義体の少女と勝利の名 -プロト:ワールド- 作:mikadzuki
[②-9]
「おいおい…これは、予想外だな。」
アレクセイも驚いているようだ。それは私も同じで、何かあっても核弾頭辺りが関の山だと思っていたが、これは…
「これ、人間じゃない…」
「どういうことだ?」
「ここ…首元にポートがある。義体化じゃない。これはアンドロイドだ。それも戦闘に特化した。」
「HQ、HQ。こちら“ブラボー”。目標に到達。ヤツらが持ってたのはアンドロイドだ。
それも限りなく高性能な。」
「“ブラボー”、視界を共有できる?」
「了解。」
私は司令部のモニターに義眼から見える視界を共有する。
「これは…メーカーの記載や、周囲に説明書は?」
「無いな。持ち出されたか、元から付属していないか。メーカーの記載も無い。」
「そう…ひとまず、解析出来ないか試してみてちょうだい。その後、そのアンドロイドを回収して。脱出用のヘリを向かわせるわ。」
「了解した。“ブラボー”、アウト。」
さてと、首元にポートがあるなら…
「このポートから解析出来ないか?」
「出来るとすれば、ここからしか無いだろうな。」
私はワイヤーを取り出し、首のポートに差し込んでみる。
「これは…痛…!」
「大丈夫か?」
「ああ…だい…じょうぶだ…」
危なかった。これ以上繋げていれば、脳を焼き切られていたかもしれない。それが防衛反応か、私の脳への過負荷なのかは分からない。
「ここじゃ解析出来ない。基地に連れ帰るしか…うお!?」
突如、アンドロイドが起動し、私にブレードで襲いかかってくる。
「チッ…!アレクセイ、外を警戒しておいて!こいつは私が止める!」
「了解!」
さて、私もやるか。
私も右腕部からブレードを展開し、構えを取る。
アンドロイドが軽く踏み込み、斬りかかってくる。私はそれをブレードで受け止める。
「クッ…!強い!」
ブレード同士がぶつかり合い、鍔迫り合いによって火花が散る。腕力では圧倒的に私が不利だ。
私は敢えて後ろの壁に近づき、アンドロイドの攻撃を誘う。
アンドロイドがブレードを力一杯に振りかざしてくるが、私は力に任せたその攻撃を軽く躱し、素早く背後を取る。
「止まれ…!」
首元のポートにワイヤーを一瞬差し込み、フォーにプログラムを変更させる。
「…痛い…」
差したのが一瞬だったのにも関わらず、さっきよりも強烈な痛みが頭にかかる。だが、そのおかげでプログラムを変更することが出来た。
私はアンドロイドを持ち上げ、アレクセイの声をかける。
「終わったぞ。撤収だ。」
「おい、大丈夫か?顔色が悪いぞ。」
「ああ、またポートに差し込んだだけだ。そのうち直る。」
私の脳が美味しく焼けてないかも心配だが、まずは脱出だ。
地下から出ると、建物が人でごった返していた。すぐに私達は物陰に身を隠す。
偽情報の効果もそろそろ切れてきたか。よりもよって脱出のタイミングで。
「非常階段を使おう。ここからなら人目につくことなく行けるはずだ。」
「了解…悪いけど、先導してくれる?」
「ああ、任せとけ。」
いざという時にはしっかりと頼りになるし、なんなら普段の軽口さえなければ良いヤツなんだがなぁ…惜しいよなぁ…
アレクセイの先導で非常階段を登り、屋上に到着する。
だが、少し遅かったようだ。屋上はPMCの兵士によって占領されており、今ヘリが近づけば叩き落とされる。
「HQ、こちら“ブラボー”。屋上が敵性勢力に占領されてる。接近を中止しろ。」
「了解。安全が確保され接近させる。“エコー”が周辺空域で待機中。」
とりあえずこれで帰りの足が無くなることは防げた。問題は、ここからどうするか。
機械兵だけなら最悪EMPを撃ち込めば良かったが、潜入任務のため、今日は持ち込めていない。
私は“コイツ”を抱えてるし、アレクセイ一人、私一人でなんとか出来る量じゃない。かといってコイツを降ろして勝手に行動されると困る。ホントにどうする…?
…そうか。その手があった。
私はアンドロイドを降ろし、ワイヤーをポートに差し込む。頭、というよりは脳に直接来る痛みを感じつつ、なんとか起動させる。
「おい、何して…!」
「…あなたは?」
無事に起動し、私の名前を聞いてくる。どうやら先程の戦闘の記憶は無いようだった。その方が助かる。
「私は紅羽。黒瀬紅羽だ。それで、そっちのやつがアレクセイ・ギルダーだ。」
「クレハと、アレクセイ。」
「そう。君の名前は?」
アンドロイドの少女はふるふると首を左右に振る。さっき私を殺そうとしてきた少女と同じとは到底思えない。
「分からないの?」
「…うん。」
なるほど。おそらく、設定されてないのだろう。
「なら、私がつけてあげよう…そうだな…“ニケ”なんてどう?」
先の戦闘で見せた圧倒的な戦闘力。この子に様々なことを教えてあげれば、私たちにとっての「勝利の女神」になるだろう、という考えだ。
とは言ったモノの、どうだろう。私が名付けになったことなんてフォーを創った時しかない。気に入ってもらえると良いんだけど…
「“ニケ”…うん。気に入った。」
「それは良かった。」
「それで、私はどうすれば良いの?“マスター”」
まさかのお前もマスター呼びか。フォーにも教えて無いのにマスターと呼ばれていた。なぜだろう?
「そうだな…それじゃあ、私達がアイツらを倒すのを手伝ってくれる?」
「分かった。」
よし。これならあの量の敵も突破できるだろう。
「アレクセイ、私とニケで前に出る。お前は後方から支援してくれ。」
「了解。得意分野だ。」
「よし、私が3つ数える。その後、私の合図で攻撃開始だ。」
「了解。」
「分かった。」
「行くぞ。3…2…1…今だ!」
私の合図でニケと共に飛び出し、近くに居た兵士から倒していく。
「何だこいつら!?一体どこから出てき…」
後方からはアレクセイが私達の背後の敵を排除してくれている。これで私達は安心して突撃できる。
「こんなものか…」
屋上に居た敵は粗方始末したはずだ。
「…この…!」
「ッ!」
私はすぐ拳銃を抜き、声のした方に発砲する。それと同時に、5ヶ月前のことが頭の中に鮮明に蘇る。
もう、私は一人じゃない。これからはもっと気をつけないと。
「“エコー”、こちら“アルファ”。屋上はクリア。対空攻撃に注意して接近してくれ。」
「無茶言ってくれるじゃないっすか。」
「今なら大丈夫だ。手早く帰ろう。」
少しして、“エコー”が来た。
屋上の出入り口に警戒しつつ、ヘリに乗り込む。
「おつかれさんです。今日は新しい客も乗せてるんすか?」
「ああ、『Order』の頼れる新入りだ。出してくれ、今日は疲れた。」
「了解。」
ヘリの後部ハッチから「エテルナ」の夜景を見下ろす。今日も「エテルナ」はビルの明かりで照らされている。会社に囚われた人々と、夜更かしする人々。「正と負」とも取れる正反対な2つの欲望が織りなす光に照らされ、今日も「エテルナ」の街並みは美しく見えた。
「なあ、あれはちょっとやり過ぎたんじゃないのか?」
アレクセイが指差す先には「E.PMC」の屋上があった。
「あそこには他にも密輸されたプロテリウム製品があった。真っ黒だったのさ。それなら、いくら壊しても大丈夫だろう。」
「そうだといいがね。まあ、いざとなったら俺は全責任をあんたに押し付けるがね。」
「どつき回すぞ。」
「おお怖い怖い。」
「おふたりとも仲良しですね。」
『それは無い。』
「ホラ、今だって息ぴったり!ホント良いバディですよ。あなた達は。」
確かに、コイツはバディとしては優秀だ。それは認めよう。だがしかしほかの面に難がありすぎるんだ。まったく。
「ホラ、基地が見えてきましたよ。」
作戦時間で言えば2〜3時間ほどしか経っていないのに関わらずこんなに疲れているということは、それだけ大変だったということだろう。
「あなたはどうするんだ?ヘリを戻してからか?」
アレクセイが“エコー”に尋ねる。
「いえ、ここに着陸すれば、ヘリポートが勝手に動いてガレージに運んでくれます。」
「それ、本当なの?見たことないなんだけど。」
「本当なんですよ。なんなら、今度見せてあげますよ。」
屋上のヘリポートにはエレナが小さく手を振って待っていた。
「おかえり、三人とも。そしてようこそ、ニケ。」
「ただいま」「おう」「戻りました」「始めまして!」
4人居て、4人違う挨拶をする。
『みんな違って、みんな良い。』昔、そんな言葉があったらしい。