【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第115話 過労は中断 ふとんは羽毛

「働きすぎだ。休め」

 

「嫌だ~」

 

「消火して弱体化してでも休ませるぞ」

 

「ボク強くなったから、そのくらいじゃあ活動停止しないも~ん」

 

 テラペイアが額に血管を浮かばせて注射器を持った。

 なんかよくわからないけど、あれが物騒なものだということだけはわかる。

 

「わ~!! 魔力欠乏病はずるいだろぉ!?」

 

「強くなったというのなら、魔力が減少し続けようが問題ないんだろう? さあ、どれくらい強くなったか見せてくれ」

 

「わかったよ~……休む休む。休めばいいんでしょ?」

 

「当たり前だ。以前のように、おとり用の分体一人を休ませるなど通用すると思うなよ」

 

「…………ちぇ~」

 

「まったく、これだから分体が作れるやつらは……」

 

 前科があるんだな。

 たしかに、ピルカヤの力は魔王軍にはなくてはならないものだ。

 だからこそ、無理をし続けて倒れられでもしたら困る。

 

「これで残りはあと一人か。あんたも、変わったやつだな。見ていても面白いものではなかっただろう」

 

「いや、組織全体の管理に直結することだし、参考になった」

 

「ほう、そのわりには悪い噂は聞いているぞ」

 

「え……」

 

 なんだ、悪い噂って。

 フィオナ様に四天王は違う。あの五人に限ってそんなことを言うはずがない。

 他の魔族の四人も違うだろう。ディキティスにはまだ完全に認められてはいないが、その手の陰口なんて好まないだろうし。

 となると、無理やり働かせている従業員の誰かか?

 

「目を離すと無茶ばかり、倒れるほどに魔力を消費し、よりにもよって勇者と接触し、腕が使い物にならなくなった。あとは脚が好きとか、まあこれはどうでもいい」

 

 発信源、絶対にフィオナ様じゃん!

 数秒前に信じた俺の気持ちを返してくれ。

 

「私は前線で戦うことはまずない」

 

「そりゃあ医者だから……」

 

「そう、それが私に与えられた役割だからだ。君はどうだ?」

 

「俺の役割……どれだ?」

 

「貴様もピルカヤやマギレマのような仕事中毒か! この愚か者め!」

 

 いや違う。違うんだ。あの二人ほどひどくないぞ俺は。

 ちょっと特殊な事情で役割が多いというだけであって、俺の役割と言われてもどれかわからなくなっただけだ。

 ダンジョンの作成。メンテナンス。罠とモンスターの補充。宝箱の献上。宝箱ガシャ。転生者含めた従業員の様子の確認。新たな従業員の面談。フィオナ様の寝具。

 ……俺はまさか、仕事中毒なのか?

 

「自覚症状があるぶん他よりましか。君も休め」

 

「そうしたほうがいいのかもなあ……」

 

「以前はわからなかったが、与えられた役割だけを繰り返すことは不健全すぎる。私たちがそこから脱却できたというのに、そんな空気を持ち込んでくれるな」

 

 もしかして、前はテラペイアも仕事中毒だったんだろうか。

 案外フィオナ様が、ぐーたらし続けることでホワイトな職場作りをがんばっていたりして……。

 

「できることが多いからと、なんでもかんでも手を伸ばして、リグマのように人格が分裂しても知らんぞ」

 

「ああ、あれってそういう理由だったのか……」

 

 リグマと違って、俺の体は一つだけだから、そうなったら不便そうだな。

 せいぜい気をつけるとしよう。

 というか、リグマってやっぱり、昔は働きすぎるタイプだったんじゃないか。

 

「来たぞ。む……話し中だったか。出直すか?」

 

「いや、かまわん。話は終わった。君で最後だリピアネム」

 

「ふっ、以前の私と思わぬことだ。私はもはや力の制御を習得した」

 

「…………なんだと?」

 

 テラペイアの健康診断の最後の一人はリピアネム。

 その自信満々な発言に、テラペイアは眉をひそめた。

 

「それを開けてみろ」

 

「なんだこんなもの」

 

 渡されたのは回復薬が入った小瓶。

 リピアネムは、それをいともたやすく開けてみせた。

 

「なにが起きているというのだ……」

 

「ふふん! もはや私に弱点はない! これが魔王様とレイ殿の力だ!」

 

「君、なにをした? こいつをここまで変えるのは、生半可な努力では不可能だったはずだ」

 

 リピアネムのパワーは、医者が匙を投げるレベルだったらしい。

 まあ、わかるけどな。

 

「検査を……血液。いや、まずは脳に異常がないか」

 

 そしてリピアネムは病気扱いされるほどに、パワーの制御ができていないこともわかった。

 

「異常などない。力を無限に吸われているというだけだ」

 

 そう言いながら、リピアネムは誇らしげに魂喰いの腕輪をテラペイアに見せる。

 テラペイアは、そちらの分野は得意ではないのか、よくわかっていないようだ。

 

「なんだこれは?」

 

「私の力を吸い続ける装備品だ。無駄な力が消失することで、私はより高みへと昇ったぞ」

 

「……そうか、拘束具。以前は拘束具などたやすく砕いたというのに、魔王様が用意してくださったのか」

 

 ガシャの景品とは言いにくいな。

 というか拘束具を砕くとか、以前のリピアネムのパワーがやはりおかしい。

 

    ◇

 

「ふむ……豪語するだけはある。たしかに、ようやくまともな魔族なみの測定ができるようになった」

 

「どうだ。今回は測定器をなにも破壊しなかったぞ」

 

「しかも、パワーはやはり魔王軍随一だな……。いや、身体能力のすべてか」

 

「あ……」

 

 測定器具を投げ戻そうとしたリピアネムだったが、それがあらぬ方向へと飛んでいく。

 棚に並んでいたガラス容器が、次々と音を立てて中身がこぼれて……。

 

「貴様……力の制御ができるようになったのに、なぜそこまで不器用なんだ!」

 

「私のチャームポイントだ」

 

「開き直るか! そもそも、貴様そのような発言をする魔族ではなかっただろうが!」

 

「トキトウがそう言ってくれたのだ」

 

 あいつか……。

 まがりなりにも四天王によくそんなこと言えたな。

 時任(ときとう)がどんどんたくましく、図太くなっていく。

 

「もういい! 貴様は健康だ! 帰れ!」

 

「うむ、世話になった」

 

 すごい。テラペイアの怒りがまったく通用していない。

 強者の余裕か。あるいは鈍感なのか。

 なんなら健康と言われて意気揚々と帰っていくぞ。

 リピアネムすげえ……。

 

    ◇

 

 健康診断の結果をまとめるからと、俺もテラペイアに追い出されたので、なんとなくリピアネムについていった。

 すると彼女は、時任が担当する商店に入っていき、手伝いを買って出た。

 

「そうです! やりました! ついに、リピアネム様が商品の陳列に成功しました!」

 

「トキトウの協力のおかげだ。感謝する」

 

「これで、本格的に商店を手伝ってもらえますね!」

 

「任せるがいい。今まで迷惑をかけた分、客どもをさばききってくれる」

 

 すごいな。以前のリピアネムでは考えられないことだ。

 荷物運び以外で戦力になるとは。

 本人も嬉しいのか尻尾が揺れているが、あれは多分無意識に動いているんだろうな。

 

 しばらくの間、リピアネムと時任が仲良く店番をしていると、奥居(おくい)が言いにくそうにこちらに話しかけてくる。

 もしかして、邪魔をしてしまったか?

 

「あの……レイさん。リピアネム様のことなんですが」

 

「あれ、俺じゃなくてそっち?」

 

 なんだろう。順調に店番をこなしているように見えるが。

 

「リピアネム様はお身体の調子が悪いのでしょうか?」

 

「いや、たったいまテラペイアに健康と言われてきたところだ」

 

「そ、それでしたら、なぜ有り余るパワーがなくなっているんですか?」

 

 …………制御できるようになったとは考えてもらえないんだな。

 つきっきりで店番をしていた時任と違い、奥居のほうはリピアネムの急な弱体化に本気で心配してるようだった。

 まあ、このあたりはおいおい広まっていき、リピアネムも頼れるお姉さんとして、活躍することだろう。

 

    ◆

 

「よっしゃ~! 勝った! これが答えだろ! どおりで、強すぎると思ったんだよ!」

 

「どうやって使うんだ? これ……」

 

「まさか、着せる……いや、そもそも見た目が服っぽくないよな」

 

 コントローラーを握る男の勝利宣言に、友人たちは若干疑わしい目を向ける。

 勝ったとは言うものの、彼はまだ勝利もしていなければ、そもそも戦闘すら開始していない。

 しかし、確信があったのだ。今回入手したアイテムこそが、ここ数か月自分たちを足止めしているボスを倒すアイテムだと。

 

「喰らえ! 拘束具!」

 

 高らかにアイテムを使用すると、そのアイテムは鎖となり、宿敵リピアネムの体に巻き付く。

 すると、彼が想像した通りの結果を招いた。

 

「ほら見ろ! これで動きを止めて倒せってことだったんだよ!」

 

「拘束具ってこういうのなのか」

 

「まあ、服とは言ってないもんな。しかし、本当に動きが止まってる」

 

 大きな隙を晒したことで、操作キャラの攻撃が面白いように命中する。

 当然反撃などされる心配もない。

 もはやサンドバッグと化したリピアネムを、彼は思う存分打ちのめし続けた。

 

「よし、無傷で三割は削った。このまま……」

 

『この程度で抑えられるとでも思ったか?』

 

「どうなんだ? 思ったのか?」

 

「待って! おかしいおかしい! なんで、拘束具破壊してんの!?」

 

『貴様たちは、勇者という名を語る資格はない。剣を使う価値もない。この姿でただ蹂躙してやる』

 

「資格ないってさ」

 

「待って! なんで、もう第二形態になってんの!?」

 

 ドラゴンとなったリピアネムに、宣言通り勇者も仲間も蹂躙される。

 次々と倒れていく仲間たちは、もはや声一つ出すことはかなわず。

 勇者を操作する男の悲鳴だけが、むなしく響き渡るのだった……。

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