エンタメデュエリストが幻想入り   作:てんのうみ

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この世に後ろに道がない者はいない。
生を受けたその瞬間から、その道は始まっているのだ。

道を歩いていた者が立ち止り、ふと後ろを振り向いたとき
その者には二つの選択肢がある。

元来た道を戻るか、それとも───。
前を見て歩いていた少年の道にさらに二つの道が重なる。
決して道は一人で作るものじゃない。時に誰かの道と交差するものだ。



エンタメデュエリストの幻想入り 第二章『思惑スクランブル』編
第12話《魔性の月》 始まります


魔性の月

 朝日が差し込み始めた私の部屋に、デュエルディスクの着信音が響きわたる。ベッドで寝ていた私にとってはアラーム音のようにも思えた。ベッドの近くにある机の上で鳴り響くデュエルディスクを布団の中から出ることなく手探りで探り当て、手元に引き寄せる。───こんな朝早くに一体誰だろう。

 眠い目を擦りながら布団に包まりながらデュエルディスクの画面に出ている『応答』を押して耳に当てる。

「ふぁ……はい、鈴仙です……」

 あくび交じりに電話に出てみたものの、向こうからは何の音も聞こえない。いたずら電話なんてこれまで一度もなかったけど……一つため息をつきながら電話を切ろうとした瞬間───。

『あら、随分弛んでいるわね───鈴仙』

「し、師匠!?」

 突然の師匠の声に思わずベッドから飛び起き、目の前に師匠はいないはずなのにベッドの上で正座をしてディスクを握りなおす。さっきまでの眠気は完全にどこかへ吹き飛び、まだ目覚めたばかりなのに背中に冷汗が流れた。

 師匠こと八意永琳は数か月前───遊矢たちが優勝したチーム戦の大会が終わった次の日に「少し調べものがあるから行ってくる」と言って永遠亭を後にしたきり今日まで何の連絡もなかったのである。師匠のことだから何があっても大丈夫だと思って帰りをまっていたんだけど……。

 今日まで一体どこで何をしていたのか───それを私が聞くことなく、師匠はその詳細を話始めた。

『あんまり時間もないから単刀直入に言うわ。鈴仙───遊矢君とキング君を連れて月に来なさい』

「え───月……ですか?」

 私は一瞬師匠の言葉が理解できなかった。月───私の生まれ故郷でもあるあそこは……しかも遊矢たちを連れてなんて。

「どういうことですか?私に……それも遊矢たちを連れて……」

『遊矢君には精密検査……それにキング君と貴女には私がこれまで調べたことも伝えなきゃいけないしね。貴女が月に行きたくない理由もわからなくはないけど───』

 後のことは私の部屋の机の上に置いてある手紙を見なさい、師匠はそう言って電話を切った。通話が終わって音がなくなった私の部屋は、最後まで好きになれなかった故郷と同じ感じがする。師匠が言うからには絶対に行かなきゃいけないんだけど───もう行くことはないと思っていたのに。

 ゆっくりとベッドから起き上がり、いつもの服に着替える。布が擦れ合う音がするだけで、どこか安心できた。

「───」

最後に羽織ったいつも着ているブレザーは、何故だかいつもより重く感じた。

 

◇◆

 

 師匠の部屋にあった手紙を読みながら、遊矢たちがいるカードショップに向かって歩き出した。手紙によると師匠は大会が終わってすぐ月に戻って()()()()について調べていたらしい。その内容は───私たちが持っているプラネットカード。異世界交流戦の途中で紫さんから話は聞いていたけど、その時には詳しいことは教えてくれず「誰にも渡さないでほしい」と言われただけだった。今カードを持っているのは海王星の私、水星の妖夢、火星のキング、そしてキングの話だともう一人……たしかた冥王星のカードを持っている人がいるとか。

 ならなぜ私とキングだけ呼ばれたのだろう───そんな疑問が頭をよぎる。そして更ある疑問……一番謎なのは遊矢だ。第一に遊矢はプラネットカードの所有者じゃない。そもそも精密検査といっても遊矢の怪我はもう完治しているし、どこも悪いところはないはず。ならどうして遊矢を……。

「師匠は何を考えているんだろう」

 師匠の考えを理解できないまま、カードショップの前まで来てしまった。中に入ろうと扉に手をかけるも、私は扉をかけるのを躊躇う。本当に遊矢たちを月に連れて行っていいのか?あそこは幻想郷のようにデュエルモンスターズですべてが解決できるところじゃない。もし何かあったら───。

「鈴仙?」

 私の名前を呼ぶ声に振り向いてみると、そこにはいつも通りの笑顔で笑ってる遊矢が立っていた。

「どうしたんだ? 入らないのか?」

 首をかしげながら尋ねてくる遊矢に急いで首を横に振って、店の扉を開いて中へ入る。

「珍しいな、鈴仙がこの時間帯に来るの」

「今日は遊矢とキングに用があって……ここにくればいるかなって」

 遊矢にはそういって笑ってみせるが、本当はそんな心境じゃない。今日だけ……今日だけは遊矢に会いたくなかった。そう思ってしまうほどに、月に戻りたくない気持ちが強かった。だってあそこは───少し思い出しただけで言葉にならない気持ち悪さが込み上げてくる。あんな狂気的な場所には二度と足を踏み入れたくないのに。

「……大丈夫か?」

 遊矢が心配そうに私の顔を覗き込む。私は「なんでもないよ」と誤魔化し、電話で師匠に言われたことをそのまま復唱する。遊矢も私と同じように精密検査の部分で首をかしげたが、「永琳さんのことだからきっと何か理由があるんだよ」と言って月に行くことを承諾してくれた。ここで断ってくれたら、「私も行きたくない」って師匠に駄々を捏ねるつもりだったけど……そうは行かなくなってしまった。まあ元から師匠の命令を聞かない選択肢はないのだし、腹をくくるしかないだろう。

「それじゃあとはキングだね。店の中にいるかな?」

「居るんじゃないか……あ、ほら」

 遊矢が指差した先───店内の一角にあるデュエルスペースに人影が二つ。

「はい、これで終わりね」

 一少し得意げに笑いながらゲームエンドのコールする金髪の少女───アリス・マーガトロイドと

「くっそーまた俺の負けかよ」

 悔しそうに声を上げるキングの姿があった。

 まだ朝も早いというのにこんな時間からデュエルしているなんて───探す手間が省けて好都合ではあるんだけど。

「こんな朝早くからよくやるね」

 私が声をかけながら近づくと、アリスが苦笑交じりにキングを指差して「呼び出されただけよ」と主張してくる。呼び出されたとはいえこの時間からくるのは普通じゃないと思うけど……キングのデュエルバカがうつったのかな。

「アリス、悪いんだけどキングのこと借りてもいい?」

「いいわよ。煮るなり焼くなり好きにして」

「なんでお前らの間で俺のことが決まってんだよ。で?俺になんか用か?」

 珍しくツッコミを入れるキングに二人で笑いながらも、さっき遊矢にした話をもう一度キングに話した。

「月か!面白そうだな!きっと強い奴がたくさんいるんだろうな」

「月にはデュエルモンスターズないよ」

 私の一言であからさまにテンションが下がるキング。確かにキングだったらそれ以外に目的ないだろうからしょうがないけど。

 

 ───その時私の脳裏に浮かんだ一人の顔。

 それはひどく懐かしく、月にいたころの私の記憶の中に色濃く残る、たった一人の顔。

 

「なんだよ、面白さ半減だな」

「───いや、いる……たった一人だけど。デュエルできるかもしれない人」

 今さっきまで私の中から抜けおちていた彼女の存在。別に彼女のことを忘れていたわけじゃない。そう───ただ思い出せなかっただけ。

 

 地上と月では時差があるので帰りが遅くなることを伝えると、「一応蓮子の姉ちゃんに断ってくる」と言って店の奥に走っていき、アリスは「キングをよろしくね」と店を出た。

「それにしても月か……まさか生きてる間に行けるだなんて思わなかったな。どんなところなんだ?」

 その問いに答えようとした私は言葉に詰まる。

「───そんないいところでもないよ」

 あの感じを表現することができない私にとって、これが精一杯の表現だった。

 

「え~いいな~私も行きたいな~月」

 向こうで話がついたのか、キングと蓮子さんが店の奥から出てくる。できることなら是非とも変わってほしんだけど、今回はそうもいかない。それを説明すると蓮子さんは頬を膨らませて上目使いで私を見つめる。

「鈴仙ちゃん冷たいな……修業が終わったら私のことなんて……蓮子さん悲しい」

「あ、いやそういうわけじゃなくて!そのことは本当に感謝してますし、私は蓮子さんのこと大好きですよ!今回は人数分しか移動手段がないんで……」

 誤解が生まれないように必死に弁解すると、蓮子さんは「わかってるよ」と笑い始めた。たぶん私が慌てふためく姿が面白いのだろう。修業をしているときにも何度かあったが、いつも蓮子さんの演技には引っかかってばかりだ。

「それにしも月か……《銀河眼(ギャラクシーアイズ)》の生まれた場所に行ってみたかったな」

「えっ?そうなんですか?」

「どうもそうらしいよ。帰ってきたら感想教えてね」

 そう言い残して蓮子さんは店の奥に下がっていった。それにしても《銀河眼(ギャラクシーアイズ)》の故郷か……。

「それで?月にはどうやって行くんだ?ロケット?」

「さすがにそんな大掛かりな移動手段じゃないよ。今回は───これ」

 師匠の部屋にあった手紙に挟まっていた三枚のカードを遊矢たちに一枚ずつ手渡す。手紙の説明によるとこれを使えば一瞬で月に転移できるらしい。普通なら満月の時でないと月に行き来できないはずなのに、それを何とかしてしまう師匠は本当にすごい人だ。

「このカードをデュエルディスクに読み込ませればいいのか?」

「うん、たぶんそれでいいはず。手紙によると……」

「そんな説明いらないぜ、どうせ理解できないからな。《トランスポート・ゲート》発動だ!」

 キングはカードを発動させると、その足元が光り───足元から順に消え始め、次の瞬間には消えてしまった。

 どうやら本当に一瞬で転移できてしまうらしい。私も遊矢もデュエルディスクを起動させてカードを読み込ませる。

 

 自分の体が少しずつ転移していく中、私は思った。

 決して行きたくない月に行くことは……自分に対する罰なんだと。すべてを捨てて逃げてきた私に対しての。今までずっと見ないようにしてきたことに向き合え───そう言われる気がして。

 

 でも言っているのは他の誰かじゃない。きっと───自分自身なんだと思う。

 

◇◆

 

 目の前に広がる長い廊下。果てしなく続くその道が、人工的な光で照らされている。明らかに幻想郷じゃない景色を目にして、“ここが月だ”ということを認識した。

「鈴仙……ここが月なのか?」

 目の前に広がる光景はまさにどこかの施設のような場所。ここが月というのはどうにも信じがたい。

「そうだよ……ここが月……」

 俺に対してそう告げる鈴仙はいつもより暗い───影のある表情をしていた。店の前での笑顔がぎこちなかった時から何かおかしいと思ってだけど、鈴仙は月に来たくなかったのか? 自分の生まれ故郷なのに…….

「ここからはなるべく慎重にね。誰かに見つかると面倒だから……たしかこっちだったはず」

 俺たちの前を歩いだす鈴仙に、黙ってついていく。人の過去なんて深入りするものじゃないし、今俺が考えたって想像の域を出ない。

 

 

 鈴仙の後ろをついて歩き始めて数分、俺は違和感を覚えていた。何かが変だ……うまく言葉にできないけど、何かが……。

「なあキング、何かおかしくないか?」

 鈴仙に聞こえないように小さな声で、俺の隣を歩いているキングに尋ねる。するとキングは一つため息をついた。

「……つまんねえ」

「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて」

「わかってるって。全然人気を感じねえ……それどころか物音ひとつしないなんて……普通じゃねえ」

 そうだ……ここには誰かの息遣いが感じられるものがどこにもない。まるで世界に俺たちしかいないみたいだ。

「───そう……だよね、気味悪いよね」

「おい、キング」

「あっ……悪い」

「ううん、いいんだ。ここは普段誰も来ない区域だけど……他のところも大体同じ。私も大っ嫌いだった」

 鈴仙はそういって歩くスピードを上げ、廊下に鈴仙の足音だけが響く。それだけが俺が感じている異様な雰囲気を中和してくれた。

「なあ、どこまで行くんだ?」

「師匠がいる医務室までだよ」

 あと少しだから───そう言って歩き続ける鈴仙に、俺もついていく。

 だが……キングはその足を止めた。

「まて……誰かくる」

 キングの言葉で俺たちも歩みを止める。するとその場にコツンコツンと足音の反響が聞こえてきた。先までは聞こえなかったはずなのに───そうか、鈴仙が歩くスピードを上げたから。

 足音はすぐそこまで来ているといのに、周りには遮閉物もなにもない一本道。少し戻れば分かれ道があるけど、そこまで戻っている間に見つかってしまう。

 

 そして足音の主は俺たちの目の前に姿を現した。

 

 十字路の横から現れたその姿は、背丈・服装はそのまま鈴仙と同じ。白く綺麗な横顔に少しくすんだ肩まである銀髪の少女。そして目つきの悪い赤い瞳が、俺たちをギロッと睨み付けた。

 

「……侵入者を発見しました。行動不能段階まで制圧したのち、そちらに連行します」

 

 独りでにそう呟いた少女は、ポケットから何かを取り出して左腕に装着する。そして右腕に手にしていたのは───。

「デュエルモンスターズのカード!?」

「召喚……《ゴヨウ・ガーディアン》」

 左腕に装着した何かにカードを置くと、モンスターはその姿を現した。ということは、あれは月のデュエルディスク?でも鈴仙の話では月にデュエルモンスターズはないはずなのに。

「行け、《ゴヨウ・ガーディアン》」

 少女が鈴仙に向かって指をさすと、モンスターは持っていた手錠に縄をつけたような武器を振り回し、鈴仙に向かって投げつけた。

 ソリッドビジョンで映し出されてるだけだからそんなこと意味な───ま、まさか!?

「よけろ鈴仙!」

 俺の脳裏に浮かんだ考えが正しいなら不味い。

 だが俺の声に鈴仙は反応しない。目の前の少女を見て、石のように固まっている。

 

 モンスターが投げた手錠は鈴仙の腕に巻きつき、鈴仙を引っ張る。そして鈴仙もやっと我に返ったみたいで、負けじと踏ん張った。

「モンスターが実体化してやがるのか!でもどうして?」

「まさか……リアルソリッドビジョンシステム?」

 そんなどうして月にそのシステムが存在してるんだ。

「くっ……ダークマター・ドラゴン!」

 鈴仙がそう叫ぶと、鈴仙の真紅の瞳が黄色く染まり、デュエルディスクから鎌のように鋭い黒い影のような物が出てきて、手錠の縄を切り裂いた。

「レイセン」

「……ユキ」

 

 鈴仙の名前を呼ぶ少女を鈴仙は「ユキ」と呼び、ユキと呼ばれた少女は再びデュエルディスクを構え、それを見て鈴仙は仕方なさそうに、拳を握る。すると一部しか実体化してなかったダークマター・ドラゴンが次第にその姿を現し始める。

 

「───そこまでです」

 

 その人は音もなく二人の間に現れた。ピンクの髪を後ろで束ねた大人の女性。その人はユキと呼ばれた少女の方を軽く睨むと、少女はデュエルディスクからカードを放した。それを見た鈴仙もダークマター・ドラゴンを引っ込めた。

「そちらの方、今回は私の部下のせいで大変ご迷惑をおかけしました」

 俺たちに深く一礼すると、その人は鈴仙のところへ歩み寄り、その頬にそっと手を添えた。

 

「お久しぶりですね───レイセン」

「依姫……様」

 




お久しぶりです。
体調不良もだいぶ良くなりましたが、時間が足りない今日この頃です。

ついに思惑スクランブル 現代編も終盤。
これからもお楽しみに。
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