【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第138話 人形の街

「入口のソウルイーターはわりと撃ち漏らし多いな」

 

「入口が広すぎるのではないだろうか」

 

「元の位置に戻すか? でも、あっちはあっちで広間だから変わらないか」

 

「通路に配置するのもいいかもしれんな」

 

「それか、入口にもう一体配置するか……」

 

 ソウルイーターは強い。

 攻撃は物理も魔法も通じにくいし、次々と敵を呑み込んで倒してくれる。

 問題は、広範囲の攻撃ができないため、わりと撃ち漏らしが多いことだ。

 

「エピクレシのアンデッド軍にフォローしてもらうのはどうですか~?」

 

「それもいいんだけど、向こうは向こうで侵入者の対応をしてくれているから、下手に組ませるよりは別々にやったほうが効率がよさそうじゃないか?」

 

「あ~……たしかに、うまく連携できなさそうですもんね~」

 

 あっちはエピクレシの指示で完全に統率されたアンデッド軍だからな。

 ソウルイーターという異物がいないほうが、成果を上げてくれそうな気がする。

 

「まあ、今は調整しなくていいんじゃないですかね~?」

 

 珍しいな。イピレティスがそんなことを言うとは。

 彼女はそのかわいらしい見た目とは裏腹に、侵入者には一切の容赦をしないタイプだというのに。

 

「だって、入り口の方で撃退し続けたら、せっかくしかけた他のモンスターや罠にやられるところが見れないじゃないですか~」

 

 よかった。いつものイピレティスだ。

 

「あ、ここまでですね~」

 

「そのようだ」

 

 ? 二人はまだ話したい中だというのに、切り上げてしまった。

 なにか用事でもあったのだろうか?

 

「レイ~。かまいなさい」

 

 なるほど……俺に背後から抱きつくフィオナ様が原因か。

 さすがに魔王軍なだけあって、二人ともすぐにフィオナ様を甘やかすからな。

 

「レイ~。最近接触が減ってますよ~。あなたの魔王が不満ですよ~」

 

「はいはい。二人ともいなくなったことですし、フィオナ様に付き合いますよ」

 

 だからここからは、俺の鉄のような意思を発揮しなければならないことになる。

 相変わらず無防備にべたべた接触してくるんだもんなあ……。

 そりゃあ、俺ごとき雑魚に恐れる魔王様ではないだろうけど、見た目はかわいいことを自覚していただきたいものだ。

 

「エルフたちの相手は順調みたいですね」

 

「ええ、ダークエルフたちから話は聞いているので、案外やりやすいですよ」

 

「ふ~ん」

 

 なんだその反応は。

 自分から聞いてきたわりには興味がないというか、むしろ不満そうに口をとがらせてしまった。

 

「なんでしょうか?」

 

「エルフたちのことよく見てますよね~」

 

「そりゃあ、侵入者の観察くらいはしないと、対策も練りようがありませんからね」

 

「ダークエルフたちとも仲良さそうですね~」

 

「エルフのことを一番知っているから、話す機会は多いですね」

 

 質問に受け答えしていくと、フィオナ様はますます不満そうになっていった。

 ……あれか? 仕事の話なんかするなってことか?

 でも、自分から話を振ってきているしなあ……。

 

「エルフたちは美人も多いですからね。じっくり見たくなるのも仲良くお話したくなるのもしかたないですね~」

 

 ……なに? その言いがかりは。

 

「美人って……男もけっこう多いんですけど」

 

「半分は女じゃないですか! 見た目に騙されて簡単に釣られないか心配ですねえ!」

 

 あ、心配してくれていたのか。

 しかし、エルフにかぎってそんなハニートラップみたいなこと絶対してこないと思うぞ。

 そもそも、エルフは俺の存在さえ知らないし、ダークエルフは俺なんかよりフィオナ様から好感を得たいだろうし。

 

「といいますか、俺はそういうのに騙されないんで平気です」

 

「ほう……そこまで言い切るということは、自信が……はっ! まさか、意外とその手の誘惑になれっこなんですか!?」

 

「いえ、だって……フィオナ様のほうが美人ですし」

 

「………………」

 

 そして、その手の誘惑になれているのもそのとおりだ。

 この目の前の美人が今もこうして、べったりと体を密着させてきているし。

 俺の鉄の意志がどんどん固くなるのも無理はないだろう。

 うん? なんかちょっと暑くなってきた?

 

「……」

 

 フィオナ様もそう感じたのか、俺から離れてしまった。

 心なしか、顔もちょっと赤いしな。

 魔王といえど、気温の上昇には打ち勝てないとみた。

 

「つまり! 私のことが大好きということでいいですね!?」

 

「え……ま、まあ。俺はこっちにきてからフィオナ様のお世話になってばかりですし、フィオナ様には悪いところないですから、大好きですけど」

 

 理想の上司すぎる。しかも美人だ。

 悪いところといえば、ガシャ狂いと怠惰なところくらいだけど、まあ総合的に見れば大幅なプラスだけが残るし、俺もみんなも大好きだろう。

 

「そ、そうですか~! なら、レイには私とベタベタする権利をあげましょう」

 

「あ、あの……」

 

 あっついんですけど。

 なんか、体温上がってませんか?

 なんならさっき以上に、ぎゅっと抱きついてきているので、熱も余計に伝わってきているだけか?

 

 さっきと違って今度は前から抱きつかれている。

 そして、さっきより密着していて息苦しいほど……。

 つまり、どういう状況かわかるだろう。

 なんか吸う空気すべてが甘い香りな気がしてきている。

 

「ちょっと苦し……」

 

 さすがに苦しいので、せめてもう少し呼吸をしやすいようにと顔を動かそうとすると、抗いようがないほどの力で阻止された。

 

「だめです」

 

「あの……」

 

「逃がしません。知っていますか? 魔王からは逃げられないらしいですよ?」

 

 それ、こういう意味じゃないと思う。

 というか、魔王のとんでもない力を俺を押さえ込むために使わないでください。

 

 結局、フィオナ様の言葉通りに俺は逃げることも抵抗もできず、ひたすら顔にやわらかい感触を感じながら、鉄の意志を今日もまた鍛え続けるのだった。

 

「魔王様とレイくん、あれで付き合ってないらしいよ?」

 

「う~ん……距離近すぎて、もう俺たちの常識じゃ測れないんじゃねえか?」

 

 そんな俺たちを眺める、料理長や四天王がいたことには気づけず、後日話をされて恥ずかしい思いをすることになった……。

 

    ◆

 

 反応がない。

 

「プリミラ~」

 

「なんでしょうか。魔王様」

 

 抱きついても。

 

「マギレマ~」

 

「はいは~い。どうしましたか? 魔王様」

 

 腕を絡めて動きを止めてみても。

 

「エピクレシ……」

 

「はい、なんでしょうか。魔王様」

 

 機械的な、決められた反応しか返ってこない。

 

 そうでしょう。

 そうでなければ、私をすぐに受け入れることもなかったでしょう。

 魔王にふさわしくないなんて、逆らう者もいたかもしれません。

 ですが……そのほうがまだよかった。

 

 一人ではない。独りだというだけだ。

 だから、より一層に自分が孤独なんだと理解してしまう。

 

 これが罰だというのなら。

 私はあとどれだけ独りでいれば……。

 

 魔族の寿命は長い。

 途方もない。

 ぞっとする。その悠久の時を、私は独りで過ごすんだ。

 

 こんなことなら、手放すべきではなかった……。

 …………今、私は何を考えた?

 しっかりしなさい。フィオナ。

 こうなるとまではわかっていませんでしたが、逆らった以上はただですむはずがないでしょう。

 

 それを理解しながら、自分で決めたことなのだから、その決意を汚すことなんてあってはならない。

 大丈夫。きっと……。

 

 あのときのことを忘れなければそれでいい。

 それだけで、私はこの長い長い刑罰に、耐え続けることはできるはずだから。

 

「大丈夫……お姉ちゃんは、がんばっていますからね……」

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