真インフィニット・ストラトス~学園最後の……日?~   作:バルバトスルプスレクス

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エピローグ

 

「ご覧ください。これが現在の月の表面です」

 

 決して広いとは言えない程の薄暗い会議室。唯一その部屋を照らすのは、スクリーン一面に投射された映像のみである。

 その映像を複数人の男女が怪訝な表情で食い入るように凝視する。彼らは岩鬼将造内閣の木っ端役人達であり、今日集まったのは現在月と火星で起きている異変を国民達に伝えるための説明を受けていた。

 

「これが月だと……?」

 

「何かの間違いでは?」

 

「冗談だろ、これではまるで……!」

 

 映し出されているのは水の青と、木々の緑に覆われた惑星。

 地球の周囲を回り続け、岩石によって構成されている衛星であるはずが、その面影は既になく、地球そのものに変化していた。

 

「きっかけは火星へと飛び立った真ゲッターにあります。彼らは火星に向かう途中に月を掠めていました。その結果、真ゲッターから漏れでたとされる超高濃度かつ超高密度のゲッター線が月に影響を出したと考えられます」

 

「それが君ら早乙女研究所の見解なのかね?」

 

「その通りです。ゲッター線に関しましてはその他の研究施設と比べ一日の長があると自負しています」

 

 バッサリと言い切ったこの男、早乙女元気は更にと今度は火星を撮影した映像を映し出す。

 月と同様に地球化が進みだしているその星の赤さびた大地は、徐々に青と緑に埋め尽くされようとしていた。

 ゲッター線により月と火星はテラフォーミングされているのだ。

 

「既に月の酸素濃度は人類が移住可能なレベルで検出されており、火星はあと三年以内には移住可能なレベルになります」

 

 元気の説明が終わり、部屋に明かりが灯される。役人達一人一人に元気の部下達が追加情報が記されている資料を配布している中、元気は閉められたカーテンを開け、夜空に浮か地球化している月を眺めていた。

 

「あれから、六年……か」

 

 早乙女元気25歳。新早乙女研究所新型ゲッター開発部所属。現在新型ゲッター・アーク操縦者の選定中である。

 

 

***

 

 

 『早乙女革命』から六年の月日が経っていた。

 ISが世間を支配していた名残は既に消え去り、行き過ぎた女尊男卑の風潮はIS登場以前に戻りはした。だが、それでも尚女尊男卑主義に染まり切った者達はある程度残っており、特定のコミュニティの下で過ごしている。

 日が沈み、宵の明星が輝きだした頃、織斑一夏は帰路についていた。

 革命の後、IS学園は解体され、セシリア達の様な海外から来日していた生徒達は一人残らず帰国している。

 特に専用機を与えられていた代表候補生達はその座が解消されおり、その立場から受けていた恩恵を総て失っていた。

 セシリア、シャルロット、ラウラ、鈴音の四人はそれぞれ母国で暮らしていることだろう。しかし今となっては連絡する術もなく、それ以上の事は分からずじまいである。

 それ以外で言うと、風の噂では更識姉妹は十七代目の座を下ろされた元楯無こと刀奈は新たに就任した十八代目となった男の妻となり、妹の簪は家を離れ意中の男と共に慎ましい暮らしをしているとのこと。

 その他の元代表候補生も、あの日一夏達と共に戦った彼女達もそれぞれ似たり寄ったりの人生を送っていると思われる。

 織斑千冬。一夏の実姉であり、元IS学園の教師で、当時の一夏は知る事はなかったが白騎士事件の白騎士の操縦者。革命後、千冬は全世界に向け、白騎士事件の詳細を伝える事にした。その結果、自身の罪と、束が背負うはずだった罪を諸共背負う事となった。現在彼女は、かつて流音龍馬が服役していた刑務所に投獄。懲役刑ではなく、禁固千年。

 駅前の通りを歩む一夏の視界に、束を神格化する宗教団体『束教』のデモ活動が入り込む。未だに束の死を受け入れる覚悟がないのか、今も彼女は生きており、いつの日か舞い戻ってまたかつての女尊男卑の世界を再構築する事を願っているその活動家達は、何の実力も無しに要職に就いて甘い汁を啜っていた人間だ。

 今や篠ノ之束の生存は絶望的。太陽に近付いた時点で有無を言わさず蒸発しただろうし、仮に真ゲッター製の棺桶がいかに丈夫だとしても、どのみち餓死していただろう。

 もし今も無事に生存していたとしても、帰る手段も無いため、活動家達のやっていることは時間の無駄でしかない。

 一夏にとっては見飽きた光景。最初こそは複雑な心境にいたが、声を挙げる以外何の行動も起こさないと知った今では、工事現場の騒音と大差ない騒ぎである。

 活動家達の騒音を尻目に、一夏はにべもなく歩きだした。

 篠ノ之神社の敷地内にある小さな平屋が、今の一夏の住まいである。その一夏は今、中学時代に出来た縁を頼りに、下町の金属加工の工場で働いている。給料は決して高くはないものの、元より物欲が薄い一夏には十分すぎる程であった。今まで千冬と共に過ごしてきた家はあの革命の後に売却し、未だ買い手が見つかっていない。

 

「ただいま…」

 

「お帰り、一夏…」

 

 帰宅してきた一夏を迎え入れたのは割烹着姿の箒だった。

 革命の後、篠ノ之束の呪縛から解放され、漸く生家に帰ってくることが出来た箒はその後、傷を舐め合うかのように、一夏の伴侶となった。今は篠ノ之神社の巫女と、再開した剣道道場の師範代の二足の草鞋を履いている。

 一夏共々姉のネームバリューを失いはしたが、却ってそれが功を奏し、かつて二人の身柄を欲しがっていた国家に企業等から見向きもされなくなり、こうして人並みの生活を送れる程の平穏を手に入れたのだ。

 

「箒はもう休んでろよ。後の家事は俺が引き受けるからさ」

 

「そうは言ってもだな、お前も仕事帰りで疲れているだろうし……何より少しでも動かないと…な?」

 

 割烹着越しでもわかる箒の身体に宿った新しい命。一夏との間に出来た子供。

 日に日に大きくなる腹の中の子供の様子を知るために、ここ数ヶ月箒は定期的に近所の産婦人科に通院している。

 食卓に着いたところで何かを思い出したのか箒が今日あった事を一夏に伝える。

 

「そうだ一夏、よく聞いてくれ。先生が言うには男の子と女の子だそうだ」

 

「そうか……俺、一気に二児の父親になるのか」

 

 一夏は両親という存在が如何なる物かを知らなかった。物心ついた時から千冬と二人きり。だから父親というものが、母親と言うものがピンと来ていなかったのだ。それが今では自分自身が親になるのだから人生というものはよくわからない物である。

 

 

***

 

 

 夕焼け空の下で、幼い子供たちがそれぞれ母親に手を引かれて帰路についていた。

 

「それでな、(ごー)(がい)がな、カムイと(しょー)にめちゃくちゃおこられれてな、おれと(ばく)がとめたんだよ。なのに(あかね)ってばわらってばっかなんだぜー?」

 

 その中の一組の親子の子供が自身の母親に今日あった出来事をペラペラと話し続けていた。

 ここはかつてISの台頭により居場所を追われた人々が集まった集落。この親子は集落に一つしかない公園から、住宅地に続く道を歩いていた。

 

「でさー、椿(つばき)(かえで)がきてよーやくとまったんだ」

 

「たっくんはお友達が沢山いるんだねぇー」

 

「そーだよ!あとはー、今日はきてなかったけどー剣児(けんじ)とー、もうひとりのつばきとー、(けい)(つるぎ)(だん)豪鬼(ごうき)とか!」

 

 指を折りながら同じ幼稚園に通う友達の名前を挙げていく我が子の様子に、母親は目を細めて柔らかな笑みを浮かべた。

 やがて自分達の家に辿り着くと、胴着姿の初老の男が額の汗をハンドタオルで拭いながら親子を出迎えた。

 

「二人ともお帰り」

 

「じーちゃん、ただいまー!」

 

「ただいまーお義父さん。もうすぐ晩御飯の用意をしますねぇー」

 

 母親の名前は流音本音、旧姓布仏本音。その子供の名前は流音拓馬(たく ま)。流音龍馬の父であり、空手道場烏龍館館長にして宗家の・流音壱巌の三人で暮らしていた。

 本音は今、早乙女研究所に所属している。かつてIS学園に在籍していた時は生徒会役員を務めていたこともあり、事務仕事を任されている。

 子供の拓馬は研究所近くの幼稚園に通っており、職員たちからは密かに「ゲッターの申し子」と称されているが、当の拓馬の耳には届いていない。

 烏龍館は壱巌以外にも、来留間真一と言う師範が在籍しており、二人で数十人の門下生を指導して生計を立てていた。その門下生の殆どは早乙女研究所の職員が占めており、誰もが皆大会に出れば表彰台を独占するほどの実力を有している。

 

「拓馬、明日幼稚園が終わったらじいちゃんと稽古しないか?」

 

「いいの!?……じゃなかった。押忍!ありがとうございます!!」

 

 爛々と瞳を輝かせて喜ぶ孫に、火星で眠る愚息の幼き日を思い出していた壱巌であった。

 

 

***

 

 

 世間からISが消え去った今、隼人が遺した新型クリーンエネルギー・プラズマボムスを動力としたパワードスーツ、ネオゲッターシリーズが世界に広がり切っていた。

 かつて流音壱巌の門下生だった岩鬼将造新内閣のもと、新たな労働力の一つとして各分野に浸透していったそれはISと違い男女問わず起動する新型パワードスーツ。流音龍馬のゲッターと言うオリジナルには届かないものの、汎用性や拡張性、いざという時の戦闘スペックなど諸々がISよりも遥かに優れている。

 しかし、性能で言えば更にスペックが勝っているゲッターコアを量産すべきという意見もあった。だが、今は亡き早乙女賢造が死の間際に世に放ったオリジナルのゲッターコアの設計図の難解さに世界中の技術者は頭を抱えてしまい解明どころか複製できる研究機関が月日が経った今になっても現れることはなかった。

 一番の問題点がゲッター線である。早乙女研究所を除けばゲッター線を計測・収集・エネルギーへと転用するための技術が各国の研究機関には無いからだ。反面、プラズマボムスは複製や量産は施設や機材さえあれば何処でも誰にでも出来、その上安価という事もあってゲッターコアに代わり、世界に広まったのである。

 そして、かつてのIS学園は早乙女研究所が買い取っており、ゲッターの操縦者や技術者を育成するための教育機関として生まれ変わっていた。

 『私立浅間学園』と名を変えたその学園の初代校長には早乙女達人が就任しており、革命の際に噴出した地獄の釜のゲッター線を少なからず浴び、肉体の細胞が進化したからか、今ではすっかり視界を取り戻していた。

 その学園の校長室で研究所から送られた元気からのレポートに目を通していた達人は、IS学園在籍時の龍馬とつい最近撮影されたであろう拓馬の写真を手に取った。

 

「本当にこの二人は親子なのだな……鏡写しの様にそっくりだ」

 

「早乙女校長、お時間です」

 

「分かった。今行く」

 

 資料を纏めて達人は今日の業務に取り掛かった。

 

 

***

 

 

 更に時は流れて14年後。

 流音拓馬は19歳の青年へと成長していた。

 月面にある早乙女研究所の前線基地から、ゲッターコア搭載型大型母船クジラが出航。コアエネルギーを存分に活用して火星へと向かっていた。

 

「火星まで二日らしいぞ拓馬」

 

「そこに親父さんがいるんだってな」

 

 カムイと獏が離れ行く月を展望室から眺める拓馬にそう言った。

 

「つっても親父が火星に行ったのって俺が産まれる前みてぇだから……何つーか、実感がわかねぇんだ」

 

 やや困惑気味に話す拓馬の姿はIS学園在籍時の龍馬と瓜二つな程に成長し、現在では早乙女研究所に所属している拓馬だが、それ以外にも幼稚園時代からの付き合いである獏やカムイ達も同じく所属しており、今は三人でアークチームを結成。その他のゲッターチームよりも好成績を叩き出している。

 クジラ内部のブリーフィングルームでは今回の火星で行われる作戦の説明が行われていた。

 20年前に起きた早乙女革命。その主軸となった真ゲッターは今火星で休眠状態にあることがつい先日判明した。今作戦ではその調査が目的であり、可能であれば回収する事も視野に入れている。後二時間もしない内には火星に着陸するとのこと。

 

「昔は地球から火星まで何十年もかかる筈だったんだってな」

 

 会議後、獏が自販機で購入したバーガーに齧り付きながらそう言った。

 

「ゲッターコアが世に出る前だからな。技術の進歩って奴だ」

 

「それを生み出したってのがあの早乙女賢造ってジジィなんだろ?革命の日にゲッター線に消えたって教科書に載ってたな」

 

「もしかしたら真ゲッターの中にいるんじゃないのか?拓馬の親父たちと一緒に」

 

 推論としては間違っていない。当時は生まれてもいなかった獏の考察にカムイと拓馬は否定せず、段々と真ゲッターに対する興味が強くなっていく。

 そして、火星に到着したクジラからいくつかのゲッターチームが下船していく。

 流音拓馬、橘カムイ、山岸獏のアークチーム。

 水樹茜、秋山椿、紫崎楓の斬チーム。

 一文字號、橘翔、大道凱のプロトネオチーム。

 竜牙剣、天草弾、鋼豪鬼の飛焔チーム。

 皆、同じ集落で共に産まれ、今日まで過ごしてきた仲間であった。

 彼らが降り立った火星の環境は、地球と同じ酸素濃度で、赤い土から多くの木々や花々が生い茂り、年々温暖が進む地球よりも過ごしやすい外気温であった。テラフォーミングが進み、これからも徐々に人が増えていくことだろう。

 月で得た情報を基にしたおかげで宇宙服を着こむ必要が無かった彼らは、無意識の内に何かに導かれるように歩き出していく。その中で唯一拓馬だけは誰が自分達を呼んでいるかを本能的に理解していた。

 

「親父が俺を、俺達を呼んでいる…」

 

 その一言に、彼の後ろを歩いていたカムイ達に極度の緊張感が走り、例えようのない恐怖心に襲われる。

 あの男が呼んでいる。

 休眠しているわけではなかったのだ。

 

「気を引き締めていくぞ。相対したらどうなるか……」

 

 やや上ずった声でカムイが言った。

 やがて彼らは巨大なクレーターの端に辿り着いた。その中心部には、石化した巨大な人影が片膝をついた状態で鎮座していた。

 

「これが、真ゲッター……」

 

 まじまじと見つめる先に確かにそれは存在している。

 今まで彼らは教科書でしかその姿を見たことが無かった。

 膨大なゲッター線を浴び、当時世界を席巻していたISと呼ばれる兵器を吸収して巨大化したという伝説のゲッター。

 

「あの中に親父が…」

 

 その時、クジラから通信が入った。真ゲッターが目覚めかけていると。

 表面に突如として亀裂が走り、割れ目から緑色の鮮やかな光が漏れだした。

 その光がゲッター線によるものだと拓馬たちは悟り本能的にそれぞれのゲッターを展開した

 

「チェェェェンジ、ゲッタァァァァ!アァァァァァァァァクッ!!」

 

「チェェェェンジ、烈火ァァッ!!」

 

「ゲッタァァァァ、チェェェェンジ!號ッ!!」

 

「チェェェェンジ、ゲッタァァァァ!ワァァァン!!」

 

 12人の操縦士たちはそれぞれ四機のゲッターへと合体を果たす。大きさにして3メートルほど。

 しかし、彼らが対峙するのは眠りから覚めた真紅の鬼。復讐を果たした男達が宿る鋼の鬼。

 

 ――――チェェェェェェェェェェェェンジ、ゲッタァァァァァァァァァァァァァァッゥワンっ!!!!!

 

 火星に充満した大気を、火星全土を、宇宙にまで轟くその声は、間違いなくあの男だった。

 

 

 

 

 

 

エピローグ 完




2015年から執筆いたしました「真インフィニット・ストラトス~学園最後の……日?~」今回を持ちまして堂々の完結と相成りました。

思えばこの10年の間に創作界隈は勿論、私事のアレコレや、アークのアニメ化と色々とありました。

つい先日ISの原作者様がX(旧Twitter)で事実上の打ち切り宣言をしましたことも記憶に新しいと思います。

そんな中でこのエピローグを持ちまして最終回とさせていただきます。

今までの応援とご感想ありがとうございました。よろしければその他の作品もまだ執筆中ですのでそちらもぜひお楽しみください。

2024年10月某日 バルバトスルプスレクス
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