バッドルーザー球磨川 イフナッシングイズバッドノンフィクション 作:忘旗かんばせ
作者、忘旗かんばせも書き下ろし同人誌『零崎舞織の人間舞踏』をご用意してサークル参加しております。
イベントを記念しまして、今日は朝昼夜に三連続更新を行います。
このお話はその三つ目です。前の二話と合わせてお楽しみくださいませ!
2
「——コーサン、ダ」
最下層のドアを開ければ、すでに両手が挙げられてた。
膨大な量のコンピュータと、それに繋がれた大量のモニターが照らし出す、いかにも高級そうなゲーミングチェアの上。明滅する一六八〇万色の光と共に、その少年は両手をあげていた。
「言っとくケド、年齢がって話じゃないヨ。それで言うならもっと下だしネ……つまり、言いたいのは降参。降伏したいって意味の方サ」
夏服。半袖のカッター。スラックスに、白いスニーカー。そして、学帽。学生服姿だけれど、箱庭学園のそれじゃない。
目立つのは——四角いレンズのメガネと、大きなヘッドフォン。
煩雑なメロディの音が——ほんの微かに、漏れていて。
「『……きみ、は?』」
禊は問いかける。
なぜだか——そう。その姿が、上手く捉えられない。確かに見えているのに——脳がそれを噛み砕けない。錯視に誑かされるみたいに、実像を掴めない。まるで、そう——チャンネルが合わないみたいな。三次元空間の世界に、一人だけ二次元のキャラが存在しているみたいな、そんな違和感。
より卑近な言葉で言えば。
——
とか。
そんな風に感じてしまうほどの——強烈な齟齬感。
感じたことのない、
圧倒されて——後手に回る。
何も聞かずに螺子伏せる、という選択肢も、ないではなかった。
ないではなかったが——選べなかった。
選ぶことはできなかった。
混沌よりも這い寄る
発揮することを、許されなかった。
噛み合わない。噛み合わない。噛み合わない。
背筋に、冷や汗が——伝って。
少年はそんな禊の様子を気にも止めずに、淡々と質問に答えた。
「ボクは——ノイズ。これはイギリスに古くからある言葉で、『雑音』という意味だ」
その言葉に——一つ、酷い納得があった。
ノイズ。その名は彼に、似合っている。
そぐっている。
即している。
彼は、雑音なのだ。
通信を乱し——混乱させる。
雑音——
「『ノイズちゃん……ね。なるほど。流石は——放課後交流委員会の幹部なだけあるらしい』」
禊は呟く。
ノイズ——それは裏放課後交流委員会の幹部として挙げられた三つの名前のうちの一つ。
何をしているのかもわからない——『アドバイザー』にして——三人の幹部のうち、
その忠告の意味を、痛感する。
ああ、これは——人吉善吉が勝てないはずだ。
視線を鋭くする禊に、けれど自らをノイズと称した少年は肩を竦めるばかりだった。
「どういうフウに聞いてるのかわからないけどサ、そう警戒しないでくれヨ。ボクには——直接的な戦闘能力はナイ。いや、間接的にだって絶無ダ。見た目通りのヒョロいガキでネ。小突かれたら死ぬ程度にはひ弱なんダ」
だからそんなに、警戒するなヨ——と、ノイズは言った。
そして、背後にある膨大な量のコンピュータの集合を指差す。
「サーバーは、見ての通り。小細工もなしで残してアル。パスワードだってかけてもいない。情報を抜き出すも、利用するも壊すも——そのままにするも、あんたらの自由サ」
そういうわけで——
「ボクはここでお暇させて頂きたいんだけど——いいカナ?」
問いかけに——禊は首を傾げる。
「『お暇?』」
「そう。言っただロ? 降参だ、ってサ。命乞いをしてんだヨ、ボクは。サーバーはくれてやるから、僕だけは見逃してくれってネ」
その言葉は——どうにも信用ならない言葉に思えた。
「『どうも——随分と旨すぎる話だね。てっきり僕は、またぞろサーバーの守護者と一戦交えさせられるものと思っていたけれど』」
「好戦的でヤだネ、どうも。一戦っていうなら、それはもうとっくの昔に終わってるサ。上にいた『
車に轢かれちゃたまらないからネ——禊には意味がわからないことを言いながら、彼は肩を竦める。
どうやら——本当に、彼はなんの抵抗もせず、サーバーを明け渡すつもりらしい。
「『ふうん……ノイズちゃん、きみとしては、放課後交流委員会はどうでもいいってことかい?』」
「どうでもいいとは言わないサ。命を賭けてまで守りたいってわけじゃあないだけでネ」
たとえ裏放課後交流委員会がなくなったとしても、ボクは別に困らない。ノイズは笑う。
「『なくなったとしても困らない、ねぇ……放課後交流委員会の幹部だって話だったけれど、だったらなんでこんなサイトを立ち上げたんだい?』」
「二つほど間違いがあるネ。一つは、ボクはあくまでも『裏』放課後交流委員会の幹部でしかナイ。表の方は管轄外サ。そしてもう一つ。ボクは裏放課後交流委員会の方に関しても、立ち上げたってわけじゃない。あれは元々、自然発生的に作られたものダ。ボクはそれを少しばかり
「『加速させた?』」
奇妙な言葉に、禊は首を傾げる。
「ああ。初期の裏放課後交流委員会は、ちょっとした悪意の吹き溜まりでしかなかったからネ。言っちまえば、ショボかったのサ。放っておいても、いずれ数年かけて裏放課後交流委員会はこういう形に育っていただろうが——それじゃあちょっと焦ったいだロ? だからボクはそれを少しだけ早めたのサ。流れを整えて、道を敷き詰めて、背中を押して——本来辿り着くべき場所にいち早く辿り着かせタ」
さらりと言っているが、それは本来あるべき流れを数年早めた、という意味ではないか?
何だか、とんでもないことを言っているように聞こえるが——
「とんでもないことを、ねぇ……『
それは——禊の聞いたことがない言葉だった。
なぜだろう。初めて聞く言葉だというのに、それは嫌に不吉で——耳を塞ぎたくなるような、不快な響きだった。
「『しかし——そんなことを、何のために?』」
裏放課後交流委員会を加速させ——それで彼は何を得たというのだろう? それは結局、亀裂が入ることを早めたようなものではないだろうか? ラディカルな支配の加速が、反作用として反逆者を呼んだ。たとえば宇治蓮華御初や、木之下かばねのような。そして今、その反逆は身を結び——裏放課後交流委員会は解体されようとしている。それでは本末転倒ではないだろうか?
「いやいや、だからサ、
目的は別にあり。
それはすでに、達成されている——?
「『その、目的っていうのは?』」
「そりゃもちろん——あんたを引っ張り出すためさ」
箱庭学園から消えたあんたを——再びここへね。
言って——彼は禊の隣を通り過ぎる。
「箱庭学園崩壊シナリオAってところカナ。それなりに、楽しめたんじゃないカイ? もっとも——ここはまだ
「『途中、って——?』」
去り行くノイズに、禊は問いかける。
「言ったロ? ボクはあくまでも『裏』の幹部だって」
裏があれば——表がある。
この世の全ては表裏一体。
「裏放課後交流委員会は、サーバーを二つ抑えられた時点でおしまいダ。煮るなり焼くなり好きにすればイイ。だが、片方だけじゃ、片手落ちさ。エンディングには辿り着けない。すべてに幕を引きたいなら、鍵は、もう一つ必要だ。——連絡先は、パソコンに残しておいタ。だから、話してくると良いヨ——」
言って、彼は楽しむように笑う。
「放課後交流委員会の、その表の創始者と」
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