「着いた!!」
「はい」
シャーレの奪還を連邦生徒会の幹部、
“あそこ、誰か倒れてない?”
「本当ですね。争いに巻き込まれた一般の方でしょうか」
「とにかく、確認しに行くわよ。敵だったら縛っておかないと!」
羽川ハスミと早瀬ユウカの言葉に耳を傾けつつも近づいていく。
戦闘が終わったとはいえ、伏兵がいるかもしれないから、倒れているのが一般の人だったら避難させないと。
そう思って近くまで来たんだけど……。
「……助けて」
「えぇ……」
「うわ……」
意識が確かにあるが、なんというか……表情が抜け落ちたかのような顔をしてブリッジしているツノの生えた男の子と、気絶している女の子がそこにいた。
“ええと……。大丈夫?”
「……ツノが刺さって抜けません。助けてください」
返事はしてくれたので少なくとも会話をする意思はあるらしい。
「えっと……何をされているのですか、ジョウ議長?」
「……チナツか」
火宮チナツが戸惑いながら彼の名前と思しきものを口にし、彼女も尋ねる。
「たまたまここを通りがかったら、そこの狐坂ワカモが襲ってきてな。返り討ちにしたはいいけどミスってこうなった……ツノ付いてる奴が無闇にバックドロップするもんじゃないな、うん」
「えぇ……」
よく見ると、さっきまで追いかけてた狐坂ワカモが彼の側で倒れていた。
“あんなに強そうな子をほとんど無傷で止められるなんて、彼は強いんだね。”
「実際、ゲヘナ学園の風紀委員長の空崎ヒナさんに近しい実力を持っているみたいですよ。それに、彼自身がゲヘナ学園の生徒会である
“すごく頼りになるんだね。”
「そうですね。私としては、仲が悪い学園のことなので少しだけ複雑な思いもありますが……」
説明も兼ねて守月スズミと話をする。
どうにもスズミ達の学園とチナツ達の学園の仲はあまり良くないらしい。
その仲を取り成すのもシャーレの『先生』になる私の役目なのだろうね。
「頑張れチナツ!頑張れユウカ!地面の行く末は君達の手に委ねられているのだ!」
「集中できないので少し静かにしてください!」
「なんで私がこんなことを……」
逆立ちの体勢になってチナツとユウカに片足ずつを真上に引っ張ってもらっているジョウ。
それを少し遠巻きに眺めているスズミとハスミを見て、両学園の軋轢は根深いものなのかもしれないと思うのだった。
あ、抜けた。
────── ────── ──────
救出されたジョウに自己紹介を済ませ──
「なるほど、貴方がシャーレの『先生』だったのか」
“シャーレについて知っているの?”
「ああ。連邦生徒会長から少しだけな」
どうやら彼は連邦生徒会長とそういう話をしたことがあったらしい。
「ジョウ議長、その連邦生徒会長について報告が……」
「その前にだが……。そろそろ起きるぞ、狐坂ワカモが」
「!?」
彼が指摘すると、倒れていた狐坂ワカモの指先がピクリと動くのが見えた。
「ふふっ。気を失っている間に拘束もしないとは。はじめてですよ……この私をここまでコケにしたおバカさん達は……」
のそりと起き上がり、こちらに向けて威圧をしてくるワカモ。
彼女からのプレッシャーが重くのしかかってくる。
「必ず後悔させてあげます。あなた方の守りたい物を壊……し……て。……あら?」
「「「「“?”」」」」
私の顔を見た途端いきなり威圧が無くなったんだけど、どうしたんだろう?
「あら、あららら……。あ、ああ……」
なにやらすごく動揺しているぞ。
そんなに私の顔が変なのだろうか?
「し、し……。」
「失礼いたしましたー!!」
「待 て や !」
急に撤退をするワカモに反応できず逃してしまうところだったけど、ジョウだけは反応できていたのか彼女を羽交い締めにしていた。
「は、はなしてください!訴えますよ!」
「それしても捕まるのはお前だけだよ!方や脱走犯のテロリスト、方や素行のいい権力者、社会的信用を舐めんな!」
「卑怯ですわよあなた!?うら若い乙女と抱き合った上、あまつさえ陥れようとするだなんて!」
「卑怯もらっきょうもないだろうが!そもそも襲撃なんて悪いことするんじゃねえ!」
“えーと……。”
ワカモが必死に抜け出そうとしているけど、起きたばかりで力が入らないのか、なかなか抜け出せずにいる。
「そのまま抑えててジョウ議長。今からそいつ撃つから!」
「待つんだユウカ。その前に先生とワカモに提案があるんだ」
「提案?」
ここに来たばかりの私に提案なんて、何をするつもりなんだろうか?
シャーレや先生の肩書きを利用したものの可能性があるし、このまま聞いてみよう。
「あなたの提案を聞く気なんて微塵もありません」
「つれないこと言うなよ。それで提案なんだけどな
「「「「「……なんで?!」」」」」
ジョウは他の生徒達から総ツッコミを食らった。
でも本当になんでなんだろうね。
“その理由について、ちゃんと聞きたいかな。”
「それは単純。シャーレはワカモという強力な戦力を味方につけられるし、ワカモによる被害が今より減ればシャーレは七囚人でも更生できる部活として箔が付く。そしてワカモは強く興味を持った人物を白昼堂々と近くで観察できる。Win-Winじゃないか」
なるほど、危険性に目を瞑れば理にかなっているね。
生徒を利用するやり方に思うところが無いわけじゃないけど。
ジョウの提案を聞いて思案しているのか、俯いているワカモに聞いてみた。
“私としては悪くないと思うんだけど。どうかな、ワカモ?”
「……少し、考えさせてくださいませんか?」
“うん。急な話だし、ゆっくり考えるといいよ。ジョウも、ワカモを離してくれるかな。”
「生徒を信じてるねぇ。分かったよ。おっと……」
彼がワカモを離す前に、彼女が無理やり拘束から脱したようだ。
他の生徒達が身構えようとしたけど、その体勢が整うまでに彼女は既に離れた所にいた。
「近いうちに返事をいたします。それまでは破壊活動もしないと約束しましょう。……それでは」
“いい返事を期待してるよ。またね。”
彼女は一度お辞儀をすると、何処かへと消えていった。
「大丈夫なんですか?放っておいて」
「んー、あの様子ならしばらくは全然大丈夫だと思うよ」
「そんな無責任な……」
ジョウのあんまりな態度にチナツはため息を吐くのだった。
────── ────── ──────
あれからしばらくして、リンちゃんが先生を案内するためにシャーレの建物の中へと入っていった。
横切る時、こっちを睨んだように見えたのは気のせいだろうな。
心当たりなんて無いぞ!
連邦生徒会長と個人的な交友関係を持ってたり、その交友関係を利用してSRT特殊学園の廃校を遅らせてるなんて心当たりなんて無いからな!
しかし、プロローグで先生と合流できてよかった。
いつか起こる出来事のためにワカモを早めにシャーレに入れる話もしなくちゃいけなかったから。
エデン条約の黒幕をシャーレに入れるなら先にワカモを入れておいた方が反発も少なくて済むかもしれないしな。
なんて思っていると先生とリンが建物から出てきた。
各々の生徒が自分の学園これからやることを伝えて去っていく。
次はチナツが話す番だけど立場上、俺が先に話しておいた方がいいだろう。
「それじゃ、ただの通りすがりだった俺はここで。戦力が必要な時はゲヘナ学園をよしなに。あ、これモモトークの番号ね」
「ジョウ議長……。私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります」
「経緯はどうあれ、助かりました。ジョウ議長、
「おーけーおーけー、その内ね」
そう言葉を交わし、俺たちは自分たちの学園へ帰るのだった。
連邦生徒会長が消えて先生が来た。
物語から外れすぎると滅びかねない薄氷の上に成り立つこの世界。
できる範囲で準備してきたが、これから待ち受けている色んな苦難にどこまで対処できるだろうか……。
今更止まることはできない。
俺の戦いは、ここからなんだから──
────── ────── ──────
「ところでジョウ議長。業務中に学園を抜け出しているように見えますが、大丈夫なのですか?」
「……あっ」
この後ヒナちゃん達にメッチャ怒られた。
しかも後からついてきてた元宮チアキ*1にバックドロップとかのシーンを撮られてたことが発覚し、他の自治区で戦闘をした責任を取られかねない事態に……。
「というわけで問題なくなるようにしたいからシャーレに入れて先生」
『“えぇ……。”』
先生にモモトークで電話をして事なきを得たのだった。
────── ────── ──────
「いやぁ、助かったよ先生。あれで議長を下ろされたらたまったものじゃなかったからさ」
“もっと気をつけないとダメだよ。”
「うっす」
そんなこんなで後日、シャーレの部室で書類に追われている先生の手伝いをしている。
ああ、そういえばまともな自己紹介をしてなかったな。
小っ恥ずかしいけど、やるか。
「先生」
“どうしたの?”
「改めて自己紹介をしたいんだ」
“そういえば落ち着いた時にやってなかったね。でも、なんで今になってやるの?”
「決意を新たにしようかと思ってね」
“そっか。”
「じゃあ俺から。
俺の名前は空崎ジョウ。
ゲヘナ学園の
これからよろしく、先生。」
まだまだ続きます。