたいかも〜!」

 

「……チッ。面倒なのが来たわね。核撃魔法で吹き飛ばしていいかしら、リムル様?」

 

白(テストロッサ)、紫(ウルティマ)、黄(カレラ)。

原初の悪魔三柱が、それぞれ極悪な笑みを浮かべながらギィに手を振った。

 

「ブ、ブラン……ヴィオレ……ジョーヌ……ッ! お前らまで、本当に……っ!」

 

太古の時代から悪魔の頂点に君臨するギィ・クリムゾン。

彼がこれほどまでに絶望し、顔を青ざめさせる光景は、間違いなく世界の歴史上初めてのことであった。

 

「リムル様ー! 俺、お土産にミザリーさんの焼いたお肉もらってきたっすよ! シオンさんの料理より安全なんで、一緒に食うっす!」

 

「貴様っ、ゴブ太! 私の料理を馬鹿にするとはいい度胸ですね! 帰ってきた早々、処罰が必要です!」

 

呑気なゴブ太、激怒して剛力丸を振り回すシオン、絶望するギィ、震えるヴェルドラ、二人のラミリス。

ゴブ太が引き起こした太古からのタイムスリップ劇は、テンペストに史上最大のドタバタ騒ぎをもたらしたのだった。

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