真インフィニット・ストラトス~学園最後の……日?~ 作:バルバトスルプスレクス
今回では、龍馬のバックである早乙女研究所メンバー数人が出ます。
苗字ネタも出たりしますが、ご了承ください。
一夏の乱入と同時に始まった代表決定戦二試合目。戦況は龍馬のワンサイドゲーム。
二人はIS動かして間もないのだが、基礎体力などが龍馬の方が上回っておりその差は歴然である。。
「トマホォォォォォク、ブゥゥゥゥゥゥメラン!!」
投げ飛ばされた戦斧が回転し、虚空に軌道を描いて一夏に迫る。
ギリギリそれを雪片で捌き「このままいけるか」と呟く一夏だが、現実はそう甘くはなく、目の前の真紅の悪魔は攻撃の手を休める気配を見せない。
「まだまだ行くぜぇ!」
その掛け声とともに、更にゲッタートマホークを数本射出して投擲する。
狂気とも言える龍馬の表情と笑い声。一夏から見た彼は、例えるならば『鬼』か『悪魔』のどちらかであろう。何かに駆られ、何かを憎み、そして何かを全うする。それが一夏が感じ取った龍馬の覇気だ。その何かを一夏は知らないが、今分かる事はただ一つ。
「ゲッタァァァァァァァ、ビィィィィィィィィィィィっム!!」
龍馬は本気で一夏を殺す気でいると言う現実だけ。
ゲッターの腹部装甲が開き、吐き出された赤色熱線は先程投げ飛ばしたゲッタートマホークに向かう。回転して軌道を描くそれにビームが反射し、時には背後や腹と予想だに出来ない角度からビームが反射してくる。必死でビームとトマホークを避ける一夏の姿が滑稽に思えて来たのか、龍馬は腹を抱え大笑いで戻って来たトマホークを収納する。
「ひぃぃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!どーした織斑ぁ、俺が許せねぇんじゃねぇのか、勝つンじゃねェのかよぉっ?!へひゃひゃひゃひゃ、とォんだビッグマウスだゼ!!!!!」
血走った眼の悪魔の眼光にも負けず、雪片を杖代わりにして一夏は再び立ち上がって構え直した。諦めを見せない真っ直ぐな視線は龍馬を不機嫌にするには十分だ。
「まだまだだ!俺は……俺はお前を!」
「だぁーからおめぇは……甘くせぇンだよタコが!!」
急接近からのハイキックをやってみせた龍馬は、続けざまにゲッタートマホークを振りかざして唐竹割りの要領で振り下ろす。それを防ぐべく、一夏はブレードを構え受け止めてみせた。この事に龍馬は思わず笑みを漏らすも、直ぐにまた接近しだす。
龍馬の斬撃を防ぎながら後退していくだけの一夏。彼は目の前の男に、ふと疑問を投げかける。
「流音、教えてくれ!何で、どうしてお前はこんなことをするんだ?!これじゃあ、ただの……暴力だ!」
すると、途端に龍馬は浮かべていた笑みの表情から一変、途端に表情をゆがませると睨みを効かせた目で一夏を見下ろす。そうしながら尚も突撃をやめはしなかった。勢いは減るどころか増すばかりで、一夏も地雷を踏んだかと独り言ちた。
下からの突き上げで体制を崩した一夏のその隙を逃さず、龍馬は至近距離で腹部の装甲を開く。
「ゲッタァァァァァ、ビィィィィィィィィムッ!!!」
赤色の熱線が一夏の身体を包み込んだ。
フルパワーで放つゲッタービームを撃ち終えた龍馬は、シールドエネルギーの残量など気にする素振りを見せないまま、立ち込めた粉塵を見やって舌を打った。そこには、一次移行を完了させた白式の姿。まさに、龍馬の因縁の相手にも見え、今も尚龍馬の顔は怒りに染まるには充分だった。
そんなことなどつゆ知らず、一夏は息を整えて握っていたブレード…雪片弐型を両手で構え直し、切っ先を龍馬に向ける。その行為は創作のヒーローさながらの仕草で、余計に龍馬の気分を悪くする。
「……けっ、姉が姉なら弟も弟か。ったく、つくづく忌々しいンだよ、アンタら姉弟はな!!!」
「俺と千冬姉……が…?」
強く憎しみを込めて言い放った龍馬のその一言に、一夏は一瞬攻撃の手を止めてしまった。そこにまた龍馬のトマホークの斬撃を受ける。
「あぁ、そうだよ……あの時、あの事件が無かったら、俺は今の俺じゃなかったかもな。だがよ、『もし』とか『たら』、『れば』なんざ所詮何の意味の無ぇこった。だからこそ、俺は宣言する!この勝負が終わった後でなァッ!!!」
再び急接近する龍馬とゲッター。今度はそれを避けるのではなく、雪片で受け止めた一夏は何度も龍馬にその憎悪の正体を問う。しかし龍馬の耳には届かず、彼の者から来るのは憎悪以外のナニモノでもない。
徐々に一夏はアリーナの壁際にまで追い詰められていた。次にまたゲッタービームが来たら今度こそ終わりだと悟るが、ここに来て彼は予想外の事態に遭遇した。いや、それは予想外ではなく、単に頭に入ってなかったと言っても良い。
「オォープンッ、ゲット!チェンジゲッタァァッ、ツゥッ!!!」
一次移行を済ませた時点で、左手がせわしなく動いていた一夏は忘れていたのだ。ゲッターはISの常識を覆す合体変形機構を持っている事、それに応じた三つの形態を持っている事を。セシリア戦を見ていたなら、それらが印象深く記憶に残っていてもおかしくはない。それを一夏は、一次移行の際に少々興奮し浮かれたからか、この様な事になってしまったのだ。
ゲッター2の持ち味である高速スピード。それによる撹乱からの超至近距離ドリルアタックをその身で受けた一夏は地表に叩き付けられると、握っていた雪片を杖代わりにして立ち上がる。
「いいこと教えてやんよ織斑。日向ばっか歩いてたテメェにはちと厳しい事だけどな」
「…何を……言って…?」
「白騎士事件。あの事件じゃあ、死傷者ゼロってニュースで言ってたが………ありゃガセだ。少なくとも百人近い犠牲は出ていた」
「なっ…?!」
「何で俺が知ってるってか?それはなァ……俺はそん時それを間近で見ていたからなァ、今でも絶対ェ忘れられねぇぇぇンだよっ!!」
唸るかのように吠え、接近しては蹴り上げてドリル。仕上げとばかりに、一夏の頭を何度も踏みつけては壁際に蹴とばした。その時点で白式のシールドエネルギーが底を突き、試合終了のブザーが鳴る。
結果は龍馬の圧勝……なのだが、客席からは拍手の音はせず、ひそひそと何か言っているようだ。そんな事などお構いなしの龍馬は地表に降り立ち、ゲッターを待機状態にした。
「いいかよく聞け!二年後の卒業式、俺はこの世の全てのISのコアを破壊する!!それが俺の目的だ!生きがいだ!!復讐だ!!!気に入らねぇなら生身でもISでも何でも来やがれ!俺の身体がボロボロになっちまっても、テメェらの首に食らいついてやる!!!!」
高らかに宣言した後にそのままアリーナを去っていった龍馬の背中を、一夏は痛みに耐えながら、ただ見る事しか出来なかった。
彼の宣言に、観客席から非難の声やブーイングが上がる。それらは龍馬の目標を生きがいを否定する。その多くの声は女尊男卑主義者且つIS至上主義者でもある為、それが癪に障ったのだろう。だが、龍馬はそれらを気にせず聞き流し、ある一点を睨みつける。その視線の先にいる、管制室からこちらを見下ろす織斑千冬を。
***
睨みつけられた千冬はその瞬間あの日の、白騎士を纏っていたあの日を思い出す。
あの龍馬の目。あの日あの時、千冬は確かに目にしていた。そう遠く離れていないところで、射殺さんとばかりに見上げる一人の子供。その傍らには、業火に焼かれる大型バスと、子どもの父親らしき男性が身体の一部が炭化した女性の遺体を抱き寄せ、顔を俯かせていた。
恐らく女性の遺体は子供の母親らしい。
それが今になって、小さな子供だった龍馬がここに居る。
「……」
先ほどの彼の宣言が耳に残る。その宣言が、自分と真耶以外に管制室にいた女尊男卑派の教師を苛つかせた。
これが自分の仕出かした事なのか、と軽く溜息を漏らす。
***
部屋に戻った龍馬は鍵を閉め、服を乱雑に脱ぎ捨てるとそのままシャワールームで汗を流し始めた。
今日味わったあの不快感。あの一夏の機体……そのフォルムから来る不快感を洗い流したかったが、それは叶わない。
思い出されるのは、白騎士事件のあの日。一振りの剣を携えた白亜の女騎士が翼も目立った推進装置も無く、虚空に浮かび、飛来するミサイルや迎撃行動の戦闘機を一振りの剣だけで切り落としていた。そしてその下で起きた悲劇。そんな光景だ。
「……どうやっても潰す。一つ残らず潰す……生ごみのように、ボロ雑巾のように、全部つぶしてスクラップにしてやる!!」
唸るように呟いたその言葉は、改めて龍馬の目標となった。
暫く流水に当たり、身も心も落ち着いた所で龍馬の携帯電話が着信を鳴らし始めた。大体の着信相手は想像できる。
シャワーの栓を捻って水の流れを止め、バスタオルで体に付いた水滴をふき取り、パンツとズボンだけ穿いて画面を見る。予想通りの相手に龍馬は回線を開く。
「俺だ。何か用か、隼人?」
『今日は確かクラス代表戦だった筈だ』
通話相手…
報告が終わると、隼人は納得したかのような声を発し自分なりの感想を漏らす。
『恐らくオルコット嬢は貴様の戦闘能力を侮り過ぎたようだ。織斑一夏だが……奴は自分の力の大きさに全く気が付いていないようだな』
「ああ、ったくもってのとーりよ。おまけにアイツのIS…白騎士に似てやがる。近い内に研究所に行く、急ぎだったらそっちから迎えを寄越しやがれ。そん時に戦闘データ見せてやるよ」
その言葉に隼人は『期待している』とだけ言って通話を切った。
通話を終えて、シャツと上着を羽織った龍馬はそのままベッドに沈むとすぐに意識を手放して深い眠りにつく。今日の疲れをきれいさっぱり消すために。
***
龍馬との戦闘後、セシリアは保健室のベッドの上で目を覚ましていた。
何故自分はここに居るのだろう。確か、アリーナで…。
そこまで思い出したセシリアは、カッと目を見開くと、途端に頭を押さえながら激しい息遣いで呼吸する。
「…わ、わた……私…は…」
龍馬とゲッターの力。それを前にして為す術もなく、対等に渡り合う事もなく、ただただ蹂躙されるだけだった。思えば、一週間前のあの日。龍馬と一夏に対し、男云々で高圧的になってしまった事があったからこそ、現に自分に返ってきたのだった。開けてはならない箱をこじ開けたパンドラになったかの様な気分に陥った彼女は、徐々に呼吸を整えていき、やがては自分の
ISスーツだったはずが入院患者が着る様な衣服に変わっており、どうしてこうなったのかが気になってしまった。
「あら、気が付いたのね」
ふと、入口の方で声が聞こえた。
白衣に身を包んだこの学園の保険医だ。国籍は日本。保険医の彼女は、現状を把握し切れていないセシリアに説明する。曰く、完膚なきまでに龍馬に敗北。曰く、一夏が出るまで殴り続けられていたので医療用のナノマシンを投与。曰く、その隙に搬送した際にセシリアは失禁していたとの事。聞き終えたところで、セシリアは恐怖心の他に羞恥心まで出てきてすぐに顔を覆ってしまう。
そんなセシリアの様子を見て、クスリとほほ笑む保険医。
「でもま、流音君もほんっとに酷い事するわよねー。これだから男ってのは――」
「――それは違いますわ」
か細いセシリアの否定の声が保険医の言葉を塞いだ。
「男性…と言う事だけで彼は愚かだとは完全に言えませんわ。本当に愚かなのは……」
――私なのだから。
小さなその声は、セシリアにしか届かず、保険医は頭を傾げては仕事に戻る。
その後ろで、セシリアは再度龍馬とゲッターに対する恐怖を思い出す。全身を引き裂かんばかりの猛攻は十代女子が経験するにはあまりにも過酷だ。それを龍馬はセシリアにやろうとしたのだ。
それと同時に、自分を救ったと言う一夏の事が気になり始めた。保険医の話を聞いて、一夏は自分が思う男とは違って思えたからだ。この瞬間、セシリアは一夏に対し好意を抱き始めたのだった。
***
翌日。
一夏とセシリアを破った龍馬は授業開始と共にクラス代表を辞退した上に、クラス代表の座を一夏に譲ると言う暴挙に出たのだ。
「俺は俺のやりたいようにやらせてもらうぜ。代表とやらなら織斑にくれてやるよ」
小指で耳の穴を穿って言いたいことを言う。
その態度に少々イラついた千冬だが、事実龍馬は二連勝している事もあり、拒否権もある為彼の言い分を無下にする訳にもいかず、最後には諦めた様子でその意見に賛同した。どのみちその方が適切だと改めて認識できる。もし、彼を就任させていたとしたら、各クラス代表戦において本気で相手を殺しかねず、
その事から一夏が最終的に一組のクラス代表に就任したのであった。
更にはセシリアが一夏と龍馬、更には一組中の生徒たちに謝罪をした。傲慢な態度や物言いなどは今のセシリアからは見れず、まるで別人になったかのようだ。
授業が開始するとそれは滞りなく進んでいく。
そして終了の鐘が鳴り、授業が終わると同時に龍馬の携帯に着信が入った。また隼人からだ。次の授業もある為、龍馬はそのまま教室で電話に出る。
「どうした隼人」
『急ですまないが、
「気前がいいじゃねぇか。んで、何時ごろだ?」
『昼過ぎに到着する。それまでには用意は済ませておけ』
『また連絡する』の言葉を最後に通信が切れる。
***
次の授業はグラウンドでのISの起動訓練だ。その中で一夏、龍馬、セシリアの三人は他の生徒達の代表で前に出てそれぞれ自身の専用機を起動する。先日の竜馬との戦闘で何とか修復できた
まずは一夏。一秒と経たずに起動装着を完了し、女子生徒達から小さく歓声が飛ぶ。指先の調子も確認している一夏に千冬が速攻でダメ出しを喰らわせる。
「駄目だ、まだ遅すぎる。玄人であればこれの十分の一の速さで展開出来るのだが、素人でこの速度だ充分に誇れ」
しかし、それでも褒めるところはあるので、一夏のその点を評価する千冬。
次は龍馬だ。
――――チェェェェェェェェェェェェンジ、ゲッタァァァァァァァァァァァァァァッゥワンっ!!!!!
赤、白、黄色の戦闘機に姿を変えた龍馬。響く声と同時に合体連結し変形してISを纏う少年となる。
この展開プロセスに疑問を持ち、指摘する千冬だが彼女の望む回答は返ってこなかった。
「な事ぁ知るか。早乙女のババァに聞いてろ」
器用にゲッターの小指で耳を穿りながら千冬の質問を跳ね返す。
因みにこのゲッター、その他のISとの違いには合体機能以外に指の太さがあった。本来のISの指は元々が宇宙空間での精密作業を行う為の名残で細く鋭く尖っており、殴るなどの攻撃手段は最初から想定していない。想定していないのだが、龍馬のゲッターの場合、トマホークを力強く持ったり殴るなどの攻撃手段がある為、やや太めに設計されている。その指先からどう言う訳か耳かきが出ており、龍馬はそれで器用に耳垢を穿っていた。
そんな奇妙な機能に内心呆れつつ、今度はセシリアの展開だ。
流石は代表候補生と言ったところか、一夏と龍馬よりも展開が早く出来ていた。やってのけた当人は些かドヤ顔でポーズを決めていた。これに関し、千冬はさほど興味を示さず、次の指示を出す。
「展開は出来たな。次は武装の展開だ、まずはオルコット、流音、織斑の順でやって見せろ」
言われてすぐにセシリアは主兵装を呼び出すが、何か鈍い音が響く。
ここで、セシリアは即座に思考を巡らせる。利き腕は右腕、スターライトMarkⅢを握るのも右腕、彼女の癖は腕を横に真っ直ぐ伸ばして武装を呼ぶこと、その右隣には龍馬。恐る恐るその方向に目を遣ると、そこには――、
「……へー、テメェいい度胸してんじゃねーかよ。その喧嘩、買ってやるぜ」
頭部にスターライトの銃口が激突していた龍馬。
彼ならこの程度、簡単に避けられていただろう。それでもやらずに直撃を受けたのは、動機を得るためだ。
「ゲッタァァ、トマホォォク…!」
順番的には龍馬の番であった為、ゲッター1の主兵装ゲッタートマホークを呼び出すと同時にスターライトの銃身を切り落として見せる。その鋭い切れ味に間近にいたセシリアはもちろん、一夏やその他の女子生徒達も顔面を蒼白させる。これから先、龍馬を怒らせてはならないと認識せざるを得ないと一夏は内心思った。
その後は一夏も主兵装雪片弐型を呼び出し、千冬からそれぞれ評価を得た後、急上昇からの急降下の指示を受け即座に行動に移す。龍馬のゲッターに続き、セシリアのブルー・ティアーズ、その後ろを遅れながらも一夏の白式が続く。カタログスペック上白式の推進力はゲッターに勝ることは無いが、それでもブルー・ティアーズより上である。あるのだが、乗り手の一夏が白式のスペックを十二分に引き出せていないため後れを取っているのだ。やがて規定の位置で停止した彼らは千冬の次の指示を待ち始める。
やっとの事で追いつけた一夏はセシリアの励みを聞く事は余裕は無く、龍馬の表情に目が行っていた。何処か虚ろで一瞬儚さまで見えた、見えてしまったのだ。それはセシリアさえも気付いており、理由を聞こうとするが――、
『一夏ぁっ、いつまでそこにいふがっ――!!』
『騒がせてすまない。では、オルコットから流音そして織斑の順に降下を開始。目標は地上10センチから5センチ』
「では、お先に失礼しますわね」
――箒の怒声と千冬の折檻で、聞くのをやめ集中し直して次の行程に移る。
先に動いたのはセシリアだ。文字通り優等生の彼女は千冬の規定通りに制止して見せた。
続いては龍馬。その場で分離し、ジャガー号、ベアー号、イーグル号のフォーメーションを取ると急降下のままゲッター2に合体。持ち前のスピードを活かし、一定の距離で急制動を取り規定範囲内に停止して見せる。地上5センチギリギリの結果に、何人かの女尊男卑派の女子生徒たちは苦虫を噛み潰したかのような表情をする。それ程の腕前であると認識したのだろう。それと同時に、この様な技量を一体いつ、どこで習得したのだろうと彼女たちの中で疑問に変わる。
最後は一夏。セシリアと龍馬と同じように落下し、徐々にスピードを上げていく。落下速度、角度、姿勢は申し分ない。申し分ないのだが、如何せん二人より腕が鈍い為か、文字通り流星となって地面に激突しクレーターを生んだ。
***
その後、昼休みの時間になるとけたたましいローター音を響かせながらIS学園特設ヘリポートに一台のヘリコプターが着陸する。『早乙女研究所』とロゴが張られたボディーのドアが開き、顔に複数の傷を持つスーツ姿の男が降り立った。
この男こそが神宮寺隼人である。隼人が校舎を見回していると、千冬に連れられて龍馬が現れる。すると、千冬は隼人の顔を見るなり目を見開きつつ、一旦落ち着きなおした。
「お久しぶりです、神宮寺先輩」
「フン、よくもまぁ白々しくそんな事を吐けるな。まぁ、いい。明日には戻らせる」
明らかにこの二人の間に確執がある。そう思った龍馬は言って踵を返しヘリコプターに向かう隼人の後に続く。彼も知っている。隼人と千冬の確執が一体何かを。だが、今はそんな事はどうでもいい。
ローター音が更に大きくなり、龍馬と隼人を乗せて空高く飛び立った。
千冬はそのヘリが見えなくなるまで見送ると、そこに真耶が歩み寄ってきた。一夏や龍馬の様なIS操縦者が出てそれに関する雑務が昨年と比べ、倍以上になっている。今回もそれか、と思いつつやや焦った表情の真耶から受け取った資料に目を通しはじめる。
「………頭痛の種が尽きない」
内容は中国代表候補生の転入の知らせだった。編入先は二組と言う事だけならまだいいのだが、問題はその人物だ。リストに表記されている名前と写真に写る顔は千冬もよく知っている。その写真の彼女もまた、一夏の毒牙に掛けられた一人。
また一夏関連でのトラブルが起きそうだ、と千冬は沈鬱な表情をしつつ目頭を押さえた。
そんな彼女を見て、何とかフォローに回らなくてはと慌てはじめた真耶は先程ヘリコプターで来た人物が誰かと話題を振る。しかし、真耶はそれが地雷だと気付かない。
「……学生時代の先輩だった方だ」
「せ、先輩ですか…」
この時真耶はこの話題が地雷だと気付きつつ、好奇心からか千冬の話に聞き入った。
「詳しい事は言えないが……私と束は先輩から大切な人を奪ってしまったんだ…」
それは、千冬が『ブリュンヒルデ』の称号を勝ち取って間もない出来事だった。
***
ヘリコプターの中では、普段は多くは語らない隼人が珍しく『独り言』を漏らしていた。
「あれは、織斑がモンド・グロッソで称号を得て間もない頃だ。当時俺は一介の科学者で、ある一人の女性と交際していた。俺と彼女は互いに支え合いながら過ごしていた……」
隼人が勤務していた研究所は、規模としてはそれほど大きくなく且つ今いる早乙女研究所とは違って、比較的小さい方の新エネルギー開発施設。隼人はそこで数人のスタッフと共に、次世代型クリーンエネルギーの研究に取り組んでいた。
文武両道を体で表す人材で、自分の技量に奢らず嫌味にもしない性格で上司同僚後輩にも慕われていた。
この時隼人が交際していた女性は、出会って間もないが互いに支え合いつつ信頼し合える仲。周囲からは多少の嫉妬はされながらも祝福を受けていた。
「そのまま何も無ければ、俺と彼女――
美千留の家族へ挨拶することが決まり、それを一週間後に控えたある日。彼女は死んだ。
「女尊男卑の風潮が強くなり始め、俺がいた研究所は利権団体の連中が勝手に現れ、勝手な事を抜かし、勝手に買収して、もといた俺たち職員を強制解雇にした。今でも鮮明に思い出す。猛抗議した俺たちに、連中は銃口にサイレンサーを付けた拳銃で仲間を一人一人撃ち殺し、最後に俺を撃とうとした時、俺ではなく美千留さんを撃ち殺した」
それは、利権団体の過激派が用意したシナリオ。
神宮寺隼人はチームの仲間割れの果てに拳銃で射殺。止めに入った婚約者さえも射殺した事で、利権団体に確保された。
それが、神宮寺隼人の結末。
「それからはいろいろあってな、俺は美千留さんの仇を討つべく、泥を啜る覚悟で奔走していたところに美千留さんの遺族……早乙女
そしてそれから間もなく、電話越しではあったものの隼人は千冬に美千留の事を伝える事が出来たのだった。
そんな隼人の『独り言』を聞き終えた龍馬は、隼人が落ち着きを取り戻した頃合いを見計らい話しかける。
「なぁ隼人。腑抜けた連中は、『復讐なんかしても死んだ奴は喜ばない』なんて抜かしやがるぜ。お前はどう思うよ」
「所詮そんなものはマヤカシだ。何故死んだ人の気持ちが分かる」
「そいつぁ俺も同意見だ。『復讐しても何も残らない』とかじゃねぇ、そもそも『
やがてヘリコプターは早乙女研究所のヘリポートに着陸。ローター音が止むと同時に、龍馬と隼人は降り立ってコンクリートの地を踏んだ。
そこから二人は研究所の奥へと歩きはじめる。
浅間山の一角に建造されている早乙女研究所は、ヘリコプター以外での移動手段はないほどの場所で、外界からの侵入を拒んでいるかのように見える。その内部、研究所のツートップである賢造と辰子のいる区画へと到着した隼人と龍馬。そこには夫妻以外に、研究所一の
「む、来たか隼人に龍馬」
先に二人に気付いたのは賢造だ。長い灰色の髪、眉、ひげを蓄えたこの老人が辰子の夫にして、この研究所の最高責任者だ。彼の言葉に辰子と充蔵も気付く。
「来たね、龍馬」
「来てやったぞ、早乙女のババァ。敷島のジジィ、ゲッターの戦闘データ見てェんだろ?」
「うひゃひゃひゃひゃ、待ってたぞ待ちわびたぞゲッターちゃ~ん!!」
龍馬から投げ渡された待機状態のゲッターを受け取った充蔵は狂った笑いをしながら子供の様にうきうきとした様子で即座に去っていった。
戦闘データの解析完了まで時間が大いにある。その間龍馬は賢造たちと別れると、研究所の飲食スペースへと足を運び、その道中顔見知りの職員と一言二言交わす。
『学生生活はどうだ』『主義連中なぞ叩き潰してやれ』『ゲッターの調子はどうだ』などが主だった。
飲食スペースに到着すると、一人の巨漢が大声で龍馬を呼んだ。
その巨漢の名はムサシ・BO・ベンケー(本名は
「よぉ龍馬!」
「よームサシ。あとで稽古つけてくれ」
「あぁ、構わねぇ。それよか飯食っとけ!今日の飯はウマいぞ!!」
「今日の飯
「ちげぇねぇ」とまたも大声のムサシの声を背中に受けた龍馬はカウンターで微笑む少女に注文をする。
「よーマミ。味噌ラーメン中盛りコーントッピングと餃子くれ」
「はいはい龍馬さん、もう少しで出来ますよ」
受付の少女の名は巴車マミ。ムサシの義娘で研究所の台所を任された龍馬と同い年のやや小さいカールの目立つ金髪の少女だ。
程なくして龍馬の注文の品が乗ったトレーがマミから手渡される。受け取った龍馬はムサシ真向かいに座り食べ始める。
「ん、龍馬お前飯少なくないか?」
「来る前に学園の飯食ってきたからな。別にいいだろ、マミの飯食うくれぇよ」
レンゲでスープを掬って啜る。
***
同時刻のIS学園。その一角で、一人の女子生徒が立ち止まっていた。
その女子生徒は転入生で、必要な書類を事務室に届けるだけなのだが、その事務室の場所が分からないのだ。
ISを展開して場所を調べようとも思ったが、それだと規約違反なのですぐにその考えを捨てる。
その時彼女の耳に微かではあるが、聞き覚えのある声が聞こえた。その声の主は少女が密かに恋心を抱く織斑一夏の声だ。恋する乙女は何とやら、一発で声のする方角を当て視線を向ける。居た。
「おーい、いち……何あれ」
彼女の視界に入ったのは、少女が知らない金髪の女子生徒と一夏が仲良さげに話しながら歩いていたのだ。
またライバルが増えたか。そう思う少女は、面白いと言った表情をした。
***
翌日。授業開始の二時間前に学園に戻った龍馬は、ムサシによって顔に付けられた稽古の傷をなぞり寮の自室に戻り、用意を済ませ自分の教室へと向かう。
道中では、龍馬の売った喧嘩を買いに来た女子生徒数人が何度か襲い掛かるが、龍馬からすれば一種の
掛かって来る女子生徒の腹部に膝蹴りで動きを止めた龍馬は、追撃として足払いで転倒させると、二本の指で目つぶしに掛かった。が、それは寸止めに終わる。
「……な、…何で?何でなのよ、何で…!!」
「テメェらごとき殺す価値なんざねぇんだよ。それ程の価値がテメェらにあるとでも思ったか?つけあがんじゃねぇよこの糞アマ共が」
少し乱れた制服を直し、手ごたえの無かった女子生徒たちに一瞥するとそのまま一年一組の教室へと足を運ぶ。
到着した彼は自分の席に座る。今日もまた退屈な授業があるのだと嫌な顔をする。
そんな彼の視界の端に、スティック状の菓子が入る。差出人は同じクラスの布仏本音。常に半目、時に糸目が特徴の少女に龍馬は声を掛ける。
「何だ?」
「ブリッツなのだ~、おいしいよぉ~」
「何が目的だ?毒でも仕込んでんじゃねぇだろうな?」
「むぅ~、しんがいだなぁ、『ながねん』は」
「それ、俺のあだ名か?」
「そだよぉ~。流音だからながねんだよ。あと毒なんてないよ」
「……勝手にしろ。あと菓子は頂く」
もう相手にするのも、無駄に気を張るのにも疲れた龍馬は、スティック菓子を咀嚼する本音を見て自身も咀嚼する。
やがて一夏に箒、セシリアも教室に来て少し騒ぎだすと教室の後ろのドアが開き、一人の女子生徒が現れた。
「その情報、もう古いよ。二組のクラス代表は、このアタシ!中国の代表候補生凰鈴音よ!!」
また騒がしいのが現れた。それが龍馬の今の心境だ。
しかもその女子生徒が一夏と親しくしていると、箒とセシリアが反応して騒ぎを大きくする。
更に大きくなると危惧しはじめる龍馬だったが、現れた千冬によって騒ぎは小さくなるが、それから間もない授業中、上の空に近い箒とセシリアへの折檻が何度も起きた。それは四時間目まで続いていた。終わった頃には箒とセシリアは「一夏のせいだ」と言う始末。
理不尽だと内心思う一夏は共に三人で食堂に訪れた時、一つのボックス席から栗色のツインテールが一夏達を呼ぶ。そこに足を運ぶと、鈴音の他に龍馬もいて、無言でから揚げ定食を頬張っていた。
食事中の龍馬を不快にしてしまわない様に、一夏達は同席する。その席で、一夏は箒とセシリアに鈴音の紹介を始めた。
曰く、小4の終わりに箒が転校して、小5になった時からの幼馴染であること。曰く、中学2年の頃に中学へと引っ越したとのこと。
「成程な。私は一夏の幼馴染の篠ノ之箒だ」
「よろしく、アタシは鈴音よ。鈴でいいわ」
「私はイギリス代表の――」
「あ、アンタはいいわ」
「なっ、それはどういう訳ですの?!」
「どーでもいいじゃないそんな事それよりも…」
セシリアを軽くあしらう鈴音は、箒の胸に注目する。視線に気づいた箒は腕で防ぐと、何処か勝ち誇った様子で鈴音は語る。
「貧乳は希少価値、いわばステータスなのよ?デカいだけが良い訳じゃないのよ!」
堂々として語った鈴音。その勝ち誇った様子に、から揚げ定食を完食した龍馬が評価する。
「へぇー、テメェいい度胸してんじゃねぇかよ。少なくとも、入学したころのそこのオルコットよりかは好感持てるぜ」
「あら、アンタ思ったよりいいやつじゃないの」
「だが、テメェも俺の敵だ。倒すべきのな」
「受けて立とうじゃないのよ。アンタ、名前は?」
「俺か?俺の名は……」
待機状態のゲッターを煌めかせ、口角を吊り上げて静かに、そして強く龍馬は名乗る。
「流音……流音龍馬だ!」
次 回
と
隼人を出した瞬間から一気に進みました。
達人さん?
彼が生きてるかどうかは、今はお答えできかねます。
元気?
達人と同じくお答えできかねます。
次回の投稿も未定です。
ご感想ご指摘お待ちしております。
これからも応援よろしくお願いいたします。