真インフィニット・ストラトス~学園最後の……日?~   作:バルバトスルプスレクス

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流音龍馬 後編

 

 早乙女研究所を取り囲むように木々の合間から現れた多数のミサイル発射装置達は、溜め込んでいたミサイルを全弾打ち尽くすと同時に一斉に格納され、研究所周辺は元の森林地帯に戻る。

 攻撃が止んだことに安堵の表情を浮かべる暇も無く真ゲッターが一夏達の前に躍り出た。

 余裕綽々。

 そんな四文字がかの機体から感じ取れていた。

 龍馬と真ゲッターの実力を知らぬ者はもはやこの世界には存在しないと言っても過言ではない。

 台湾の代表候補生凰乱音が先陣を切って龍馬と真ゲッターに挑む。彼女の後ろで鈴音が制止の絶叫を上げるが、その声が乱音の耳に届く前に龍馬が迎え撃つ。

 振り下ろされた甲龍・紫煙(スィーエ)の青龍刀を片手で、しかも指先で受け止めたのだ。そこへ間髪入れずに乱音の顔面に額からゲッタービームを照射する。

 

「きゃぁ―っ!!」

 

 赤色の超高熱破壊光線。乱音の額一点に集中されたゲッタービーム。シールドバリアーで守られている今乱音の素肌は爛れはしなかったが、シールドエネルギーが急速に減少されていく。

 

「龍馬ーっ!!」

 

 叫びを上げ、零落白夜を起動した雪片弐型を構えて突撃する。しかし龍馬は一夏が雪片を振り上げたところで乱音を蹴り飛ばして腹部ゲッタービームを全力で照射。光の奔流に巻き込まれる前に雪羅をシールドにして乱音共々難を逃れた一夏は改めて真ゲッターを、流音龍馬を見据えた。

 

「龍馬、頼むっ!人質を、のほほんさんを解放してくれ!!」

 

「馬鹿かお前は!はいそーですかと素直に言う俺だと思ったか!?それとも何か?解放したらてめぇらはおとなしくスタコラ帰ってやるとか言うのか?ナもん信じられるかってんだ!!」

 

 不規則な軌道を描き、トマホークランサーの矛先が一夏達を襲う。

 流音龍馬は悪鬼を宿している。復讐を誓った彼を止められる者は誰一人としていない。

 織斑一夏は赤き復讐鬼の信念を知っている。龍馬の口から語られた昔話と、ゲッター船団に見送られた時に見たゲッター線の奔流の中で。

 しかし、だからと言っておとなしくやられるわけにはいかない一夏達は連携を以て真ゲッターに挑む。

 

「ヒャハハー!」

 

「下品だねっ!」

 

 ロランツィーネが苛立ちを込めて短く吐き捨てる。こちらが狙いを付けたと思えば、すぐに振り切って近くにいたこちらの味方を盾にしつつ諸共攻撃してくる悪魔に思わず本音が出ていた。

 それは龍馬と付き合いの少なさからくるものでもあるのだが、それはロランツィーネ以外の追加参入した専用機持ちも同じである。彼女達は龍馬の過去を知らない。委員会から不必要な情報として伏せられ、倒すべき敵とだけ教えられ、対策方法も習得してきた。彼女達は確実に悪魔を狩るべく、他方向から時間差で攻撃を繰り出し続ける。半分気が乗らない一夏達も後に続く。

 真ゲッターのポテンシャルは未知数だ。一夏達が知るその実力はほんの少しに過ぎない。ただでさえ強敵だった初期状態から殻を破って一次移行を遂げた第一形態。そのスペックは以前とは比べ物にならない程に強くなり過ぎていた。

 大地を、大空を、大海をも制す龍馬と真ゲッター。

 スポーツとしての枠組みの中では確実に覚える事はないだろう命のやり取り。母の仇を討ち取るべく父親からスパルタすらも生温く、虐待とも言える程の過酷な訓練を受け、更に早乙女研究所に来てからは隼人やムサシからも地獄のような指導を受けたその男に、戦い続けて強くなったその男に一夏達はどうあがいても辿り着くことは叶わない。

 やがてラファールや打鉄を纏っていた派遣された操縦士たちが全滅し、残されたのは千冬と一夏に箒、そして代表候補生たち。

 

「あげゃげゃげゃ!さぁて、どうするよお前ら。真っ向から俺に勝てる算段でもあるのか?それとも、それ以外の手もあるんじゃあねぇのか?」

 

 トマホークを肩に担ぎ、ぎらついた目で己の敵を一瞥する龍馬。

 その鎧に損傷の後は見られず、シールドエネルギーも龍馬が撃ち出した分だけの消費分しか減っていなかった。

 万事休す。そう言いたげに顔を歪める一夏達にオープンチャネルが掛かる。

 

『こっ、こちらアルファ!!研究所内は地獄だ!ゲッターが、ゲッターが……ぎゃあーっ!!』

 

『い、いや……お母さ…!』

 

『こちらベータ!こっちにも、こっちにもゲッターが……ごぼぉっ!』

 

『千冬様、助けてください!!助け……ぁっ』

 

 緊迫した通信が一夏達の耳をつんざいた。こちらとは別のアプローチで先に早乙女研究所に侵入していった二つのチームからだった。それぞれの通信内容は絶叫に近く、断末魔の叫びが絶えず背後の方から聞こえてくる。

 報告にはゲッターがそれぞれのチームを蹂躙しているとのことだが、一夏達の知るゲッターは龍馬のものだけである。だが、ここは早乙女研究所。第二第三のゲッターがあってもおかしくはないし、その動力源たるコアは、篠ノ之束謹製の出来損ないと呼ばれるものとは違う早乙女賢造率いる早乙女研究所謹製の真の意味で完成されたコア。

 

「なぁ織斑先公、てめぇらは俺達を見くびってねぇか?侮ってねぇか?」

 

「見くびっても侮ってもない。だが、ゲッターはお前だけと、真ゲッターだけだと言う前提に縛られていた……」

 

 グッと奥歯を噛みしめて己の読みの甘さを痛感する千冬。

 突入部隊は先程の通信からして全滅は確定している。通信内容から鑑みて誰一人として生きていないだろう。

 

「撤退、してもいいんだぜ?のこのこ尻尾巻いて逃げてなぁ?」

 

 トマホークを肩に担ぎながらしたり顔で龍馬は言う。

 最早成す術は残されていなかった。正攻法を取っても、裏をかいても結局は龍馬達の手玉に取られただけだった。今はそれを強く痛感するしかない一夏達に活路は無い。

 仮に強行突破が成功しても、研究所内にいる二人のゲッター操縦者によって葬られる事は間違いない。しかし、白旗を振って投降したとしても、身の安全は保障されはしない。撤退しても現場を知りもしない委員会からどんな処分が下るかもわからない。

 進むも地獄、戻るも地獄、留まるも地獄。せめて千冬が打鉄ではなく現役時代の専用機である暮桜を纏っていれば状況は好転していたはずだ。

 

『お困りのようだねぇちーちゃん!』

 

 あまりにも能天気すぎる天災の声が、その場にいた操縦士たちの耳に響いた。

 間もなく現れたのは黒いゲッターの集団だった。しかしそのフォルムは、福音事件の際に現れた当時の龍馬のゲッターに似たものではない。

 一言で表すならば巨漢。そのゲッターは三本の角に龍のようなひげがあしらわれ、肘から手首の間には丸鋸の様な装備が施され、元のフォルムからかなりかけ離れていた。

 

『束さんの最新作で最高傑作!先生達のゲッターなんかけちょんけちょんにしてやれ、()()()()()()()()()()!!』

 

 篠ノ之束の先兵たる無人ISたちは一斉に龍馬へと迫る。

 その黒龍たちのスペックをハイパーセンサーを通して見ると、福音事件の際に現れた黒いゲッターの五倍以上を叩き出していた。

 

『ちーちゃんたちここは離脱して!』

 

「束か!何のつもりだ!」

 

『いーから!座標データ送るからいっくんに箒ちゃんとその他大勢引き連れてそこに向かって!』

 

「織斑先生、ここは姉さんの指示に従いましょう!姉さんの事ですから、何か打開案があるのでしょう!」

 

「仕方ないか。全員撤退だ後に続け!」

 

 千冬の号令に従い、心残りを見せる操縦士たちはISの展開が解除され地上に隠れていた生き残り達を回収してその後を追う。

 逃して堪るかと退路を塞ごうとするも行く手を塞ぐ黒いゲッター達によって阻まれてしまう。一機一機のスペックは真ゲッターに及ばない物の物量差を以て肉薄していた。

 

「しゃぁぁぁらくせぇーっ!!」

 

 残骸の山が築かれていく間に、千冬たちはその場からの離脱に成功したのだった。

 

 

***

 

 

 篠ノ之束は常日頃から自前の移動機能付き秘密基地に隠れており、そこに自分と同居人以外の人間を招き入れることは昨日まで無かったが、現状が現状だけにやむを得ず束は実の妹である箒と、友人の千冬と一夏とそれ以外を今日初めて招き入れた。

 

「まったく委員会連中も馬鹿だよねー。ゲッターの人質ともいえるオッサンも奪還された上に数も足りてないのに討伐隊を送るなんてさー」

 

「どこまで知っているんだお前は。それと討伐隊ではなくあくまで救助隊でもある」

 

「どっちでもいいよ。先生たちのゲッターがそんじょそこらの女が動かしてるISよりも強いのは当たり前でしょ?やっぱりさー、尻で椅子を磨いてる連中って漏れなく馬鹿なの?」

 

 千冬だけを自身のプライベートルームに招き、投影型キーボード叩きながら吐き捨てる。心底呆れている様子の束はやがて千冬には理解が及ばない何かの作業を終えて漸く親友と向き直る。

 

「ブラックドラゴンたちが時間を稼いでくれたけど、全滅したみたいだね。悔しいけど、流石早乙女先生たちだね……全然届かないや…」

 

 束と交友関係を築いてから初めて見る彼女の悔しさを滲ませた表情と声音が、如何に早乙女と言う人間が束にとってどんな存在かを物語っていた。

 それは千冬も薄々感じていた事。

 千冬の目から見てもゲッターはとても異質な存在であることは間違いない。

 その性質、その威力、存在その物が四半世紀生きてきた千冬にとっての常識からかなりかけ離れていたのだから。

 

「束…」

 

 天災と揶揄されている友人の初めて見るその様子に千冬は友の名を呟くほかなかった。

 

 

***

 

 

 龍馬が築き上げた残骸の山。研究所から現場に駆け付けた賢造はそれを一目見て一笑に付した。どれ程束が技術力を上げてきても、やはり本物を超える程に達していないから。

 既に早乙女研究所側が通り過ぎた道を今更漸く束が到達していただけ。

 この調子では未来永劫追い越すどころか追い付くことは絶対に無い。そう断言出来た賢造は切り落とされた残骸の頭部を蹴飛ばした。

 

「龍馬、一旦研究所に戻るぞ。いよいよ奴らも本気を出すことだろう」

 

「って事ァ……早乙女のジジィ、()()を開けるのか?」

 

「如何にも。龍馬、貴様のゲッターと隼人とムサシのゲッターが1つになったその時、その時こそが我等が悲願の達成となる。貴様は母親の、我々は美千留の仇を討ち取れるのだ!」

 

 不適な笑みを浮かべて嗤う賢造。その表情の裏にどんな意図が隠されていようとも、龍馬は只突き進むのみ。

 

 

***

 

 

 東方の山の影から日が上がる。

 漸く事態を重く見た利権団体は実に遅すぎる程の増援を派遣し、再度早乙女研究所襲撃及び人質奪還の指示を出す。

 今後二度と無いかもしれない束の厚意を受けて補給を済ませた千冬達も増援部隊と合流。即座に情報交換の場を設けると千冬達第一陣のもたらした早乙女研究所側の戦力の情報共有を行った。その増援部隊を指揮する綾小路は第二第三のゲッターの存在を知るとこの世の終わりに直面したかのように青ざめた表情を浮かべる。

 

「……考えないようにしてました。聞けば早乙女研究所は独自の技術と製法を以てオリジナルのコアを製造出来る。ならば、少なくともあの研究所には三機またはそれ以上のゲッターがあるというのですね?」

 

「恐らくはそうでしょう…」

 

 互いに苦虫を噛み潰したように顔を歪ませる。

 山間にしっかりとその存在を示している早乙女研究所。それを目視で確認できるギリギリまで離れた森の中から二人は顔を出していた。

 こちら側の戦力は昨日よりも増えているはずだが、龍馬の真ゲッターを圧倒できるかと問われれば、不可能と言わざるを得ない。

 

「らしくもないですよ。これだけの数です。こちらに負ける通りなんてありませんよ」

 

 それは虚勢か、鼓舞か、はたまた無知によるものか。胸を張って言う派遣された操縦者は意気揚々と語って見せた。彼女を始めとした他の操縦者達も同様で、尚且つ委員会側から「()()()()()()()()()()に拉致されているIS学園の生徒を救出せよ」との連絡を受けていた。龍馬達のバックボーンを知らぬ者からすれば無理からぬ印象だ。そうでなくとも普段の龍馬の立ち振る舞いからそう印象付けられているのだから無理もない。

 準備が整いつつある中、千冬は比較的龍馬と親交があり、今回の作戦にやや懐疑的な一夏達や一度龍馬と手を合わせた専用機持ち達が周囲のやる気に満ち溢れている操縦者達と打って変わって意気消沈しているのが見えた。

 

「……もうどっちが正しいのか、分かんなくなったな」

 

 ポツリと吐いた一夏の言葉に誰も反論する気が失せたのか、はたまた周囲で準備にいそしむ他の操縦者達の雰囲気に悪影響を及ぼさないよう配慮したのか特に何の反応も返さなかった。

 幸いにも派遣された操縦者達に一夏の独り言は届いていない。

 

「一夏、少し良いか?」

 

「千冬姉…?」

 

 木の根に腰を下ろして項垂れていた一夏と視線を合わせるように千冬はしゃがみ込んだ。

 

「一夏。物事の正しさはその時々で決まる。今この時点で正しかったことが、後の時代では逆だった事も珍しくない。今お前たちがすべきは囚われた布仏を救出することだ。他の事は私達に任せておけ」

 

 汚れ仕事は自分達が請け負うから一夏達が気負う必要はどこにも無い。そんな意味を込めて言ったその言葉を投げかけた後、千冬は踵を返して他の操縦者達の中に消えていった。

 

 

***

 

 

「塵も積もれば山、枯れ木も山の賑わい。しかしその意気だけは称賛に値出来る」

 

 既に千冬達は早乙女研究所側に補足されていた。

 研究所内の自室でその様子をモニター画面で確認していた賢造。だが、いくら数を揃えようと、いくら名のある乗り手を呼び寄せようと、贋作が束になり挑んで来ようとも、真のISたるゲッターには遠く及ばない。

 今の賢造にとっての最大の敵は、目下自分の足の指の間を侵食し続けている水虫に他ならない。常備していた最後の水虫薬が空になると、賢造はそれを無造作にゴミ箱に投げ付け、部屋を後にした。

 

 

***

 

 

 男が三人、カタパルトに待機していた。

 ムサシ・BO・ベンケーこと巴車弁慶。兄を弔い、遺された兄の忘れ形見のマミを実の娘の様に今日まで大切に育て上げた。

 神宮寺隼人。愛する女性を弔い、夢と仲間と居場所を奪われはしたが、早乙女夫妻の下で牙を研ぎ続けてきた。

 そして流音龍馬。母親を喪い、父親を囚われ、自身も投獄され地獄も生温い日々を送ってきた。

 奪われてきた側の三人が、今日この日を境に立場を覆す。

 ゲッターはそのための鎧であり、そのための力なのである。

 

「行くぜ!隼人、ムサシ!」

 

「望むところだ」

 

「ここらで俺達の本気を叩き付けてやる!!」

 

 男が三人、光に包まれ飛び出した。

 男三匹、罷り通る。

 

 

***

 

 

 研究所の細長いカタパルトレールを流れるように三つの機影が躍り出る。

 深紅の鬼、白亜の槍兵、琥珀の戦車。

 それだけではない。研究所側から更に数多くの機影が吐き出され、三つの影が一つになる。

 早乙女研究所製の量産型かつ自立型の無人IS。束が送り出した駒よりもより洗練され、より強固な深紅の身体を持つその名は、ゲッターGドラゴン。それらの前に浮かぶのはナターシャ・ファイルスと嵯峨野の二人。

 作戦行動開始した一夏達の前に立ちはだかるが、程なくして現れる束謹製のブラックドラゴン軍団。

 両陣営の無人機軍団が激突する中、一夏と龍馬が互いの信念をかけてぶつかり合う。

 その中で無人機達と同じようにその身にゲッターGを纏うナターシャと嵯峨野の姿もあった。

 

「ナタル!何でそんな奴らと手を組んだんだ!」

 

「イーリ。私はもう祖国を信じることが出来ないの!」

 

「嵯峨野先生?!何故貴女が!」

 

「山田先生。アンタに言ったっても伝わらないだろうしね。アンタと私の正義が違っただけだろう!!」

 

 銀の福音の元操縦者ナターシャ・ファイルスは右手に両刃の斧を携え、IS学園の元教員の嵯峨野は両手にレーザーライフルを構えてそれぞれの元同胞と対峙する。

 隼人とムサシはそれぞれ代表候補達を含めた操縦者達を相手取り、存分に自身のゲッターの性能を引き出していた。

 

「なぁ織斑よぉ、もう終わりにしようぜ」

 

「何を……!」

 

「テメェらに引導を渡してやるっつってんだよ!!」

 

 力量差も、性能差も、それ以上に背負う覚悟も違う。

 

「もうこれ以上なぁ、俺や研究所の連中みてぇな人間を増やすわけにぁあいかねぇんだよ!」

 

 雪片の斬撃をゲッターレザーの刃で絡めとり、頭突きと同時に頭部ゲッタービームを繰り出す龍馬。

 その龍馬の猛攻に隙を見出だせず防戦一方の一夏。

 ISの体力とも言えるシールドエネルギーは、どちらとも減り続けているのだが、ダメージを受け続けている一夏の白式の方だけ大幅に削り取られている。その差は時間が経つに連れて広がっていく。

 

「織斑ァ!てめぇにゃあ恨みはねぇが!ここで墜ちやがれぇ!!」

 

「龍馬ぁ!それでも俺は、俺達はお前達を止める!!」

 

 雪片の刀身が割れ、零落白夜が起動する。

 爆発的な瞬時加速と合わせた突きが龍馬の、真ゲッターの胴を捉えた。

 しかし、そこでオープンゲットで避けられ、白式のシールドエネルギーは底を突き、ゆっくりと落下する。

 

「今だ、千冬姉ぇー!!」

 

 打鉄を纏い、一夏よりも速い瞬時加速で接近し近接ブレード葵を真イーグルに突き立てる。

 千冬にとって流音龍馬は今でも自分の教え子のまま。上からの命令とはいえ、状況的にも世論的にも千冬のとった行動には同情こそすれど責めるような人物は多くは無いだろう。

 たった一人の家族である一夏に不自由をさせまいと我武者羅に頑張ってきた結果がこれだ。

 また大きな十字架を誰にも知られず背負うことになるだろう。

 そう思っていた千冬だったが、突然、体の自由が奪われた。見ると、ブレードを持っていた腕をクローアームのチェーンが、両足には真ゲッター3の腕が絡みついていた。隼人とムサシが手助けに入ったのかと思っていたが、当の二人は苦戦する様子もなく立ち向かってくる操縦者達を手玉に取っていた。

 だとすると。今自分を拘束しているのは誰なのか。その答えはすぐ目の前に現れた。

 

「いやー、おったまげたぜ先生よぉ。オープンゲットした直後に俺を狙い撃ちにするなんざよく思いついたもんだぜ」

 

 千冬を拘束していたのは、真ゲッター2と真ゲッター3の腕だけを展開した真ジャガー号と真ベアー号であった。目の前には真ゲッター1を胸から上だけ展開した龍馬の姿。

 

「だがアテが外れたな。最悪ゲットマシンってのはなぁ、単機でも変形出来んだ」

 

 全く予想だにしていなかった真ゲッターの能力。追加で合流してきた代表候補生達のISには対ゲッター用のプログラムがインストールされていて、そのプログラムを基に改良と複製を施して今回の作戦に参加しているIS全機にインストールしている。しかし、結果としては想定を遥かに超えるゲッターに蹂躙される事実。

 身動きの取れない千冬は、そのままゲッタートマホークの連撃と、頭部ゲッタービームの直撃を浴びるように受け続けた。

 

 

***

 

 

 早乙女研究所の地下奥深く。

 幾つもの強固なセキュリティをパスして進む早乙女賢造の姿がそこにあった。

 無機質な造りの通路を迷うことなく突き進む。

 ここに足を踏み入れたのはいつだったか。

 ここに来ると、気になっていた水虫の事など忘れる程に体調がすこぶる良くなり、自分の身体でありながら自分のではない程に軽く感じ、肉体ではなく魂が若返るような感覚に陥っていた。

 賢造が今いるのは研究所の最下層。厳重に施された電子ロックを一つ一つ解錠し、扉を開けて更に奥へと進んでいく。

 そうして最後に辿り着いたのは円筒状の特殊な区画だった。遥か上空は暗闇に紛れて天井が見えず、眼下には巨大な蓋そのものが地底から噴出する何かを食い止めるかのように固く閉ざされている。

 ここは通称地獄の釜と称されている。地下から湧き出る超高濃度ゲッター線を今日この日まで封印してきた。

 

「いよいよこの時が来たか…」

 

 ニヤリ。と口角を思わずあげる。

 賢造は今日この日を永い間待ち続けた。

 達人、美千留、元気。三人の奪われた物以上の総てを根こそぎ奪い返す為に。

 

「我が名は早乙女。今より新たなる時代への改革を成すべく、立ち上がった!!」

 

 

***

 

 

 地獄の釜の区画から行われているライブ配信は、地球上のあらゆる電子機器を乗っ取って行われた。

 スマホだけでなく、テレビや液晶タブレット、パソコンに街頭モニター、カーナビすらも例外ではなく、世界中のあちこちのモニターに早乙女賢造の姿が映し出されていた。

 

『我が名は早乙女。今より新たなる時代への改革を成すべく、立ち上がった!!我々はISの登場以降地位や富だけでなく、愛する家族、信頼できる友、未来を誓った恋人、そして努力を重ねた結果に得た己の居場所すらも奪われてきた。そしてそれは、今この瞬間にも起きている。だが、それも今日で終わりを告げる!ISの恩恵にあずかり身分不相応な立場に居座る貴様らが、元の場所に戻る時が来たのだ!!見よ、貴様らの希望は既に潰えたのだ!!』

 

 画面が切り替わると、木々が幾つもなぎ倒されて視界が広がった浅間山の一部が映し出された。

 多くの視聴者たちが困惑したのは、IS不敗神話の終焉の瞬間だった。

 各国の代表候補生が、委員会から派遣されたIS操縦者達が、そして何よりもあの織斑千冬が量産機の打鉄を纏い、泥にまみれて倒れこんでいたのだ。

 そんな彼女らの傍らには龍馬達三人のゲッターが並び立っていた。千冬達とは違い、三人の装甲はかすり傷一つついていない。

 

『そもそもISに使われたコアは、かつて儂の門下生であった篠ノ之束が失敗作の設計図を盗み出し、自己流に改善し組上げた物。その性能は今この世界で知らぬ者はおらぬだろう。だが!儂からしてみれば玩具に過ぎん。我々のゲッターこそが、ゲッターに搭載されたコアこそが真のISコア……否ッ!ゲッターコアこそが真のコアなのだ!!』

 

 画面の中で賢造が叫ぶと同時に、地球上にある全ての研究機関や企業、軍隊に向けられてゲッターコアの設計図が強制的に送信される。篠ノ之束謹製の物は設計図は束が独占している上に、コア自体を解析しようにも未だに製造法は明かされないままであった。

 しかし、このゲッターコアなるものの設計図はISコアとは違った意味で後に大勢の研究者達の頭を大いに悩ませる結果になるのだった。

 

『我々がここまでにたどり着くまでに、数千を超える試行錯誤を経た。だが篠ノ之束は欠陥を残したままこの世に放ち、その欠陥を修繕しないまま出来ぬままこの世にのさばらせている!その結果出たのが、女尊男卑を掲げた卑怯者達だ!この世で最強の兵器たるISを動かせるのが女性と言うだけで好き放題してきた!しかし、それも間もなく終わりを告げる。ゲッターに性別を分ける壁は存在しない。故に、差別も格差も生まれない!ただ以前と同じかそれ以上のパワーバランスの差が生まれるだけ。ツケを払う時が来たのだ!』

 

 賢造の演説に多くの女尊男卑主義者達が激昂する。

 篠ノ之束と織斑千冬を神格化する狂信者達の中にはISの恩恵により、努力もなしに重要職に就いている者もいる。その内の一人である某国の女性大統領は早乙女研究所に向けて自国の代表選手を援軍として向かわせるように手配する。しかし、その大統領は自身が今やっていることが何の意味をなさないことをこの時はまだ知る由は無かった。

 

 

***

 

 

 浅間山の山肌で、龍馬は賢造の演説をラジオ感覚で聞き流していた。

 かつては世界最強と謳われてきた織斑千冬さえも今の龍馬にとって歯ごたえが無さ過ぎていた。量産機を纏っていたからと言うのもあるだろうが、仮に専用機を用いたとしたら勝敗は紙一重になっていた事だろう。しかし、それは千冬が龍馬以上に血の滲む様な過酷な訓練を積んでいればの話だ。

 故に、龍馬に負ける要素は何一つないのだ。

 

「ジジィの奴、本気みてぇだな」

 

「俺達も行くぞ。長居は無用だ」

 

「そう言うこった。織斑千冬、お前達はそこで大人しくしているんだな。ナターシャと嵯峨野はこいつらを拘束しといてくれや」

 

 これから始まるのは早乙女賢造が起こす一世一代の大仕事。隼人とムサシ、そして龍馬も無関係ではないがその過程に追於いては外せない重要な役目がある。

 すぐにでも行こうとした龍馬の背に、白式の展開が解かれて嵯峨野に手足を拘束されている一夏の疑問が向けられた。

 

「りょ、龍馬……、一体これから何をしようと……」

 

「とても素晴らしいことだよ」

 

 それだけ言って、龍馬は一夏の顔を見ることもなく隼人とムサシと共に飛翔する。

 

 

***

 

 

 地獄の釜からの配信は尚も続いている。

 今賢造は釜の蓋の中央にあるコンソールを操作していた。

 釜の蓋に施されたロックがゆっくりと一つ一つ解錠していく。その度に少しずつではあるが、ゲッター線が湧き出ていた。

 

「今こそ革命の時。奪われた総てを奪い返す時だ!!」

 

 最後のロックが解錠された次の瞬間、賢造は緑色の閃光の中に消えた。

 

 

***

 

 

 研究所から少し離れた原っぱの大地が割れ、天に向かって勢いよく噴き出すゲッター線の光の柱が突き出した。

 

『龍馬、隼人、ムサシ…否、弁慶!』

 

「早乙女のジジィ!!」

 

「博士ッ!」

 

「開けたんだな、釜の蓋を!」

 

 ゲッター線の奔流に飲み込まれたはずの早乙女の声が、龍馬達三人に届いた。

 

『ここが儂の敷いたレールの最期だ。後はお前達が築いて行け、我々の悲願を成就する為に!さらば!!』

 

 龍馬、隼人、ムサシの三人がゲッター線の奔流に包み込まれると、龍馬の真ジャガーと真ベアー、隼人の真ベアーと真イーグル、そしてムサシの真ジャガーと真イーグルが中からはじき出された。

 ゲッター線は物体に進化を促す宇宙線の一種。三人の肉体と三つの心が今、一つになる。

 光の柱が収束すると、宙に浮かぶ一つの影が現れる。

 真紅の角を生やし、悪魔の様な黒い翼を広げたその姿は間違いなく真ゲッターの特徴なのだが、その真ゲッターは生身の部分が露出しておらず、ISで言う全身装甲(フル・スキン)と呼ばれるタイプに見える。それだけではなく、元々は二メートル前後しかなかった筈が今の真ゲッターは五メートル程に巨大化していた。

 

「ゲッター線が更に進化を促したというのか?」

 

 ゆっくりと自分達の方に降りてきたその巨体に圧倒された千冬がそう言った。そして本能的に理解する。自分達が今まで纏ってきたISは究極の兵器ではなく、ちょっと破壊力がある玩具に過ぎないということを。

 かつての福音事件の様に、龍馬達三人は膨大なゲッター線をその身に受けて二次移行を遂げたのだ。

 

「ばっ……バケモノ…!」

 

 委員会から派遣された操縦者の一人がそう吐いた。

 それを皮切りに続々と真ゲッターに対する恐怖の叫びを口々に発する操縦者達。

 「来るな」「恐い」「死にたくない」「殺される」罵詈雑言を一手に引き受けている真ゲッター。しかし、当の真ゲッターには、流音龍馬には何も響かず無造作に置かれている量産機へと歩き出す。

 ズシン。その一歩一歩はISの重量を遥かに超えていた。その足音は、負け犬の遠吠えを黙らせるには非常に効果的だった。

 やがて一機の打鉄の前に辿り着くと、真ゲッターは静かに手を触れた。

 次の瞬間、打鉄は溶け合うように真ゲッターに吸収されてしまった。あとに残された打鉄のISコアを踏み潰し、そのまま流れ作業で残りの打鉄やラファールを吸収しては残ったコアを粉々にする。

 

「な、何してんのよクソ野郎!!」

 

 操縦者の一人が叫んだ。彼女はISの台頭で甘い汁を啜ってきた女の一人でもある。そんな彼女が自身のアイデンティティを形成するISを蹂躙する真ゲッターに牙をむいたのだ。

 だがしかし、手足を拘束されたままの彼女はキャンキャン咆える犬も同様で何ができるわけでもなくただただ喚くのみ。

 一通り量産機と追加で派遣された代表候補生達の専用機を吸収した真ゲッターはその操縦者の頭部を軽く掴み上げて、指先から緑色の光を放った。この時、真ゲッターは量産機を取り込んだ為か、更に大きくなっていた。

 

「静かにしていろ。今の貴様に、何が出来るというのだ」

 

 真ゲッターをメインで動かしているであろう龍馬がそう言った。

 言い切るとその操縦者を千冬めがけ投げ捨てると、背面のゲッターウィングを展開し、亜高速飛行で飛翔する。

 あっという間に真ゲッターの姿が見えなくなり、そこで千冬は傍に横たわる操縦者に声をかける。

 表情を覗き込んで千冬は思わず息を飲んでしまった。その操縦者は安らか表情で微笑んでおり、虹彩は幾重にも円が刻まれている様に見えた。

 

「あは、あはははは。宇宙の総てが……うん、分かって…きた…そう……か、時間と空間と私との関係はすごく、すごぉく簡単な事なんだ。はは……どうしてこの地球にこんなに生命(いのち)があふれたのかも。1+1はどうして2なのか、いや2だと思っていたんだろう。私が小さい頃に死んだおばあちゃんがあの時死んだ理由も分かる、分かるぞ……」

 

 結論から言ってしまえば彼女はゲッター線に飲まれてしまったのだ。

 それを本能的に理解していたのは、巴武蔵司令と邂逅していた一夏達のみ。

 

「お、おい何を言っているんだ?!しっかりしろ!」

 

 揺さぶりをかける千冬の声も届いておらず、虚ろに微笑むばかりでまるで会話になっていなかった。

 その様子を見ていた一夏は一年の頃に出会った巴武蔵達ゲッター船団のいた宇宙をふと、思い出していた。シャインスパークでその宇宙を脱出する際に通った並行世界のゲッター達の記憶が脳裏に流れ込んできたあの日の出来事を。

 

「千冬様、私達の負けは……もう変えられません」

 

「どう言う事だ。私にもわかるように説明しろ!」

 

「決まっていたんです。私達の大敗北は、予め……篠ノ之束博士がISを世に出したその瞬間から私達の敗北は既に決まっていたんです……」

 

 全てを理解していた、否理解してしまったが故に逆転の一手も残されていない。そんな意味が込められていた。

 

 

***

 

 

 真ゲッターが襲撃しているのは専用機量産機問わずISを所持している軍隊、施設、企業のみである。

 西廻りで世界を廻り、障害となって襲い掛かる敵を墜とし、取り込み、巨大化しては残されたコアを踏み砕く。

 確実に一つ一つ、ISコアの絶対数を減らしていく真ゲッターの猛威に、各国の女尊男卑主義者達はおびえていた。大人しく白旗を振って降伏すれば龍馬達は少なからず譲歩するはずだろう。だがしかし、大した能力もなく肥大化したプライドしか持っていない主義者達に、そのような考えなど持ち合わせていなかった。

 しかし、そんな主義者連中の事など構うことなく、一夏達のISコアの破壊を後回しにしてまでも、龍馬にはやるべきことがある。

 真ゲッターは今、米国に回されたコアを全て破壊し尽くした後、残骸を搭乗者諸共吸収して日付変更線を超えた海域にいた。

 

「この辺りか?」

 

「らしいな。ここからは俺の出番だ!」

 

 真ゲッターは分離せず、あろうことかその身を粘土細工の様にして真ゲッター3へとゲッターチェンジを遂げた。

 膨大なゲッター線をその身に受けただけでなく、餌となる物を吸収し続けて得た能力。

 そして真ゲッター3の真価は水中で発揮される。そのボディは水中における抵抗を受け流しやすい形状をしており、陸上では他形態より鈍重でも水の中では最速を誇るのだ。

 海底の地形など関係なしに真ゲッター3は突き進んでいく。

 光の届かず一歩先すら見えない暗闇と、高い水圧の中でも恐れる事なくソナー等を駆使して彼らは遂に見つけ出した。

 

「いたぞ、ムサシ!」

 

 真っ先に見付けたのは隼人だった。

 彼らが捜していたのは篠ノ之束の移動機能付きの秘密基地だ。

 千冬らが敗北し、全世界に向けて賢造の中継が流れ、龍馬達が世界各国のコアを破壊している中で束は逃げていた。本人からしてみれば千冬達を救助するための準備だと弁明するだろうが、それは龍馬達にとっては些末な事。尻尾を巻いて逃げようと、果敢に立ち向かおうと関係のないのだ。

 束も真ゲッターの接近に気付いているのか逃走を続けていた。迎撃要員らしき無人機の群れが基地や海底の岩場の影から飛び出して来ては真ゲッター3の進路を塞ぎつつ、束の逃走を手助けしている。

 だがしかし、無人機の群れは一機残らず真ゲッター3に吸収され、逃走むなしく追跡しながら両腕を伸ばしてきた真ゲッター3に抱きかかえられるようにして束は基地ごと吸収された。

 

「さて……あとはお前達だけだぜ、織斑」

 

 水面を割って現れた真ゲッター1は、浅間山方面へと飛翔する。

 

 

***

 

 

 一夏達の前に50メートルにまで巨大化した真ゲッター1が降り立った。世界を一周すること二時間弱。各地に降りての対IS戦は平均5分前後。

 

「あの時見たゲッターに似ている……!」

 

 ゲッター船団のいた宇宙で見た真ゲッターロボ。地球外生命体インベーダーの侵略を受けた宇宙から来たと言うそのゲッターの面影を、目の前にいる流音龍馬達が進化に至った真ゲッターに重ねていた。

 シャインスパークであの宇宙から離脱する際に見た並行世界のゲッター達の記憶にも、真ゲッターそのもの、または酷似したゲッターはいた。龍馬達の真ゲッターもまたその内の一つなのかと思う一夏。

 そのゲッターは、一夏達の様子など意に介さず残されていた一夏達のISを吸収する。腕を伸ばし、野ざらしに近い状態で鎮座していたISを一基ずつ吸収する。最後に白式と紅椿が吸収され、それぞれのコアが踏みつぶされるまで、一夏達はただただ見ている事しか出来なかった。

 今この瞬間を以て、地球上のISは全て消えた。流音龍馬がセシリア・オルコットを初めて下したあの日に宣言した通りになってしまったのだ。

 

 

***

 

 

 ゲッターの中にいる龍馬の心は今、雲一つない青空の様に澄み切っていた。

 母を殺し、父を幽閉した世界への復讐を遂げることが出来たのだ。

 思えばここまで来るのにとても時間がかかったものだ。少年とはいえ北海道の刑務所に収監され、そこで脱走の際にISを起動。そしてゲッターと出会い、隼人からは知識を、ムサシからは技を、賢造から復讐のための力を授かった。

 隼人は恋人の、ムサシは血を分けた兄弟の仇を取った。

 とても清々しい気分である。機械であるはずのゲッターと文字通り融合しているためか余計にそう感じている。

 残るは元凶の始末のみ。織斑千冬には生き地獄を味わってもらおう。

 三人の男達は足元の虫けらに目もくれず、漆黒の翼を大きく広げてそのまま大気圏を離脱。

 漆黒の闇の中に踊りだすゲッター。背後の母星に目もくれず、真空状態の中でも永久に燃え続ける太陽に向けて左腕を伸ばした。手の平から3メートル四方の白い立方体が飛び出てそのまま太陽へと流れていった。

 暗黒の宇宙の中を突き進むその立方体は、結論から言えば篠ノ之束の為の棺桶なのだ。

 

『嫌だ……死にたくないッ!束さんは………束さんはァッ、こんな、こんなところでえ!!』

 

 棺桶の中の様子は、真ゲッターを通じて全世界に生配信されていた。

 生きたまま太陽に投棄される篠ノ之束のその最期を目の当たりにさせるために。

 中でいくら喚こうと、何もない棺桶の中にいては天災と持て囃された束にはどうすることもできない。他者に助けを求めようなど彼女自身のプライドが到底許すものではなく、さらに言えばそこに親友の名も出ないことから、彼女にとって千冬もその程度の事なのだろう。

 涙と鼻水と唾液が顔中を汚し、誰かに整えてもらっていたであろう髪も情けないほどに乱れ、更には糞尿塗れのまま泣き喚き続けていた。

 

「生きたまま死んで来い!」

 

 振り向きざまに吐き捨てた龍馬は、真ゲッターは濃緑色に輝きだして棺桶とはほぼ真逆の方へと突き進む。

 月を掠めて、辿り着いたのは火星。赤くさび付いた惑星。高濃度のゲッター線を貯めこんだ真ゲッターはそのまま赤い大地に激突。その衝撃は惑星全土を揺るがすほどであり、更にゲッター線の影響か火星の環境が一気に変化。大河が生まれ、風がうねり、落下の際に生じたクレーターの中心部にいた真ゲッターから若草が芽吹きだした。

 火星の環境は今、地球に限りなく近づいていくのであった。

 後に、この騒動は『早乙女革命』と称されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真インフィニット・ストラトス~学園最後の……日?~

 

 完

 

 

次回、エピローグ

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