真インフィニット・ストラトス~学園最後の……日?~ 作:バルバトスルプスレクス
さて、どの位置でどの状態で元気ちゃんが出せるかどうか……
浅間山の
思えばあの時が幸せの絶頂だったのかもしれない。隼人はロケットを閉じ、首に提げる。
「隼人、少し話がしたいんだが……今大丈夫かな?」
感傷に浸っている隼人に、一人の男が声を掛ける。その男は髪をオールバックに整え、ポロシャツにジーンズと言ったラフな格好の上に白衣を纏っていた。バイザー型のサングラスの下は両目とも縦に真っ直ぐの傷跡が残り、眼球にも同じように傷が走っていた。
「達人さんどうしたんですか」
その男、早乙女達人は視力を失っても尚目の前が見えているのか、躓くことなく隼人に近づいて行く。
「龍馬の行ってる……IS学園だったか?そこで無人機の襲撃があったらしい」
「恐らくは篠ノ之束の差し金でしょう。それが……?」
「先程龍馬から連絡があった。『倒し損ねた……』と」
その一言で、隼人は見事に拗ねているだろう龍馬の様子が目に見えていた。
しかし達人が伝えたかったのはその事ではない。彼から隼人に手渡された資料。そこには現時点でのゲッターのデータが事細かに記されており、ゲッター1、ゲッター2、そしてゲッター3などの戦績も記されていた。上級生との対戦のみ苦戦はするものの、結果からすれば龍馬の勝ち星で終わっている。それを見ていて機嫌が些かよくなった隼人は達人に目を向ける。
「予想通り……いや、予想以上の成長ぶりですね」
「キミもそう思うか。だとすれば……」
「しかしあれは……、あのゲッターは………まだ二次移行を済ませていません。早計すぎますよ」
「だが、予定通りだ。恐らく近々……
達人のその一言。たった一言が、予言の様に隼人は感じた。
***
龍馬は、ただ単純に拗ねていた。
龍馬は、ただ単純に暴れたりていなかった。
紆余曲折合ってクラス代表トーナメントに起きたアクシデント。初戦の一夏対鈴音戦において謎の黒いISが乱入し、大きな騒ぎになった。この騒ぎに乗じ、龍馬は逃げまどいパニックに陥っている女子生徒たちの波をかき分け、ピットへと走り出す。その道中に、血相を変え一心不乱に走る篠ノ之箒と遭遇したのだが、龍馬すら眼中にないのかそれとも気が付いていなかったのか、押し飛ばしてピットに駆けだしていた。
そんな事があったせいで、龍馬は一度としてその謎のISと交える事は出来なかったのだ。
獲物を先に、それも憎たらしくて仕方がない一夏に倒され、ますます龍馬の機嫌は損なうばかりだ。
しかし、始業時間にもなると流石の龍馬も無理に自分を落ち着かせ授業に臨む。
「…えーっと……今日は皆さんに、新しいクラスメイトの紹介をします。それも二人ですよ!」
やけにやつれている山田真耶が今日も職務をこなす。そんな彼女は龍馬ら一組の生徒にそう言った。
つい先日、二組とはいえ中国から凰鈴音中国代表候補が転入してきたばかりで日は浅い。しかも一組に、それも二人の転入生は誰もが疑問に思う事。恐らく龍馬たちと同じく四月から入学するはずが、自国での何らかのトラブルによって、入学から二か月近く経った今日になって
その転入生は真耶の指示に従って教室内に入って来た。
一人はブロンドの、もう一つはプラチナブロンドの髪色をしていた。
「シャルル・デュノアです。ISが扱える三人目の男子と言う事で、急
そう名乗ったブロンドヘヤーの彼、シャルル・デュノアの容姿に、龍馬疑いの目を向けていた。同じ年齢の男子にしては華奢過ぎる上に声も些か高い。周囲の女子生徒や織斑一夏は龍馬の様に疑う事も無く、一人の男子としてシャルル・デュノアを見ていた。
続けて、学園の制服を軍服の様に改造したプラチナブロンドの女子生徒が自己紹介を始めた。
「私はドイツ軍IS部隊シュヴァルツェア・ハーゼ隊隊長のラウラ・ボーデヴィッヒだ!私は以前織斑教官からISの教練を受けていた事もあるから、皆に良いアドバイスが出来ると思う。今後ともよろしく頼む!」
眼帯を付けた彼女はそう言って、一度千冬に体を向けて敬礼する。
「お久しぶりです、織斑教官。また、貴女の下で学べる事を今まで切に願っていました」
「ああそうか。だが、ここでは私は教師だ。教官ではない」
「あ、失礼しました織斑先生!」
再度敬礼したラウラ。見る限り、余程千冬に心酔しているようにも思える。そんな彼女に龍馬は嫌悪感を抱く。吐き気がする。そしていつにも増してすこぶる気分も悪くなる。
調子も気分も最悪だ、と龍馬は今日の授業はバックレる事に決めた。一時限目が丁度グラウンドでのIS科目で、自分や一夏はアリーナの更衣室に一度向かう必要がある。それに乗じてサボろうとする龍馬だが、席から立ったその時、制服の裾が誰かに引かれた気がして視線を移動させると、そこには本音がいて半目で睨み続けていた。
「ながねん、サボっちゃだめだよ~」
半目で尚龍馬を見つめる本音。振り解こうにも力技では簡単には抜け出せない様に龍馬の制服の袖を握っている。無理に引きはがせば制服の袖が破けてしまう事は明らかだ。もしくは破れた反動でまた面倒な事が起きるやもしれん。
仕方なく観念した龍馬は一夏とシャルルに続くように教室を出ると、そのままアリーナの更衣室へと向かって行った。
***
更衣室で龍馬は上着を脱ぎ捨て、ロッカーに乱雑に投げ込み制服の下に着こんでいたISスーツ姿でグラウンドへ向かうと、先に着替えを済ませていた一夏が龍馬のISスーツ姿をみて、何処のメーカーの物かを聞いてきた。正直鬱陶しいと思い始めた龍馬は無視を決め込み、更衣室を出た。
授業に出るのは億劫であると感じる龍馬だが、それは座学の時だけ。実技の授業は模擬戦があった場合相手を徹底的に相手を嬲ることが出来るから、存外積極的に取り組める。今日もそんな模擬戦が起きる事を祈りつつ、龍馬は黒髪の下から覗くぎらつかせた瞳を、快晴の空に向けた。
「さて、今日から一組と二組との合同実習が開始される。まずは……オルコットと凰の二人は前に出ろ」
実戦演習として、指名された二人はやや面倒くさげな態度を見せる。自分が見世物になるのが気に入らないと言うセシリアと鈴音の二人に千冬が耳打ちした瞬間、打って変わってやる気を見せつける。
この二人の相手は誰か。一夏では流石に相手にはならず、龍馬は論外。
その相手は今、金切り声を上げながら落下しながらこちらに向かってきた。濃緑色の装甲に身を包み、普段のゆったりとした印象が些か薄れていた一年一組副担任の山田真耶だ。そんなミサイルと化した彼女の着弾点から離れるべく、一組と二組の生徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ、龍馬も一夏を襟首を強引に引っ張って着弾点から離れる。その際龍馬は一夏を箒の胸元へ投げ飛ばしていた。この時箒から苦情が出たが特に問題はない。ややあって開始されたセシリア&鈴音対真耶の模擬戦。結果から言えば、代表候補二人が元代表候補に面白いように隙を突かれて、衝突した瞬間にグレネードを投げ込まれ爆発。
この戦闘間にシャルル・デュノアによるラファールの解説が始まっていたのだが、それが終わらぬうちの決着だった。これには龍馬のツボにきたのか腹を抱えつつも大笑い。
「あげゃげゃげゃげゃ!二人してそんだけかよ、もうちょい善戦しろッてーの」
「ほう。では流音、次はお前もどうだ?」
「俺だったらあの二人よりかはある程度イケるぜ?で、どーなんすか、山田センセ?」
真耶はそれに対し、一度千冬を見る。有無を言わせない今までに何度も見たその表情を見るに、拒否権はないと思える。いや、最初から与えられていないのだ。
「…分かりました」
半分ヤケになりながらも真耶とゲッターを展開した龍馬は向き合うと、上昇と同時に模擬戦が始まった。
先手は龍馬のゲッタービーム。一直線に伸びるその閃光を真耶は少ないアクションで避けてみせるが、そんなもの予測済みと言わんばかりに二振りのゲッタートマホークが龍馬の両手に握られていた。
「ダブルトマホーク!」
「……」
「ブゥーメランッ!!」
柄を合わせたそれが投擲されて間もなく、龍馬は再度ゲッタービームを、真耶はスナイパーライフルの引き金を引く。吐き出された二つの光線がトマホークブーメランに直撃すると、激しいスパークが生まれ眩い閃光が煌めいた。眩しさに目を塞ぐ生徒たちの上で、龍馬はゲッタートマホークを手に取り、真耶に切りかかるべく距離を詰めようとしたところで千冬から制止の声が届く。これ以上の模擬戦は時間の無駄であると判断しての事だろう。もし止めなければ授業時間終了まで続く恐れもあるからだ。
渋々龍馬はその指示に従い真耶と共に地表に降り立った。
その後は打鉄の装着起動訓練に移り、専用機持ちらを班長とする。
千冬の号令で六列に別れると思っていたのだが、どう言う訳か一夏とシャルルに生徒たちは集中し始めてしまったのだ。
「なァ織斑センセ。ゲッター3にゃあまだ見せてねぇ武装があるんだが……ぶっぱなしていいよなァ、ってかさせろよ撃たせろよ」
「やらんでいい。ほらお前たちもいつまでふざけている!これ以上やると言うなら、……単位減らされた方がまだよかったと思えるほどの補修もしくは流音の的になるかどちらかを選べ!さぁ、散れ!!」
その一言が効いたのか、はたまた千冬の背後にいつの間にかゲッター3に変形を完了した龍馬のゲッターを見たのか定かではないが、ともかくきちんとした並びに変わる。
そこからはそれぞれ滞りなく進む……はずだったのだが、一夏の所でちょっとしたハプニングが起きた。
しかしそこは、龍馬のゲッター3によるミサイルストーム(未遂)で鎮圧された。
***
その日の夜。龍馬の部屋に一夏が訪れた。話を聞いてほしいと言う事なのだ。いつもなら話のはの字も聞かない龍馬だったが、退屈だったのと無下にしたらまた面倒な事になるかもしれないと思ったのとで仕方なく付いて行くことにした。
一夏の部屋では、ベッドの上でシャルルが顔を俯かせながら座り込んでいた。
「じ、実はな…」
「解ってるよ。そいつ、本当は女なんだろ?」
その龍馬の一言に、一夏は驚愕の表情を、シャルルは隠すだけ無駄かと言った表情をそれぞれ浮かべると、ゆっくりと自身の身の上話を吐き出した。
自分はデュノア社社長の子供なのは確かなのだが、正妻の子供ではなく愛人の子供。実の母の死後に正妻との間に子供が出来なかったデュノア社社長に引き取られ、その後に一夏や龍馬がISを動かしたと言うニュースが流れシャルルを三人目の装着者として仕立て上げ、今に至ると言う。
親が子供をモノとして扱う云々の一夏に、何も言わないシャルルを見て龍馬は短く溜息をついた。
「そんで?」
龍馬の吐いたその一言に、一夏は激昂し胸ぐらに掴みかかった。白けた表情をする龍馬に対し、一夏は感情を高ぶらせており、頭に血を登らせていた。
「そんでって……流音、お前それでも人間か?!シャルルは、望まれもしないのに親の道具になってこんなスパイみたいなことをさせられてるんだぞ!こんなの……こんなの間違ってる!」
「それはテメェの主観だ、価値観だ!ンなもん俺に押し付けんな!不幸自慢大会ならよそでやれ!」
「でも、俺たちは仲間だろ?仲間だったら助け合わないと!!」
「仲間…?」
「ああ、俺たちは男でISが乗れる。だから仲間だ!だったら、一時的に男にさせられていたとはいえ、シャルルだって仲間だ!!」
強く、迷いなく一夏は叫ぶ。しかし、相対する龍馬は表情を変えずに冷めた目で一夏を見下しており、「だから?」「それがどうした」とも言っているかのような龍馬のくすんだ眼は、眼前の男を捉えているのだ。
その態度が気に入らない一夏は拳を振り上げようとしたその刹那、いつの間にか視界が回って床に伏していた。殴る動作に入る前に、龍馬に掴まれて組み伏されていたのだった。その龍馬は一夏のあっけなさに呆れ、どうせだから、と自分も過去話をしようと壁にもたれてあの時の事を思い出していた。
「あれは忘れもしない、十年近く前の出来事だった。その日、世界で衝撃的事件が起きたその日におふくろが死んだんだ」
***
ラウラ・ボーデヴィッヒは部屋にたった一人で座禅を組んで精神統一をしていた。そんな彼女にはある迷いがあった。この精神統一はそれを払う為の物なのだが、母国を発つ際に上官から受けた命令が内容が内容なだけに、彼女の心を不安定にさせる。
命令は、織斑千冬をドイツ軍のIS部隊育成の為の講師として再度引き入れる事だった。
その上官は千冬のシンパであり、誰の目から見ても分かり易い女尊男卑派の女性士官だ。以前千冬がドイツ軍に一年教官として出向いた際にいたく感激しており、その後千冬がIS学園の教師になったと聞いた際には自分のモノでもないのにもかかわらず、訳の分からないヒステリーを起こしたそうだ。
しかし、それでもラウラの上官だ。軍人たるもの上官の命令には従わなければならないし、幾つもの小隊を纏めている事もあって、その情感は決して無能と言う訳でもない。
だが、IS学園では基本的に国家や組織の干渉を例外を除き受け付けないスタンスを通しているし、ラウラ自身千冬から指導してもらった恩はあれど、彼女の所属にとやかく言う筋合いも無い。
だから迷う。
上官の命令を無視すべきか、実行すべきかを。
答えを見つけるべく、黙々とラウラは座禅を組んで精神を統一していたのだった。
次回
偽
り
の黑き刃
はい、今回出た達人さんは偽書ゲッターロボダークネスの達人さんでした
投稿から数日から数週間経ちましたが次回のサブタイを後書きに書いてしまったのを本日5月24日に修正致しました。
さて、元気をどう出すか