義体の少女と勝利の名 -プロト:ワールド- 作:mikadzuki
[①-Prologue]
-この30年、世界は目まぐるしく変化した。
コトの発端は2029年に行われた、無人探査機による月内部の調査。そこで新物質、「プロテリウム」が発見されたことが全ての始まりだった。
「プロテリウム」は特定の環境下でのみ自己増殖を繰り返すという稀有な性質を持っており、世界中の企業や国の興味を引いた。それが、世界を混乱させ、後に史上最悪の戦争を引き起こすことになるとは、この時、誰も想像できなかったことであろう。__________________________________________
[①-1]2059.4/9.09:00.”My house“
ピピピ、ピピピ、という無機質な機械音で、私は目を覚ます。
このままこの快適なベッドに居続けたい。という甘い考えを無理やり退かすように布団を蹴飛ばし、身体を引きずるようにしてなんとか脱出する。
カーテンを開けると、そこには普段通りの朝を迎えた巨大都市、「エテルナ」の姿が目に映り込む…はずだった。
なんだか、外が騒がしいような気がする…が、そこまで気にすることでもないだろう。
「さて、どうしたものか…」
ここ「エテルナ」に来てからはとにかく仕事ばかりをやってきたせいでこちらには友人どころかプライベートな知人すらいない。
スマートフォンのメッセージアプリの履歴には仕事で関係のある人物とここからかなり遠い故郷にいる家族と友人程度しかない。いずれも簡単に外出に誘えるような人物ではない。まったく困ったものだ。「因果応報」とはこういう事を言うのだろうか。
自らの過ちを痛感しつつ、簡単に作った朝食をテーブルに運ぶ。一人暮らしだと簡単に済ませることができるのは嬉しいポイントだと思う。もっとも、私は“一人”というより“独り”なのだが。
朝食を食べ終わり、なんとなくテレビをつける。
「う〜ん、なんにもないなぁ…」
仕事詰めで体調を崩してしまい、かかりつけ医に「とにかく休んでください!」と懇願されたのが1週間ほど前の話。最初の3日間くらいまではまだ良かった。気が済むまで寝続けたり、ふら〜っと出かけて何か面白そうなモノがないか探したり、何も考えずに歩き回ったりしていた。だが何も考えなかったのがいけなかった。強制休暇開始から3日ほど経った頃、完全にやることを失った。
もとより私にはこれと言った趣味もなかったがために、巨大都市に出てきたところで好きな作品のグッズを探したり、好きなアーティストのライブに赴く事が出来るといったメリットが無かった。私が稼いだお金を使うところといえば生活費などの最低限必要な支出に、「仕事道具」くらいしか使わないだろう。「過度な欲望は身を滅ぼす」とはよく言うものだが、「お前には欲がなさすぎる」と言う同僚の声が聞こえてくるような気がする。
「…とりあえず外に出るか」
家の中で色々考えていても何か起こるわけでもない。パソコンを立ち上げ、メールが届いてないかチェックする。何もないことを確認してからささっと着替え、財布と色々なモノを入れた肩掛けカバンを身につける。大容量なのが私のお気に入りたる所以だ。
「忘れ物は…無いな」
しっかりと確認してから靴を履き、玄関扉を開ける。
こっちに来てから大きくお金を使ったのはこの家を買ったことだけかもしれない。
目的地も無いままに、私は「エテルナ」の中心部へと歩みを進めるのだった。