ENDER EMBER ~HEROES EMBRACED BY FLAMES~ 作:風音 のえる
崖を下り、湖岸を通り、南へと進む。
巨大な穢れに包まれた聖火競技場を横目に、時折襲い来る穢者を倒し、南へと進む。
その道中、ふと崖の上に蔓延る穢れが視界に入った。
まるで、そこにあった何かを覆い尽くすように、穢れが垂れている。
「ポーナ、あれって」
「……あそこ、『懸木の民』があったところみたい。あの様子じゃ、多分何も残ってないね」
凄惨な現場から目を逸らし、谷の中へと入る。
微かに感じる重い潮風が、暗い谷の中を流れていく。
日が傾き始めているのか、更に暗くなった曇天が、より空気を冷えさせていた。
洞窟を抜ければ、そこに広がっていたのは汚染水の湖だった。
きっと、かつては美しい青色だったのだろうそこは、どこも汚染された真っ赤な水と赤黒い泥で溢れていた。
所々水面に見える物や、飛び出しているものは、きっとここが戦場だった証なのだろう。
「集落は…この奥だね。
こんな場所だし、水中から奇襲してくるかもしれないからなるべく水面から離れて進もう」
「うん」
ポーナの言う通り中に穢者でもいるのか、風もないのに波打つ湖を離れ西へと向かう。
穢れから逃れようとしたのか、水際で力尽きた竜の亡骸を通り過ぎる。
小高い丘を超えた先、辛うじて形は残しているがほとんどが壊された集落がそこにあった。
「まぁそりゃそうだよね…ここ、火山にも近いし」
「でも、けものはぜんぜんいないね。すいちゅうなのかな」
「水中じゃないかなぁ…」
まだ足場が多く残っているのが幸いした。
集落の中で一番原型を留めている中央の大きな廃墟へと向かう。
崩れた屋根の下、籠城のあとが僅かに残っていた。
奥にある何箱も積まれた木箱の中を覗けば、物資がいくつか残っていた。
「…これ、ハンドキャノンの弾じゃない?」
「つかえそう?」
「かなり状態が良いから使えるかも」
「やったね」
使えそうな物は借りてバッグへと詰めていく。
そうしていくらか中身を充実させたあと、外へ出たポーナはふと空を見上げた。
「…流石に、かなり暗くなってきたね。もうすぐ夜みたい」
「よる…どこか、あんぜんなばしょをさがす?」
「いや、下手に動き回るよりここにいた方がいいと思う。地上に穢者はいないし、この場所はまだ身を隠すのに使えそうだよ」
灯りを取り出したポーナが引き返す。
最低限入り口や周辺を塞ぐために箱や板を動かし始めた。
海から吹きつける風が強くなり、寒さを増す。
遮蔽物がかたかたと揺れる音を背後に美味しくない携帯食料を二人で分ける。
そうして、ほんの少しだけ話をした後に、身を寄せあって眠りについた。
ほんの僅かな記憶だった。
暖かな何かに抱えられているような感覚。
言葉は聞き取れなかった。
ただ、諦めたような、自嘲するような、そんな言い方だった。
目を開けてその誰かを見るよりも、この温もりをこのまま享受し続けていたかった。
そして、微かな意識は闇へと落ちた。
「ッ!?揺れてる…!」
ポーナの声でココウィクは目を覚ました。
先程まで感じていた温もりは一瞬で霧散し、冷たさがその身を覆った。
慌てて隙間から外を見るポーナに続き、ココウィクも外を見た。
夜明けが近いのか、白みつつある空の向こう。
西の方、ずっとずっと高いところで、赤い光が明滅していた。
その光の中から飛び出した大小様々な光の塊が地面へ向かって飛んでいく。
「火山から、穢れが……噴火してるみたい」
「ここ、だいじょうぶかな」
「火山のすぐ側じゃないから大丈夫なはず…あ、ほら、収まってきたよ」
見ているうちに光が薄くなり、やがてほとんど見えなくなった。
揺れも収まり、完全な静寂が訪れた。
………静寂?
「……ココウィク、なんか、変だ」
「へんって、なにが?」
「だって、こんなに静かじゃなかったはずだよ」
異変に気付いたポーナがしゃがみ、ココウィクを抱え込む。
小声のはずなのに、僅かに響いていた。
そっと箱の隙間から外を覗く。
集落の周囲から、水が引いていたのだ。
少し遠くにある海面ですら、ある地点から波が一切無かった。
まるで、この周囲だけ水の動きを止められたかのように。
「さっきの噴火で、何かが出てきた…?」
「……ポーナ、あっち」
「あっち?何か………あ」
ココウィクが示した先、水面に誰かが立っていた。
いや、立っていると言うより、生えているようだった。
その誰か──穢者は、水と同化していた。
「多分あれが出てきた穢者だよね…見つかったら沈められそう…」
「にげるの?」
「…あの穢者、知ってる?」
「あのふたりよりぜんぜんかんじない、けど………
しってる、きがする」
きゅ、と小さな手が丸くなる。
もちろんポーナに拒否するつもりは無い。
無いが、流石に場所が悪すぎる。
いくら共に戦ってくれる仲間が増えたとは言え、結局はただの生身の人間でしかないポーナでは、汚染水の中を進むのは自殺行為に等しい。
「……分かった、あの穢者は無視しない。でも、まだあいつとやるには準備が足りない気がするから、とりあえずこのままここでやり過ご……せない、かもッ!」
ココウィクを抱えたポーナが体当たりをして勢いよく外へと転がり出る。
瞬間、波が建物を襲い水飛沫が飛んだ。
静寂は一気に破られ、波が荒れ狂う音が辺りに響く。
必死に距離を取ろうと走り出すポーナを、穢者はじっと見ていた。
「ッとにかく高いところに行くよ!水面近くは危ない!」
集落を離れ、すぐ近くの丘へと逃げる。
波があたりの廃墟を飲み込み、水位が上昇する。
「まずい、上は悪手だったかも…!」
「………リアンカ!!」
ココウィクが叫んだ時、既に二人の体は宙に浮いていた。
その僅かあとに丘の上を波が流れて行った。
ココウィクを抱えるポーナを更にリアンカがその足で掴んでいた。
「ぅわッ…!あ、ありがとう!」
「どうする?いったんこのままにげる?」
「あいつ、このまま逃がしてくれると思う?」
「…にがしてくれないとおもう」
少なくともこの集落付近にいる限りずっと追いかけてくるだろう。
明らかに近接攻撃が効きにくいだろう上に周囲は完全に穢者の領域でもある汚染水。
「…とにかく、リアンカにまかせてみよう。おねがいしてもいい?」
言い終わるよりも前にリアンカが矢を放つ。
爆撃が水面を揺らして、その余波で波が廃墟に打ち付ける。
…やはり、あまりダメージは与えられていないようだった。
水蒸気が晴れた先、穢者は変わらず水面に立っていた。
「やっぱり全然駄目か…どうしよう」
「…たま、どれぐらいあったっけ」
「ハンドキャノン使うの?
数発なら大丈夫じゃないかな、結構補充出来たし」
バッグの中、弾丸を確認する。
…ポーナはあまり詳しくないが、かつてこの国では僅かとはいえ古代呪術が継承されて来た。
この弾にはそれによって穢者に対抗するための力が込められている。
古代呪術、それから東の峡谷に住んでいた職人たちの手によって作り上げられたそれは、確かにこの場においては最適解だった。
「これを、ここに入れて……入った、かな?
あとはこれで……ッわぁ!?」
久方ぶりに使われたハンドキャノンは、寝起きだからか、或いは既にガタが来ているのか、かなりの反動とともに弾を勢いよく撃ち出した。
着弾した瞬間に白い煙が辺りに広がり、穢者とその周囲の水が凍った。
「凍った…!?」
「いまだ!」
穢者が凍った隙に再びリアンカの爆撃が襲う。
氷を砕くけたたましい音とともに、水面が大きく割れた。
明らかにダメージが入ったのか、穢者は膝を着くかのように頭を下げていた。
「かなりいいのが入ったみたい!もう一発撃つよ!」
「いけーっ!」
もう一度ポーナがハンドキャノンを撃てば、今度は激しい電撃が辺りに走った。
感電したのか倒れ込む穢者にリアンカが矢を放つ。
先程とは比べ物にならない爆発が起きて、近くの廃墟を吹き飛ばした。
煙が晴れた時、穢者はもうそこには立っていなかった。
ただ、明らかに水ではない何かの塊が浮いているだけだった。
「もう、くるしまなくてもだいじょうぶだよ」
リアンカがゆっくりと舞い降りる。
宙に浮いたままのココウィクが手を伸ばし、穢者を聖火で包み込んだ。
『ただ、主の理想のために、正義のために、私はこの地で使命を果たすだけだった』
『私と彼に、真に同じくするものなんて、無かった』
『だから、ここで彼を見捨てたって良かったはず』
『…それは、私にはとても出来なかった』
『もしかしたら、これこそが、主が求めていたものだったのかもしれない』
『今となっては、何も分からない』
『………私はもう、これが限界』
『ごめんなさい、ウヌク』
汚染水から、ただひたすらに集落を守り続けている少女がいた。
しかし、彼女の必死の抵抗は、火山から無慈悲に降り注いだ穢れで無に帰してしまった。
何かひどく大切な言葉を、誰かに口にする前に。
水がゆっくりと引いていく。
かつては美しい水の精霊だった少女は、ほどけて水へと消えていった。
ココウィクが握り締めた聖火が、澄んだ水の色に輝いた。
ほんの一瞬傾いた視界に、少しだけ首を傾げて。
「この穢者、そもそも人間じゃなかったみたいだね…だから、あんな風に水を自在に操れたのかも」
「みずだから、おせんすいのえいきょうをつよくうけちゃったんだろうね」
記憶にあった火山を見上げる。
夜はもうすっかり明けていて、辛うじて地平線から覗く朝日をほんの少しだけ浴びていた。
「この後どうしよっか。もうここを離れる?」
「ううん、まだだめ」
「まだ何かあった?」
「さっきのせいれいさんが…シネイラが、まだだめだって」
「………待って、もしかして意思疎通出来たの!?」
今までポーナに名前を聞いていたココウィクが、穢者の名前を口にした。
しかも、彼女の意思を聞いたという。
「うん、ひがしに、すぐちかくだからいってって。あそこに、まだいるからって」
「東って…向こうの湖?また上から戦わなきゃいけないってこと?」
昨日見たあの場所を思い出す。
水面から飛び出す様々な物、浮かんでいる何か。
そして、確かに揺らめいていた水面。
先程はハンドキャノンを使えたが、毎回あのように上手くいくとは限らない。
しかし、もうココウィクに恐れる物は無かった。
「だいじょうぶ、みずのなかでたたかえるよ。
シネイラが、つれていってくれるって」
そういうココウィクの隣に、魂を引き受けたばかりの少女が姿を表す。
水の精霊として、汚染水に晒すことなく突き進むことが出来るのだと。
「そっか…分かった、そういう事なら、行こう」
「ありがとう」
「どうってことないよ!ココウィクの聖火のおかげであたしもずっと無事だし。
ここまで来たんだから、行ける所まで行かなきゃ」
ポーナが笑う。
最初にココウィクの意志を、小さな手を取った時と、何一つ変わらない笑顔で。
***
来た道を戻り、湿原へと向かう。
昨日と何一つ変わらず、不気味に水面が揺れていた。
そんな水面を、シネイラが悲しげに見つめていた。
「…あのなかに、いるんだね」
ココウィクが指差したその先、特に底の見えない深みが、揺れの発生源のようだった。
つまり、その下に、シネイラの求める何かがいる。
「じゃあ、おねがい」
「何だかちょっとドキドキするね…」
シネイラが二人を抱え、水中へと入っていく。
ふわりと膜のような何かが彼らを包み込み、その内側に聖火の熱が巡る。
完全に潜った二人を穢れが襲うことはなかった。
水中は壊れたバリケードや錆びた武器が多く転がっていた。
きっと、ここも激しい戦いが行われていたのだろう。
近付く穢者はシネイラが弾き飛ばす。
横たわる穢れの塊はユパンキが切り捨てる。
そうして進んだ先、他よりひどく淀んだ湖底に影が差す。
槍を携えた半魚のような穢者が、彷徨うように泳いでいた。
「あのけものが、シネイラのさがしもの?」
元々水中だったのかそこだけ水中に何も無く、穢者の様子も相まって異様に不気味だった。
身構えるココウィクの小さな手を、ユパンキが握る。
シネイラがより強くココウィクとポーナを抱き、周囲に緩く水流が生まれた。
「…うん、だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。
ユパンキ、シネイラ、おねがいね」
その声でユパンキが飛び出し、シネイラが水中を蹴った。
気付いた穢者が槍を構える。
ユパンキの振るう大剣をなんて事ないように槍で受け止め、そのまま流す。
流されたユパンキはその動きを利用して下から大きく振り上げる。
当然穢者はそれを避け、槍がユパンキの脇腹スレスレを貫いた。
その後ろからシネイラが切り合う両者へ水流をぶつける。
穢者には逆流を、ユパンキには順流を。
時折水弾による援護射撃も行いつつ、ユパンキを支援する。
もちろんその程度では穢者は怯まない。
逆流すらも乗りこなし、水中だと言うのに勢いを乗せて槍を振るった。
「やっぱり、水中はやりにくいのかな…ココウィク?」
「…ちょっと、ためしてみたいことがあるの。
シネイラ、うしろからちかづいて?」
ペンダントを外したココウィクが穢者を見据える。
その手の中で、聖火が強く揺らめいた。
それを見て何かを察したのか、シネイラはココウィクを抱え直して穢者へと突撃した。
穢者がそれに気付いて振り返ったその瞬間、ココウィクはペンダントを掲げた。
溢れ出した聖火の眩い輝きが、暗い水中を照らした。
言ってしまえばただの光とすらも言えるその輝きは水中に充満していた穢れを祓い、穢者の動きを一気に鈍らせた。
眩しさに目を覆う穢者の胸をユパンキが切り裂き、溢れ出した穢れが水中に染みを作った。
穢者が槍を手放し胸を押さえて身を丸める。
その隙にもう一撃を喰らわせようとしたユパンキとすぐ近くにいたココウィクたちは、衝撃波によって吹き飛ばされた。
ココウィクたちが目を向けた先、そこにいたのはほとんど人の姿を失った穢者だった。
水面近くで倒れていた、あの竜たちのような姿で彼はそこにいた。
「さっきので終わったと思ったのに…」
「でも、あれはけがれでむりやりもちなおしてるみたいなものだから、じかんはかからないはず。
ふたりとも、もうちょっとだけがんばって!」
より動きが細かく、そして激しくなった穢者は、めちゃくちゃに攻撃を仕掛け始める。
シネイラは二人を連れて逃げることに専念し、ユパンキが隙を縫って穢者に傷を増やしていく。
時折ココウィクが弱らせるために聖火を掲げ、ユパンキが切るを繰り返す。
やがて、ゆっくりと穢者の動きが鈍くなる。
「もうすぐだよ!シネイラ、おねがい!」
今度こそ終わるはずだとココウィクがペンダントを構える。
聖火から逃れようと穢者が身を捩るのをユパンキがその身で押さえつける。
そして、暴れる穢者の真正面に躍り出たココウィクが、ペンダントを押し付ける勢いで穢者の目の前に突き出した。
再び光が周囲を照らし、穢者が呻き声を上げる。
そうして一気に弱ったところをもう一度ユパンキが切り裂いた。
溢れ出た穢れは、もう穢者の元に集まることはなかった。
ただ揺蕩うだけとなったその身体にシネイラがそっと手を伸ばす。
その手に重ねるようにココウィクが手を伸ばし、聖火の熱で優しく包んだ。
『それが甘言でしかないことなんて、とっくに気付いてた』
『それでも構わなかった。利害が一致しているなら、こちらも利用すればいいだけだと』
『なのに、いつの間にか、僕たちはこんなにもそばにいた』
『けれど、君と過ごした時間は、交わした言葉は、一体どちらだったのだろう?』
『もう、何も分からなくなってしまった』
『それでも、叶うならもう一度だけ、君と会いたい』
『どうすれば、この手は君に届くのかな』
月が昇らなくなった空に手を伸ばす誰かがいた。
広がり続ける汚染の中、立ち竦む誰かがいた。
そうして彼は、もうかつての色を思い出せない穢れた水に、その身を沈めてしまった。
「もうだいじょうぶだよ、ウヌク」
深く澄んだ青色が聖火に輝く。
力を失って沈み始めた穢者の身体をシネイラが抱き留めた。
その時だった。
確かに、ぐらりとココウィクの身体が傾いた。
ほんの一瞬で、しかも水中だったこともあり、ポーナはそれを気の所為かと切り捨てようとした。
しかし。
「ッ!?こ、ココウィク、髪が…!」
「かみ…?」
「ちょ、ちょっと早く上に上がろう!ね!」
水上に上がったポーナがココウィクの髪をしっかりと確認する。
綺麗なターコイズだった髪の先が、確かに穢れの色に染まっていた。
「やっぱり、穢れだよ、これ。
でもなんで…?ココウィクには聖火があるのに…」
「…ぼくには、よく分かんない」
「………ねぇ、ココウィク。何か、体調が変だとか、身体がおかしいとか、何か感じてない?」
「んー…みんなのたましいをもらった時に、ちょっとだけ」
つまり、ココウィクに縁があったのかもしれない彼らを浄化した時。
浄化には、何らかの代償が伴うのだろうか?
(少なくとも、あたしは穢れの影響を受けてない…このまま、ココウィクに浄化をさせるべきなのかな…?)
ココウィクの肩を掴むポーナの手に力が籠る。
そんなポーナの手を握り、ココウィクは彼女を見上げた。
「…ポーナ、ぼくはへいきだよ」
「でも、どう見ても穢れを受けてるんだよ?そうやって現れちゃってるってことは、本当は浄化しきれてないんじゃ…」
「へいきだよ。だから、止めないで。
ぼくがみんなを助けなきゃいけないんだから」
出会った頃と変わらない…いや、少しだけ、よりハッキリとした金の瞳がポーナを見る。
とても幼い少年とは思えないほど、彼は覚悟が決まっていた。
まるで、最初からそういう運命だったと、知っているかのように。
「ココウィク………」
「ポーナ、帰ろうなんて、言わないでね。
だって、ぼくにはまだやらなきゃいけないことも、見つけなきゃいけない人もいるんだから」
そう言ってココウィクは遠く──聖火競技場を見た。
きっとそこにいるのだろうと、分かっているから。
「でも、あそこに行くには、まだちょっとだけ早いかな。他にも助けなきゃいけない人たちがいる。
ポーナ、次は『こだまの子』に行こう」
「………分かった、分かったよ。君の言う通りにする。
でも、本当にキツくなったらちゃんと言ってね?」
「うん」
「約束だよ……はぁ、まさか、先導するのが君の方になるなんてね」
冒険者たちは歩き始める。
穢れに満ちた湖から、穢れに覆われた峡谷へ。
かつて国を支えた職人たちの生まれた谷──『こだまの子』へ。
▶『流泉の衆』
焔の国南部の海際に暮らしていた部族。
海に面し温泉もあるリゾート地で、国の中でも特に陽気に満ち溢れた者たちだった。
火山に近いため真っ先に防衛線が築かれた場所の一つだったが、シネイラの死後集落は陥落、その後ウヌクの自殺によって完全に崩壊した。
▶汚泥の魔物シネイラ
戦士たちの中で最も早く穢者となった水の精霊。
元々とある目的のために焔の国へとやって来た者でもある。
愛してしまった人の故郷を穢れや汚染水から守り続けたが、ついには自身と穢れの境が分からなくなってしまった。
▶堕虹の戦士ウヌク
穢れに飲まれ沈みゆく彼女を掬い上げようと手を伸ばしたが届かなかった槍使いの青年。
苛烈になる穢者との戦いで心をすり減らした彼は、もう一度彼女に会いたいとその身を投げた。