ENDER EMBER ~HEROES EMBRACED BY FLAMES~   作:風音 のえる

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ローエンを4凸しました。
現場からは以上です。


Guilty

聖火競技場の周囲に広がる湖は、そのまま西へと伸びていく。

暗くなり始めた曇天の下、崖と廃墟が水面に反射していた。

 

湖の北側、かつては拠点だったのだろう廃墟で一晩を過ごし、『謎煙の主』へと目を向ける。

高く飛び出た崖の上にある廃墟は多くがその形をハッキリと残しており、得られるものは多そうに見えた。

移動はリアンカに任せ、眼下に広がる湖を見る。

廃墟の周りは聖火競技場周辺ほど水位は深くないようだが、穢者の姿は確かにそこにあった。

 

「後で水中にも行こうね」

「水中?あんまり深くないみたいだけど…」

「洞窟があるの」

 

 

元々あったのだろう橋は崩れ、地面もあまり無いゆえか、穢者の姿はさほど見られない。

ただ、他の場所と違い奇妙な攻撃を仕掛けてくるものばかりだった。

こちらが空中にいようが構わず攻撃してくる。

 

「ここの人たちは、巫術を使う人たちだった…だから、遠くから攻撃してくるけものがいるんだよ」

「なるほど…厄介だね」

「でもその分、前に出て戦えるような人たちはあまりいなかった。リアンカ」

 

遠くから攻撃出来るのはこちらも同じ。脆い穢者たちはたちまち射抜かれて倒れていく。

いくらか数が減ったところで降り立てば、廃墟は目の前だった。

 

「ここには記録がたくさんあるはず…読めるか分からないけど」

「穢れの侵食が少ないといいね」

 

 

壊れることなく残った扉を開けば、淀んだ空気が一気に外へと溢れ出す。

一番大きな建物だったがその中は案外狭く、穢れの侵食もさほど無いようだった。

 

「何か…いっぱいあるね?」

「手分けしよう、読めそうで大事そうなものはみんなここに持ってきて」

 

ポーナが入口付近の箱を、ココウィクが奥の積み上がった書物を取り出す。

ほとんどが穢れによる大厄災が起こるよりも前に記されたのだろうものばかり。

だが、積み上がったそれらに隠れるように落ちていた何かの記録は、まさに彼らが求めているものだった。

 

「だめ、こっちにはそれっぽいものは無かったよ。そっちは?」

「あったよ」

「本当!?見よっか」

 

纏められていたそれは何かの観察、あるいは実験の記録のようだった。

穢れ、穢者、肉腫、聖火……それらに関する記録や考察が纏められていた。

 

「穢れの研究のために穢れを採取……穢者を、捕まえた…!?いや、でも、この時はココウィクのものよりも強い聖火がすぐ近くにあったからかな」

「でも見て、ここに『もう聖火の助けは得られない』って書いてる」

「本当だ…一度に穢れに関わる人を減らして被害を抑えてたみたい……穢者化したら、討伐して、次の、人を……」

「…そうするしか無かったんだもの。仕方ないよ。

でも、何も得られなかった訳じゃないよ。

多分この辺に…あった」

「肉腫は取り除けない…?だから蓄積した穢れだけでも何とかしようとした…聖火じゃ出来なかったの…?でも、そっか、この時には、もう、聖火は…」

 

どんどんと声の小さくなるポーナから目を逸らし、ココウィクはそっと自らの手を握りしめた。

多くの記憶が鮮明にある今、まるで当事者のようにこの記録を、記録した者たちの心情を考えてしまうから。

そして、自身の役目を。

 

「あれ、ここから先はもう無いね…死んじゃったのかな」

「…そうかもね」

 

 

 

明確に重要だと分かるものは僅かしか無かったが、その僅かの重要性はあまりにも大きかった。

少なくとも彼らは無力ではなかったのだろう。それを知れただけでも十分に思えた。

 

「それで、この後は?」

「湖底に洞窟があるから、そこに行く。よろしくね、シネイラ」

「………うん?待って、まさかとは思うけどこの高さか「行くよーっ!」っうわぁああああああ!!!!」

 

シネイラが二人を抱えて飛び降り、大きな水柱が立つ。

それに気付いたのか、早くも水中の穢者が近寄り始めた。

近寄る穢者はウヌクに任せ、シネイラと共に湖底を目指す。

ココウィクの言った通り、確かにそこには洞窟の入口が存在していた。

 

「ねぇココウィク。この中、何があるの?

それとも、何かがいるの?」

「いるんだよ、この奥に」

 

洞窟の奥からは微かに冷気が漂う。

何かが光っているのか暗闇の中で蒼く照らされた洞窟へと入っていく。

少し進んだところで、凍った穢れがあちこちに生えているのが目に映る。

それを通り抜ければ、壁面のほとんどが氷で覆われた広い空間が二人の前に現れた。

 

 

そして、その中央で、至る所が凍りついた穢者が一体、静かに二人を見ていた。

 

 

 

…他の穢者よりは、随分と落ち着いた瞳で。

 

 

何かを構える様子も無く、壁の氷が動き出す訳でもない。ただ、いずれこうなるのが当然だったかのように、静かに彼らを──ココウィクを見つめていた。

 

「…敵意、無さそう?」

「巫術か、古代呪術か…無理やり意識を繋いでたんだ。だから、侵食も遅くて、穢れに塗り潰されきってない。

少しでも長く、時間稼ぎをするために」

 

ココウィクが穢者へと近寄る。

穢者はココウィクの顔を、そして胸元で鈍く光る聖火に目をやり、僅かに表情を曇らせた。

 

「遅くなっちゃった。ごめんね、マグハン」

『……龍ノ…子…彼、にハ』

「まだ会ってない。でも、きっと穢者になっちゃってるから、助けないといけないの。

だから、貴方の力を貸して欲しいんだ。お願い」

 

穢者──マグハンは答えることなく静かにその手を差し出した。

その手をココウィクが握り、冷えた水中に微かに熱が灯った。

 

 

 

 

 

『穢者の勢いはこれまでに無い程に増している』

 

『少しでも、多くの者がこの地から逃れられるようにしなければならない』

 

『…これも全て、我々が秘匿し続けたがため…これは我々の罪であり、この滅びは受けるべき当然の罰だ』

 

『到底償いきれぬ罪だ…それでも、私はここで、やらなければ』

 

 

 

『………あぁ、この未来は、貴女にも視えていたのですか?』

 

 

 

 

 

広く広がる盆地を水が満たしていく。

やがてそれは冷気を伴い、周囲を薄く氷で包んだ。

大規模な巫術が穢者の群れを鎮めていく。

ただ一人の祭司を犠牲にして。

 

(…罪?()の知らない話だ。

『謎煙の主』は、ずっと何かを隠してきたの?)

 

もはや残骸と化していた巫術が完全に崩壊し、氷が溶け始める。

力を失った肉体が完全に凍りつき、砕けて水に溶けていった。

 

 

 

朝早くに動き始めたからか、まだ日は真上まで来ていない。

次の目的地はそう遠くない、この日のうちに全てが終わるだろう。

 

「よし、もう準備は万全だ。聖火競技場に行かないと」

「…行くんだね、あの穢れの中に」

「うん……怖い?」

「そりゃあね、まさかこんなことになるとは思ってなかったもん。

でも、あたしは君の仲間だからね。ここまで来たんだ、最後まで付き合うよ」

 

そう言って頭に置かれたその手を、少年がどかすことはなかった。

 

 

 

小さく組まれた小さな手の先は、穢れで滲んでいた。

 

 

 




▶『謎煙の主』
霧に包まれた峡谷の向こうにある記録者たちの部族。
古代呪術を継承しており、巫術を使えるものも多くいた。
龍の庇護を受け、龍を崇拝していたが、それゆえに火山より穢れが吹き出す前に穢れの影響を受けていた。
そして、当時の指導者たちはそれを秘匿していた。


▶残影の祭司マグハン
最も古代呪術の扱いに長けた青年。
かつては従者として、ある少女に仕えていた。
信仰は穢れた意志に塗りつぶされ、来るはずだった未来と終わりは穢者の咆哮に掻き消されたが、彼の刃は間に合った。
彼女が狂気に塗れる前に。
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