【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第16話 人間卒業式

「俺は元の世界では人間だった」

 

「今は魔族だろ? なら、殺してもいい敵キャラってことだ」

 

 ああ、やっぱりそういう結論に至ってしまうか。

 魔族は悪い種族で、他の種族にとっては駆除すべき対象。

 それは、なにもこの世界の住人だけではなく、俺と同じ転生者たちもそう考えているということだ。

 

「じゃあ、俺たちは敵ってことになるな」

 

「ああそうだ。このゲームって敵を倒せばレベルが上がるシステムなんだろ? じゃあ、悪いが経験値になってくれよ」

 

「悪いがって、全然悪いと思ってないのによく言うわね」

 

「しょうがないだろ。雑魚敵倒すたびにわざわざそんなこと考えるか?」

 

 ゲーム感覚であることを責めることはしない。

 俺だって、このダンジョンの侵入者を魔力の糧程度に思って、倒して……殺してきたから。

 だから、彼らになにか言う資格はない。

 彼らは経験値のために魔族を殺すし、俺はダンジョンの魔力のために魔族以外を殺す。

 それだけのことだったんだ。

 

 できることなら、同じ世界にいた人間同士で殺し合いなんてしたくなかったんだけどなあ……。

 それも綺麗事だし、この世界の住人への差別か。

 

 ここにきて、ようやく覚悟を決めなければならないことに気がついた。

 殺されたくない。だから殺さないといけない。

 目を背けてはいられない。俺は自分のわがままのために、これから何人もの人を殺すことになる。

 元人間なんて未練がましい発言だった。俺のこの所業はまさしく、魔族にふさわしいものじゃないか。

 

「止まれ」

 

 男がそう言いながら手をかざすと、体が動かせなくなった。

 きっとこれがこの男が授かったスキルってことだろう。

 ……俺のスキルと違ってずいぶんとわかりやすく強力な力じゃないか。

 

「動けなくなっただろ。それじゃあ、せいぜいいたぶってから殺してやるよ。ああ、悲鳴はあげられるように口だけは動かしてもいいぞ」

 

 趣味が悪い……。だけど、そのおかげでプリミラに頼らずとも、俺一人でも対応できそうだな。

 

「壁作成」

 

 声を出せるのであれば、スキルは使える。

 入口を塞ぐために一枚。俺たちと侵入者を隔てるために一枚。

 二枚の壁を作成すると、再び体が自由に動かせるようになった。

 視界に映った者にしか効かないのか、あるいは壁で隔てたことで別のエリアという扱いになったのかもしれない。

 ゲームでも、部屋から出ることで状態がリセットされることってあるからな。

 

 まあ、理由なんてどうでもいい。

 あとは侵入者たちから距離をとることにした。

 

「はっ? なんだこれ。うぜえ」

 

「こんな壁さっさと壊そうよ」

 

 突然現れた壁に、侵入者たちが困惑する様子が伝わる。

 あの獣人たちほどの強さではないが、他の連中も女神からどんなスキルを渡されているかわかったもんじゃない。

 下手したら一瞬で壁を壊されかねないので、そのまま急いで撤退することにした。

 

    ◇

 

「まだ終わらないの~?」

 

「うるせえな。お前も手伝えよ」

 

「いやよ。こんなところで魔力の無駄遣いしたくないもの。魔力を消耗しないあんたが壊すべきでしょ」

 

「ちっ……なら黙って見とけ」

 

 雑魚キャラかと思ってた魔族は、存外うっとうしい敵キャラだったらしい。

 ああそうか。弱いけど妨害が得意で逃げ回るタイプってわけだ。

 うぜえ……。くだらない話になんか付き合わないで、すぐに動きを止めてやればよかった。

 

 停止のスキルは生き物にしか効かないから、あの魔族が出した壁には効かない。

 そもそも、この壁に使ったところで元々動いていないから意味もない。

 身体能力強化のスキル持ちに任せているが、そいつが何度も殴ってようやくひびが入る程度か……。

 硬い。それに間髪入れずに攻撃し続けないと、自動で修復されるらしいから余計に面倒だ。

 

「うぜえ。うぜえうぜえ!!」

 

 当然、壁を殴っている本人もそんなことには気がついているらしく、修復される前にさらに攻撃をすることでなんとか壁を壊そうとしていた。

 なんだかなあ……。もっとこう、派手で威力が高いスキルをくれたら一発で解決できたんだろうけど、女神も気が利かない。

 変わらねえか。どうせ爆発のスキル持ちは魔力温存のために動かないらしいからな。

 派手で威力が高いスキルは燃費が悪いだろうから、どうせこの女と同じく壁なんかにスキルは使わねえだろうな。

 

「おらっ!!」

 

 お、ようやく壁を壊せたらしい。

 人が通れるほどの穴が開いたので、俺たちはそこから急いでダンジョンの奥へと進んだ。

 放っておいたらまた修復されて、せっかくの穴が塞がりそうだしな。

 

「はあ……はあ……」

 

「お疲れ~、辛そうねえ」

 

「お前ら……まじで手伝わねえんだもんな……」

 

「悪いけど、俺のスキルじゃ意味ないだろ」

 

「私は壁じゃなくて魔族を攻撃したいし、せめてあの雑魚っぽいやつでもいいからさあ」

 

 さすがに壁を壊したやつを置いて先に進むほど薄情ではない。

 俺たちは、しばらくこいつの息が整うのを待つことにした。

 

「……もういいから先行こうぜ」

 

 完全とまではいかないが、どうやらある程度は回復したようだ。

 まずは一本道と、遠くには扉のようなものが見える。

 アイテムでもあるといいんだが、どのみち他に行くところはないし、まずはあの部屋を目指すか。

 

 最初の部屋ということもあり、特に注意すべきこともないのでただまっすぐ歩いていく。

 すると、なにか仕掛けが動くような音が聞こえた。

 ……なんだ? 足元を見てもなにもない。ということは上か。

 

「どけっ!」

 

 周りにいるやつらが邪魔だと、とっさに突き飛ばしながら全力で走る。

 真上から大きな丸い岩が落ちてくるのが見えたからだ。

 あんなものが落ちてきたらひとたまりもない。

 

 扉目指して駆けていくと、背後から巨大な岩が落下する音と、それに驚く声が聞こえた。

 その球体の形状のせいか、岩が転がる音まで聞こえる。

 ああ……悲鳴が上がったということは、あの岩に潰されたってことだな。

 

「ちょ、ちょっと! 気づいてたなら教えてよ!」

 

「そんな余裕ねえよ! 自分の身は自分で守れ!」

 

 ヒステリックな声で、生き残った爆破使いに怒鳴られるが知るか。

 いっそのことこいつも潰れれば、うるさい声も聞かずにすんだのかもしれないな。

 

「とにかく、まずはこの部屋に入るぞ」

 

 そう言いながら扉を開けると、そこには所せましとモンスターどもで埋め尽くされていた。

 ……なんだこれ、いくらなんでも最初に部屋にいていい数じゃないだろ。

 モンスターハウスってやつか? いきなり、こんなもの用意するなんて魔王のやつ、なんて趣味が悪いんだ。

 

「ば、爆破!!」

 

 いっせいに襲いかかるモンスターが恐ろしかったのか、さっそく温存していたはずの爆破スキルを使っているらしい。

 この女……こんな近くでそんなもん使ったら、俺にも当たるだろうが。

 さすがに数が多すぎるせいか、爆破スキルだけじゃどうにもならなそうだな。

 

「爆破! 爆破! 嫌! こないで! 嫌だっ!!」

 

 あ~あ。もうだめだな。

 たしかに威力も高いし、広範囲に攻撃できている。

 だけど、これだけのモンスターが相手だと、すべてを倒すのは無理だ。

 そもそも、自分への被害を恐れているのか、あいつの近くが安地になってるからな。

 

「痛い! やめて! ごめんなさい!」

 

 結局爆破使いもここでゲームオーバーか。

 まあいいや。ほうっておこう。思ったより使えないし足手まといは必要ないからな。

 女が死んだのを見届けてから、俺は停止スキルで部屋にいる全てのモンスターの動きを止めた。

 

 ……倒すか? いや、面倒だし先に進もう。

 レベル上げなんて気が向いたときにやればいい。

 このスキルがある限り、俺はどんなモンスターが相手でも勝てるからな。

 

「しかし、ふざけやがって。あの雑魚魔族絶対殺してやる」

 

 悠々と部屋を出ると、再び一本道が続いていた。

 今度は先に扉は見えないほど長い道だ。

 こんな場所であんな岩が転がってきたら、今度こそ潰されそうだな。

 薄暗くて見づらいが、天井を常に確認しておけば、あれだけの大きな岩すぐに発見できる。

 

「あ~、首いてえ……めんどくせえな。ほんとに」

 

 さすがに死にたくないから、上を見続けているが、本当に面倒だ。

 どうせあの雑魚が卑怯にも罠をしかけたんだろ。

 絶対に、見つけ出して動きを止めてゆっくりと殺してやろう。

 

 そう考えながら歩いていると、なにか踏んだらしく足元からおかしな音が聞こえた。

 なんだこれ……、四角い石? まるでスイッチみたい……。

 

「ぎゃあっ!!!」

 

 左半身が焼けるように熱い……。

 違う。刺された。誰に? 隠れて攻撃するなんて卑怯なやつめ。

 ……あれ、なんだか眠い……あれだけ熱かったのに、体が冷たくなってきて……。

 ああ、なんだ。壁から出てきた槍で刺されたのか……。

 

    ◇

 

「ただいま戻りました」

 

「……そうですか。やはり会わせるべきではありませんでしたね」

 

 フィオナ様は悲しそうにそう言った。

 

「大丈夫です。私はあなたの味方ですから」

 

「ありがとうございます。とっくに魔族になっていたのに、未練がましく人間でいるつもりだったみたいです……」

 

「え、そうなの? 変わってると思ったんだよね。わざわざ人間と話し合いなんて。でもよかったね、早めに気がつけて。これでボクたちは本当に仲間ってわけだ」

 

 ピルカヤの言うとおりだ。どうやら俺には魔族以外の仲間はできないらしい。

 なら、せめてこの場所だけは守り続けよう。

 俺は弱い。だから、魔族としてこのダンジョンを難攻不落にしていくのがいいだろう。

 

 わずかに増えたダンジョン魔力を見て、俺は改めて魔族として生きていくことを決意した。

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