ENDER EMBER ~HEROES EMBRACED BY FLAMES~ 作:風音 のえる
かつては空の支配者とまで言われた戦士たちの巣、『花翼の集』。
彼らが愛した空は、今はもう存在しない。
焔の国本土へとたどり着いた彼らは、集落跡を見上げた。
上空を飛び交う穢者は、鳥のような、竜のような姿をしていた。
「あれ、多分『花翼の集』の人たちが乗ってたっていう竜だよね…」
見えるだけでもかなりの数が飛んでおり、そのまま中を進むのは厳しそうだった。
「上に行くなら、せめて対空出来るものが欲しいね」
「おちてるききゅうからさがそう」
当時はしっかりと飛んでいたのだろう気球やそれが支えていたのだろう足場の残骸が、至る所に落ちている。
地に落ちた家は歪んでいたが、まだ中に入れそうだった。
「うわ、ぐちゃぐちゃ…落ちた衝撃かな」
「なにかあるとおもう?」
「これは…無いと思うな…」
元々ずっと上にあったものが落ちたのだ。そりゃあまともな物など残っているわけがない。
家ごと完全に潰れてないだけマシである。
他に落下していた家も調べたが、使えそうなものはほとんど無かった。
辛うじて対空が出来そうなハンドキャノンは見つけたものの、肝心の弾が僅かしかなく、集落上部の探索には心許ない。
「これじゃあうえにはいけないね」
「そうだね…でも、一応持っていこうか。どこかで使えるかもしれないし。
ここは一旦諦めて他の場所に行く?」
「んー…ちょっとまって」
そう言うココウィクは、上ではなく下を見ていた。
高い崖の下、風の吹き出す海のそば。
落ちた気球の上に座る、穢者。
「…あの穢者が気になるの?」
「うん」
「次はあの穢者かぁ…いたのが上じゃなかったのはありがたいね」
「ポーナ」
「ん?」
「ありがとう」
「いいって、あたしたち仲間でしょ?助けるのは当然だよ!」
遠回りをしつつ、崖の下へと降りる。
穢れ混じりの熱風を受け、二人は穢者へと近付く。
やがて、穢者の方も二人に気付き、ゆっくりと立ち上がった。
閉じられていた翼が開く。
掠れた短い咆哮を上げ、穢者は飛び上がった。
「やっぱり、飛ぶッ!…よねぇ!」
穢れによって生み出された爆弾のような矢が辺りに降り注ぐ。
それは熱風を受け、より拡散する。
ポーナはココウィクを抱えてとにかく避け続けた。
(ずっと飛び続けるなんて無理なはずだから、降りたところを狙う…!)
縦横無尽に動き回り、とにかく狙いをズラし続ける。
穢者はまるでそれに苛立ったかのように爆撃をやめた。
そして、勢いよくさらに上へと飛び上がり、ポーナたち目掛けて落下した。
「嘘でしょ!?」
「ポーナ!!」
鈍い音と衝撃波が襲う。
ギリギリ堪えたポーナが見たのは、穢者の鋭い鉤爪をその大剣で受けるユパンキだった。
「え…?」
「…てつだって、くれるの?」
穢者を弾き返し、返す刃で穢者を斬る。
汚れた羽が舞い散り、後方に飛ばされた穢者が低く唸り返した。
「ありがとう、ユパンキ。おねがい!」
再び穢者が飛び上がり、弓を構える。
しかしそれを許さず、ユパンキが鉤縄を穢者へ飛ばして思い切り引っ張った。
あっけなく地に落ちたところを大剣が掠める。
そうして穢者が回避したところを後ろからポーナが棍棒で殴った。
穢者が悲鳴をあげ、めちゃくちゃに足と翼を振り回す。
だが、彼はその程度で立ち止まる戦士ではない。
暴れる穢者に構わず突っ込み、その穢れた翼を一刀両断する。
穢者は悶え苦しみ、地に伏した。
「やった、翼が…!」
「…だめ、まだ!」
ゆっくりと穢者が立ち上がる。
背中からドロドロと穢れが流れ落ちていく。
そして、それは瞬く間に形を成し、二対の巨大な翼を生み出した。
「そ、そんな」
「ポーナ!はやくはなれて!」
大きく咆哮した穢者の翼が風を起こし、熱と穢れを帯びた狂風が吹き荒れた。
すぐさま近くの岩場へと避難し、風をやり過ごす。
「どうしよう…あれじゃあ近付けなくない?」
「…ぼくたちはむりでも、ユパンキならちかづけるんじゃないかな」
するりとココウィクの隣にユパンキが姿を表す。
まるで、自分ならやれると応えたかのように。
「おねがいしても、いい?」
ココウィクを一度見たあと、大剣を構えて飛び出した。
ノートにこそ記されていないが、生前の彼は穢者化した偉大なる龍を斬った英雄である。
魂が解放され、かつての鋭さを取り戻した剣技は、狂乱の中にいる旧友を斬るのに不足は無かった。
気球を足場にして飛び上がったユパンキの大剣が、下の翼を切り落とす。
穢者がバランスを崩したところをその腕を掴んでそのまま共に落下する。
そして、着地する寸前に穢者を地面に叩きつけてもう一対の翼を根元からへし折った。
ココウィクたちが駆け寄る。
穢者はもう動かなくなり、散った羽だけが風に乗って飛んで行った。
ココウィクがペンダントを掲げる。
ユパンキの時と同じように、聖火の輝きが辺りを優しく包み込んだ。
『翼が無くとも、この足がある』
『武器が無くとも、この身がある』
『立ち上がれなくたって構わない、奴らの首を落とす絶好のチャンスよ』
『例え穢れに飲まれても、私の矢は必ず穢者の心臓を貫くわ』
『私たちを大地に縛り付けることは、どれだけ恐ろしい化け物でも不可能だと、思い知らせてやりなさい』
『忘れないで。この空は私たちが打ち砕いた枷であり、再び閉じ込めることは出来ないのだと』
翼の生えた穢者たちに、その矢を突き刺す戦士がいた。
地を這う穢者たちに、その刃を突き立てる戦士がいた。
彼女は、最期まで誇り高き空の長だったのだ。
虹色の炎に、自由を掲げた紅色が輝く。
崩れ落ちていく彼女の手を、ココウィクはそっと握り締めた。
「…ポーナ、このひとのことはかいてる?」
「えーと………多分、『花翼の集』のリーダー、リアンカだと思うよ」
「リアンカ…これから、よろしくね」
僅かにかつての熱を取り戻した風が、散らばった羽を空へと飛ばしていった。
***
ココウィクが立ち上がり、頭上の廃墟を見上げる。
リアンカは弓を使っていた。もしかしたら、飛び回る穢者に対する対抗手段となるかもしれない。
「いまなら、うえのたんさくもできるとおもう」
「行く?」
「いく。リアンカ、おねがい」
弓を携え、翼を生やした射手が現れ、ココウィクに応える。
二人はもう一度上へと行くべく、来た道を戻ることにした。
梯子を登れば、こちらに気付いた穢者たちが上から狙いを定めてくる。
だが、今の二人には何よりも頼りになる弓の使い手がいる。
穢者が攻撃する、あるいは近付く前に、リアンカの矢が穢者たちを撃ち落としていった。
「飛んでる穢者がどんどん落ちていく…凄い」
「うえ、いけそうだね」
見上げるだけだった集落がやっとしっかりと二人の目に映る。
そこは、廃墟と言うにはあまりにもぼろぼろで、ここで起きたことがずっと酷かったと物語っていた。
家だったものは軒並みぺしゃんこに潰れていて、共に生きてきたのだろう鳥のような竜たちの亡骸がそばに倒れていた。
「ッ………ひどい、こんなの、集中砲火じゃん」
「…ここは、とてもやすめるばしょじゃないね…おとうさんたちも、きっときてないとおもう」
崩れ落ちていたり、床が抜けていたりする足場をゆっくりと進む。
重く湿った風だけが、唯一の音だった。
下を見れば、一際大きな気球が落ちていた。
きっと、ここの象徴だったのだろう。
「駄目だね…手がかりは無いや」
「しかたないよ」
「…他の場所、行こっか」
「うん」
集落のすぐ裏、高い岩山を見上げる。
上に登れば国の全景が見えるだろうと、ポーナたちは登ることにした。
オシカ・ナタから出た時のように、ユパンキの鉤縄で上へと登っていく。
眼下に広がる景色は、やはりと言うべきか、どこもかしこも穢れまみれだった。
ポーナがノートに描かれた地図を出し、焔の国を見渡す。
「うーん…見た感じ、中央部の盆地は湖になっちゃってるみたい。西の方にあるのは…『
聖火競技場は…行くにしても後回しの方がいいかも。あんなに大きな穢れの塊がある場所、絶対大変なことになってるよ」
地図と景色を見比べ、次に行くべき場所を見定める。
中央部はどこも危険度が高そうで、行くにはまだ早すぎる。
東部は見通しが悪く状況が分からないため行くには少し躊躇う。
となれば──必然的に、南が残る。
「南は…『
「いく?」
「ちょっと遠いけど、行ってみようか」
「うん、いこう」
▶『花翼の集』
空に生き、歌と共にあった戦士たちの部族。
焔の国の中でも特に高所に位置しており、崖の上にある家々は気球によって支えられていた。
人も龍も、敵も味方も、構わず同胞として受け入れた無冠の王女の元に集う、自由のために枷を打ち砕いたもの達の止まり木だった。
▶穢翼の射手リアンカ
空という絶対的な領域から穢者を狩り続けた誇り高き空の戦士の長。
国の防衛の要だったが、翼を得た穢者の出現により、その翼は折られた。
彼女が最期に見たのは、狂気に飲まれた息子の姿だった。