真インフィニット・ストラトス~学園最後の……日?~   作:バルバトスルプスレクス

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今回は長くなりましたので、急遽前後編に分けさせていただきました。

今回はゲッターでおなじみの物がいくつか登場します。


福音と皇帝 前編

 

 IS学園にて、一夏に生命の危機と言う茶番劇から翌日の早乙女研究所。その一画にある敷島充蔵のラボにはヒビや傷一つすらない修復が完了したゲッターが鎮座していた。各部分には大小さまざまなケーブルが繋がれており、データが映し出されたモニターの数値を見て子供の様にはしゃぎ回っていた。

 予想通り、いや予想以上の数値を叩き出したと言う事実に喜びを隠せないでいる敷島の隣では、何か物足りなさそうだと言わんばかりに早乙女賢造が顔を顰める。

 

「何じゃ賢造、何が面白くないと言うんじゃ?」

 

 尚もにやけて笑みをこぼす充蔵ではあるが賢造の顔を顰める理由に見当がついていた。

 

「まぁお前さんの事じゃ、どーせ例の数値が足りんとか言うんじゃろ?」

 

「ああそうだ。龍馬がゲッターを動かして既に三か月近く経ったが、未だに殻を破らないのは何故だ」

 

 手元の資料にも、モニターに映し出されたデータにも、どの情報も賢造を納得させることは叶わない。

 やはりまだ戦闘不足なのだろうか。場数が足りないのか、それとも挑んでくる相手が弱いのか。

 行き詰っているところに達人が慌ただしく二人のいる一画に駆け込んできた。一体何事かと思った賢造だったが、達人の報告を聞いた途端、ゲッターから計測されたデータと達人の報告を照らし合わせ、ホワイトボードを文字で埋め尽くしていった。

 

「そうか、そういう事か。だとしたらゲッターが何故未だに進化をしないのか、何故未だに殻を破らないのか。達人よ、今の報告は本当に間違いないのだな?」

 

「間違える物か、親父が作った観測装置だぞ。それに間違えようなものではないぞあれは!」

 

 深刻な面持ちで言い返す達人の表情は嗤ってはいるものの、何かを恐れている様にも見える。それは賢造も同じことだった。

 純白だったホワイトボードを埋め尽くしている殴り書きの文字の中で唯一アンダーバーが引かれている皇帝(・・)の二文字が、二人を恐れさせているのだ。ただ一人、敷島だけは狂気の笑みを浮かべている。

 彼らにとって来たるべき運命の日はそう遠くはない。

 

 

***

 

 

 その日の夜。龍馬は研究所の自室で眠っていた。

 今日もいつもの様に隼人やムサシの二人にしごかれて食堂でマミの手料理を頬張るという龍馬にとって充実した一日が終った。

 しかし、研究所内に響く警報を耳にして龍馬は目を覚まし、部屋を出て研究所の奥の方へと走り出した。

 着いた先は敷島のプライベートラボ。断りもなく龍馬が入室すると、部屋の主の敷島が諸手を挙げて歓迎する。

 

「待っとったぞぉ龍馬ぁ。ほーれ、ゲッターちゃんは万全じゃぞ」

 

「っとに、ジジイも準備が良いな。その様子じゃ隼人達も起きてんだろ?」

 

「連中もすでに目が覚めとるわい……で、お前さんはどうするんじゃ?」

 

「武器がいる。何かないか?」

 

 敷島がすぐそばのスイッチを押したかと思うと、書類棚が左右に割れて中から一般に流通されていないだろう特殊な形状の銃火器が飾られたラックが顔を出す。

 龍馬が直感で手にした銃を見た敷島はいつもの様に怪しく「愉し」と嗤うだけだ。

 モニターには武装した集団、恐らくは団体が雇った武装集団の類だろう。

 

「ネズミ共はワシらがまだ気づいていないと思うとるようじゃのぉ?」

 

「連中がどう攻めてこようが、関係ねぇ。真っ向から迎え撃つだけだぜ」

 

 この時既に所内の警報は止んでいる。集団を油断させる為だ。

 今この瞬間、早乙女研究所の侵入者駆逐作戦が始まるのであった。

 

 

***

 

 

 深夜と言う時間帯に暗視ゴーグルを装着した集団は、草木の間をすり抜けて早乙女研究所に近づいてきた。

 集団の目標はただ一つ。この研究所の殲滅。ただそれだけ。

 隊長格の一人がバイザーを開け、素顔を晒して部下たちにハンドサインで指示を出した。すると、隊長格を含めた集団は迷彩塗装を施したラファールを起動していた。彼女たちは女性利権委員会の尖兵。彼女たちに指示を出したのは団体の幹部職員で、IS学園に通っている姪が龍馬から一方的に暴行を加えられたとの事で龍馬と彼の所属するこの早乙女研究所の殲滅を命じたのだ。

 しかし、その実態は龍馬が一方的に暴行を加えたのではなく、幹部職員の姪にあたる女子生徒が龍馬に対しISでの模擬戦を挑んだのだが、己の力量を理解していなかったのと幾多の敗者で出来た山を築き上げた男とその専用ISの力量を侮っていたのとで物の見事に撃破されたのだ。問題の暴行に至っては模擬戦終了後の事。展開を解いてアリーナを後にする龍馬の背後に襲い掛かるも、見事に返り討ちに合ってしまったのが原因である。

 しかし龍馬に非があろうと無かろうと、その結果が今日のこれなのだが、当の集団はその様な事など知った事ではない。彼女らもまた、早乙女研究所とゲッターの存在が許せない。

 6人いる集団は三つのグループに分かれて研究所内部に侵入する。

 セキュリティーの甘さに口角を吊り上げて喜ぶ彼女たちであったが、この時はまだ知らなかった。

 侵入しやすい様にワザとセキュリティーを甘くしたことと、既に彼女たちの存在を早乙女研究所は関知していたことに。

 

 

***

 

 

 敷島のラボを後にし共に所内を歩いていた龍馬と敷島。少し歩いた所で突如、振り返って引き金を引いた。銃口から吐き出された銃弾はそのタイプに似合わず、小型の鉛玉が数十発。かくして見事にハチの巣と化した武装集団の一人は地に伏せた。別のもう一人は運よく避けることが出来、そのまま敷島を人質にとって、龍馬から距離を取った。

 

「このジジィが殺されたくなけりゃ、大人しくそのバケモノじみたチャカ捨てな」

 

 口の悪いその女性は腰元から抜いたサバイバルナイフを敷島の首元に突き立てる。ありきたりな人質の取り方ではあるが、龍馬の狼狽える様子を見てほくそ笑んだ。

 

「敷島のジジィテメェ何つーモン作ってんだよ!拳銃サイズの散弾銃なんてあるか普通!!」

 

「なぁにを抜かすか、現に一人ハチの巣に出来たじゃろ!それにほれよく見ろ。挽肉よりも挽肉らしい死体じゃ、中々にげーじつ的じゃぞ?これでハンバーグでも作るかの?」

 

「うるへー!言ってる事が末恐ろしいんだよ!!待ってろよジジィ、今そのアマ諸共ハチの巣にしてやらぁ!!」

 

 思っていた展開の違いに戸惑いの表情を浮かべながらも、女性は龍馬から一歩一歩離れながらも敷島を人質にしたままだ。

 言い争ったとは言え敷島は人質だ。その人質がいる状態とは言え安易に引き金は引かないだろう。

 しかし、その女性の予想を大きく裏切る事態が起きた。

 

「引けぇ龍馬!その銃でワシごとこの女を撃ち殺せぇ!!」

 

「なっ!何言ってんだ糞ジジィ!!脅しのつもりなら効かねぇんだよ!!」

 

 この老人は自分ごと殺せと叫ぶのだ。

 これはハッタリだ、そうに違いない。女性はそう自分に言い聞かせながら落ち着きを取り戻そうとするが、この瞬間、人質にする人間を間違えた事を実感してしまった。

 

「貴様こそ何を言うか!これが脅しだとぉ?これを脅しと言うなら、ワシのこの顔を見ろ!この嬉々として狂い咲いたこの顔を見ろ!苦節ウン十年、ワシはこの瞬間を待っていた!!ワシは、ワシはのう……自分の作った兵器で殺されるのが夢だったんじゃ!この様に窮地に立たされている上で(むご)く醜く死ぬのが!さぁ、撃て!撃つんじゃ龍馬ぁっ!!撃って、撃ってワシの、ワシの積年の夢を叶えてくれぇぇっ!!」

 

「あいよジジィ。ついでだ、リクエストにも答えてやるぜ?何処をどう撃たれてぇんだ、言ってくれよ」

 

「ふむ、そうじゃのう。まず頭は半分くらい残して、脳味噌が散らばるくらいにぶっとばしてくれ。でじゃな、その様子を写真に撮ってワシのラボの机にアルバムがあるからそれに載せてもらえるかの?アルバムは机の一番下の引き出しの中にあるはずじゃ」

 

 相手をしていられるか。抱えていた敷島を放り投げて逃げの一手に入る女性だったが、敷島の狂気を感じたせいかISを展開する事を忘れていた。

 だからだろうか。彼女もまた、龍馬の手によって血の噴水とも挽肉ともいえる物体と化すのだった。

 散弾拳銃の残弾を確認して、龍馬は尻餅を突いていた敷島に近づいて様子を確かめる。どうやらこの老人は無事なようだ。ケガ一つ負っていない。

 

「おっかねぇ演技するジジィだな。流石の俺でも引くぞありゃ」

 

「演技ぃ?はて、何の事じゃ?」

 

「…………は?」

 

「ったく、まーた死にぞこなったわい。次のチャンスはいつなのかのう」

 

「マジモンかよ…」

 

 時折垣間見るこの狂気の老人にほんの少し龍馬は恐怖を覚えた。

 もし敷島が敵だった日には、流石の龍馬でも果敢に立ち向かえないことだろう。

 額に浮き出た冷や汗を拭っていると、隼人とムサシの方も気になり携帯電話を取り出して通話を入れた。

 念の為に二人ほど生かしており、これから隼人が自身のプライベートルームで()()()()()()()そうだ。

 

 

***

 

 

 轡を噛まされ、手足を拘束された武装集団の生き残った二人は周囲一帯が闇に覆われた空間に居た。隠し持っていた武装は勿論、待機状態にしていたラファールも取り上げられてしまった。

 この空間が研究所のどこの区画なのか、それを知ろうとした二人は精一杯身体を動かして辺りをはいずり回る。先程から気味の悪い臭いに苦しみながらも、必死に二人は脱出を試みる。他のメンバーも既に殺されていることは、自分達をこの空間に押し込んだ男達の会話から察することが出来た。

 この研究所は明らかに異常だ。逃げるしかない。

 そんな考えを持つようになった二人だったが、突然頭の中が真っ白になるような光景が突然視界に入ったのだ。

 部屋に明かりが灯され、部屋の内部が明らかにされる。

 壁沿いに幾つものの積まれた亡骸が二人の視界に入って来た。先程の臭いも途端に腐敗した亡骸の物であると理解する。

 その亡骸の中で見覚えのある者があった。ドイツ軍の軍服に身を包み、腐敗が進んでいなかった亡骸は確か国家反逆罪で指名手配されたアンジェリーク・アドラー元少将だったか。髪の間から見える顔の様子に、思わず二人は吐き気を催してしまう。

 眼球は裂け、耳と鼻は切断されていたのだ。今まで人の生き死にを見てきた彼女たちだったが、目の前の亡骸からは常軌を逸した何かが感じ取れる。

 

「怖がることは無い、いずれ貴様ら二人もそうなる」

 

 二人の背後で神宮寺隼人が静かに、しかし力強く歩を進めていた。

 

「さて目か、耳か、それとも鼻のどれを切り取られたい?リクエストだ、十秒時間をくれてやる」

 

 その手には細く鋭い特殊なドリルが何本も握られており、しきりにカチカチと不気味に鳴らしてこれから訪れる地獄を知らせていた。

 二人は隼人の隙を突いて逃げ出そうと必死にもがくも、手足を縛られている為に床に這いずる事しか出来ない。タイムリミットは十秒。逃げなければ恐らくはアドラーと同じ目に遭う事は明らかだ。だがしかし、この研究所に襲撃した時点で、二人には活路など残されていない。

 

「時間だ。さぁ聞かせてくれ、何処をやられたい?」

 

 無情にも時間は過ぎていた。

 そして、彼女たちもまた、アドラーと同じ運命をたどるのだった。

 

「目だ、耳だ、鼻!」

 

 最期に彼女たちが見たのは、ひとりの人間とは思えないほどの醜悪な笑みであった。

 

 

***

 

 

 早乙女研究所での一件から数日。

 レゾナンスで目的を果たした一夏は、シャルル…もといシャルロットと買い物に来ていたのだが、気が付けばセシリアに鈴音だけでなく、ラウラと千冬そして真耶達と合流していた。

 何でこんなことになってしまったのだろうとシャルロットは内心嘆いていたが、最早一夏と二人きりになれる状況ではない事を悟った。

 それぞれ所要は済ませているようでこれから全員学園に帰ろうとしたところで、ラウラが花束を担いだ龍馬の姿を目にして、一夏達にそれを知らせる。

 

「あの流音さんが花束を……それは見間違いではなくて?」

 

 信じられないと言いたげな表情をするセシリアの指摘にラウラは即座に否定した。片目に越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)が移植されて今は眼帯で隠しているとはいえ、元々の視力は良い方らしく、決して見間違いではないとラウラは言う。しかも日本の墓参り用の花束を手にしていたらしい。

 一夏とシャルロットだけ、感づいていた。龍馬は母親の墓参りに行くのだと。

 理由を知らない中で鈴音とラウラは好奇心に駆られあとを付けようかと提案する。流石にそれは非常識ではないかとセシリアと真耶が苦言するが、それでも気になる鈴音とラウラ。

 

「……そこまでにしておけ、凰にボーデヴィッヒ。そこまでにしておくんだ」

 

 静かに、それでいて強く千冬は鈴音とラウラを窘めた。それ以上何も言わず、そのまま彼女は真耶を連れて学園行のモノレール駅へ雑踏の中に消えていった。

 二人の姿が見えなくなったのを確認した鈴音が、龍馬の追跡を始めた。最初は同調していたラウラでさえも、千冬の苦言が効いているのか今度は止める側になった。しかし、それでも簡単に止まらないのが鈴音だ。猛ダッシュで追跡するその後をラウラとセシリアが追い、次いで一夏とシャルロットが一旦顔を見合わせて追いかける。

 ターゲットに悟られぬ様にある程度距離を保って、付いた場所は古い寺だった。

 『鳥龍寺』と言うらしいこの寺はレゾナンスからさほど離れていないとはいえ、現実の世界から切り離された幻想的雰囲気を醸し出していた。その寺の門を龍馬が潜ったのを確認した鈴音達もその門を潜る。

 

「……下手な尾行してんじゃねぇよ。ったく」

 

 案の定最初から龍馬には気付かれていたようだった。

 学園で見せる兇悪さは今この瞬間は感じられず、しおらしく見える今の龍馬はまるで別人のようだった。

 鈴音達の事など構うことなく、寺の敷地を進み奥の墓地へと向かった。

 

「織斑にデュノアよ、前にお前らにした話覚えているか?この寺の墓地にはな、そん時に死んだ人たちが眠ってるんだよ。俺のお袋も一緒にな」

 

 彼の眼前にそびえる墓石。その側面には亡くなった龍馬の母親の名前が記されていた。母親の墓参りに来た龍馬は持参してきた布で墓石を磨いて汚れを取り、枯れて古くなった花を新しいものに取り換えて一礼した。

 

「で、何で俺に尾行なんざしたんだ?」と、寺を出て直ぐ龍馬が鈴音達に尋ねた。振り替えてみせた彼の表情は重々しかった。

 

「そ、そりゃアンタが花束持ってんのが珍しいものだから……」

 

 語尾に行くにつれて口ごもる様子に若干苛つきながらも、仕方ないと言わんばかりに鈴音達を今日のもう一つの目的地へと龍馬は連れて行くことにした。一度懐から携帯電話を取り出してある人物に通話して何度か言葉を交わし、相手側からの許可を得たらしく龍馬が先導する。

 

 

***

 

 

 かくして、龍馬たちが到着したのは浅間山の早乙女研究所だ。

 龍馬が研究所からヘリをチャーターして途中で箒も合流して二時間もしない内に到着して、研究所内を通されている一夏達は職員一人一人から白い眼で見られている気がしていた。

 

「俺やここにいる連中、いや麓の町の住民もみんなISの登場後に居場所を失くしちまってるんだ。他でもねぇ織斑と篠ノ之、テメェらの姉貴のせいでな」

 

 その龍馬の言葉に嫌でも納得がいった一夏と箒は何も言い返せずに俯いたままになった。

 現在の風潮が彼らの様な被害者を生み出してしまった。自分たちの姉たちの所業とはいえ、一夏と箒の二人は自分の責任の様に感じ取ってしまうが、察した龍馬が口を開く。

 

「別にテメェらが責任とれるわけじゃねぇだろ。元はと言えばテメェらの姉貴らが撒いた種だ。やるだけやって、責任すら取らずにな」

 

 確かにその通りだ。一夏と箒が姉たちの代わりになってすべての責任を取る必要はない。むしろ取れる訳がない。織斑千冬と篠ノ之束が引き起こした事は、あまりにも膨大で大きすぎるのだ。所員たちも一夏と箒からではなく、千冬と束の二人が責任を取る事を望んでいる。

 龍馬が一夏達を連れて来たのは研究所内の一画にある小部屋だ。部屋の中は室内灯と壁に横長のガラスが一枚あるだけだった。そのガラスの向こう側に一夏達の視線は釘付けになっていた。

 病院の物と同じベッドの上で一人の少年が、自分達と歳がそう違わない少年が、虚ろな目をして横たわっていたのだから。

 

「アイツは早乙女元気。三年前からずっとあんなんだ」

 

「三年前って……何があったんだ?」

 

 ベッドの上の少年もまた、遠からず姉達の被害に遭ったのだろう。彼がどの様にして廃人と化し、今日までを生き続けて、生きながらえて来たのかを一夏と箒は知らない。知らないからこそ、一夏は龍馬の口から語られる事の詳細を知りたかった。

 真っ直ぐに自身を見据える一夏に、龍馬もしっかりと見据えて語る。彼らが知るべき現実を。

 

 

***

 

 

 事は三年前。あいつが、元気が中学に上がってからだ。

 元気は名前通りの奴だった。マトモな両親や賢い兄貴と姉貴に恵まれた奴で、兄弟そろって正義感に溢れる奴だったそうだ。

 けどよ、その上がった中学はまさに地獄だったそうだぜ。女尊男卑のこの世界で、元気は女子グループから集団いじめを受けてたダチを助けた。それだけなら何ら問題はねぇ。

 ああそうだ、今度は元気がその標的になっちまったんだ。机にラクガキとかモノが隠されたとか無視されたくれぇならまだまし、可愛い方だ。だがよ、おめぇらはとっくに気が付いてんじゃねぇか?あぁそうだ。学校ぐるみで陰湿な奴だ。

 集団で暴行、長時間意味なく正座、後は……いや、これ以上はあいつの為にもやめとくか。兎に角それ程ひでぇ仕打ちをされたって事は確かだがな。お前らが想像しているよりはな。

 そんな日が半年近く続いて、ある日を境に元気はあんな抜け殻の様になっちまった。

 

 

***

 

 

「わかるだろ、これが現実なんだよ。誰もこの影の部分を見やしねぇ、見ようともしねぇ。特に織斑と篠ノ之、よく見ろ、あの生きてっか死んでっかが分かんねぇ元気の顔を!」

 

 首根っこを掴まれ、より一層ガラス窓に近づけられて尚もベッドの上の元気を龍馬に見せ付けられた。

 まざまざと見せられるベッドの上の少年は辿る運命が違っていれば、自分達と同じように高校生で友情や恋や勉学等様々な経験が出来た筈だ。だが、今はそれが出来ない体になってしまっている。残りの人生において、元に戻ることが出来れば、人並みの人生を送れるだろう。元に戻れればの話だが。

 しかし、一夏と箒に何の責任があるんだ。と、鈴音が強く出るが龍馬には響かないし、届きもしない。

 

「龍馬、アタシはアンタがどんなにつらい目に遭ったかなんて知らない、分からない!だけど、だけど一夏と箒には……!!」

 

「……これ以上ここにいてもテメェらの身の安全の保障はできねぇ」

 

 だからさっさと帰るぞ。背中で語る龍馬の後を、一夏達は追った。

 これ以上どんな言葉をかけても、どんなに感情をぶつけても、龍馬は響かない。

 

 

***

 

 

 時は経って臨海学校当日。

 バスに揺られて目的地の旅館に到着したIS学園の一年生徒達。今日一日は自由時間となっており、殆どの生徒たちは水着に着替えて海辺で遊ぶのだが、龍馬は海辺にも行かずそれどころか水着にも着替えず別行動を取っていた。彼がいないことに疑問を持つのは一夏達専用機持ち達と、意外な事に布仏本音だった。彼女は入学当初から龍馬に接触しており、どことなく気になっていたのだ。

 そんな件の龍馬と言うと、慰安旅行も兼ねて明日の稼働訓練の際にゲッターの調整に来た早乙女賢造ら研究所の所要メンバーが宿泊している部屋の前にいた。眼前には青い海原が見えており、照りつける太陽の光を反射していた。

 

「――で、達人。そいつは間違いねぇんだな?」

 

「ああ。明日にでも奴は姿を現すさ」

 

 盲目の青年は龍馬の問いに答えて懐にしまい込んでいたタブレット端末を見せる。画面には現在逃亡中の篠ノ之束が映されていた。画面は暗く不鮮明ではあるものの、早乙女研究所でかつて龍馬が見た写真と合わせると間違いなくその人物が束本人であることは確かである。

 

「奴は必ず俺たちの手で裁かなければならない。そうだろう龍馬」

 

「ああ」

 

 一度も顔を合せずに会話を終えた二人は来たるべき時に備えて、それぞれの部屋へと戻っていった。

 その道中で龍馬は、砂浜で遊び回っている一夏達のはしゃぎ声を耳にした。もし運命が違えば、自分もあのように友とバカ騒ぎ出来たのだろうか。あの白騎士事件が今の龍馬を作り出した。こうなってしまった今では叶う事は出来ない。

 しかし、今の龍馬には目的がある。成し遂げなければならない最大の目的がある。それこそが龍馬の原動力なのだ。生半可な事では止まらない、止まれない。

 もし、龍馬の目的を止められるものがいたとしたら、それはもしかすると人間ではないのかもしれない。

 

 

***

 

 

 翌日、専用機持ち達はその他生徒達とは別の場所に集合していた。しかし、その中には専用機を持っていない筈の箒の姿があった。誰もが疑問に思う中で、鈴音が千冬に質問する。

 

「ちょっと待ってください。箒は専用機を持っていないでしょう?」

 

「ああ、それはだな……」

 

 その時だった。誰よりも早く龍馬が急斜面な絶壁を駆けおりる砂埃を見つけたのは。

 砂埃を生んだ正体らしき人物が飛翔すると同時に、龍馬も飛び上がって拳をその人物に突き出した。

 龍馬の拳の威力は千冬のアイアンクローに匹敵するとIS学園では密かに噂されていた。現に生身でケンカを売って来た女子生徒達も龍馬の拳一つで返り討ちに遭っている。そんな龍馬の拳を、その人物は両腕を交差して受け止めていたのだ。

 

「おい、何してんだよお前…!せっかくちーちゃんや箒ちゃんに会えたってのに、邪魔すんじゃねぇよクソガキぁ!!」

 

「抜かせ阿婆擦れがぁ!!」

 

 そのまま龍馬と互角の格闘戦を繰り広げている相手は現在行方不明中の筈の天災・篠ノ之束。エプロンドレスと言う出で立ちでありながら、龍馬の猛攻を捌き切っているあたり、相当の実力を有していることが良く解る。

 軽々とその身をひるがえす彼女だが、突如背中に鈍痛を感じた。それは神宮寺隼人が膝蹴りを浴びせていたのだ。いきなり現れた隼人の登場に顔を顰めるが、今度は龍馬とも隼人とも違う何者かに身動きを封じられたかと思えば、振り回されて天高く放り投げられた。

 

「直伝!大・雪・山おろぉぉぉぉし!!!!」

 

 龍馬がゲッター3のときに繰り出す投げ技、大雪山おろしを生身の束に繰り出したムサシ・BO・ベンケー。投げ飛ばした束が空中で身を無駄に華麗に翻して着地しているのを見て、龍馬ら三人は顔を顰めて舌を打つ。突然現れた隼人とムサシに龍馬と千冬以外は呆気にとられるばかりである。

 収拾がつかなくなるほど格闘戦が繰り広げられる前に、新たに二人の老人が旅館の方からいつの間にか現れて千冬との三人で間に入って無理やりにでも止めた。

 

「久しぶりだな。よもや忘れたわけではあるまい」

 

「いっひっひ……この敷島もおるぞーい!」

 

 突然現れた二人の老人と、その後ろで新たに現れ控えているバイザー型のサングラスをかけた男性が現れると同時に束の表情が一層険しくなる。二人の老人、早乙女賢造と敷島充蔵は後ろに控えていたバイザーを掛けた早乙女達人に目配せして、彼の手にあった資料が千冬に手渡される。そこに記されていたのは、龍馬のゲッターに関する資料で、今日この日にわざわざ慰安旅行も兼ねてきている事も記されている。

 そして、現在逃亡中のみである束が天敵に遭遇してまでもこの場に来た理由はただ一つ。

 

「さぁ、大空をご覧あれ!!」

 

 突如として落下して現れた正八面体のモノリスは、着地と同時にその外装がはがされて中身を太陽の元に晒した。

 中から現れた真紅のISは、形容するならば椿の紅い花。その名は紅椿。束が妹の箒の為に建造した新規コア搭載型のISだ。

 

「そいじゃ箒ちゃんのパーソナライズデータはあらかじめインストールしてあるから、あとは最新データに更新するよー」

 

「よろしくお願いいたします、姉さん」

 

 「固いなー」と漏らす束をよそに、箒は紅椿に身体を預けた。

 一夏や龍馬を含むその他の専用機持ち達は、その様子を傍から眺めていた。その中で龍馬は誰よりも険しく、誰よりも憎悪に満ちた瞳を宿して束を捉えていた。その龍馬の様子に気付いたのは一夏だけで、それ以外には誰も龍馬の一段と険しい表情をとらえていない。

 フィッティングも完了してからの慣らし運転に移行した箒は紅椿の性能に酔いしれていた。

 しかも紅椿は世界中が今第三世代で四苦八苦している最中の第四世代ISだと言うのだ。これにはさすがの千冬も「やり過ぎだ」と手刀で制裁するが、賢造だけは鼻で笑って酷評する。

 

「ふん。あれから十年近く経っているとは言え、まだそんな出来損ないを作っているのか篠ノ之」

 

「なっ!早乙女先生、束さんが箒ちゃんの為に作った紅椿のどこが出来損ないだって言ってんだよ!!」

 

「何処がだと?総てだ!失敗作の設計図を盗み出した上にまだこの様な稚作で満足している時点でだ!」

 

 賢造と束のやり取りに一夏達が目を奪われている事に千冬は二人の関係をかつての師弟であることを説明する。そして、その早乙女賢造こそが流音龍馬の所属する早乙女研究所の所長にして敷島と共に龍馬の専用機ゲッターを開発した人物なのだ。

 かつての師弟が一色触発の空気を生んだその時だった。息を切らし、血相を変えた真耶が岩場に足を取られてもつれながらも慌てた様子で現れたのだった。彼女が何事かと思う千冬に耳打ちしたその瞬間、千冬も表情をより一層強張らせて訓練の中止を宣言したのだった。

 

「尚、専用機持ち達は速やかに臨時作戦司令室に速やかに移動!」

 

 この時、束の口角が吊り上がった事に誰も気が付いていなかった。

 流音龍馬ただ一人を除いて。

 

 

***

 

 

 宴会場の一つを貸し切って設営された臨時作戦司令室では、物々しい雰囲気が漂っていた。部屋の灯りは最小限に抑えられ、設置された機材のディスプレイの邪魔にならない明るさになっている。

 そんな中で現時点で臨時作戦司令室最高責任者である千冬が、一夏や龍馬たち専用機持ち達に現状を説明した。

 二時間ほど前、アメリカ・イスラエルの合同軍事演習中に通称を『銀の福音』と呼ぶ最新鋭広域戦闘用ISシルバリオ・ゴスペルが突如暴走を引き起こし、搭乗者との連絡も叶わないまま空域を離脱したとの情報がIS学園の方に入った。

 

「そしてその銀の福音の予想進路上にこの旅館があるため、我々にその対処の命令がIS委員会から命令が来た。話は以上だが、誰か質問はないか?」

 

「はい、目標のスペックの開示を願います」

 

「オルコットか。福音の基本スペックは漏洩した場合IS委員会から査問に掛けられたのち、国際裁判を経て最低二年の監視がつく。それでも良いか?」

 

「承知しております」

 

「オルコット以外はどうだ?」

 

 残った専用機持ち達もセシリア同様肯定の意を示す。

 そして表示された投影ディスプレイには、現存する一部のISを遥かに凌駕する程のスペックが表示されている。これが軍用ISのスペックなのかと、誰もが戦慄せざるを得なかった。ただ、千冬を除いて二人ほど、その表示されているスペックに無心で視線を走らせている。龍馬とラウラだけは目標がどの様な兵装を持ち、どの様な機動を見せるのかを調べていた。

 

「何なのよこれ……!」

 

「現存のISよりも火力やスピードが段違いだ…」

 

「確実に止めるならば、一撃必殺と言ったところでしょうか」

 

 真耶が言い終えると同時に「俺が行く」と龍馬が挙手する。

 龍馬のゲッターならば、時間もかけずに相手を無力化にすることが可能だ。問題点があるとすれば、勢い余って搭乗者ごと切り捨てかねないのがこの流音龍馬である。次点で一夏の白式が候補に千冬の頭の中で上がった。零落白夜を使えば事足りるが、問題は足だ。ただでさえ燃費が悪い白式が瞬時加速を使用し続けて接触を図っても、発動する際のシールドエネルギーが枯渇しかねない。

 当の一夏も「自分が行く」と言いたげに手を挙げる。

 

「しかしだ織斑。白式だけでどうやって福音と接触(コンタクト)を取る。言っておくが、瞬時加速の連続使用はシールドエネルギーを大量に消費する。仮にそうやって接触した場合、零落白夜を使えるか?」

 

「そ、それは…」

 

「織斑先生、本国より高機動パッケージ、ストライクガンナーが送られています」

 

「ほう。ではオルコット、高速戦闘時間はどれ程だ?」

 

「最低でも七十時間以上です」

 

 訓練とは言え経験が豊富であることは間違いないだろう。

 そのストライクガンナーを装備したブルーティアーズで一夏を福音の近くまで輸送し、戦闘に直面した次第零落白夜を叩き付ける。シンプル過ぎるが悪くはない作戦内容ではある。

 しかしその時、どこからともなく束が現れたかと思えば突然紅椿のスペックデータを投影ディスプレイに表示させた。紅椿の、第四世代の最たる特徴と言うのが『展開装甲』である。かいつまんで説明するならば、特殊なパッケージを使わずとも紅椿は高速戦闘を行えると言う。

 そうして立案された作戦は紅椿が白式を背負い、福音に高速で近づいて零落白夜を叩きこむと言う実にシンプル過ぎるもの。尚、セシリアのストライクガンナーはまだインストールを終えておらず、数時間は掛かるので間に合わない。

 

「それにしてもあれだねー、こういう状況で白騎士事件を思い出すねー」

 

 不意に吐いた束のその言葉に、千冬と龍馬は射殺さんばかりに束を睨みつけ、残る一夏達は表情を一層険しくする。

 日本に向け放たれた2341発のミサイルと、それらをたった一人で切り落とした第一号IS白騎士からなる歴史的事件を何故今引き合いに出すのだろうか。その事件で人生を狂わされた男・龍馬の存在など構い無しに束は非常識な態度を見せ続けていく。が、直ぐにこの空気が更に悪くなる事態が勃発する。

 

「威力偵察にゲッターを出す。そこの二人の出番はその後だ」

 

 関係者以外立ち入り禁止の筈のこの場に相応しくない老人の声が千冬らの耳に入った。

 その声の主、早乙女賢造は同胞(はらから)の敷島と、息子の達人を連れて現れたのだ。

 突然の来者に退室を促す真耶達だったが、気にも留めず聞き流して福音のスペックデータを堂々と睨み付ける老人二人には届いておらず、二、三言葉を交わした後龍馬に淡々とした口調で短く「出撃」と告げた。

 

「はぁっ?!ちょっ、早乙女先生何言っちゃってんの?!!」

 

「惚けるつもりか。貴様の下らん茶番に付き合ってやろうと言っておる」

 

「ぐっ…」

 

 科学者二人が口論している隙に龍馬は敷島を連れて海岸に出ると敷島の合図で出撃する。

 龍馬の身体が光に包まれると三つに爆ぜ、深紅のイーグル号、純白のジャガー号、そして黄色のベアー号がそれぞれのポジションを取ってゲッター2に合体。持ち前の機動力からくる超スピードを活かし、海上を切り裂きながらのスレスレの高度で低空飛行で福音の接触に移った。

 程なくしてゲッターがハイパーセンサーを通して龍馬に福音の姿を見せた。

 

「ドリルっ、ストーム!!」

 

 お馴染みの竜巻攻撃が福音を捕らえその動きを制限させて、身動きが出来ない状態にした。次に繰り出したのは先程まで竜巻を生み出したドリルをドリルアタックで射出する。竜巻の中で思うように動けないでいる福音の背中を抉り取るように直撃する。

 ゲッターの存在を認識し、現時点での最大な脅威であることを導き出した福音は即座に迎撃行動をとるも、龍馬は即座に分離。迫る光の雨をイーグル号が荒々しく、ジャガー号はしなやかに、ベアー号が軽々と避けてついには福音の背後を取ってゲッター3に合体。逃れられない様に翼を両アームで鷲掴みにし、海面に激突。

 

「大・雪・山、おぉぉぉぉぉぉろしっ!!」

 

 その水面(みなも)で繰り出されたのはゲッター3の得意技。それを受け上空で福音が体勢を立て直す前に、龍馬が脚部キャタピラのミサイルハッチをすべて開かせ、撃ち出したのは『針山(ミサイル)地獄(ストーム)』である。目標である福音を取り囲むように撃ち放たれたミサイルが白い尾を描いて次々とゲッター3から発射されていく。

 迎撃が間に合わず直撃を受ける福音にとどめを刺すべく、分離してゲッター1に再合体。ゲッタートマホークを二振り出現させ、両手で構えたその時だ。

 福音と龍馬の間を若干黒みがかった桃色の光線が割って入った。

 

「なぁっ……!!」

 

 龍馬の注意が福音から別の存在に移行すると、当の福音は戦線を離脱して元のコースに戻る。

 しかし、龍馬の視線が福音に戻ることはなかった。

 彼の目の前にいるのは『黒』だった。強靭で黒い四肢、逆三角形のフォルム、背中の黒いマントに、極め付きは頭部に生えた二本角。

 

「何なんだよ、お前はぁっ!!!」

 

 龍馬は目の前の『黒いゲッター』に腹の底から吠えた。

 

 

 

***

 

 

 

 どこかの宇宙。

 龍馬達のいる地球から数百年先の科学力であっても観測出来ないだろう果てしなく遠い宙域にそれはあった。

 いや、正しくはそれらである。

 惑星規模の巨大な戦艦が幾千、幾万、幾億と皆同じ方向へと進んでいく。

 それらの中で比べ物にならないほど巨大な深紅の戦艦。その戦艦の中で一人の男が、船体から緑色の筋が一方に流れ出すのを見ていた。

 

「また違う宇宙でゲッターが生まれたか」

 

 面白い。それが男の中で渦巻く感情だ。

 男はこの大艦隊を率いる存在ではあるが、男自身にそんな意識は毛頭ない。あるのは未だ見ぬ強者との対峙と、新たに生まれるゲッターの観測だけだ。

 永劫に続くこの戦いの中で、男は今日も敵となる異星人の艦隊に出くわした。

 

 

 

 

 

 

後編に続く




次回後編をお楽しみに!!
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