真インフィニット・ストラトス~学園最後の……日?~   作:バルバトスルプスレクス

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どうも皆さんお久しぶりです。

ユーザーネーム変えてからのゲッターISですはい。

今回から最終章に入ります。

元々福音編が終わってからこの章と決めていたもので。

ただ今回展開的に大丈夫かなと思う場面が出来上がってしまいましたが、後は野となれ山となれ精神で行こうと思います。


流音龍馬 前編

 

 夏休みに入ったIS学園。一か月以上の休暇をそれぞれ思い思いに過ごしている中、そのアリーナの一つでは流音龍馬は真ゲッター1の状態でゲッタートマホークを肩に担ぎ、今しがた完成した自身の作品の天辺に腰かけていた。

 その作品とは、学園に配備されている量産機、打鉄やラファールを纏った女子生徒たちの山。

 完成に使用した道具はトマホーク一本のみで、二本以上出したわけでも一本目が折れたわけでもない。最初の一本だけで数十人以上も積み上げたのだ。その山の中には以前のタッグマッチトーナメントでのあの初戦に参加していた女尊男否派の女子生徒たちの顔もあった。

 あの時から成長しているはずの彼女たち。だがしかし、龍馬と真ゲッターの成長速度は彼女たちのそれよりも最早比べ物にならないのだ。

 山から飛び降りてアリーナを後に、龍馬は更衣室で軽くシャワーを済ませて福音戦の出来事を、特にあのゲッター艦隊の存在していた宇宙から戻る時に見た平行世界の男たちの姿を思い出していた。

 全員が全員同じ名前という訳ではないが自分と同じような名前、流竜馬という男。恐らくはあの皇帝を駆る男もまたそうなのだろう。どの世界線でもゲッター線は彼に何かを見出していた。彼がいない、または存在しない平行世界では彼に準ずる者たちに何かを見出している。ならば、この世界における流音龍馬もそうなのだろうか。

 あの時聞こえた、皇帝から聞こえてきた男の声。自分とは違う声ではあったが、不思議と他人な気はしない。可能性として最も高いのは、平行世界の自分自身。

 

「あれも…あれも俺だってのかよ……」

 

 寮に戻る道すがらに小さく呟いた問いに返す者はいない。例えいたとしても誰がどんな答えを出してくれるだろうか。

 早乙女賢造、辰子、敷島充蔵。その三人なら何かわかるだろうが、早乙女夫妻は知っていても答えないだろうし、敷島に至ってはこちらの問答など聞かずごまかすどころか割と本気で新たなトンデモ兵器を見せつけるに違いない。

 結局は胸の奥にしまい込むしかないのだ。今は当初の目的である『女尊男否派の代表候補生の天狗っ鼻をへし折ること』は粗方終わらせている。というのも、まずセシリアは入学当初に遂行しても、後に鈴音やシャルロットにラウラと言った三人は該当しないので除外。同じ学年で別のクラスに代表候補生の存在は確認してはいるが、専用機が完成しておらず脅威度は低めなので除外。二年三年も手合わせしたもののそう言った思想の持ち主は見つからなかった為、事実上完遂と言えよう。あとは本来の目的のために訓練を積むしかない。

 

 

***

 

 

 それから、二年と八か月の月日が流れ、遂に龍馬が動き出した。

 始まりは突然だった。卒業式を二週間後に控えたIS学園だったが、突如として龍馬が真ゲッターを展開し、学園の一部施設を焼き払った後、一人の女子生徒を人質にとって飛び立ったのだ。

 迎撃にあたった教職員IS部隊は生徒を人質に取られたままでは迂闊に引き金を引くことも出来ず、頭部ゲッタービームに撃たれて撃墜されてしまった。残る戦力らしい戦力は比較的損傷度合いが低かった三年生になった一夏達専用機持ちだけだった。

 

「織斑先生!」

 

 状況確認のため、臨時の治療施設と化した教室の前をIS委員会の連絡を受けた千冬が通りかかると、治療を終えたばかりの真耶が中から姿を現した。

 

「山田先生、まだ無理をするな!」

 

 頭に包帯を巻き、左腕を吊るした真耶。彼女も龍馬の対処にあたるも、真ゲッターを止めるどころか人質の女子生徒すら救えず決して軽くはない傷を負っていた。彼女とて現役時代は代表候補生どまりだったとはいえ、操縦者としての技量は決して低くはない。

 千冬も例外なく対処にあたったのだが、長年のブランクもそうだが何より人質の存在も大きく、思うより立ち回ることも出来ずに逃走を許してしまったのだ。

 

「私の事よりも織斑先生、委員会の方は何と?」

 

 この緊急事態は既にIS委員会はもとより各国の軍事施設に例外なくにも伝わっており、特に委員会は各国から対ゲッター戦プログラムを修了した操縦者をIS学園に編入させ、彼女たちを交えて人質の救出と真ゲッターの破壊及び操縦者流音龍馬の抹殺、更に彼の拠点であり逃走先である早乙女研究所の殲滅を指示したのだ。

 二年前から龍馬とゲッターを甘く見ていた委員会が如何に狼狽えているかが良く解る内容だ。

 学園側は対策を講じていないわけではなかった。千冬主導で教師たちや設備の防衛力強化を図る為にも、わざわざ学園長が頼み込んはみたが中々委員会からの予算が下りず、一部学園の行事を何らかの理由を口実に中止にしてその分の予算でやりくりするしかできなかった。その結果がこれだ。もっとも委員会の担当役員が相当な女尊男否派で龍馬の実力を甘く見過ぎていたのが大きな原因でもあるのだが。

 しかし、その他に問題があるとするならば人質にされた女子生徒だ。その女子生徒は日頃からよく龍馬との接触が多く、その為に拉致された。まるで自分から攫ってくれと言っているような感じに。

 その女子生徒の名は布仏本音。

 

 

***

 

 

 早乙女研究所のゲストルームは高級ホテルまではいかなくとも宿泊するには少し豪勢な造りになっており、本音はそこでベッドの上で膝を抱えながらニュース番組を眺めていた。チャンネルを変えてもやっている内容は自分に関する内容だ。

 

「本当に良かったの?自分から人質になるなんて」

 

 案外退屈とも言える環境の中にいる本音のいる部屋に軽食をワゴンで運んできた監視兼世話役になったマミが本音の近くのローテーブルにお手製のサンドイッチと紅茶配膳する。彼女の言う通りだった。本音自身何故そんな行動に出たのか分からないし、答えられない。

 あの時は卒業式が近づいている事もあってか、警備強化とは名ばかりに龍馬に対し過剰とも言える指導として龍馬から待機状態の真ゲッターを(ごう)(だつ)を実行。当然龍馬は没収されることを拒み、ついに実行に移したのだ。その時龍馬に接触していた本音は龍馬の手を引いて今に至る。

 

「っしょっと。 んー、美味しい、我ながらいい出来ね。ほら貴女も食べて」

 

「いただきまーす…」

 

 取り合えず本音からの返事をあきらめたマミ手製のたまごサンド。姉の作るサンドイッチとはまた別の美味さで食欲が増してきた。

 一つ二つとゆっくり手に取ってしっかりと味わう本音の横顔をマミは微笑みながら見つめていていた。

 

「美味しい?」

 

 無言でコクリと頷いた。

 早乙女研究所(こ こ)に連れてこられた直後、龍馬に麓の町を案内されていた本音。そこで暮らしていた住民は、かつてISの登場と同時に起きた女尊男否からくる迫害を受けて行き場を失った人々であることを知った。

 頭では理解していた。例外を除き、ISは基本的には女性にしか扱えないという代物で、それによる増長した人のエゴが世界を包んでいるということを。

 目に見えない大きなギャップに飲み込まれた彼女はされたこの部屋に戻ると、半開きな目のまま表情を表せなくなった。それが今マミのたまごサンドを頬張り、再び表情を取り戻した。

 

「良かった、気に入ってくれて」

 

「ながねんもこれ好きなの?」

 

「ながねん…?ああ、龍馬さんね。そうね、龍馬さんは基本好き嫌いは無いわ。いつも私の料理を……あ、私ねここの食堂を任されてるの。でね、ウマいウマいっていつも美味しそうに食べてくれるんだぁ」

 

 自分の知らない龍馬の一面。嫉妬しまう本音だが、それとはまた別に実際にそんな龍馬が見てみたいとふと思う。

 そういえば龍馬はどこにいるのだろう。ここに連れてこられてから何度目かになるか分からないが、つい気になってしまう。マミが言うには真ゲッターを敷島に預けた龍馬は隼人とムサシとの三人で格闘訓練を行っているらしい。

 

「ここの食堂を任される前は、学校に通えない程地獄だったんだ私」

 

 突然語られたマミの独白。本音は食事の手を休め耳を傾ける。

 

 

***

 

 

 私ね、元々はパパと二人暮らしだったんだ。

 ママは私が小学生の頃に病気で亡くなったんだけど、それでもパパと父娘二人きりで暮らしてたの。

 最初はホント大変だったの。炊事に掃除に洗濯なんて殆ど失敗してばかり。失敗した数は私よりもパパのほうが多かったかな。それが何年も経つと段々慣れてうまくなってたんだ。

 だけどね、幸せだった私たち親子の生活もある日突然奪われた。前触れも無く、突然ね。

 その日は私は隣町のスーパーに買い物に行ったんだけど、天気予報は一日中晴れだったのに突然降ってきた雨で帰れなくなって、電話でパパが迎えに来てくれるはずだった。そう、はずだったの。

 パパが、痴漢の疑いで目の前で捕まったのよ。その時パパは車で迎えに来てくれたのに、「バス車内で女子中学生に猥褻(わいせつ)行為をした」っていうの。

 おかしいと思わない?

 車を運転していたはずのパパがバスの中でどうやってそんなことをするというの。

 勿論私も反論はした。したんだけど、被害を訴えた女子中学生がIS委員会の幹部役員の姪だから、立場上の優位性から聞き入れてくれなかった。

 そこから流れるようにパパは有罪。私は痴漢の娘って事でそれまで仲が良かった友達から色々と嫌がらせを受けるようになったの。そう、貴女が想像しているのと大体同じかしらね。

 

 

***

 

 

「でも、最期にはパパは留置所で首を吊って……。でも今は叔父(お父さん)がいる。私はまだ孤独じゃない……でもパパの仇はまだ討ててない」

 

 改めて自分が、更識家に代々仕える家系の生まれでありながら現代社会の闇を知ろうとしなかった自分が如何に愚かであったか痛感される。

 独白を終え、尚も表情を変えないマミ。しかしその心の裡には本音の想像を超える怒りや悲しみがあることだろう。それほどの感情が容易く生まれているとは言え、本音相手に中々に表情に出さなかったのはマミ自身本音に敵意がないことを肌で感じているからだろうか。

 

「マミ、ベンケーが呼んでいたぞ」

 

 ドアの向こうでは龍馬が律儀にノックをしながらマミに声を掛ける。

 退室するマミと入れ替わる様に今度は龍馬が入室する。

 

「何度も言うが、この部屋にゃ監視カメラはあるし、部屋の外にも監視はついてっから逃げられるとおもわないこったな」

 

「逃げないよ、ながねん」

 

 そうかい。と短く返して即座に退室する。

 

「近い内に研究所(こ こ)にも連中が攻め込むだろうが、この部屋にまで影響はねぇ。連中が核ミサイル使おうが、ビクともしねぇとよ。とんでもねぇジジイどもだぜ全く」

 

 後半の研究所に関する龍馬の真実に些かの不安を抱き、今更ながら進んで捕虜になったことをほんの少し後悔してしまう本音なのであった。

 そんな彼女のいる部屋を離れた龍馬が向かったのは研究所の医療施設。薬品の独特な香りが漂う区画を進み、目的の部屋の扉を開けると早乙女夫妻と達人が龍馬を迎えた。彼らの背後のベッドには、やつれた顔をした一人の男が寝息を立てている。

 

「親父はまだ起きねぇんだな」

 

 その男こそ、龍馬の父親流音壱巌。呼吸器は付けられていないことからそれほど重篤ではないようで、服装と場所が違えば昼寝をしているようにも見える。しかしてその実態は、決して穏やかではなかった。

 

「これでも冷凍睡眠を解いたばかりだ。呼吸脈拍共に正常、命に別状はない」

 

「二年ほど冷凍睡眠させられていたと言うのにな」

 

 つまりはよほど丈夫な体のつくりをしていた証拠だ。達人と隼人の見解を「当たり前だ」と短く返して龍馬は寝息を立てている父親の顔が見える位置まで近づいた。

 あの日あの時、テロリストの容疑をかけられたあの日と変わらない。冷凍睡眠の影響で新陳代謝が止まっていた為だろうか。何はともあれ生きているだけでも龍馬にとってありがたいこの上なかった。しかしまだこれで終わりではない。始まりだ。

 

「敷島のジジィ」

 

「言われんでもわかっとるわい」

 

「早乙女のジジィ」

 

「既に準備は済ませておる。あとは、連中が来るまでだ」

 

 準備万端と答える老人二人。いつになくぎらついたその目は、狂気を孕むその瞳は、これから来るであろう敵を如何に料理してやろうと画策する瞳であった。

 決戦の日は、近い。

 

 

***

 

 

 龍馬の脱走から一週間足らず。その間にIS学園には補充要因として、各国から対ゲッター用対策として8名の専用機持ちたちが来日。更にIS委員会からイーリス・コーリングも専用機を携えて来たのだが、陰りを見せる彼女の表情を見て千冬が声を掛ける。

 

「つまり、ナターシャがアレを持ち出して消えた、という訳だな?」

 

 行方不明になったナターシャ・ファイルスはイーリスの相棒であった。お互いを「ナタル」「イーリ」と愛称で呼び合う程の仲であったのだが、二年前の福音事件の後、徐々にではあるがナターシャの心境に変化が訪れるようになり、その年の暮れには凍結処分されていた銀の福音もろとも姿を消したのだ。

 切欠となったのは間違いなく福音事件。原因としてはそれ以前にあったのだろうが、今となってはその本人がいないので明らかにされていない。

 だが、今一番の問題は早乙女研究所に対する大規模な掃討戦。浅間山に聳え立つは一部の人間から見れば悪の要塞と称される謎に包まれた研究所。今のところ千冬たちが理解しているのは、『流音龍馬の後ろ盾』『その龍馬の専用機であるトンデモIS真ゲッターの開発をした施設』『ゲッター線なる物の研究を行っている事』の三つだけ。

 戦力を考慮するならば龍馬の真ゲッターは勿論それ以外の物も少なからずあるだろう。

 

「それよりも千冬聞いたか?今回の掃討戦、突然可決されたって話だ」

 

「それは私も疑問に思っていた。向こうにはこちらの女子生徒一人が人質に囚われている為に早急に救出しなければならないとしても、いくら何でも早すぎる。つい先週だぞ、委員会からの殲滅命令は」

 

 その早すぎる理由が壱巌の救出によるものなのだが、千冬達がそれを知る日が来るのだろうか。

 ただ、確実な事は一つ。この戦いに勝利することは出来ないという事。だが千冬達は敢えてその考えに至らないふりをする。そうでもしなければ気が狂いそうになるから、その考えを捨てるしかないのだ。

 それが何の意味も為さないことに気が付かないまま。

 

 

***

 

 

 同じ頃、早乙女研究所の本音にあてがわれている部屋のベッドでは彼女と龍馬の二人が獣の様に互いを求めあっていた。愛など二の次と言わんばかりに龍馬は体を弓なりにしならせて果て、本音は龍馬の総てを受け入れた。

 行為が終わる頃には汗と白濁した液体の臭いが部屋に充満しており、後始末を終えた龍馬が空調の強さを上げ、冷蔵庫の中のミネラルウォーターのペットボトルをシーツで包まれた半裸の本音に手渡す。

 始まりは五日前。いつの日か龍馬がいなくなるのではないかと本音が恐れ始めて、彼自身を繋ぎとめようと本音から先に手を出した。今までそう言った経験は無かったが、幸いにも今まで持て余していた己の肉体が役に立った。

 今日で三度目の身体の繋がりを経て、本音の中にあった恐怖心は大分収まっていた。

 

「で、何で俺なんだ?」

 

「私がながねんが好きだからかなぁ…」

 

「ああそうかい」

 

 言って龍馬は部屋を出る。残された本音も後始末を終えて身なりを整えると、無意識の内に妖しげに微笑みながら下腹部に手を当てゆっくりと撫でる。

 

 

***

 

 

 さらに時間が経って、IS学園の卒業間近の一夏達と追加戦力の専用機持ちたちは今、編隊を組んで飛行している大型輸送ヘリの内の一台の中にいた。

 IS学園の卒業式に本格的に行動を開始する流音龍馬を早い段階で討つために、各方面に根回しした結果が今日だ。

 目標地点の早乙女研究所に近づいたら順次輸送機から降下を開始し、ISを展開して研究所を襲撃するのが今回の作戦の主だ。時間差で地上から研究所の裏手から内部襲撃班が突入し、本音の救助と主要人物たちを捕縛または殺害を命じられていた。

 もう少しで目的地と言うところで、襲撃を受ける装着者達。激しく揺れる機体の中で、座席から振り落とされない様にシートベルトをきつく締めなおすか、手近な物や人物にしがみつきながら、その中で冷静に状況を把握しようと千冬がコクピットへのドアを開けるとそこには、青空が広がっていた。計器も、パイロットも消えてなくなっていた。

 

「総員、ISを展開して脱出!狙われているぞ!!」

 

 簡潔に下した千冬の号令に専用機所持者たちはヘリから飛び降りながら展開。同時に千冬の様な専用機を持たない者は積んであったラファールやら打鉄やらを装着起動して脱出。他の輸送ヘリからも全員出たところで半壊していたヘリは光線に溶け消えて行った。

 光線の基を辿ればそこは早乙女研究所の手前。二連装の白い砲塔が筒先から白煙を吐き出して木々の間から姿を見せていた。

 ナヴァロン砲と銘打たれたその砲台はゲッター線エネルギーを集約して放たれる超兵器である。

 ヘリから離脱した装着者たちは散開しながら研究所へと突き進む。その間にナヴァロン砲のチャージが完了して極太の光線が吐き出された。

 

「なっ、嘘だろ!」

 

 若干収束しきれていない分が太陽のプロミネンスの如くうねりながら蒼穹へと吸い込まれていく。

 ヘリのパイロットもこの砲撃で蒸発されたのだ。ISを展開装着している今ならば蒸発はせずとも、一撃でシールドエネルギーが枯渇することは目に見えている。

 現在ここには百を超えるISが集合している。質で勝てないのであれば、量で叩く。素人である学生が束で掛かって来ても意味がないのは周知の事実。なれば、必要なのは操縦者の実力。それが束になればいくら真ゲッターと言えど敗北しない訳が無いだろう。

 彼女たちにとって幸いだったのは、ナヴァロン砲の射程範囲が狭く、チャージサイクルが長いという事。先行していた打鉄とラファールが砲身を叩き潰す。

 

「ふん、こけおどしが」

 

 ラファールを纏っていた操縦士が静かに吐き捨てた。

 

 

***

 

 

 早乙女研究所のオペレーションルーム。そこにいる早乙女夫妻と職員達は皆特にリアクションも示さないまま、淡々と自身の仕事を遂行していく。

 夫妻の横にいる敷島はケーブルが何本もつながっているヘルメットを被る。

 

「アドレナリン!ちう!!にう!!」

 

 言うや否や研究所の周囲の山肌が裂けると中から出るのはヤマアラシのトゲの様に生える百を超える砲身と、同じく百を超える程のミサイルランチャーの群れ。

 チャージサイクルが長いとはいえ、強大な威力を誇っていたナヴァロン砲は前座に過ぎなかった。本命は敷島の頭脳と繋がった早乙女研究所の防衛システム。ギリギリまで最終調整が間に合わなかったが、ナヴァロン砲が良い時間稼ぎになってくれた。

 

「う……う、う………ううう…………うぎゃあ!!」

 

 その雄たけびが引き金になると砲身から火が吹き、無数のミサイル群が上空のIS部隊に放たれる。

 

「うむ。手塩にかけた『シキシマクジャク』はやはり美しいのぉ」

 

「そう思えるのはお前だけだ。各員、上空のは恐らく陽動だ。地表の警戒も怠るでない」

 

 感慨に浸る敷島をよそに、賢造はその場にいた部下達に指示を飛ばす。

 程なくして、研究所の裏手に設置した監視カメラの映像がメインモニターに表示された。委員会直属の部隊であるのは間違いないその連中は、ワザと警備を緩くした裏口から侵入を開始した。こうも同じ手にかかると、ある意味尊敬の念を抱いてしまう。

 招き入れたのは八人。

 

「二手に分かれさせ、隼人とムサシの元へ誘導させろ」

 

 早乙女研究所は侵入者を駆除するために、このオペレーションルームを通じて侵入者を誘導する機能がある。賢造の指示通りに職員達の手により、侵入者たちは二手にまんまと分かれてしまい、ついには己が墓場となるエリアへと招かれてしまった。

 

 

***

 

 

 隼人は美千留との思い出に浸りながら、誘い込まれた害獣達を一瞥する。

 

「運が悪かったな。今日が貴様らの命日で、ここが貴様たちの墓場となる」

 

 だが侵入者たちは()()の隼人が滑稽に思えてほくそ笑んでISをそれぞれ展開した。

 既存のラファールを極限にまで自身の特性に合わせてカスタマイズした彼女の傑作。ただそれは、隼人からしてみれば、早乙女研究所からしてみれば出来損ないの玩具も同然。

 そしてこれが本物だと言わんばかりに、隼人の身体が白い光に包まれた。

 

「ま、まさかアンタも…!」

 

「いや、俺はあの二人とは違う。寧ろ、俺の纏うこの鎧こそが本物だ」

 

 光が止むと隼人は純白の装甲に身を包んでいた。巨大なドリルとロケットバーニアが特徴的のそれは、紛れもなく流音龍馬のIS真ゲッターの変形バリエーションの一つ。

 

「俺の真ゲッター2は龍馬のよりも速い。精々追いついて見せろ」

 

 

***

 

 

 ムサシ・BO・ベンケー。今は隼人と同じように、その身に真ゲッター3を纏わせていた。

 彼の目の前にいる敵は、信じられないといった様子で狼狽えており少なからず喚き散らしている。

 

「そういやぁお前らは知らなかったな、篠ノ之束謹製のISコアは失敗作だって事を。そして早乙女研究所が作り上げたコイツのコアこそが、正真正銘の本物って訳だ」

 

 しかし、ムサシの眼前の敵は分かり易い位の篠ノ之束の狂信者。ムサシの纏う真ゲッター3をハリボテだのなんだのと侮蔑する。

 

「信じなくともいいさ。どうせお前らは、ここで仲良くくたばってりゃあいいんだからよ!」

 

 例によってムサシの駆る真ゲッター3は龍馬の真ゲッター3よりも性能は高い。だからこそ、フルチューンしているとはいえ、模造品のコアを動力としているISは相手にならず一方的な殺戮ショーが展開されていた。

 

 

***

 

 

 流音龍馬は、ゲッターエンペラーとの出会いが忘れられなかった。

 今ここで生きている自分は、流竜馬と言う男の存在を起点に分岐した数多くの枝葉の一人に過ぎないだろう。あの日見た幾多の平行世界のゲッターと、リョウマの名を持つ男たちとそれに準ずる男たちの歴史の一つ一つが、瞼の裏に焼き付いて今も離れない。

 強烈な出会いであることは間違いなかった。だが不思議と後悔はしていないし、かと言って魅了されたわけでもない。数多くの平行世界の内の一つとは言え、自分は自分だ他の宇宙の事など龍馬にとって何の興味も湧かなかった。

 

「そろそろ、頃合いか?」

 

 『シキシマクジャク』の振動は龍馬のいる自室まで絶え間なく届いていたのだが、それが止んだとなると今度は龍馬の出番という事になる。

 準備を済ませた龍馬の視界に、ベッドの上でシーツにくるまっている本音の姿を見たが、言葉を交わすことなくそのまま部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

後編に続く




次回後編。

モブにあのセリフを言わせなきゃ

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