これほどの名誉がありましょうか。
これほどの幸福がありましょうか。
熱を孕み、艶を帯びた声が歌う。
ああ、我が君。
この子は我が君、あなたのもの。印されし者。
喜んで、捧げましょう。
薔薇の花唇が紡ぐ、ひどく美しい響き。この世の春を言祝ぐ歌が、花開く。
白い顔。闇夜の黒髪も、まつげも長く、艶やか。その眼は星の色。潤み、青を帯び……女が一心に、唯一の太陽を見上げる。
押し出され、小さな小さなこぎつねが、一歩、二歩と頼りなく揺れる。
金色が煌めき、母親譲りの星の色は陰り、その白くまろい頬は涙に濡れている。運命に向かって歩き始める。
女が跪き、頭を垂れた。
我が太陽。唯一のお方。
この子のすべては。
あなたの御心のまま。
――悲鳴がする
そのあまりに恐ろしい響きに、さらに叫ぶ。
逃げ出さなければならない。あの場所から、そうしないと。でもどうやって、どこにも行けないのに。印されているのに。駒なのに。
美しい女の顔。艶やかな響き。星の眼が見上げてくる。
青ざめた、小さな小さな子。ゆうらりと歩んでくる。運命に向かって進む。
灼熱の痛み。なにもかもが壊れるような、崩れていくような、根源的な恐怖。
そのすべてから逃れたくてただ叫ぶ――。
「……ウル」
ウルペクラ! と誰かの呼び声。熱い衝撃が走る。混乱に楔を打ち込まれ、ウルペクラ・レストレンジは狂気の魔の手を逃れた。
ばらばらになった思考が繋がり、夢の断片が追い払われる。ぱちり、と瞬けば灰色の眼があった。
「――セド……リック?」
ぽつ、と呟く。
「そうだよ」
こっちの手が痛くなった、とセドリック・ディゴリーは手を振ってみせる。どうやら叩かれたようだ。ウルペクラは頬に手を添える。全身が氷のように冷え切っているせいか、叩かれた痛みを感じない。かすかな熱だけがある。
「なにがどうなっている?」
身を起こす気にもなれず――否、できず――問いかける。どうやら医務室にいて、夜になっている。そしてセドリックがなぜか付き添っている。それくらいしかわからない。
セドリックは小さく息を吐き、寝台に乗り出していた身を退け、椅子に腰掛ける。
「吸魂鬼のせいで倒れたんだよ。僕は君を担いで馬車に放り込み、連行」
「なあお前、お人好しすぎるだろう」
「そこはありがとうじゃないのか君?」
常はゴールデンレトリーバーのように愛想がいい男は、獰猛な狼じみた唸りを漏らした。
「ありがとう」
言って、思い出す。医務室――カーテンの囲いの中にいるのは、ウルペクラとセドリックだけだ。
「パッドフット……僕の犬は?」
大きな黒い犬である。いれば、すぐにわかるはず。ホグワーツ特急の通路で一緒だったのは覚えているが、その後がわからない。
「ああ、」
あの子はね、とセドリック。
「ダフネが引き取った」
「ほう?」
詳しく、という無言の要求にセドリックは答えた。
「彼……君の犬が吸魂鬼を威嚇してくれて。あと、守護霊がやってきて蹴散らしてくれたんだ。僕は難を逃れたけども、君は倒れてしまって。どうも助けがいるのでは、とダフネを呼びに行ったようだ」
賢い犬である。感心しながらも続きを促す。ダフネ――とザビニがやってきて、彼女はオレガノのエキスを持っていたのでウルペクラに飲ませ……頭の回るザビニがウルペクラのローブを探り、チョコレートを発見。食べさせて、後はセドリックが引き継いだとか。
「で、僕とセドリックとパッドフットだと窮屈だろう、とダフネがパッドフットを預かった?」
「正解」
頭を抱えたくなった。多方面に迷惑をかけているではないか。普段、クリスマスプレゼントのやりとりなどしないが、今年はするしかないのか?
社交に呼ばれても、そういったやりとりはほぼないのがレストレンジ家だ。強いて言えばマルフォイ家くらい。あとは、縁談云々言って、いらないものを贈りつけてくる泡沫ども。それか、娘を売り飛ばしたい商人どもとか。断りの手紙を書くのが面倒なのだ、あれ。泡沫どものほうがまだ楽だ。問題は商人どもだ。レストレンジと懇意の商家に言って、寄ってくる蟻どもを蹴散らしている。
その「懇意の商人」にしたって――北の都に根を張って長い、百貨を扱う大商人。商会の主である――娘はいかがですかと言ってくる始末。お前の娘は四歳だろうやめてやれ、とこの前も断った。お前に言えば仕立て職人やらなにやら手配してくれるが、さすがに幼い娘を所望した覚えはない、と。
商人はからからと笑い「このまま一人で寂しく干からびるおつもりか」と言ってのけた。帰れ、と言って追い返したが、彼は羊皮紙を押しつけてきた。「身元の綺麗な娘一覧」であった。姓は貴族――名門、あるいは準名門のものだ。
名門とはたとえばブラック、マルフォイ、レストレンジなどの有名処。
準名門の定義は曖昧だ。
貴族によって娘あるいは息子を下賜された成り上がりを指すこともあれば、多大な功績によって名のある家とされた「成り上がり」もある。後者は魔法大臣ミリセント・バグノールドが該当する。
本家から遠く遠く離れた家を指すこともある。
たとえばブラック家の血を継いでいるものの、あまりに昔に枝分かれし、ブラック姓ではないものとか。
放蕩者が叩き出され、一応、血筋の者であるとして、ブラック■■のような姓を付けられる場合もある。
妾の子に雀の涙ほどのガリオンを与え小さな邸に押し込める例も多々。将来、駒とすることを見込んでたいていブラック■■という姓を与えておくものだ。万が一、婚姻に使える駒がいなくなったときの予備である。
もはや騎士物語にしかなさそうな例が、祖の代から仕える、従者の家系、というやつである。これは賜姓の準名門と呼ばれる。ミドルネームに主の姓を賜るのだ。古い伝統、もはやない伝統だろう。少なくとも、ウルペクラは聞いたことがない。
商人が推す「身元の綺麗な娘一覧」は、どこぞの家の妾の子を、貴族の養子にして「綺麗にする」とか、準名門の手頃な娘を斡旋するとかだろう。間違いなく純血とされるのは聖二十八族だが、それ以外も「純血とされる」者はいるのである。
「……他に倒れたのは?」
商人の忌々しい顔を頭から締め出す。ウルペクラの婚姻問題はいいのだ。どうせ将来、一人で寂しく干からびるのも覚悟している。
なにせ死喰い人と死喰い人の子だ。不良物件だ。レストレンジをウルペクラの代で潰すのは気が進まないので――家令夫妻に託すならともかく、ほぼ没交渉の大陸のレストレンジに奪われるのは嫌である。ひっかき回されてはたまらない。とすれば、とれる選択肢は限られる。傍系から養子をとることになるだろう。
考えないように考えないようにしていたはずが、と顔をしかめる。が、セドリックの答えに、商人、四歳の女の子、婚姻問題、養子も仕方なし? が吹き飛んだ。
「ハリーが倒れた。宴に出席はしたけどね」
「……で、お前はわざわざ、宴が終わって僕の様子を見に来た?」
「救護者の責任だよ」
さらりと言われ、ウルペクラは完敗した。
どこまでお人好しなのだか。
そして、もう一人のお人好し――友人の妹というだけの女の子を助けるために『秘密の部屋』へ飛び込んだ「生き残った男の子」に思いを馳せる。
彼とウルペクラに、共通項などないはずだが。
片や生き残った男の子、片や死喰い人の息子。まったく違う道を歩んできたのだから。
セドリックが去り、マダム・ポンフリーにしこたまチョコレートを食べさせられ、医務室の明かりが消える。
寝台に横たわり、暗闇を見つめる。
吸魂鬼は、人の感情を――暗い記憶をすするのだ、と言われている。絶望を喰らうもの。果ては、魂を吸うもの。
切れ切れの記憶を探る。恐ろしいことが――とてつもなく恐ろしいことがあった、という感触。嫌がって、家令夫妻が止めようとして、餌食になった。それでもウルペクラが抵抗するので――怖がるばかりで、積極的に抗ったとは思えないが――磔刑の呪文を受けるはめになった。
そうして、連れて行かれた。
手を引かれて、歩いた。
「……歩いた?」
瞬く。そっと衣――胸に手を当てる。闇の印が刻まれた場所へと。とくり、と心臓が脈打っている。
闇の印が刻まれたのは、一歳にもならない頃。生後数ヶ月。手を引かれたとはいえ、歩けるものだろうか。抱えられてはいなかった。たしかに、ウルペクラは……磔刑の呪文を受けてなお、引きずられるようにとはいえ、歩を踏んでいた。
そもそも、と思う。
いくら吸魂鬼でも、一歳未満の赤ん坊の記憶を掘り起こせるものなのか?
「――それに」
乾いた笑いをこぼす。掠れ、砕けた、無様な声。
「闇の印ごときで、倒れるものか?」
痛かったろう。怖かったろう。しかし、ただそれだけだ。赤ん坊の頃のことだ。
毒を盛られた時のほうが、あるいはダイアゴン横丁で恨みをぶつけられた時のほうが、絶望の記憶というにふさわしいだろう。
そうか、と眼を瞑る。
あれは、闇の印を刻まれた時の記憶ではない。
それより後の、記憶である。
あまりの恐怖に、書き換え、封じていただけなのだ。
これは赤ん坊の頃のこと。ただ、印を刻まれただけなのだと。
問題は、最悪の記憶とはなんなのか。なにが起こったのか。
ウルペクラにすらわからないことだ。
翌日、簡潔な手紙を書いた。暗号文を使って投げた問いに、さらに数日後、返事がやってきた。
『坊ちゃまが印を刻まれたのは生後数ヶ月のときのことでございます。坊ちゃまは、何度かあの方にお会いし、三歳の頃に旦那様と奥様が坊ちゃまをあの方に捧げる。我々は名誉を賜る。いままでにない、誰も賜ったことのない、誉れをとおっしゃいました』
その手蹟に、常の繊細で優しげなものは欠片もなかった。家令のロクサーヌは、昔日の記憶に怯えている……。
『私たちはお止めしようと……だって赤ん坊に印を刻む以上のこと、しかも捧げると。いくら主とはいえ、看過できず……しかし、お止めしきれずに、坊ちゃまはあの方と対面したはずです』
ウルペクラは、インクの染みを指で撫でた。飛び散ったそれの先を、おそるおそる読み――息を吐いた。
「……なにもなかった、と?」
正確には、こう綴られていた。
『坊ちゃま、私たちにはなにもわからないのです。客間から出てきた坊ちゃまは、お眠りになっていました。健やかに、息をしておいでで……安堵しました。
いかなる災禍の印も認められませんでした。
ただ、覚えています。
坊ちゃまを抱っこする奥様の、輝く眼を。
奥様から坊ちゃまを受け取った旦那様が、こう呟いたことを』
よくやった、ウルペクラ。
我々こそが、一の忠臣。
お前は闇の帝王のもの――。
インクが派手にこぼれている。筆が迷ったのだろう。書くか否か、知らせるかどうか、逡巡したのだろう。
乱れきった文字が、連なっていた。
我々は、唯一無二の太陽に捧げるために。
お前という存在を生み落としたのだ。
「……知っていた」
ぐしゃり、と便せんを握り潰す。
知っていた、知っていた、と叫ぶ。
「僕が駒なのだと、それだけなのだと。単なる血の器なのだと」
わかっていた!
歯を食いしばる。叫びを聞くのは、ウルペクラのみ。
いいや――。
椅子に腰掛けたウルペクラの膝に、重みがかかる。
真っ黒い犬――パッドフットが、顎を乗せている。
「犬の子のほうが、よほど情があるだろうに」
呻き、犬の頭を撫でてやり。
忌まわしい手紙を燃やし尽くし、この世から消した。
逆転時計でもない限り、知ってしまった事実は消えないとわかっていながらも。
そうするしか、なかった。
「……呆れた」
九月第二週。校庭――湖の畔。ウルペクラは樹にもたれ、眼を瞑った。冷たい風が吹き、乾いた葉擦れを響かせる。
このまま昼寝と決め込みたい。と切に思った。だが、手に握った便せんがそれを許してくれない。手紙は、家令夫妻からのものだ。先のやりとりが大変繊細で注意を要するものであったので、ウルペクラの様子を窺おうと、再び手紙を送ってきたのだ。
吸魂鬼が多数配備されていると聞いております。お寒くはありませんか。よろしければ、チョコレートをお送りしましょう。ホットチョコにしても美味しいので、是非……等々の世間話を前置きに、連ねられたそれは、段々と不穏な色を帯びていた。
要約すると、ルシウス・マルフォイがまたぞろ動き始めたようです。坊ちゃまに波及してはお困りだろうと――どうやらご子息を傷つけたヒッポグリフ、ひいてはルビウス・ハグリッドに彼はお怒りです。裁判をするとかしないとか、と家令夫妻は送って寄越したのだ。
――先学期は闇の品を玩具にし、今学期はヒッポグリフごときで大騒ぎ
「……馬鹿かな、我が叔父上」
よほど暇らしい。親馬鹿ならぬ馬鹿親である。純血貴族が情けない。先学期、闇の品を仕込み――ウィーズリー家を破滅させようとして失敗しても、理事を辞めさせられても、懲りていない。もちろんルシウスは事件への関与を認めないけれど。
勝手にやれ、と捨て置きたいところであるが、ウルペクラとてルシウスのとばっちりを受けた身である。せめて一年ほど静かにしていればいいものを、くだらないことで騒がれてはたまらない。
――本命は
息子の怪我を理由に、学校の管理体制の不備を問い、ダンブルドアを引きずり下ろすことだろう。ダンブルドアがルビウス・ハグリッドを教師に推したのだから、責任は取るべきだとかなんとか。
が、たかが授業での怪我、しかもすぐ治る程度の「ひっかき傷」だ。文字通り、ダンブルドアの瑕疵にはならない。授業中の事故で大怪我、あるいは死亡した例すらあるのだ。比較になるまい。わかっていないわけがないだろうに、ルシウスはダンブルドアにちょっかいをかけたのだ。
たくらみが巧くいくはずがなく、腹いせにルビウス・ハグリッドを叩こうとしたら、これも阻止され……結局「凶暴なヒッポグリフ」に矛先を変えた。
「さすがに、いかなマルフォイとて勝手はできないだろうに」
眼を瞑ったまま、隣にあるぬくもりを撫でる。パッドフットは大変利口だった。伏せをして、ウルペクラの護衛を務めている。といっても、休憩時間に連れ出すくらいで、後は好きにさせている。
シリウス・ブラックが「同志」の息子に接触してくる可能性など皆無だろう。ウルペクラは拾った者の責任として、パッドフットを連れてきたに過ぎない。ホグワーツには広い森があり、パッドフットの遊び場にはちょうどよいだろう。
犬の件はいいのだ。問題は姻族の叔父である。マルフォイとレストレンジがダンブルドアを引きずり下ろすために手を組んでいる。『秘密の部屋』の事件の絵を描いたのがマルフォイ、実行役がレストレンジと囁かれている現状で、マルフォイに阿呆な真似をされたら、レストレンジまで頭が足りないと言われかねない。
「……と、いうか」
眼を開く。
「気に入らないんだよなあ」
ぐしゃり、と便せんを握り潰す。見上げてくるパッドフットの、灰色の眼に語りかけた。
「あの叔父とか言う生き物は僕に迷惑をかけ、虚仮にしたんだ。息子のほうも馬鹿で――」
考えをまとめるように呟き、掘り起こされた諸々が怒りに火を付ける。ドラコは傷が痛い、治らないとぐずぐず言っていて、大変鬱陶しい。それだけならば放置一択なのだ。
が、そうも言っていられなくなり、先日に手を打った。
少々注目を集めて調子に乗っていたドラコが「ポッターの騎乗なんて無様だった」「あいつは軟弱なんだ。あの忌々しいヒッポグリフに乗っていたときも真っ青だった」とほざき……挙げ句の果てに「吸魂鬼が怖くて倒れるくらいなんだから」と言い放った。
朝食の席で、ウルペクラもいるのに。堂々と。
ウルペクラは速やかに従兄としての責務を果たした。大広間からドラコを引きずって連行。玄関ホールできっちり説教した。僕も吸魂鬼のせいで倒れたんだが? ほう? お前がそういう考えだったとは……と言えば、ドラコは涙目になった。
どうやらウルペクラの眼が届かないところで、ドラコは何度も吸魂鬼の真似をして、ポッターをからかっていたことも聞き出した。
縛り上げたドラコを、階段の手すりから吊り下げるだけで勘弁してやった。我ながら慈悲深いことである。
故に、慈悲深いウルペクラは、マルフォイ父子にちょっとした嫌がらせくらいで済ませようと思う。
鞄から便せんと筆記具、板代わりに本を取り出す。羽根ペンをさらさらと滑らせた。
宛先は家令夫妻。内容は簡潔だ。
親愛なる叔父上が、愚を犯さないように手を貸して差しあげろ。そうだな、噂を流すといい。純血貴族マルフォイの当主が、息子可愛さにひっかき傷で大騒ぎしていると。
たかが、森番のヒッポグリフごときの首をほしがっていると。
鼻を鳴らす。
「可愛いものじゃないか?」
つい、言葉に刺が混じる。ほんのわずかな、どろりとした感情をウルペクラは自覚している。
ルシウス・マルフォイが裁判を起こそうとしているのは、諸々の腹いせもあるだろう。ヒッポグリフの件をとっかかりにし、ダンブルドアの資質を問い、疵をつける。あるいは森番を罷免させる。
彼が「大事な息子」を傷つけられ、腹を立てていないわけがない。計算高い面はあるものの、息子が怪我をして、なにも思わないほど冷酷ではないだろう。
馬鹿な親だとは思うが、人としてはまっとうなのかもしれない。
ウルペクラの両親よりは、よほど。
――今更
なにも思うまい。ロドルファスとベラトリックス、闇の帝王の忠臣ならば、息子の一人くらい差し出すだろう。
彼らにとって、息子は愛情を注ぐべき存在ではなかった。とっくのとうに知っていたはずだった。
彼らは、息子のことを捨て置いて「我が君」をお捜し申し上げ、監獄の闇に沈んだのだから。
吸魂鬼がウルペクラの記憶を抉り、晒したところで――ただ、再確認したに過ぎない。
だから、マルフォイ父子に――マルフォイ家に、昏い感情を抱く必要もないのだ。
ウルペクラは、昔から彼らが……叔母も含めて気に入らなかった。
完璧な愛情深い家庭。罪を逃れ、裁きを逃れた卑怯者どものくせに。不忠者どものくせに。
名前を付けないようにしていたもの。
どろりと渦巻くそれは。
許せないという怒りと――嫉妬だ。
彼らは知らない。
吸魂鬼に絶望を突きつけられるということは、どういうことか。
ウルペクラ・レストレンジは。
親に望まれて生まれてきたのだろう。
だがそれは。
愛ゆえではなかったのだ。