エンタメデュエリストが幻想入り   作:てんのうみ

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エンタメデュエリストは……走り続ける!


デュエリスト・アドベント

 瞼を開くと、そこには夜空が見えた。

 どうやら屋外のようで、冷たい風が音もなく俺の隣を通り過ぎてゆく。

 視線を下へ運ぶと、何かに座っているのがわかる。

「もしかして……」

 白い塗装がされた馬。触れている手に伝わってくる冷たさが、これが作りものだと教えてくれた。辺りに目を配れば、同じようなものが周りに沢山連なっている。――メリーゴーランド。自分の記憶の中から今見える景色に該当するものを探し当てる。――というよりは、前にどこかで見たことがある気がしていた。

「じゃあ此処は遊園地か何かなのか?」

 馬から降りて見渡してみても、誰の姿も見えない。人の気配も感じない。そこには音も出さないアトラクションが、もの悲しくあるだけだ。代わりに、足音は良く響く。空気は怖いくらいに澄んでいて、夜のいい匂いがした。

「……?」

 バサバサと、何処から鳥が羽ばたくような音がする。

 音がした方へ視線を持っていくと、煌々と照る月明かりの下に誰かが立っていた。見たところでは女の子に見える。その子は月をじっと眺めながら、時より吹く冷たい風にその長い髪と、祈るようにして組まれた手に持つ一本の花を揺らす。懐かしく感じるその横顔は深く目を閉じ、涙が頬を伝っていく。

 近づこうと一歩踏み出すと、足音に気づいて、女の子がこちらを向いた。俺のことを見て安堵したのか、その顔が綻ぶ。そして小さく口を開き、何かを呟く――――――

 ――――

 ――

 

「……夢か」

 ぼーとする頭を振り切って体を起こす。

 いつの間に眠ってしたんだろう。確か月の人に案内されて、何処かの部屋に入ったことまでは覚えているが、そのあとどうなったのか覚えていない。検査は終わったんだろうか? 部屋の中には俺の他に誰もいない。

 そして資料のような紙が乱雑に置かれている机の上に、俺のデュエルディスクを見つける。どうやらコードにつながれているようで、すぐ横の機械に接続されているらしい。

「あれからどれぐらい経ったんだ?」

「そんなに経ってませんよ」

 予想外に返って来た声に思わず肩を竦める。視界が届く限りには誰の姿もない。声のする方……視線を上にあげる。

 すると頭上に浮かぶ青いショートカットの女の子と目が合った。白と黒の服を着ていて、何故かサンタのような三角帽子を被っている。その子はニコニコと笑いながら俺に手を振って、ベッドの上に腰を下ろした。

「いやはや失礼しました。とても興味深い夢を見ていたようで」

「えっと……君は?」

「ああ、申し遅れました。私はドレミ―・スイート。夢見がちな妖怪ですよ」

「は、はぁ」

「まあ、貴方が見ていたものは、夢とは少し違うようでしたけど」

 少し曖昧に笑う彼女に、俺もどう答えていいか分からず、頬を掻いた。

 確かに言われると長い夢を見ていたように思えるけど、うまく内容が思い出せない。でも何処か懐かしいような、実際にあったような、そんな気がしてならない。

「思い出そうと頭を悩ますのもいいですが、今は早くこの場を去りましょう。そろそろこちらにも被害が来る頃です」

「被害? 何のことだ?」

「説明している時間もあまりないんですが――ッ!」

「くっ! なんだ!?」

 彼女が言葉を続けようとしたその時、地面が大きく揺れる。

 続けて地響き、爆音。

 吹き飛んでいく部屋の壁。

 咄嗟に机の上のデュエルディスクを手に取って、ベッドの影に身を隠す。

「いきなりどうしたって言うんだ!」

「あちゃ~間に合いませんでしたね」

 俺の隣に座り、半分呆れたように笑う。――笑顔の絶えない人だ。

 ベッドの影から顔を出して見れば、部屋の壁は跡形もなく消えていて、その下には抉られたような跡が残っていた。いや、何かが通ったような跡にも見える。

「向こうに広がってるのは……月面? まず――」

「あはは、大丈夫ですよ。此処は月の裏がにある月の都内の施設。地上人でも問題ありません。それよりも――」

 彼女が指が示す先、無機質な月の表面を歩いて行く人影が一つ。

 だが、俺はその人が視界に入ったとたん背筋が凍った。

 高い背丈に腰の辺りまであるブロンド髪。黒い袍服とロングスカート、見たことない帽子。けど問題はそこじゃない。

 目だ。

 あの目。

 その瞳に反射するはずの光は何処かえ消え失せ、憎しみと絶望で塗りつぶしたような、あの目。

 見ているだけで体が震えた。心臓を鷲掴みされているような気分だ。自然に息は上がっていき、嫌な汗が頬を伝っていく。

 俺は知っている……あの目を。忘れるはずもない。

 だってあの目は……あの目は!

「大丈夫ですか? 顔面蒼白ですよ?」

 ドレミ―の言葉で我に返る。呼吸を整えて、なんとか言葉を捻り出す。

「ああ……大丈夫さ」

「それにしても酷い話ですよね」

「何がだ?」

「彼女のことですよ。聞くところによると彼女、この月へ復讐しに来たそうです」

「……復讐?」

「ええ、なんでも月のおえらいさんに、夫を盗られ、子供を殺されたとか。私は月の住民でもありませんし、此処には呼ばれて来ただけなんですけど……そんな境遇を聞いてしまうと、復讐させてあげた方がいいように思えてきますね」

「――復讐していいことなんてない」

 静かに立ち上がる。震える足は、まだ言うことを聞いてくれた。

「俺は、今までにあの目を二度……いや三度見たことがある。一度目はある人物と対峙した時。そして三度目が今だ」

「二度目は?」

「――鏡を見た時さ」

 デュエルディスクの中から一枚のカードを引き抜く。

 あの日、君に貰ったカード。

 孤独、絶望、嫌悪。

 理想と現実の違い苦しみ、あらゆる黒い物に食われていたあの頃。

 何もかも失くしてしまった俺に君がくれた光と夢。

 君には貰ってばっかりだけど、今この瞬間、俺に勇気を――。

「……まさか行く気ですか?」

「もちろん」

「行ってどうする気です? あれは人間じゃ手に余りますよ」

「とりあえず話してみて、彼女の手を掴む。確かに難しいかもしれない。手を掴んでも振り解かれるかもしれない。けど万が一、いや億に一でも俺の思いが届いたのなら――止まってくれるかもしれない」

 カードをディスクに戻して大きく深呼吸する。

 死ぬかもしれない。そんな予感はあった。

 でもここで行かなかったら、必ず後悔が俺の足に纏わり付く。重く、苦しく。

 そして何より、俺はその先にあるもの知っていたから。止めないわけにはいかなかった。

「言っても聞きそうにありませんが、最後に止めておきますね。……名前も知らないような者の為に、か弱い人間が命を捨てるような真似をするのはやめなさい」

 ドレミ―さんの言葉はもっともだ。けど俺の視線は寒々とした月面を歩く彼女の目の他に、もう一つ、捉えていたのがあった。

「……名前なら知ってる」

「へ?」

 確かに彼女が幻想郷外の妖怪だったり、月に住む人々のような存在だったら、俺が彼女を止められる可能性は億に一つも有りはしなかった。俺にはその者を知らずして語る言葉など持ち合わせていないからだ。

 けどそんな俺でも唯一語れる、語り合えるものがある。

 彼女の右腕に付いている()()()、俺にチャンスをもたらしたんだ。

「決闘者――同じ決闘者同士なら、俺はその手を掴めるかもしれない」

「面白い人ですね、ではラストクエスチョン。人はこれまでも幾度となく戦ってきました。でもそれは国を、時代を、何かを変えるためです。貴方は何を変えるために戦うのですか?」

 そんなこと決まってる。俺は走り出しながら振り向きざまにこう答えた。

「彼女を笑顔に変えるためさ!」

 踏み出した足はもう歩みを止めない。速度を上げ、彼女の元へ一直線。

 凹凸が激しい月面に足を取られそうになるが、踏ん張り地面を蹴り上げ彼女の前に躍り出た。地面を踏みしめてブレーキをかければ、小さく土埃が宙に舞う。彼女の足が止まり、お互いの視線が交じりあう。

 目の前の彼女は古い自分。

 ならば何も恐れることはないじゃないか。

 まだ間に合う。まだ踏み止まれる。

 君がくれた光はまだ俺の中に、

 もしそれを彼女にもあげられたのら、

 壊れかけてる現実を取り戻せる――それが俺の理想。

「……邪魔よ」

 冷たく言い放たれた言葉通り、俺を排除しようと彼女の背後から龍が姿を現す。

 胴は長く、体は黒く、巨大な翼を翻して、地面を抉り俺に迫る。

 だが俺は躱そうとはしない。彼女には俺とのデュエルに乗る必要なんてない。その力で握り潰せば一撃で勝負がつく。

「頼む……出てきてくれ……俺に力を貸してくれ!」

 ならデュエルに持ち込むためには、俺も同じ力で相殺するしかない。

「来い! 覇王黒竜!」

 今度は俺の声に反応してデュエルディスクが展開、俺の胸の中からカードが一枚飛び出しモンスターゾーンにセットされる。

「くっ……貴方、まさか」

「相殺しろ! 反旗の逆鱗――ストライクディスオベイ!!」

 頭上に現れた覇王黒竜オッドアイズ・リベイリオン・ドラゴンは、急降下の後、その鋭い顎で地面を抉りながら向こうの龍と正面から衝突する。二体の竜が打つかる合う衝撃は凄まじい物で、俺は踏ん張りきれず後方へ大きく飛ばされる。その際背中を強く打ったけど、大した怪我はしなかった。

 だがそれ以上に事態は深刻になっている。確かに一撃は相殺できたものの、俺の覇王黒竜は消えてしまった。それに加え全身から力が抜けてしまい、もう一度覇王黒竜を実体化させるのは無理そうだ。

「……所詮人間ね。もう精神力もないだろうけど、邪魔だから消しておくわ」

 彼女は消えた竜をもう一度出現させ、止めを刺そうと再度攻撃を加える。今までは幻想郷のルール下だったからデュエルで解決できたけど、一たび外へ出てしまえば、こうなるのも道理か。でもここで引くわけにはいかないんだよな。何か手は――。

 必死に思考を巡らせる俺の視界がチカチカと点滅する。一瞬何かの副作用かとも思ったが、どうやらデュエルディスクの画面が点滅してるらしい。

 

『System All Install. Execute -Next System- RSV Y/N』

 

 文面の意味はよく解らない。けど「RSV」の文字には見覚えがあった。Next Systemでもなんでもいい。今はこれに賭ける!画面の「Y」を押す。エクストラデッキから二枚、メインデッキから一枚のカードを取り出し、展開済みのモンスターゾーンに出した。

「オッドアイズ! ダークリベリオン! クリアウィング!」

 出現した三体のドラゴンは、これまでとは違って息遣いが感じられるほど存在感があった。やっぱり俺の予想は当たったみたいだ。四体の竜がぶつかり、辺りに再び衝撃が走る。さっきは完璧に相殺できたのに対して、今回はやや押され気味だった。

 が、三体のドラゴンは彼女の竜の攻撃を受け止めても消えることなく存在し続けている。

「どうする? 俺はデッキのモンスターが切れるまで付き合うぞ」

 嘘だ。はったりだ。ここで乗ってくれないと正直言って時間の問題。いつかは殺されてしまうだろう。俺も彼女も救うためには、ここでデュエルに持ち込めなきゃだめだ。

「くっ……」

 彼女はデュエルディスクを展開させて身構えた。大きな賭けは俺の勝ちみたいだ。――彼女を救うラストチャンス。俺も三枚のカードをそれぞれのデッキに戻し、オートシャッフルの後、五枚のカードを引く。

 瞳を閉じる。苦しい思い出が走馬灯の様に浮かぶ。悲しい話の連続。全てが狂ってしまったあの日、俺はただ笑顔の君が好きなだけだったのに。何もかもを失くしてしまった。 暗い、闇に、いつも一人。きっと――彼女も。

 だけど、まだある希望の光を掴みに行く。たとえ彼女が拒絶しようとも。思い通りの未来は描けないかもしれない。余計なお世話かもしれない。それでも俺は彼女に笑い方を思い出してほしい。きっと素敵なはずだ。全ての人を笑顔にできるわけじゃない、けどせめて目の前で泣いている人を笑顔に変えたい。

「――デュエル!!」

 俺の思いも、心の叫びも、全部デュエルで伝えて見せる。

 手札を見つめれば、一番端に『ダブル・アップ・チャンス』のカードを見つける。少し心が綻んだ。

「俺はスケール1の《星読みの魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング! ペンデュラム召喚! 《EMシルバー・クロウ》《EMゴールド・ファング》」

 レベル4 ATK1800

 レベル4 ATK1800

「これでターンを終了する」

 いつもより慎重な滑り出し。どうしても彼女に伝えないといけないことがある。これは会話するためのデュエルなんだ。その糸口を見つけないと。

「嫦娥……こんな妨害を入れて来るとは……」

 唇を噛み締めながら俺のこと睨み付ける。そして憎しみが籠った目を見開いて声を張り上げた。

「不倶戴天の敵、嫦娥よ見ているか! 私だ、純狐だ! お前への憎しみを純化して途方もない月日が流れた! 必ず貴様を殺しに行く! 待っていろ!」

 殺気に満ちた瞳。俺のことはまるで見えてない。そう、何も見えなくなる。それが復讐に捕らわれることだ。全てをかなぐり捨てでも憎しみをぶつけようとする。その先にある物がどんなに――。

 

「私のターン、手札から永続魔法《魂吸収》を三枚発動。続けて魔法カード《強欲で貪欲な壺》を発動! デッキの上から10枚を除外してカードを2枚ドロー」

 魂吸収……カードが除外される度にライフを500ポイント回復する永続魔法。それが三枚ある状況で十枚も除外したら。デュエルディスクを見れば、『ライフ:23000』と表記されている。これにはさすがに顔が引きつる。これを削り切るのは骨が折れるぞ。

「さらに魔法カード《手札抹殺》を発動。お互い全ての手札を捨てて、同じ枚数ドローする。私が捨てるのは三枚」

「俺は……一枚」

 抵抗はあったけど、《ダブル・アップ・チャンス》のカードを墓地に捨てる。でも勇気は君からもらえた。後は俺自身の言葉とデュエルで、彼女の心を動かしてみせるよ。決意と共にカード引く。

「こんな物、速く終わらせる。手札から《死者蘇生》を発動。墓地の《ディープ・スペース・クルーザー・ナイン》を蘇生させる」

 レベル9 ATK900

「攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚したこの瞬間、手札から速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! 特殊召喚したモンスターと同名のモンスターをデッキ、墓地、手札から特殊召喚できる。デッキから《ディープ・スペース・クルーザー・ナイン》を二体特殊召喚する」

 レベル9 ATK900

 レベル9 ATK900

「その後、貴方も自分フィールドのモンスターを一体選んで、可能な限り特殊召喚する」

「俺のデッキに同名カードはない」

「そう……ならレベル9のモンスター三体でオーバーレイ! 顕現せよ《No.92》! 憎しみを純化し、手に入れたこの力! 全てを拒絶し、消し去る我が分身! 《偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》!!」

 ランク9 ATK0

「このドラゴンは……!」

 目の前に召喚されたモンスターは、先ほど彼女が操っていた竜。彼女の言うとおり、彼女の殺気が乗り移ったような威圧感が迸っている。

「バトルよ。《偽骸神龍》で《シルバー・クロウ》に攻撃!」

 偽骸神龍が攻撃を仕掛けると、それに反応してシルバー・クロウが応戦に向かう。普通なら攻撃力の高いシルバー・クロウが勝つのが、そんな風にことが運ぶとは思わない。むしろ、これは不味いという不安にかき立てられた。

 その予想は的中――向かっていったシルバー・クロウは、偽骸神龍に触れる前に見えない壁のような物に阻まれ、そのまま弾き飛ばされた。

「《偽骸神龍》はバトルで破壊されず、私が受ける戦闘ダメージは相手が受ける」

「くっ!」

 逆に俺が1800ポイントのダメージを受けてしまった。

 俺のデッキには効果破壊のカードは一、二枚しか入ってない。効果を無効にできるカードなんて、それこそ一枚だ。それでもこれを突破しなければ。それしか勝ち筋も彼女を救う道もない。

「カードを一枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターン! ドロー!」

 引いたカードは……よし。

 攻撃しても意味はない。かといって何もしなければ残り数ターンで俺の負けだ。ここはリスクを負っても行動を起こすべきだ。

「俺はレベル4のモンスター二体でオーバーレイ! 闇を照らす光の翼!《No.39 希望皇ホープ》!」

 ランク4 ATK2500

「そして俺はさらにシャイニング・エクシーズチェンジ! 闇を照らす希望の使者。その白き翼、奇跡の光を纏う!《SNo.39 希望皇ホープONE》!!」

 ランク4 ATK2510

「行くぞ! 相手とのライフ差が3000以上の時、効果発動! エクシーズ素材を3つ使い、俺のライフを10にすることで、相手フィールドに存在する特殊召喚したモンスターを全て破壊し、除外する。――パラドック・フォース!!」

 ONEの光がフィールド全てを包み、その中で剣を振るう。光の斬撃は偽骸神龍へ一直線に突き進む。

「俺のデッキ数少ない効果破壊かつ除外。ライフもかなり払った。これでだめなら――」

 光が消える。

 振り向けば鎖で縛られたONE。

 視線をフィールドに戻せば、彼女のフィールドでカードが一枚発動している。

「永続罠《デモンズ・チェーン》……その効果は無効よ」

「――もっと頑張らないとな」

 なんて言ってみるものの、ライフの差は22990。今までに体験したことなのない状況に、いやな汗が頬を伝うものの、それを拭って笑って見せた。

「……なんなの、貴方」

 彼女は焦燥を現にして、俺のことをにらみながら言う。まるで理解できないといった感じだ。けど、はじめて目が合った気がする。

「この状況が理解できてないのかしら? それともただの死にたがり? 月の民でもない地上人がなんでそこまでして私の邪魔をするのよ」

「今かなり追い詰められているのは分かってる。まだ死ぬつもりもない。強いて言うなら……貴女のため、自分のため」

「私のため?……おかしなことを言わないで」

「貴女の境遇は聞いた。気持ちは痛いくらいわかるつもりさ」

「わかる? 貴方に分かるというの!? 愛する人を奪われた辛さが! 愛しい息子を殺された憎しみが!」

「確かに俺は貴女と同じ苦しみを味わったことはない。だから完全に理解できるなんて言わない。けど……」

 宇宙(そら)を見上げる。どうしてかわからないけど、星はよく見えなかった。

「世界で独りぼっちになったような、そんな気持ちは分かる」

 俺が幻想郷に迷い込んだ日。そこは俺の想像を遙かに超えた世界。知ってる人も、知ってる場所も当然無くて。心細くて、泣きそうで、どうしたら良いのか分からなくて。

「そして誰かを殺したくなるほど憎い気持ちも分かる。でも俺は復讐して、全部無くした。夢も、何もかも。全部なげうって復讐を果たしたから。だから復讐が終わったら、俺に残ったものは虚無だった」

「だから私もそうなると? だったら? 私はもう何も残ってないのよ。怒りと憎しみ以外の何もかも。感情も夢も希望も」

「――それはどうかな?」

「……世迷い言を。このエンドフェイズ、《偽骸神龍》のエクシーズ素材を一つ使い、効果発動。このターン召喚・特殊召喚されたモンスター、セットされたカードを全て除外する」

 エクシーズ素材のひとつが偽骸神龍に溶け、その瞬間放たれる咆哮。耳を塞ぎたくなるような叫びに、ONEは光の粒となって消え去った。

 そして追い打ちをかけるように、彼女のライフが1500上昇する。新たにカードが除外されたため、《魂吸収》の効果が適用されたのだろう。

「これで貴方のフィールドは空。次のターン、抵抗はできない」

「どうかな? とも限らないさ。デュエルは対話だ。言葉を交わし、カードを重ね合う。自然と相手のことが見えてくる。俺は全力で行く。そっちも全力をぶつけてこい!」

 全身の血が沸騰しているみたいに熱い。心の何処かが騒いでるんだ。こんな状況でも強敵と戦えることを喜んでる。

 そうだ。俺はカードでしか語ることができない。なら今俺にできることはカードで戦うことだけだ。

 

 





 幼い頃はヒーローに夢見てた。どうも、空。(てんのうみ)です。
 今回の一見(マスタールールの変更)について、大変悩みました。ペンデュラムの冷遇はペンデュラム使いの主人公を起用している人には、かなりのショックだったと思います。私もそうでした。遊戯王をやめようとも考えましたが、やはり……やめられませんでした。カード引くときのドキドキを、勝つ喜びを、負ける悔しさを、バトルしているときの駆け引きを、私は知っています。忘れることなどできません。この小説を畳むことも考えましたが、この小説のテーマ「悲しいこと出来事も、楽しかった思い出も、全部抱きしめて前に進む」を貫くために、マスタールール4への以降を決意しました。
 今よりデュエル構築は難しく、投稿は月に一度になりそうですが、頑張ってみようと思います。(大学も始まりますし、同人活動を始めるので)

 デッキは生き物。流行に合わせて変化し、進化していくもの。

 熱いデュエルを書けるよう、精進していきますので。
 よろしかったら、お付き合いください。
 空。(てんのうみ)でした。
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