ENDER EMBER ~HEROES EMBRACED BY FLAMES~ 作:風音 のえる
『聖火はまだ尽きてはいない』
『希望を絶やす訳にはいかない』
『全てを汝に託す』
『だから───』
暗闇に、光が跳ねる。
小さな焔がパチパチと爆ぜる。
柔らかい熱が、小さな体を駆け巡る。
そして、ターコイズの髪をした幼い少年が、目を覚ました。
「………?」
確かに声がした、誰かが自分を呼んだ。
そう感じた少年は、しかし誰もいない部屋を見回す。
だが、そこにあるのはレンガ色の冷たい壁と、閂のされた古びた扉だけ。
それから、何だか暖かい、金色のペンダント。
檻のような形をしたそれの中で、虹色の炎が揺らめいていた。
少年はゆっくりと立ち上がり、部屋を出た。
あの声に応えなければいけないと、そう確信して。
***
部屋から出て少し進んだところで、少年の耳に物音が届く。
誰かがいるらしいと気付いた少年は歩く速度を上げ、誰かの元へと急ぐ。
そうして階段を登った先、少年の目に映ったのは赤い瞳をした女性だった。
「わ、」
「…ん、え!?なんでこんな所に子どもが!?……えっと、君、どこから来たの…?」
「…したから、きた」
「下…?あ、もしかして、開かなかった扉の向こうから?」
心当たりのあるらしい女性は数秒思案した末、少年に手を伸ばす。
「…とりあえず、あたしと一緒に来る?上に拠点作ってるんだ」
「わかった」
「あたしはポーナ。君は?」
「…わかんない」
「えっ!?」
「わかんない」
「そ、そっか…ま、まぁ、時間が経ったら思い出すかもしれないし、うん…」
ポーナに手を引かれ、少年は薄暗い地下から地上へと出る。
建物の外は、荒れ果てた大地だった。
遠くに見える海は、ひどく淀んでいる。
「ここはどこ?」
「ここはテノチズトク、焔の国の一番西にある島だよ。
焔の国で唯一、穢れに汚染されてない場所なの。だから、ここには穢者もいない」
「…?」
「分かんないか…」
遠く、東に見える濁った空を見ながら、ポーナは言葉を続ける。
「穢れを受けると、肉体、意識、魂の中でも力の根源の魂を蝕み『肉腫』が体に発現する。
肉腫によって肉体は驚異的な再生能力を得て不死の
まぁ、これはこのノートに書いてあったことなんだけどね。
とにかく、穢れっていうのはすご〜くやばいもので、それを浴びると穢者っていう化け物になっちゃうんだ」
そう言ってポーナが取り出したのは、古びた分厚いノートだった。
「それはなに?」
「これは先祖代々伝わるノートでね、焔の国から脱出したご先祖さまがギリギリまで国の状況を書き記したものなの」
パラパラと開いて見せる。
ほとんどのページにびっしりと文字が書き込まれており、その多くが荒い筆跡で余程追い詰められていたことが分かる。
「このノートに、『いつか必ず希望が訪れる』『最後の希望が目覚める時は必ず来る』って書いてあってね…あたしの父さんと仲間の人たちが、その希望を探しに焔の国まで来たんだ。
でも、帰ってこなかった」
「………」
「焔の国はどこも穢れまみれで、かつて吹き抜けた暖かな風は穢れに汚染されてるし、大地を豊かにし続けた火山は穢れた灰を降らせるようになった。だから誰もこの国には近付きたがらなかったし、ノートに記されたことなんて誰一人気にかけなかった。
それでも父さんたちはこのノートを信じてここに来た」
「そっか…」
「でも、一人だけ帰ってきたんだ」
「そうなの?」
「それで、あたしはその人からこの島のことを聞いて、何か一つでも手掛かりが残ってないかを調べに来たんだけど…」
「なかったの?」
「無かったんだよね…」
肩を落とすポーナは、しかしすぐに顔を上げる。
先程と同じく東を見つめるその瞳は、ハッキリと強い意志が宿っていた。
「それってつまり、父さんたちは向こうまで行ったってことにならない?
もしかしたら、あたしでも行ける場所が、まだ残されてるのかも…!」
「…だから、むこうにいきたいの?」
「うん」
「じゃあ、ぼくもいく」
「うん…え?」
自分の名前すら分からないはずの少年は、揺らがない金色の瞳でポーナを見返す。
「だれかに、よばれたきがしたんだ。
だから、いかなくちゃ」
「君……分かった、じゃあ一緒に行こっか」
「!いいの?」
「あたしが止めても行こうとするでしょ?その目を見れば分かるよ」
だって、
「一緒に行くなら呼び名がいるよね…うーん…君、小さくて何だかコロコロしてるから…コロコロターコイズ…
ココウィク、とかどう?」
「ここうぃく…うん、ぼくはココウィク」
「気に入った?なら良かった。
それじゃあ、向こうに行こう!
まずは、最北の街、最後の砦──オシカ・ナタに!」
▶最果ての島テノチズトク
かつて開拓のために人が送られた最西端の島。
しかし、大地が切り開かれるよりも前に、焔の国は穢れに飲まれ、かつて拠点だった遺跡が残るのみ。
遠く離れた陸地に蔓延る穢れを運ぶ風は、ここには無い。
▶ココウィク
呼び声に応えてテノチズトクで目覚めた少年。
虹色の炎が灯る小さなペンダントを手に、声の主を探すため、歩き始めた。
▶ポーナ
テノチズトクにやってきた焔の国の生き残りの子孫。父親の手がかりを探しに来た。
先祖代々伝わる当時のことを記したノート片手に棍棒で道を切り開く冒険者。