【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第136話 いただきます

「俺は行かなくてもいいのでしょうか?」

 

 飼い主にそう質問すると、いつものように出来の悪い子を見るように笑われる。

 

「ジノにはまだ早いわ」

 

「例のドワーフたちのダンジョンでさえ、引き返すことになったんでしょ?」

 

「本物のダンジョンは、罠だけじゃなくてモンスターたちもいるの。あなたに死なれたら、面白くないじゃない」

 

 そう言われると何も言い返せない。

 なんせ、こちらは敵がいないはずのダンジョンから逃げ帰った身だ。

 それなのに、罠だけでなく敵まで存在するダンジョンは、今の俺には太刀打ちできないのだろう。

 

 国松(くにまつ)は、すでにダンジョンを攻略しているというのに、なんとも情けない話じゃないか。

 自嘲気味に笑うと、その姿が飼い主たちには好評だったようだ。

 

「そうやって、自分の立場がわかっているところはいいわね」

 

「まあ、あなたは安心してここにいなさい。いい子にしていれば、私たちの部下が全部終わらせるから」

 

 彼女たちの言うことはもっともだ。

 この国には俺なんかよりもずっと強いエルフたちがいる。

 戦士も魔法使いも、長寿である特色を活かし相当な鍛錬を積んできたのだろう。

 勇者とまではいかなくとも、レベルやステータスは非常に高い。

 

 俺が勇者として育てられたとして、その領域に届くのはいったい何百年後なんだ……。

 ましてや、それらを超えるとなると途方もない時が必要となる。

 魔王は……壊神(こわれがみ)は……そんな時間を与えてくれるのだろうか。

 

「ダークエルフたちも、あれでエルフの一種だからね。やつらが有益と判断したのであれば、その資源やアイテムはこちらが扱えるもののはず」

 

「今回のダンジョンの調査結果次第では、私たちが魔王を倒すのも面白そうね」

 

 そうして、次は他種族たちとの戦争へ、支配へ。

 この世界で平穏な暮らしなど、まだまだ訪れることはないのだろうな……。

 

    ◇

 

「本当にダンジョンが……さすがは最高評議会ですね」

 

「ええ、ダークエルフたちの様子から、見事にやつらが隠したがっていたものを言い当てるとは」

 

「連中も予想外だったようだな。いつもは言い訳を重ねて煙に巻こうとする女王が、今回はこちらの言い分を飲まざるを得なかった」

 

 私たちとダークエルフの最高責任者、その差の大きさが如実に表れたといえる。

 それにしても痛快だ。あのダークエルフどもが、最終的に黙って要求を受け入れるしかなかったのだから。

 こちらが争いを避けているからと、図々しくも対等な力関係のように振る舞う姿は、前々から気に食わなかった。

 

「あいつらが見つけた資源、ありがたく使わせてもらおうじゃないか」

 

「どうせ、私たちよりも強くなれるとか夢見ていたんでしょうね」

 

 その頼みの綱とも呼べるダンジョン。

 一体どれほどの利益を私たちに生み出してくれるのか、実に楽しみだ。

 ダークエルフどもの悔しそうな顔を思い浮かべながら、私たちはいよいよダンジョンへと辿り着いた。

 

「……なるほどね。ダークエルフどもが隠したがるはずだわ」

 

 足を踏み入れるまでもなく、ダンジョンの入口付近ですでに高密度の魔力を感じ取ることができた。

 これだけの魔力、私たちはもちろんのこと、腐ってもエルフであるあいつらだって宝の山だと感じたことでしょうね。

 よくない。よくないわ。あいつらにはもったいない。

 

「魔力に満ちたこの場所なら、魔法の使用も研究も効率がまるで違う」

 

「ここを拠点にでもされて、私たちと戦うことになったとしたら面倒だったでしょうね」

 

「やつらが隠し通そうとしていた有益なものは、アイテムや装備なんかではなく、ダンジョンそのものだったか」

 

 それにしても、これだけの魔力を帯びたダンジョンね……。

 話に聞いていた他種族のものまでこうだというの?

 私が知っているダンジョンは、もっと魔力は少なかったはず……。

 あのときは、魔王との戦いも激化していたから、その違いかしら。

 

 今は互いに次の戦いまでの準備を整えているところ。

 だから、魔王はダンジョンに力の全てを注いでいるということなら納得もできる。

 でも、残念だったわね。さすがに全てをとは言えないけれど、その魔力こちらが有効活用させてもらうわよ。

 

 こちらの力となり、魔王の力を削ぐことにもなる。

 ここを私たちが占拠できれば、私たちエルフだけでなく、人類にとっても良いこと尽くめといえる。

 なら、大義名分はそんなものでいいわね。

 

「これだけの場所を見つけておきながら、もたもたしていたダークエルフたちには、ここはふさわしくないわ」

 

「ああ、俺たちのものにしてしまおう。そのほうがいずれ来るであろう魔王との戦いにも有利に働く」

 

 決まりね。

 それじゃあ、さっそく入らせてもらうとしましょう。

 一歩足を踏み入れるだけで、より濃度が高い魔力を感じることができ、気分もよくなる。

 

「ただ、外観は悪いわね。舗装なんてまるでされていない。古臭い醜い場所。放棄されて相当な時が経過しているみたい」

 

「だが、劣化を考えずとも趣味の悪い場所だ。こんな岩肌丸出しのままの場所を拠点にしていたあたり、魔族なんてその程度という証拠だろう」

 

 たしかに、古さを抜きにしてもひどいものだ。

 まあ、このあたりは私たちのものにしてから、私たちにふさわしい場所に作り変えていけばいいかしら。

 

「それにしても、暗くて汚いわ。あいつらせめて掃除くらいしなさいよ」

 

「掃除どころか、仮の拠点らしきものさえないな」

 

「……設置しなかった? それとも、設置できなかったか?」

 

「あいつらだって、さすがにそこまでなにもできないわけじゃない。なら、まだその段階にまでたどり着けていないということ……」

 

 仲間たちが口々に考えを共有する。

 たしかに、やつらは私たちに劣る存在。

 だけど、この場所を隠し通そうとした以上は有用性を理解している。

 そして、さすがに住処を作る程度の知恵や技術も持ち合わせている。

 なのにそれをしないということは、できなかった。

 なぜか? 安全を確保できていなかった?

 

「ちっ、やっぱりそういうことか……」

 

 前衛を務める戦士職のエルフが、それの接近に気がついた。

 そして、彼の様子に他の者たちも次々に戦闘準備を開始する。

 なるほどね。まだ、モンスターが生息していたってこと。

 ダークエルフども、こんなモンスターなんかに手こずっていたってわけね。

 

「霧を出すだけのただの狼。さっさと蹴散らして調査を続けるわよ」

 

 こいつらは、霧を発生させて敵味方問わず視界を奪おうとする。

 そうして、自分たちは嗅覚を頼りに一方的に敵に攻撃する卑劣な狼だ。

 だけどね。こっちも視覚以外で敵の位置くらいわかるのよ。

 

「適当にあしらっておいて。私たちが魔法で一掃するから」

 

「な、なんだと!?」

 

 戦士たちが驚いたように声をあげる。

 ……そんなおかしなこと言っていないでしょ?

 というか、それがいつものやり方じゃない。

 こんなときに、なにを冗談のような反応を……。

 

「なに? 自分たちだけで倒したいとか、そういうこと?」

 

「気をつけろ! 奥から、やばそうなのが来ている!」

 

 その言葉に、私は慌てて魔力を探った。

 狼くらいなら、前衛に任せればここまで牙は届かない。

 だから、攻撃のために魔力を集中させていた。

 それがいつものやり方だった。

 

 ……だけど、それが間違いだったみたいね。

 

「ぐぎゃっ!!」

 

「がっ!!」

 

 霧の中、見えないけれどわかってしまう。

 とても大きな質量のなにかが、私たちの横を通り抜けた。

 しかも、それは私たちに匹敵するほどの魔力をもっている。

 狼じゃない。魔力量も体の大きさも全然違う。

 

「い、嫌だ……こんなの、嫌!」

 

 仲間の声が消えた。

 そして、私もすぐにその仲間のもとに行くことになるだろう。

 

「ソウルイーター……」

 

 霧の中から大口を開けた醜い怪物が迫ってくる。

 後衛の私じゃ逃げ切れない。魔法で攻撃しようにもこいつを止められるほどの大魔法なんて準備できていない。

 

 一瞬で視界は闇に染まった。

 あの化け物に呑み込まれたのでしょうね……。

 ああ、魔力が抜けていく。

 魔力を喰われ、魂を喰われ、私というものが……消エテ……。

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