真インフィニット・ストラトス~学園最後の……日?~   作:バルバトスルプスレクス

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無敵で残虐で暴れっぱなしの主人公でも敗北はします


偽りの黑き刃

 

 それは奇しくも、あの白騎士事件と同日のこと。

 その日、龍馬は両親と三人でバスツアーに参加していた。龍馬の父・壱厳(いちがん)、母・由紀(ゆき)の二人が久々に休みが取れたと言うので、当時幼かった龍馬も嬉しがり前日の夜も眠れなかった。

 海岸線を走るツアーバス。参加者には龍馬たちと同じ家族連れやカップル、更には気の合う友人らしき人物たちが談笑し合い窓の外の流れる景色を眺めていた。

 楽しい楽しいバスツアー。今日はいい思い出がたくさんできるかもしれない。だがそれは、最悪な形で幕を引いたのだった。

 最初に異変に気が付いたのは龍馬だ。バスの車窓の向こうに見える水平線を父と眺めていたところ、空に人が浮かんでいるのが見えた。見間違いか、と龍馬は思ったが徐々にバス車内の乗客も添乗員も空に浮かんだ人……後に白騎士と呼ばれるISと操縦者に目を奪われる。

 誰かが声を荒げた。海の彼方から白い尾を引いて空を駆ける大型のミサイルが見えたからだ。

 パニックに陥る乗客。それを必死になって宥める添乗員。バスの運転手は状況報告の為に無線を使うもノイズが酷くこの事態を伝える事が叶わない。

 しかし、ミサイルは白騎士の手に携えられた剣によって悉く切り捨てられていく。

 一体何が起きているのだろう。幼い龍馬は目の前の光景がどこか、特撮番組の一つの様に思えた。

 ミサイルの破片がバスに直撃するまでは。そこで龍馬の意識は一瞬の内に遠退いた。

 気が付いた龍馬がまず目にしたのは、雲一つない青い空だった。

 つい先程までバスの中で居た筈だ。なのにどうして青い空が見えるのだろう。やがて龍馬は自分が仰向けになっている事に気が付いた。では何故自分は仰向けの姿勢になっていたのだろうと疑問に思いつつ身を起こして視界に入った光景を見て幼い龍馬は絶句した。

 赤い炎をあげたバスの残骸、人が焼ける嫌なニオイ、半死半生の乗客たち、そして最後に目に入った光景は当時の幼い年頃の龍馬にとっては衝撃的すぎていた。

 体の一部が炭化して息絶えた母を抱き寄せて呆然と顔を俯かせる父の姿がそこにあったのだ。

 今日は楽しい一日になるはずだった。はずだったのにどうしてこうなったのだろう。

 ふと見上げた先。虚空に浮かぶ白騎士の姿を、龍馬は敵意に満ちた目で捉えていた。

 

 

***

 

 

「それから親父は人が変わったようになっちまってな、小さな俺に空手を仕込んだんだ。小ィさな手がグローブみてぇに真っ赤に腫れたら塩水につけたり、腹空かせた獰猛な犬とサシで戦わせたりした」

 

 龍馬の口から語られた彼の過去に、一夏とシャルルは衝撃を受けていた。龍馬の父親が彼に施してきたことは勿論、その原因たる白騎士事件は当時、負傷者は出ても死者は誰一人として出なかった。だが実はそれは、一夏達が知るそれは、その真実は当事者だった龍馬からすれば全くの出鱈目だったのだ。

 では何故龍馬が実際に見た事実と一夏達が聞いた事実がこうも食い違っているのだろう。その理由が今、龍馬の口から明らかになった。

 

「事件が大きくならかったのは、それだけじゃねぇ。そん時の添乗員は事故で顔を負傷してな、結構ひでぇ傷だったそうだ」

 

「それで……、それでどうなったんだその添乗員さんは?女の人……だったんだろ」

 

「ま、まさか…」

 

 シャルルは感づいていた。白騎士事件によって引き起こされたバス事故。決して少なくない死傷者を出しながらも今日この日まで大きくならなかったその理由を。

 

「事故で顔にでっけぇ傷が出来た乗務員は主義者連中から言われてたみてぇなんだ。整形手術と引き換えに、事の原因をバスの運転手の責任だって事にしろってな」

 

 そう言い切った龍馬の表情は恐ろしく、歪んでいた。忌々し気に当時の事を思い出しているのか、歯噛みし更に握り拳からは流血するほどにその怒りの程を顕わにしていた。

 その様子から、周りから鈍感だ朴念仁だと陰で言われている一夏ですらも、当時の龍馬の感情すら感じ取れた。

 

「そん後は色々合ったけどよ、思い出すだけでもイラつきヤがらぁ…。で、次は誰の番なんだ?」

 

「誰の…番って……お、おい龍馬お前、何言ってんだよ…」

 

 先ほどまでの龍馬の話を聞き終え、最後に彼が言った言葉にシャルルは引っかかった。

 誰の番?一体何の事なのだろう。シャルル自身、もちろん一夏さえも次の龍馬の一言は予想できなかった。

 

「あ?何だ、今不幸話自慢大会やってんじゃねぇのかよ」

 

「だ、だから何を言っているんだ龍馬お前ぇっ!仲間じゃねぇのかよ、助けねぇのかよ!」

 

 突然龍馬の胸ぐらを一夏は両手で掴みあげる。

 シャルルの身の上を不幸自慢だと言ってのけた龍馬。彼のシャルルに向けるその目が、一夏はとても気に入らなかった。母親には死なれ、父親には会社の為に利用され、正妻からはぶたれてシャルルは憔悴しきっていると言うのに。何故この男はそういうのだろうか。

 一夏の手に力が増していく。しかし、龍馬はその手を何事も無かったかのように軽く払いのける。

 

「良いか織斑、てめーはさっきから色々と勘違いしてやがる」

 

「勘違い……だって?!」

 

「さっきの話で、デュノアはてめーに『助けて』って言ったのか?言ってねぇよな、てめーが勝手に同情して助けてやってるだけじゃねぇかよ。さっきも言ったろ、テメェの価値観を俺に押し付けんな」

 

 言われて初めて一夏は気が付いた。

 確かに彼女の、シャルルの話には『助けて』の一言が無かったことに。更に言えば、自分の置かれている状況に対し、打開しようとも抗おうともせずただ現状に流されるままで這い上がる事も、流れに逆らう事もしない。

 自分は不幸だ。ならば助けられて当然だ。彼からは、否彼女からはそれしか感じられなかった。

 龍馬の眼から放たれる視線は、何時に無くとても冷たく感じた。一夏もシャルルも、それ以上何も言わなかった。

 

 

***

 

 

 それから、一夏とシャルルの部屋でのやり取りから数日。アリーナにて鉢合わせとなっていたセシリアと鈴音は、共に一夏に対して好意の感情を向けている為、どちらかが一夏のタッグパートナーになるかを模擬戦の勝敗で決めていた。

 戦況はセシリアにやや軍配が上がっていた。このまま続けていれば一夏のタッグパートナーは決まりだ、とほくそ笑む。龍馬戦で敗北を喫したセシリアはその日以来奢らず、慢心せずに今日まで腕を磨いてきた。

 相対する鈴音も、一夏を想うその一心だけを胸にたった一年と言う短期間で祖国中国の代表候補の座を勝ち取った、努力型の天才だ。勿論腕に自信が無い訳ではない。

 徐々に互いの実力を認めていく二人。しかし、やはり自分には敵わないと思えてしまう相手がいるのだと嫌でも実感してしまうのだ。

 

「おりゃあああああっ!!」

 

「ぬうぅっ!」

 

 それこそが流音龍馬とラウラ・ボーデヴィッヒの二人なのだ。この二人は自分らとは違いあまりにも規格外に強いのだと。

 野性的、本能で戦う龍馬は分離と合体を繰り返し、ゲッター1の火力、ゲッター2の高機動、そしてゲッター3の防御力を巧みに使い、軍人であるラウラを追い詰めていく。

 理性的に動くラウラは龍馬の猛攻を捌きつつ、プラズマ手刀やペンデュラムブレードを使用するもやや防戦気味だ。

 

「ゲッタァァビィィィっム!!」

 

「くっ!」

 

 ゲッター1の必殺技たる高威力の荷電粒子砲ゲッタービーム。光の奔流が生まれ、アリーナの地面を削り取りながら真っ直ぐにラウラへと向かう。

 紅く輝くその光はこの学園で幾度となく放たれた文字通り必殺光線。ある者は顔面に、ある者は零距離、そしてまたある者は全方向からトマホークでの反射を受けて敗北している。相手が二年三年で実力が上であっても、決め手はいつもゲッタービームで仕留めていた。

 事前にその事を知っていたラウラはそれを紙一重で避けるのだが、掠っただけでも四割以上のシールドエネルギーが削り取られた。

 

「へっ、俺のゲッタービームを躱せたのがテメェが初めてだ!」

 

「……そうか」

 

「これが駄目ならコイツだ!オープンゲット!!」

 

 ――――チェンジゲッタァァァァッ、ツゥッ!!

 

「また高速形態か……」

 

「ああそうだ!現状のIS以上のスピードをテメェに見せてやんよ!ドリルッ…アタァァァァック!!」

 

 ゲッター2の一番の特徴たる左腕のドリルが撃ちだされ、ラウラはそれを右腕を掲げてそれを止めた。

 慣性(アクティブ)停止(イナーシャル)結界(キャンセラー)。通称AICと呼ばれるそれは言うなれば金縛りだ。対象に意識を集中する必要があるが、一対一の状況下であれば無敵を誇るそれは、複数体を相手取るときは打って変わって使い難いものになってしまう。だが、龍馬はそんな物を意に介していない。

 

「ゲッタァァクロォォ……ドォリルッ!!」

 

 三本の鉤爪の様なクローアームがドリルの様に高速回転し始め、いつの間にかラウラの後を取った龍馬が右腕のクロードリルを突き立てた。ガリガリと削り取られていくシュヴァルツェア・レーゲンの装甲とシールドエネルギー。それに伴いラウラの身体に衝撃が走る。まるで本当に自分の身が抉り取られるかのように、削り取られるかのように体中が痛む。

 ハイパーセンサーでラウラが見た龍馬の顔は、ヒトと言うよりもケモノのそれに似ていた。相手をいたぶる事を躊躇わず、ただ己の欲を満たさんがためにその牙を剝きだして獲物を仕留め、嬲る。それが龍馬の戦い方だ。

 

「流石ドイツの代表候補と名乗る腕前ですわね。あの龍馬さん相手にあそこまで立ち回れているなんて」

 

「同感よね」

 

 赤い悪魔と漆黒の兎。その二人の戦いを見ていた二人は、今の自分達ではどうする事も出来ない程実力が上であることを思い知った。

 

 

***

 

 

「ふざけんな!一体全体、そいつはどういう事だって言ってんだよ!!」

 

 日が暮れて間もない頃のアリーナと寮を繋げる通路。そこでラウラとの模擬戦を終えた龍馬に下されたのは、タッグマッチトーナメントの出場禁止命令だった。彼にその事実を伝えた真耶は龍馬の剣幕に一瞬怯えつつも更に続ける。

 曰く、ゲッターの性能、龍馬の技量と態度などを鑑みた運営委員会から、出場してしまえば相手を一方的に嬲り屠る上に最悪相手を死なせてしまう事は想像に容易い為、龍馬の出場は認められないと決められた。

 無論龍馬は納得する訳もなく握り拳を作り出して怒りのほどを見せつける。爪が手の平に食い込み、皮と肉を破って鮮血が流れ出す。しかし真耶は臆することなく続けるが、龍馬は尚も反抗する。

 

「と、とにかく流音君が出たら相手は…!」

 

「なもん知るか!センセもわかってんだろ、ISってのは兵器だ!使い道によっちゃあ手前の命すら簡単に奪える代物だ!だがな、連中はそこを分かっちゃいねぇ!!だからこそ実感させる。手前ぇが使ってるそれがどれほどのモンか知らしめてやるんだ!この俺が!俺自身がなぁ!!殺される覚悟もねぇ奴らが人を殺す機械に乗るなんざ片腹いてぇってんだ!」

 

「…そんなに出たいのか?」

 

 激昂する龍馬を振り向かせたのは、腕を組んだ龍馬にとって見知らぬ女性教師だった。彼女は真耶に代わって龍馬と相対する。

 

「流音、もう一度聞く。そんなに出たいのか?」

 

「ああ、出たいね…」

 

「さっ、嵯峨野(さがの)先生も何か言ってくださいよ…」

 

 嵯峨野と呼ばれた女教諭はぼさぼさの栗色の髪をかき上げ、龍馬を見た。彼女は学園のトーナメントの運営に携わっている一人。故に、龍馬が今どう言う立場かさえも理解している筈だ。

 しかし、嵯峨野の次の言葉に、真耶は唖然とするしかなかった。

 

「……そんなに出たいなら、私のほうから打診しとくよ。ただアンタに対して何らかの制限が掛かると思うが、それでも構わないね?」

 

 これには龍馬も納得した様子で口角を吊り上げる。

 

「それで構いやしねぇさ。こちとら暴れたくてうずうずしてたところだったんだからな。ひゃーっははははははははははは!!!」

 

 高笑いしてその場を去る龍馬とは裏腹に、真耶は今度は嵯峨野に詰め寄って抗議をするがそんな嵯峨野にとってささやかな抵抗は無意味に等しく、結果は変えられなかった。

 

 

***

 

 

 大会当日。アリーナの観客席からは歓声と言うよりも、どちらかと言えばヤジに近いそれに包まれていた。

 龍馬はゲッター1の状態で展開。現在の武装は肩に担いだトマホークのみで、自分を包むヤジと上空で待機している数十組のペアの今大会の出場者達を一瞥する。

 龍馬の役割は、このタッグマッチトーナメントの出場生徒達を振るいにかけると言う物だ。相手をするのはペアが見つからず今日を迎えてしまった参加者達。制限時間三時間以内に参加者達が偶数人残っていればトーナメントに参加できる。のだが、龍馬だけ残った場合或いは奇数人残った場合は特例として龍馬の参加が認められるというのだ。

 今回彼に課せられるハンデは、ゲッタービームと分離合体(オープンゲット)からの各形態への再合体及びゲッタートマホークの射出は使用禁止ではあるが、武装の強奪はトマホークが破損した場合のみとなっている。

 かくして始まるこの予選会。先に動いたのは、上空で止まっていた女子生徒達だ。

 あらゆる角度から、あらゆる武器で、あらゆる距離から龍馬に攻撃を仕掛ける。

 まず一人目が龍馬に近接ブレードを振り下ろすのだが、軽くいなされ文字通り足蹴にされた上にトマホークの鉄球部分を頭部に叩き付けられた。この時点で一人が脱落。

 

「まずはぁ……一匹ィっ!」

 

 更に三人が接近。それでも龍馬の猛攻は止まらない。一人は顔面を踏みつけられ、一人は別の操縦者に叩き付けられたあと纏めてトマホークで切り付けられた。開始十分も経たずに既に四人が戦闘不能状態に陥っていたが、それでも上空から他の出場者達が龍馬に迫り続ける。

 ある者は正面から、ある者は左右から挟み撃ちに、またある者は上下に背後から手にした剣の切っ先を、銃口を龍馬に向ける。

 

「しゃぁらくせぇぇぇぇっっ!!!」

 

 だが、それでも龍馬に与えられたのはほんのかすり傷程度。果敢に攻める彼女たちは次々に、叩き伏せられ、踏み付けられ、沈んでいく。

 少し離れた所で待機していたラウラと箒が、果敢に攻め続ける女子生徒たちの特徴に気が付いていた。

 元々人付き合いが上手とは言えないこの二人も、他の女子生徒達と同じようにペアが見つからなかった。

 

「……やはり頭に血が上り過ぎているな」

 

「ボーデヴィッヒもそう思うか。所謂主義者連中だろうな」

 

 つくづく姉の所業に悩む箒ではあるが、彼女とてこのままじっとしているのは性に合わない。

 打鉄の主兵装であるブレード『葵』を無意識の内に強く握っている箒には目的があった。しかし、目の前の龍馬と言う障害が、壁がある以上痛み無くして遂げる事は出来ない。

 

「落ち着け篠ノ之。今行けば確実にやられる」

 

「分かっている……だが!」

 

「私は落ち着けと言った。お前の言いたいことは分からなくもない。確かに攻めなければ流音は討ち取れないだろう。しかし、闇雲に行っても他の操縦者たちの巻き添えを喰らってしまう。ここは複数人で連携を取るんだ!」

 

 そう言ったラウラは生き残っている操縦者たちに呼びかける。

 

「皆、闇雲に攻めても意味はない。ここは連携を…!」

 

 しかし、そのラウラの言葉に耳を貸したのは、残存の四割以下で見知った顔が殆ど。それ以外は自分優先と言わんばかりに龍馬に迫るだけで耳を貸さない。

 今も一人、また一人と龍馬の手によって沈められる。真紅のその身に五人以上が組み掴まれても、龍馬はそのままの状態で宙を舞いながらトマホークを振るった。二度三度振るった所でしがみついていた五人は吹き飛ばされ、そのまま龍馬の餌食にされてしまった。

 

 

***

 

 

「愉し愉し。あー、愉し。しかし龍馬の奴、意外とてこずってるのぉ。ひひ、いーひひひひひひひひ……!」

 

「だが、あれだけのハンデを背負わせておいて、未だに龍馬を落とせんとは……所詮は未熟者の産物と言う訳か」

 

 招待席にて観戦する敷島充蔵と早乙女賢造はそれぞれの感想を述べていた。後ろで控えている隼人と達人も老人たちと同意見だ。

 彼らの最高傑作とも言えるゲッターと、それに追随するようその身体を極限にまで鍛え上げさせた流音龍馬。この二つが一つになった瞬間、誰にも追いつけない比類なき強さを魅せ付ける。しかし、まだ()()のゲッターと龍馬の状態ではブリュンヒルデはもとより、学園の生徒会長を圧倒することは難しい。

 

「ゲッターが目覚めるのが早ければ今日のはずだ…。そうでなくともその兆しが見えてもおかしくない」

 

 達人が言った。彼の眼は既に機能を失ってはいるが、それでもゲッターと龍馬の息吹は感じられる。だからこそわかる。ゲッターの生みの親よりもその成長具合が直感的に感じられていた。

 彼らの眼下ではまたゲッターがまた一人を打ち倒していた。

 

 

***

 

 

「オラオラオラァァッ!!!」

 

 たった一本しか使えないトマホークが折れても気に留めず、無力化した相手からブレードを奪い取って自らの得物として別の参加者の一人に切りかかる。

 残り時間も残りの人数もあと僅か。箒たちの顔に焦りが見え始めるものの、対する龍馬はいつもの様に獣の様な笑みを浮かべるだけ。

 

「私が先行する!」

 

 ラウラがそういうと同時に、箒たち残りの参加者はラウラの援護に回るか、龍馬を引き付ける囮になるかに別れた。囮になる方はあくまで注意を引き付けるだけで良かったのだが、そう簡単に龍馬の注意がそれる筈もなく、軽くあしらわれてしまった。

 対峙する龍馬とラウラ。ぶつかり合うブレードとプラズマ手刀がスパークを起こし、他の介入を拒んでいるように見えた。

 

「おらぁ!」

 

「くっ!!」

 

 二人が鍔迫り合いになったその瞬間、箒たちがブレードやグレネードで龍馬を狙う。ラウラもそれに感づいており、自身にも被害が及ばぬように離脱を図る。

 彼女たちの目論見通り、龍馬に斬撃と爆発によるダメージを徹底的に与えることが出来た。攻撃の度合いはすさまじく、発生する煙によって龍馬の姿こそ見えない。見えないのだが、ハイパーセンサーを通してみた彼女たちの表情は明らかに良いとは言えない。

 

「ちったァ効いた……効いたけどよぉ…」

 

 シールドエネルギーが半分以上減らされているにも拘らず、口角を吊り上げた龍馬はゆらりと立ち上がって周囲を一瞥する。

 制限時間はこの時点で既に三分の一を切っていた。残り参加者はまだ奇数。このまま時間が過ぎれば、龍馬の参戦が決定してしまう。そうなれば彼と相対する女子生徒たちは良くて再起不能、悪くて……。

 最悪な事態が容易に想像できてしまう彼女たちはそれぞれ意を決し、玉砕覚悟でラウラや箒の制止の声を聞かずに突撃する。

 相手は手負いの状態で、上手く攻めればもしかすれば勝てるかもしれない。

 そんな思い込みが生じた彼女たちは、龍馬に果敢に攻めるもあえなく撃沈されてしまった。

 手負いの状態の筈のゲッター。だがしかし、龍馬の眼は鋭さを保ったままだ。

 

「テメェら死ぬ気でかかって来やがれってんだ!!」

 

 握り拳を作り、見上げて彼は叫んだ。正に鬼神と評するに値するその形相を見て、次々と生き残った参加者たちはさらに戦意を喪失し、遂には恥じなどを捨てて続々とリタイアしていった。この時点で、彼女たちは本能的に悟ってしまったのだ。いや、悟らざるを得ないのだ。

 ゲッターに、流音龍馬には敵わない。マトモに戦っても、卑怯な手を使っても、どの様な手を使っても敵わない、と。

 そうして残った参加者は箒とラウラの二人だけとなってしまった。

 

 

***

 

 

 VIP席で歯噛みしながらドイツから今日のためにわざわざ来日した女性士官がラウラの様子に苛ついていた。

 彼女はラウラの上官であるアンジェリーク・アドラー少将。女尊男卑派の一人で、織斑千冬の狂信者とも言えるほどの人物で、今も尚眼下では龍馬とゲッターの独壇場である事が気に入っておらず、次いで動いているのがラウラである事に対し彼女のストレスは加速していった。

 ドイツ軍IS部隊の中では五本の指に入るだろう実力をたたき出す実力者であるラウラが、全然真逆の龍馬に押されている事がとても気に入らなかった。

 ならば、と彼女は他のVIP客に気付かれぬように懐に隠していたリモコンを操作する。

 これで安心、とばかりに胸を撫で下ろして眼下で龍馬と対峙するラウラの変化を見つめていた。

 

 

***

 

 

 一瞬の内にその変化は起きた。

 奪い取った得物も既に使い物にならず、格闘戦に移行した龍馬の拳が箒を弾き飛ばし、ハイキックでラウラのリボルバーカノンを破壊したその時だ。

 シュヴァルツェア・レーゲンの黒い装甲が液状化したかと思えばそれがラウラの全身を包み込むと、それは龍馬にとって忌むべき存在を模していた。

 

「な、何だ…何なんだこれはァッ!」

 

 装着者であるはずのラウラでさえ、現状を理解する間もなく完全に取り込まれる。操縦者の意志に反してその変貌を遂げたシュヴァルツェア・レーゲンは装備していなかった筈のブレードを手にし、構えを取っていた。この緊急事態に観客席の避難が開始された。VIP席の早乙女たちは勿論アドラーも他の観客と同じように避難を開始する。

 一方の龍馬は目の前の標的に対し、炎の如く湧き上がる怒りにその身を震わせていた。

 眼前の敵の姿こそ、現役時代の暮桜を愛機としていた織斑千冬そのものでもあり、龍馬の闘争本能を刺激するには十分すぎるほどだった。

 

「何だか知らねぇけどよぉ……姿が変わってもなぁ!」

 

 勢いよく地を蹴りだす。

 

「テメェは……」

 

 視線は逸らさず、倒すべき敵に向けて。

 

「この俺がぶっ潰す!!」

 

 拳を突き立てた。

 

 

***

 

 

「………何なんだよ、あれは!」

 

 観客たちの避難誘導を終えた一夏は偶然にも、謎の変貌を遂げたラウラの姿を見て呆然と立ち尽くしていた。

 その姿、その太刀筋、どれを取っても姉の千冬に酷似していた。それがヴァルキリートレースシステムである事を知るはずもない一夏ははらわたが煮えくり返る感覚を覚える。

 ――あれは千冬姉の、千冬姉だけの技だ!

 心の裡で叫んだ一夏は白式を展開して、龍馬と偽千冬の間に割って入った。

 

「こんのぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 怒りに駆られた彼の太刀筋は非常に読みやすく、偽千冬は勿論龍馬にすら弾かれる始末。

 

「邪魔だ織斑ぁ!テメェの出る幕じゃねぇんだよ!」

 

「邪魔はお前の方だ流音!あれは、千冬姉の偽物のあれは俺がぶッ倒す!!」

 

 何が彼をこうまで奮い立たせるのか龍馬には皆目見当は付かなかったが、どの道偽千冬を倒すには一夏をどうにかするしかない。どう対処すべきかを思案する龍馬に嵯峨野から突然通信が入った。この通信は一夏の方にも届いているらしい。

 

『良いか二人ともよく聞きな。幸か不幸か、今現在暴走ISを対処できるのはお前たち二人だけだ。しかし本来ならば教師たちが学園の量産機を用いての鎮圧に出るのだが、何者かの影響によりお前たちのいるフィールドに繋がる自動ドアが悉く封鎖されている。よって不本意ながらお前たち二人に暴走ISの鎮圧及び、今現在そこに取り残されている連中の救助を頼みたい。そして流音、既にこれは予選会ではない為、お前に課せたハンデを総て解禁する。武器の生成も変形合体もお前の自由だ』

 

 通信が終わると同時に、傷と罅が体中に目立ち始めたゲッターが二本目のトマホークを生成して、偽千冬の動きを見極めていた。

 いくら龍馬とて、真正面から無暗に突撃する程単細胞ではない。隼人やムサシとの特訓で鍛えられた「技」と「勘」で偽千冬のブレードの軌道を読みながらトマホークを振るう。

 しかし、一夏は愚直と言って良いほどに突撃し、面白いように読まれては偽千冬にあしらわれ、その度に龍馬に足場にされる。

 

 

 

***

 

 

 

 管制室で嵯峨野の通信が終わると同時に、彼女の後で真耶と千冬が詰め寄って抗議する。

 しかし、対する嵯峨野はそんな二人の事などお構いなしに、アリーナの激闘に視線を戻す。

 

「一体何が不満だと言うのですか山田先生?」

 

「不満しかないですよ嵯峨野先生!このままじゃあ……このままじゃあボーデヴィッヒさんが…!」

 

「この程度の事で死ぬくらいなら、いっそのこと死なせたほうが本人にとって幸せだろう」

 

 冷たく言い放つ嵯峨野の言い分に、千冬と真耶は絶句する。教師である人間が、教え子に対して死なせると言うのだ。その発言は教師であるならば決して発言してはならない言葉だ。

 

「しょ、正気ですか?!まだアリーナには退避していない脱落者の生徒の皆さんが居るんですよ!」

 

 真耶が嵯峨野に詰め寄って肩を掴んで揺らす。本来のおっとりおどおどとしたイメージとかけ離れた鬼気迫った真耶の表情を、嵯峨野は対照的に冷めた表情で言った。

 

「紛い物の力に振り回されている上に暴走を引き起こしている。今のあれは、破壊兵器であって生徒ではない。違うか?」

 

 もう話は通じないと真耶は嵯峨野を掴んでいた手を離すと、わき目もふらずにラウラを救出すべく、勢いよく管制室を飛び出した。

 千冬も真耶の後を追おうとするのだが、ふとした疑問が足を止めさせた。

 

「嵯峨野先生。先程貴女は『死なせた方が本人にとって幸せ』と言っていましたが、一体それはどういう意味なんです?何故幸せなのか、お答え下さいませんか?」

 

 振り向きざまに嵯峨野に問いかけるが、答えは返ってこない。尚も嵯峨野はアリーナの激闘にだけ意識を集中させていた。これ以上の会話は無理だと判断した千冬は自らもラウラ救出のために真耶の後を追った。

 一人残された嵯峨野は内ポケットに隠していたロケットを取り出して強く握り締めた。

 

「あんな紛い物……総て壊れてしまえばいい。それが何であれ、理解しきる事もせずに悪戯に力を振るうから………だから頼むぞ、流音」

 

 

 

***

 

 

 

 二本のトマホークの柄を合わせたダブルトマホークの投擲攻撃が避けられると、ゲッタービームの奔流がトマホークを反射して偽千冬を狙う。攻撃が迫るとオープンゲットで分離し、ゲッター2の高速戦闘かゲッター3の堅牢さを活かした肉弾戦を繰り返していく龍馬。邪魔になってる一夏を片手間に払いのけながら、ゲッター1の状態に戻り、新たにゲッタートマホークを生成して呼吸を整える。

 戦闘スタイルはまるで違う物の互いに相手を圧倒するのに充分過ぎるほどの力がある事が見て分かる。だからこそ織斑一夏は歯噛みする。

 唯一にして無二の家族である姉の紛い物を倒すどころか触れる事すら許されず、龍馬に阻害されて自身の刃すらも届かない。頭に血が上り易い一夏は何度も何度も果敢に攻め続けていく中で、白式のシールドエネルギーの消耗に気が付かず、龍馬に払われると同時にシールドエネルギーは底を突いて白式は強制解除された。

 生身でアリーナの地に横たわり、龍馬と偽千冬をただ見ているだけの自分が許せない一夏は立ち上がり、拳を振るって駆けだすが、誰かに肩を掴まれたと思えば直後に自分の顔に衝撃が走り、左の頬が熱くなっていた。

 

「ほう……き…?」

 

「……」

 

 突然の出来事にやっと冷静になれた一夏は、自分が箒に打たれたことを理解した。

 龍馬に倒された彼女は他の参加者と違って気を失う事は無かったものの脱落した事に変わりはないので纏っていた打鉄を解除したその時、ラウラの変貌を目の当たりにしたのだ。それと同時に頭に血がのぼって我を忘れている一夏が視界に入った。

 それが見ていられなくなってきた箒は尚も果敢に無駄に攻める一夏の頬を叩いたのだった。

 

「そんな丸腰のお前に何ができると言うんだ!」

 

「だけど……だけど、ボーデヴィッヒは千冬姉の姿だけじゃない、技まで盗んだんだぞ!あの技は千冬姉だけの物なのに……なのに!」

 

「だからお前が倒すと言うのか?」

 

「ああそうだ。これは俺がやりたい事なんだ。やらなきゃいけない事じゃなく、俺がやりたいから――」

 

「一夏、それはお前のする事じゃない」

 

 ぴしゃり、と箒が遮った。

 

「確かにお前にとって、千冬さんの姿どころか技を模倣された事は許しがたいことだろう」

 

「そうだ、だから…」

 

「だが、技は盗んで覚えると言うやり方がある」

 

「盗んで……?」

 

「ああそうだ。古来より芸事などで師が弟子に観察眼をも養わせるように、敢えて自らの技をワザと教えないと言う手法が存在していた。だから技を模倣することに良いも悪いも無い」

 

 しかし、それでも一夏はまだ納得しておらず、拳を強く握った。

 

「そして今、お前がすべきことは、私と一緒に他の参加者達を何処か安全な場所に避難させる事だ。下手をしたら流音とボーデヴィッヒの巻き添えを喰らうぞ」

 

 箒の言う通りだ。今も訓練機から強制解除されて、気を失っている参加者達が多かった。ここは箒の言う通りに救助活動に入るほかなかった。

 歯がゆい思いが一夏の中にあった。人命救助自体はもちろん大切な事ではあるが、この手で暴走している偽千冬を打ち倒すことが出来ない自分に苛立っていた。

 一夏は偽千冬として暴走しているラウラが気に入らなかった。姉の姿形や技を模倣した事は彼にとって許しがたいことではあるが、それ以上に気に入らないのは、訳の分からない力に振り回されて暴走している事だ。何が彼を駆り立てるのかは当人である一夏にしかわからない。

 

「二人ともお待たせ!」

 

 救助活動中の箒と一夏に、シャルルが自らの愛機ラファール・リヴァイブ・カスタムを展開して合流した。

 どうにかアリーナに侵入出来たらしいシャルルは状況を理解しているようで、同じように負傷している参加者たちを運美始める。その最中、滅多に聞く事の出来ない声が三人の耳につんざいた。

 

「ぐあっ、……ッぐぅ!」

 

 初めて見る龍馬の敗北が三人の目の前に起きていた。身体中にヒビが走っている真紅の鬼が、地に伏せて倒れていたのだ。

 アリーナはクレーターや折れたトマホークの残骸で荒れており、中央には刀身や鎧の一部が瓦解されている偽千冬が健在していた。

 龍馬が敗れた今、戦えるのはシャルルだけだが、シャルルのISでは火力不足。手数の多さは随一ではあるが、切り札である『楯殺し(シールドピアース)』を使うチャンスを、強豪である龍馬を打ち倒した偽千冬相手に見いだせなかった。決めるなら懐に入り込んだ一撃必殺。それしかシャルルは思いつかなかった。思いつかないからこそ、一夏に望みを託す。

 

「一夏、僕は無傷も同然だけど、ボーデヴィッヒさんを止める術がどうしても見つからない。だから僕のワガママを聞いてくれるかな?」

 

「シャルル…?」

 

「僕のラファールのシールドエネルギーを一夏の白式に送り込む」

 

「そんなこと、出来るのか?」

 

「出来るよ。それに、篠ノ之さんの言う通りかもしれないけど、龍馬がやられた今じゃ話は別さ」

 

 言いながらラファールの装甲の隙間から伸ばしたコードを一夏の白式に繋げて、ラファールのシールドエネルギーを転送する。

 転送が終わって、一夏は両腕と雪片弐型だけを限定展開して構えを取った。偽千冬の懐に潜り込むにはちょうどいいと判断した結果だ。残りは絶対防御の方に回してある。

 

「一夏止めろ、死ぬ気か?!」

 

 箒が言った。彼女は一夏が今やろうとしていることが、自分から死にに行くようにしか思えないのだ。

 

「大丈夫だ。死なないさ、俺は」

 

「格好つけてる場合か!何が大丈夫だ、これは漫画やアニメじゃない!現実だ、下手をしたら死ぬぞ!」

 

「なら下手をしなければ良いんだろ?」

 

「そういう意味では――!」

 

 話を最後まで聞かずに一夏は走り出した。その動きに気が付いて、偽千冬が接近する。しかし、一夏は上手いことに折れたトマホークの残骸の間を縫うように接近している為か狙いが定まらず、その上残骸によって動きが制限され、結果として白式の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)である零落白夜の一閃を喰らった。攻撃が決まった一夏の方もシールドエネルギーが再び底を突いて展開が解除された。

 裂け目からラウラが気を失った状態で吐き出され、一夏が優しく彼女を受け止めた。

 

「ったく……殴る気が失せたぜ」

 

 終わって一息ついてシャルルと箒の下へと向かおうとしたその瞬間、偽千冬と化していたシュヴァルツェア・レーゲンがどう言う訳か復活して一夏に襲い掛かった。

 もう白式を展開する為のシールドエネルギーの余裕が無い今、どうすることも無かった。

 箒とシャルルの声が一夏の耳に届くが、もうどうする事も出来ない。このまま死ぬしかないのかと、半ば絶望しかけている一夏。恐怖で目を瞑るが、いつまで経っても身を裂かれる感覚も何も感じなかった。

 恐る恐る瞼を開けると、偽千冬は満身創痍のゲッターのゲッタートマホークによって打ち倒されていたのだった。

 

「最後の最後まで気を抜かしてんじゃねぇ………よ……!」

 

 それから間もなくして、千冬ら教員たちがアリーナに駆け付けたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 その日の夕方に学園の医務室のベッドの上で目を覚ましたラウラは、千冬から自分のISが暴走した事とその顛末を聞かされていた。ラウラ自身暴走する直前、自分のISが突如変形し始めた事は覚えている物の原因が分からなかった。

 

「お前のISにはVTシステムが組み込まれていた」

 

「VTシステム……ですか」

 

 VTシステム。正式名称ヴァルキリートレースシステムと呼ばれ、過去のモンド・グロッソにおけるヴァルキリーの称号を頂いた人物とISの動きを模倣(トレース)するシステムの事。しかし、起動するための条件や暴走などのリスクが目立つようになり、各国、各組織、各企業において開発・使用・研究が禁止された曰く付きの代物である。

 

「ですが、確かあれは」

 

「お前の言いたいことは分かっている。確かにあれは操縦者の意志があって初めて起動するが、今回の場合は外部からの操作で強制的に起動した」

 

「そんな…」

 

「それとだ、アンジェリーク・アドラー少将が来日しているのは知っているな?」

 

「はい。少将から貴女をドイツ軍にスカウトしろと言われていましたが、まさか…」

 

 千冬が首を縦に振って確信した。アドラーが、上官が部下である自分を暴走させた事実にラウラは呆然としていた。

 

「確認のためにドイツ軍に問い合わせたところ、どうやらVTシステムの組み込みはアドラー少将の独断らしく、今回の事を伝えるとアドラー少将を国家反逆罪で指名手配したそうだ。幸いにもボーデヴィッヒ、お前とお前の部下たちは罪に問われないそうだ」

 

 

 

***

 

 

 

 アドラーは気が付いたら全く知らない場所で手足を拘束されていた。コンクリートの密室であること以外ここがどの国で、どの施設かも分からない。

 確か自分は部下のISを遠隔操作によって故意に暴走させて、その後は他のVIP客らに紛れるように避難して学園外に出た所までは覚えていた。しかしそこから先の記憶が全くなく、何故自分がまるで捕虜のように拘束されているのだろうと混乱する。

 

「やっと目が覚めたようだな、ドイツ軍所属アンジェリーク・アドラー少将殿?」

 

 目の前のドアが開いて現れた男にアドラーは悪態をついた。

 

「このゲスが。私が誰かを知ってのことか!」

 

「ゲスで結構。貴様をいたぶれるならば本望だ」

 

 男、神宮寺隼人は身動きが取れないアドラーに蹴りを放ち、倒れた所で頭を踏みつける。

 

「以前貴様の息がかかった団体によって俺は職場と、仲間と、愛する人を喪った。今度は貴様が全てを喪う番だ」

 

「女の私に……女の私にこんなことをして許されるとでも思っているの?!」

 

「それは貴様の方だ。貴様にはドイツから国家反逆罪として指名手配されている」

 

「そ、そんな事信じられるわけ…」

 

「貴様が独断で部下のISにVTシステムを組み込ませたこと、隠し持っていたリモコンで強制起動したことは既にドイツに知れ渡っている。最早お前に対して誰も手を差し伸べはしないさ」

 

 隼人がアドラーの眼前にその資料を叩きつけた。

 これまでにアドラーがやってきた悪事が事細かにまとめられている。どれもこれもアドラー自身が正しいと、正義であると思い込んでやってきた事ばかり。しかしそれらは純粋な正義感からではなく、歪み切ったエゴによる自己満足に過ぎない。

 軍人として幾つもの部隊をまとめ上げていたアドラーはやがて今自分が置かれている状況を理解すると、遂にはショックのあまりに失禁してしまっていた。

 地位を失い、祖国より追われる身となった哀れで滑稽な女は、その日から二度と祖国の地を踏むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回

 

 

 福 音

  と

 皇 帝




今後のストーリー展開といたしましては

福音戦以降のイベントはカット致します

福音戦の最中にゲッターのエッセンスを引き出す予定です

まぁ、次回のサブタイが答えみたいなもので
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