感想が書きずらいという意見があったので...疲れた...
これからも《エンタメデュエリストが幻想入り》とその番外編をよろしくお願いいたします
久々に顔を出した厳しい日差しに私────鈴仙・優曇華 ・イナバは一つため息をつく。世に言う秋晴れというやつだろうか。昨日までの肌寒さが嘘だったような青空の下、とある約束のため人里に来ていた。
人里を詮索すること数分。やっと指定されたお店を見つける。看板には『月時計』と書かれているが、なんのお店かまではわからない。
砂時計ならわかるけど、月時計はどんな時計だろう?────そんな疑問が頭をよぎったが、すぐに頭の隅っこに追いやって、店の扉を開いた。
店内はお昼時というのに人気はなく、少々薄暗い。壁やテーブルや椅子といったインテリアはすべて木製で、なんだか落ち着いた雰囲気のお店だ。見たところ喫茶店だろうか?
「いらっしゃいませ。お一人ですか?」
私が入ってきたことに気づいて、とても落ち着いた雰囲気のきれいな女性の店員さんが訪ねてくる。
肩より少し上のら辺で揃えられた暗めの茶髪に青い瞳、黒と白のウエイトレス姿がとてもよく似合っている。彼女は人間なのだろうか?
「あ、待ち会わせなんですけど……」
「それでしたらお連れ様がもう見えています。席へご案内しますね」
店員さんに連れられて、店の奥側の席へと案内される。
案内された席には、今日私をここに呼んだ射命丸文が座っていた。
私に気がついた射命丸はいつもと変わらぬ笑顔で私に挨拶をしてくる。私も挨拶を返して、射命丸の目の前の席に腰かけた。
「ご注文は?」
「それは私はアールグレイで」
私はこのお店は初めてで、何が美味しいとかわからないし、ここはとりあえず同じ物を頼んでおこうかな。
「じゃあ私も同じものを」
「かしこまりました」
店員さんは深く一礼した後、カウンターの奥にある厨房に消えた。
「それで?今日はどうしたの?」
今更ながら、今日は何でここに呼ばれた理由を知らない。射命丸が新聞記者だから何かの取材かと思ったが、私は事件なんて起こしてはいないし、関わった覚えもない。
「今日少し聞きたいことがありまして」
そう言って射命丸は鞄の中から手帳とペンを取り出す。
するとそれと同じタイミングで、先程と同じ店員さんが紅茶を持ってきた。
「お待たせしました」
「は、早いですね」
私の質問に、お仕事ですので────とほんの少し笑いながら紅茶をテーブルの上に置き、これまた深く頭を下げる店員さん。
注文して一分も経っていないのにこんなに早く出てくるなんて。
そのまま立ち去る店員さんの姿に、一瞬某館のメイド長を思い浮かべる。────いや、まさかね。
そんなことを思いながら出てきた紅茶を啜る。うん、とても美味しい。
「私に聞きたいこと?答えられることならいいけど……」
「本当ですか!それでは────鈴仙さんは遊矢さんのこと、どう思ってるんですか?」
聞いた瞬間思わず口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになる。それをなんとかそれをこらえるが、逆に行き場を失った紅茶でむせかえってしまった。
「げほっ、げほ……アンタね……」
むせたせいか、紅茶が熱かったせいか、なんだか顔が熱い。決して質問に動揺したとかそう言う訳ではない。
「で、どうなんです?」
私の反応を見て面白がっているのか、射命丸はいつもより少し意地の悪い笑顔を浮かべている。
「えっと、それはその……と、と言うか何で私にそんなこと聞くのよ」
私がそう聞くと、射命丸はほんの少し頬を赤くする。
「それは────好きな人の側に鈴仙のような方がいたら気になるじゃないですか」
「普通にぶっちゃけるのね」
「根性なしなもので、本人に直接は言えません」
お互い頑張りましょうね────と射命丸は笑う。私は射命丸の笑顔が眩しくて、自分がどんな顔してるか自信がなくて、うつ向きながら小さく首を縦に振った。
それにしても────もしかして私って分かりやすいのかな。顔に出ちゃってたりしたら……恥ずかしい。
一度気になり出すと、なんだか心がそわそわしてならない。
後で妖夢にでも聞いてみようかな。
「さて、そろそろ本題に入るとしましょう」
その一言で、さっきまで笑っていた射命丸の目が、鋭くなった。一瞬でここまで雰囲気が変わったのには驚いたが、きっとそれだけ真剣な話なんだろう。
「今日は道化師という人物について聞きたいことがあるんです」
その名前が射命丸の口から出た瞬間、店内の温度が急に下がったみたいに感じて肩を震わせる。道化師とデュエルした時の恐怖や口惜しさが一瞬にして蘇ってきた。
「どうしてアイツのことを……」
「私はこれまで遊矢さんを見てきて、不可解な謎がいくつかあることに気がつきました。
まず一つ。一番初歩的なことですが、ペンデュラム召喚とはなんなのでしょうか?」
そう問う彼女に私は首を捻る。
ペンデュラム召喚は遊矢が産み出した召喚方法。それ以上説明しようがない。何処かにおかしい所があるだろうか?
「普通の人間である遊矢さんが新たな召喚方法を産み出したこと自体、おかしいと思いません?」
幻想郷には自分でカードを作ってしまう人もいるが、ごく普通の人間である遊矢が召喚方法を産み出すなんてあり得るのだろうか?
「ペンデュラム召喚についてはまだあります。遊矢さんはある日突然カードが書き変わり、ペンデュラムカードを手にして、次の瞬間にはペンデュラム召喚を決めたそうです。
なぜたった今作られた類を見ないカードがデュエルディスクに反応したのでしょうか?
そもそもさっきまでペンデュラム召喚は無かったはずなのに、どうしてデュエルディスクにペンデュラムゾーンが存在しているのでしょうか?」
「そう言われてみれば....」
「ペンデュラムカードがシステムに干渉できるのか、あるいは────
「それってどういうこと?ペンデュラム召喚は遊矢が産み出したって言ったじゃない」
「可能性の話ですって。
2つ目。デュエル中の遊矢さんの変化についてです。こちらは鈴仙さんの方が詳しいんじゃないでしょうか?」
射命丸の言葉に私は頷く。
私はこれまで遊矢がデュエル中に雰囲気が変わるのを何回か見てきた。一回目は命蓮寺でのぬえとのデュエル中、そして大会で妖夢と戦った一回戦、最後に決勝トーナメントで道化師と戦った時。
前の2つは同じ感じで、ちょっと落ち着いた雰囲気だったけど、道化師とのデュエルの時の遊矢は特に酷かった。感情の波も酷く不安定で、怒りや憎しみをただただぶつけてるみたいで。
そういえば道化師は遊矢の変化について何か知ってるみたいなことを言ってたけど、アイツは何者なのだろうか。初めて会った時も物音一つ立てずに私の背後に居たり、よくわからないカードを使ったり。
私は私の見てきた遊矢の変化、そして道化師との出来事を射命丸に話した。
「う~ん、どうにかして道化師という人物とコンタクトは取れないんですかね?」
私が話したことをまとめた手帳を眺めながら、射命丸は指先でペンを回す。
「でもアイツ何か探してるっぽかったよ?デュエル中に”探す手間が省けた”とか言ってたし」
「その時の状況、詳しくお願いします」
私にとってはコテンパンにされた上、遊矢や妖夢を巻き込んでしまった嫌な思い出だからあまり人に話したくはないのだけれど────私も遊矢のこと、もっと知りたから。
私は道化師とのデュエルの詳細を射命丸に話し始めた。
私が道化師とのデュエルの詳細を話し終わると、射命丸は少し考えたあと、何かに気が付いたのか、「なるほど」と手を叩いた。何に気が付いたか聞こうとしたが、「確証が取れるまで教えません」と言われてしまった。せっかく色々話したのだから教えてくれてもいいのに。
「そうだ、射命丸ってどれくらい遊矢のこと知ってるの?」
「遊矢さんが幻想郷に来てから今までずっと見てきましたよ」
「なら、幻想郷に来たばかりの頃の遊矢の話を聞かせてよ」
「────」
これくらいならいいか、と思って軽い感じで言い出した私の思いとは裏腹に、射命丸の動きは完全に止まってしまい、さっきまでの真剣な顔をともいつもの笑顔とも違う、どこか悲しく、申し訳ないような顔している。
「ごめん、聞いちゃ不味かった?」
「いえ、お教えしますよ。あまり面白い話ではないですけど」
誰にでも触れられたくないことはあるだろうし、無理に聞き出す気はなかったのだけど、話してくれるというのなら、私は聞くまでだ。
「今から半年と少し前、この幻想郷に一人の人間が外の世界からやってきました」
物語を語るような口調で語りだした射命丸は、自身のカバンの中からあるものを取り出して私に見せた。
それは私も見たことがある、いつかの新聞の切り抜き。その新聞には見出しに大きく『エンタメデュエリストが幻想入り』と書かれていて、その隣には楽しそうにデュエルする遊矢の写真が載っていた。
射命丸が言う『一人の人間』は、おそらく遊矢のことなのだろう。
「その人は、この世界がデュエルですべてが決まる世界だと知ると、みんなを笑顔にしたいとデュエルを始めました。
外来人がデュエルしていると聞いて、いいネタになると見に行った新聞記者の妖怪はその人のデュエルを見て衝撃を受けました。これまで戦いの手段でしかなかったデュエルでみんなを笑顔にするスタイル。見たことのない召喚方法に、どんな状況でも決して諦めず、誰も予想しない方法でどんな壁でも突破する。あの人のデュエルは今まで見てきたどんなデュエルよりも笑顔と驚きに溢れていたんです。
これは是非とも記事にしたとその妖怪はその人に取材を始めました。取材したり、時にデュエルをしたり、そうした何気ない時間を重ねていく中で妖怪の記者は、その人自身に興味を抱くようになり、その人と一緒にいることが楽しくて仕方がなかった────ですがそんな日々は長くは続きませんでした。起こってしまったんです。異変が」
私たちの間の空気が一気に重くなる。
射命丸の言う異変は私も知ってる。確か新聞だと、ある日突然デュエリストが凶暴化して、手当たり次第デュエルを仕掛けるというものだったはずだ。
「実は新聞には真実の半分しか載せてられなかったんです。どうしても書けなくて。異変の真相は────黒幕が自分の研究のデータ集めのために作り出した洗脳作用とダメージが実体化するカードをばら蒔いた────というものだったんです」
気づけば拳を強く握っていた。ひどい、そんな自分勝手な理由で関係のない人たちを巻き込むなんて。
話てる射命丸もとても辛そうで、語り口調がもういつも通りの口調に戻ってしまっている。
「そんな中、私もそのカード保持者と交戦しました。とてつもなく強くてかないませんでした。そして私は遊矢さんに言ってしまったんですよ────助けてくださいって。そしたら────必ず助ける。俺はこんなデュエル認めない────そう言ってデュエルを始めました。ですが……それが悲劇の引き金でした。
その一戦で、黒幕は遊矢さんのペンデュラム召喚に目を付けて、ペンデュラムのデータを集めるために遊矢さんを狙うようになりました。遊矢さんは戦いの中で心身ともに傷つき、自分のスタイルを捨てて、勝ちにこだわるようになっていったんです。
結果的に異変は解決できたものの、遊矢さんが失ったものはあまりに大きかった。私が……私があんなことを言わなければ、遊矢さんは傷つことはなかったんです」
「で、でもそれは射命丸が悪いわけじゃ……」
「私が関わらなければ遊矢さんが笑顔でいられたのは事実です。
そして、遊矢さんが異変を解決している間に、元の世界に帰れなくなってしまった。
それを聞いた時、私……嬉しかったんです。これで遊矢さんと一緒に居られるって。最低ですよね。私は結局自分のことしか考えてなかったんですよ」
あとは皆さんが知っての通りです────と射命丸の話は終わった。
私の知ってる二人と違いすぎて私は今の話が信じられないでいた。
いつもの笑顔の裏にこんな真実が隠されていたなんて。
「今日はそろそろ帰りましょうか。時間も時間ですし」
二人の間の空気が重くなったところで、さっきの話が嘘だったみたいな明るい声とともに射命丸が窓の外を指さす。
窓の外から見える空は夕日の光で真っ赤に染まっている。早く帰らないと夕食の準備が遅れてしまう。そうなったら師匠や姫様になんていわれることやら。
射命丸の方も何か用事があるらしくて、今日はこの辺でお開きということになり、二人で会計を済ませて店の外に出た。
「あのさ」
「どうしました?」
「私、遊矢に会えてよかったと思ってる。遊矢に会えたのは射命丸が遊矢に出会ったから。だから私は貴女が悪いとは思わない。それに遊矢なら『助けて』って言わなくても助けに行ったと思うよ?」
「────遊矢さんと同じことを言うんですね。ありがとうございます。気持ちが少し楽になりました」
そのまま飛び上がり、宙を蹴って、射命丸は飛び去って行った。
さて、私も変えるとしよう。それにしても雰囲気のいいお店だった。お茶もおいしかったし、今度妖夢とか連れて来よう。
次来たときは何を頼むか考えながら、永遠亭に向かって歩き出した。
◇
ご来店になっていたお客様が帰られて、再び静寂を取り戻した店内。
このお店は私一人で経営しているので、あまりお客様が多くても困るのですが、少ないとやはり暇が多くなってしまいます。
「ね?当たったでしょ?」
カウンターから見て右手、先ほどのお客様たちが座られていた席とは壁一枚挟んで手前に座っているお客様に話しかけられる。
「面白半分で用意はしましたが────まさか、注文された時刻、茶種、個数まで当てると
は。どういう手品を使ったのでしょうか?」
私が訪ねると、その方は被っていたフードを取り、着けていた変な仮面を外してニコッと笑った。
「手品はね、どんなトリックが使われているか考えるのが一番楽しい時間だと思うんだけど……って、信じてくれてなかったの?ショックだな……」
そう言いながらも顔は笑っている。本当に言ってることと表情が一致しない人です。そう言えばここ一ヶ月くらい毎日来られてるいますが、余程暇なのでしょうか?
「心外だな……ちゃんと時間を作って来てるんだよ?」
「……顔に出ていましたか?」
「ううん、いつも通り素敵なポーカーフェイスだよ」
他の方からそういうことを言われた経験がないからか、それともこの人の言葉に心がこもっていないのかはわかりませんが、 全然嬉しくありませんね。
そんなふうに感じている私を差し置いて、笑っているこの人を見て、一つため息をつく。
「というかいつまでいるんですか?いい加減注文してください」
「ごめん、ごめん。それじゃミルクティーで」
「かしこまりました」
今店内にはこの方しかいないので急ぐ必要はないのですが、早足で厨房へ向かう。
というかこの人いつもミルクティーしか頼まないのはなぜなんでしょう?苦いの苦手なのでしょうか?
そんなことを考えながら、出来上がったミルクティーを運ぶ。テーブルの上に置くと、その人はすぐに手にとった。
「うん、美味しい」
「ありがとうございます」
「……君って、言ってることと表情が一致しないね」
「そのお言葉、そっくりそのままお返しいたします」
「あはははは、そうかもね」
乾いたような笑い声が店内に響き、私はまた一つため息をつく。本当ならばお静かにしていただくのですが、店内には私とこの方しかいないので、許してあげることにします。
それから数十分、他にお客様もいらっしゃらなかったので他愛ない話にお付き合いし、外が真っ暗になるころに、あの人はお帰りになりました。
本当にあの人は何者なのでしょうか?かなりお喋りで、かなり変わっているお客様ということだけは確かですね。