バッドルーザー球磨川 イフナッシングイズバッドノンフィクション   作:忘旗かんばせ

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本日は東京ビッグサイトにて『超イシンノセカイ2026』が開催!
作者、忘旗かんばせも書き下ろし同人誌『零崎舞織の人間舞踏』をご用意してサークル参加しております。
イベントを記念しまして、今日は朝昼夜に三連続更新を行います。
このお話はその一つ目です。後の二つと合わせてお楽しみくださいませ!


第五話『その男、凶兆につき』 2

 2

 

「————さあ、この状況をどうする、球磨川禊——!」

 

 自信満々に。

 哄笑と共に放たれた、蛸薬師八々子の問いかけに対し——

 

「『こうする』」

 

 球磨川禊は——写真を撮った。

 

 スマートフォンで、パシャリと一枚。

 

 蛸薬師八々子と、そして彼女が椅子とする壊れたコンピュータの山を。

 

「……? 何やってんだお前、頭おかしくなったちゃんか? 写真なんて撮ったところで、何になるってんだ……?」

「『そりゃあもちろん——ネタになるんだよ』」

 

 ()()()()()()()()()()

 

 球磨川禊は言って——そして書き込みボタンを押した。

 

 通知音も何もなく、静かにそのレスは書き込まれる。加速して番号が進んだ『学園内ニューススレ その1999』に——『裏放課後交流委員会のサーバーが破壊されてる!』というメッセージ付きで。

 

「いや、お前……え? そんなことして、そんなことしたら——」

 

 そんなことしたら——どうなる?

 

 疑問に答えるのは——だから球磨川禊だった。

 

「『そりゃもちろん、するだろうね——()()()』」

 

 瞬く間に——スレが加速する。一気にサイトが重くなって、アクセスエラーが出るほどに。

 

 サーバーの三分の一が破壊された。その影響は大きく、如実。利用者が違和感に気付ける程度には影響が出る。ログが消えたり、サイトが重くなったり。そんな影響はすでに出ていて——その原因の答え合わせがなされれば。

 

 スレは一気に——炎上する。

 

 憩いの場を壊された利用者たちによる怨嗟の声。下手人たる蛸薬師八々子への罵詈雑言。それらが一気に——スレを染め上げた。

 

「いや、うそ——え?」

「『残念ながら、僕にはきみに勝つ手段はない。因果を固定されてしまった時点で、僕たちは詰みだ。壊れたデータは取り戻せなくて、ここより先には進めない。残りの役員の居所だって見つけられなくて、ゲームオーバーは確定だ。だから、()()()()()()()()()()()()()』」

 

 負け惜しみの——嫌がらせだよ。球磨川禊は笑っていった。いかにも醜悪に——酷薄に。

 

「『きみは僕を完封した。僕からサーバーの秘密を守り切った。その代償としてきみはサーバー破壊の下手人として学園中から追われる身になるだろうけれど、なに、その程度は——勝利の代償としては些細なものだ』」

 

 そうだろう?

 

 言って、球磨川禊は第四視聴覚室の扉を開ける。

 

「『それじゃ、僕らは一足先にお暇させてもらうよ。——いくら僕でも、集団リンチの巻き添えを喰らうのはごめんだからね』」

 

 出て行こうとする球磨川の肩を——蛸薬師八々子が掴む。

 

「ま——待てよ」

「『放してくれよ。借り物のジャージなんだ。シワがつくと困るだろう?』」

「悪かった。放す、放すから——行かないでくれ」

 

 焦った顔で。

 額に汗を浮かべて——蛸薬師八々子は乞う。

 みっともなく惨めに——見窄らしく。

 

「『どうしたんだい、どうにも弱気じゃないか。行かないでくれ、なんて似合いもしない。きみは勝者なんだから——もっと勝ち誇れよ』」

 

 午後一限目、五限目の授業が終わるまで、あと五分とない。それはつまり、今は教室ではらわたを煮えくり返らせながら授業を受けている裏放課後交流委員会の利用者たち——イコールのこと、多くの一般生徒が自由になるまであとそれだけの時間しかないという意味。

 

 自由時間がやってくれば——彼らはここに大挙して訪れることだろう。起きた問題の『解決』と——そしてちょっとした()()()()()のために。

 

 その対象となることが確定している八々子は——焦り、禊に詰め寄る。

 

「な——なんとかしろよ」

「『なんとかしろって、何を?』」

「か、書き込み、それ、消せよ」

「『消してあげてもいいけど……今更、もう遅いと思うよ?』」

「ち、違う。ただ削除しろって話じゃなくて、お、『大嘘憑き(オールフィクション)』で——」

「『なかったことに、って? おいおい、きみがそれを言うのかい?』」

 

 呆れたように、禊は言った。

 

「『冗談はやめてくれよ。僕はさ、八々子ちゃん、()()()()()()()()()()()』」

「は——?」

 

 感銘? 一体、なんの話だ? 困惑する八々子に、球磨川禊は笑いかける。

 

「『——『一人だけ何でもかんでもなかったことにして、現実から逃げながら、それで人生頑張ってる振りしてんじゃねぇよ』』」

 

 きみの言った言葉だ、蛸薬師八々子ちゃん。

 

「『僕はこの言葉に衝撃を受けたよ。ああ全く——その通りだ、ってね。僕は人生を舐めていた。みんなが頑張って生きている中、一人だけチートスキルを使ってずるをしていた。なんて最低だったんだろう、これまでの僕は。過去を、選択を、行動を、意思を、精神を、魂を——結果を。なかったことにして、現実から逃げて、そんな不誠実な生き方をして、これまで僕はまともに人生を歩んでいるとは言えなかった』」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 眦から零れ落ちる感動の涙を拭いながら、球磨川禊は言った。

 

「『結果から逃げることは良くないことだ。現実から逃避するのは悪いことだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。きみのおかげで——僕はそれを学べたんだよ。だから蛸薬師八々子ちゃん。僕はこれからきみの言葉通りに生きていくことにする。誓うよ。僕はもう、結果から逃げない。僕はもう、現実から逃げない。僕はもう、事実から目を逸らさない。どんなに悲惨な出来事が起こったとしても、どんなに惨憺たる結果が巻き起こったとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その現実から決して逃げず——なかったことになんてしないから』」

 

 だからきみは——安心して生きていってくれ。

 固定された、覆しようのない現実の中を——一人寂しく、粛々と。

 

「い——いやだ」

 

 蛸薬師八々子は——首を振る。思わず、反射的に。子供がいやいやをするように——感情に任せて。

 

「だって、そんな、あたしちゃんが——学園の敵にされちまう」

「『いいじゃないか。元々過負荷(ぼくら)はみんなの敵だ』」

「ちが……あたしちゃんは、()()()()()()()()()()()()放課後交流委員会を支持したのに——」

 

 今更。今更嫌われ者に戻るなんて——いやだ。

 

「なあ、戻してくれよ……なかったことにしてくれよ! あんた……あんた過負荷(あたしたち)の味方なんだろ! マイナス十三組のリーダーなんだろ!? 見捨てるなよ、あたしちゃんを……助けてくれよ!」

 

 彼女の悲痛な言葉に——球磨川禊は笑いかける。

 

 友愛を示すように優しく。

 親愛を示すように朗らかに。

 慈愛を示すように輝かしく。

 球磨川禊は、蛸薬師八々子に笑いかけ——

 

 

 

「『————()()()()』」

 

 

 

 ただ一言。

 そう吐き捨てた。

 

「『見損なったぜ、蛸薬師八々子。まったく、信じられないよ。そんなに簡単に自分の言葉を翻して、撤回して、なかったことにして——自分だけ助かろうとするなんて。最低だ。醜悪だ。下衆下劣だ。みんな当たり前に、変わらない結果の中を生きてるんだぜ? 覆らない現実を享受しているんだぜ? 自分一人だけ——ズルするなよ』」

 

 影の中、球磨川禊の目が光る。三日月を描く口元と共に。闇と一体化した球磨川禊は、その本性をあらわにするかのように蛸薬師八々子を嘲笑する。

 

「『現実から逃げるな。結果から逃げるな。人生から逃げるな。前を向いて、笑顔を浮かべて、受け入れろ。罵声を、嫌悪を、見下しを、暴力を、暴走を、暴虐を、受け入れて、受け入れて、受け入れて、受け入れて、受け入れて、受け入れて——死ぬまで生きてろ』」

 

 闇よりもなお暗く、深く、底なしの悪意。球磨川禊より滲み出るそれに触れて——ようやっと、あまりにも遅きに失して彼女は気付く。球磨川禊。彼がかつてこの箱庭学園でマイナス十三組の頂点として——最底辺として他の面々を束ねていたのは、決して『大嘘憑き(オールフィクション)』なるスキルを持つが故にではない。そんなものは彼という過負荷(マイナス)を語る上でまるで重要ではない。彼の恐ろしさはその能力ではない。スキルではない。力ではない。その悪意! 人間一人が持つにはあまりにも膨大に過ぎ、濃密に過ぎ、絶対にすぎるその悪意がこそ! 名伏し難き暗黒の貴公子、混沌よりも這い寄る過負荷(マイナス)、球磨川禊の真骨頂!

 

「——〜〜っ!」

 

 歯を食い縛って、彼女は助けを求めるように木之下かばねの方を見つめるが——彼女は目を逸らす。そう、敵同士なのだ、助ける理由などどこにもない。そんなことは当たり前の話であって——

 

「『話は終わった?』」

 

 球磨川禊は問いかける。悪魔のように——処刑人のように。

 

「『それじゃあ、あとは楽しんでね。きみの『結果』を、じっくりと』」

 

 言い残して。

 球磨川禊は廊下から、まるで差し込む光を断つように、第四視聴覚室の扉を閉めて——

 

「——そりゃないだろ」

 

 止められた。

 





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