B銀行における不正融資の告発に関わる文書   作:朝凪小夜

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 前回まで書いた仕事の内容とシステムの概要から次にこのシステムの問題について書きたいと思います。

 なお問題に気づいた流れについてはまた別に書きます。少し切り分けをしようと思います。

 冒頭に書いたように概要としては不正融資です。ではこの不正融資とシステムの関わりとは何かです。

 前回の記述にあるように融資審査とは企業や個人に社内格付けを付与し、その格付けを元に融資の可否、金利、上限と言ったものを決めます。

 システムによってこの社内格付けの付与までのプロセスを自動でやってくれるようになりました。

 問題はこのシステムの格付け計算そのものにあります。

 私が確認できた範囲では本来あるべき格付けよりも高い格付けを付与しています。つまりは融資可能な上限額の上振れ、貸出金利の低廉化が起こっていました。

 これだけを聞くとあるべき数値が少し良くなったというだけに思われますし、もし個人の融資希望者からしたら大変嬉しいことになるでしょう。

銀行という法人においてこの問題は逆の方向に波及します。

銀行が恐れるのは資金の回収不可であり、同時に回収が出来たとしてもそこまでのコストがカバー可能な範囲にあるかという点です。また同時にその貸出が当局の監査に耐えうるかという2つです。

この点を銀行においては重大なリスク管理案件として扱っています。

さてこの前提で銀行の観点から先の問題をもう一度見るとどうなるでしょう。

あるべき格付けよりも高いということは、その融資先の回収不可能の可能性を低く見積もるということになります。社内格付けにおいてはその一つ一つに実績データと調査データをもとにした細かな回収率を設定しています。この回収率が高格付けによって高く見えると言うことはそれだけ将来は上手くいくという楽観性を与える事に他なりません。

この問題は決算資料にも跳ねます。

回収が困難になる可能性のある金額という存在は貸倒引当金という科目を以て貸借対照表に載ります。

通常これは経理部門において懸念のある貸出先の一覧としての管理を行い、その中で社内格付けをベースに細かな区分も与えて決算時に転記するという運用をしていました。

その中で社内の高格付けに位置してしまった融資先は懸念のある貸出先から外れることもありえます。そうなったときリスク管理という概念には破綻が起きます。

本来貸倒引当金とは大局的には避けられない損失の為に備えるというお金です。それを全く捨ててしまうやり方がこの高格付け化です。しかもその時にはその分だけ実質的に資金の流出という形で赤字が計上されるためその期の決算報告には色々と指摘が入ることになるでしょう。

しかしここまで書いては居ますが、この程度の問題は当行の様な大規模な組織であり大資本を有する法人においてはそう大きな問題にはなりません。

はっきり書けば高々貸倒引当金の何割かが爆発したところで信用の毀損するだけの大赤字には至らないということです。

見積もりが甘かった、今後はより厳格な社内管理をする。その程度の会見で終わるくらいの話です。

問題となるのはもっと別の観点からです。

この管理とはあくまで社内と決算用の資料をまとめる程度で終わった話ですが、銀行での報告はこれだけでは終わりません。

 特に銀行においては、先の金融不安もあり貸出先の信用状況に応じた上限金額の設定とそのモニタリングが義務付けられています。

 これは監督官庁である金融庁に提出するものであり、銀行が必要以上にリスクを負い過ぎていないかという点での確認をするという意味を持ちます。

 先の格付けの上昇はこの点で明確に違反します。

 実質的に低いものを高ランクに上げることで、見た目上は上限管理は避けられます。さらに当局の心証からしても低ランクの所に改善が見られれば不良債権化の懸念も外れ将来の見通しからしても大変に快いものとなることは容易に想像がつきます。

 つまりこの案件を各観点から見れば、少しばかり銀行は金利という利率の点で損はするもののお上の気持ちはよくできる、お客様は低い利率でかつ大きな金額も借りられる、金融庁は国内の金融機関は安定してそうで余計な心痛は持たなくていいと。平時の状況においては少しばかり当行だけ出血をする代わりに全てが良くなるという状況に変わります。しかしそれだって、ここまで良い状況になるのであればそれは出血ではなく投資以外の何物でもありません。お客様だってこのような状況であれば再度の利用や新規の利用も増えるでしょう。そうして見込み客へのアクセスが増えるならリターンの見込める確かな投資です。

 そう思った時回収不可時の問題は矮小化され、リターンに伴うリスク、つまりは株式であればちょっとの値下がりの不安にも似た、その程度の問題なのではないかとも思いました。

 この案件で損をする人は居ません。

 特に当行は利用者、利用法人も多く、特定の誰かを狙ってこの高格付け化を狙ってキックバック、要はその行為の対価たる謝礼を貰う、そんなことは実質的に不可能です。

 そう考えるとこれは問題ではあるが、気にすべきことなのだろうか、そう思うようになりました。ええ、実際他の金融機関が正直にやっているというのであればそこについては申し訳ない様な気もしました。ですが、そこについては国内有数の金融機関であるという自負もあって、むしろ自尊心をくすぐられるようでした。

 そう思ったことを今ではとても後悔しています。

 迂闊、ただそう考えるよりほかありません。

 この問題に気づいてから幾日か。部署で飲み会がありました。

 銀行での飲み会とは若手集団だったり歓送迎会、その他季節の諸々などありますがその時は退職の送別会でした。

 残念ながら年次が離れており、異動先が被っていたこともなかったため深い仲とは言えませんでしたがそれでもフロアで会話をしたことを覚えています。

 飲みの席では、後半の席替えだったこともあって今後何をするというのがさらりと聞けました。ご実家に戻られて家業を継ぐとのことでした。何でもそれなりに古いところらしく先に色々な人と顔繋ぎの役が出来たとも。

 そうしてその時間も終わり、解散となりました。いつもであればその後は二次会と流れていくものだったのですがその日は金曜日で私は土曜朝からの旅行の予定を入れていたこともあってそこで帰宅の途につきました。

 帰るのは私だけかと思っていたのですが、もう一人後輩もそのようで一緒に駅まで歩きました。彼は彼でその後に別の同期との予定があるということを言っていました。

 駅まで着くとそこにはいつもとは違って多くの人が溢れていました。その時には目にしていなかったのですが、どうやら事故によって遅延と運転の乱れが起きていたとのことです。

 何とかホームにたどり着きながら、そこで電車を待ち漸くやってきた電車を見た後輩の言葉を忘れることができません。

 彼はその時、これってそのまま戻るんですね、と言っていました。

 何が、と聞き返す私に、いつもはここそのまま向こう行くじゃないですか、今日みたいに何かあるとそのまま戻るんですね、ここで往復なんて中々見れないですよね、と。

 ふとその瞬間電車の動きのイメージが格付け表とダブりました。

 私が見ていたのは単なる一面だったのです。

 往復、そう彼が言ったように、格付けは上げられるのであれば下がっても良いはずです。

 そう気づいてしまった時、彼が、ちょっと不謹慎ですよねと笑った顔がどうしようもなく、気持ち悪く思えました。

 雨の中でどう帰ったのか今でもあまり思い出せません。

 この時に思いついたのは、格下げを行うということのメリットです。同時にそれを格上げと組み合わせた時にどうなるかも。

 これまで書いたような話が全て逆になりますが、一番大きいのは銀行にとって入るお金が増えるということです。それも本来その金利を負担するべき者よりも返済の可能性がずっと高い者に負担させるのですから、貸す側としては大変うれしいことが起こります。

 同時にこの格下げと格上げがもし、狙って起こせるとしたらどうでしょう。

 銀行という一つの体で見た時に、上下の配分を丁度いいところで見極めれば長期にわたってギリギリで銀行は得をし続けるという構造を生み出せます。しかもそれは誰にも気づけません。ここが何より厄介で優秀な機構と言える点です。

これまで少し書いたように銀行の各部署で融資から生まれた将来の返済に関わる諸々の情報は集約され数値として一元的に管理されます。そこに個別の案件の情報が常に紐づくということはありません。融資とその審査、後は貸倒引当金の管理帳簿程度でしょう。その先は全てがまとめられた情報です。つまり格付けの上下から生み出されたプラスとマイナスは相殺されてほぼ0に落ち着きます。

 この状態では決算資料や他の資料を見たとしても問題は必ず消失しています。ただほんの少しだけ利益の方に触れるか、というだけ。しかもそれすらも自在にできます。平時で市況も良ければ格付けを良くして広く集め、監督官庁とも懇ろに。危機を意識すれば格付けを悪くして、ということもできる可能性があります。

 残念ながらそこまで自在に変更が可能かはわかりません。しかしながら格付けが本来あるべき点よりもずれているということだけは事実です。

 ここからは推測なのですがこのシステムが何故有用なのかという点を別の視点でも考えます。ただ少し長くなってしまったためそちらは分割し次章に回したいと思います。

 

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