【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
問題は、このダンジョンでどれほど稼げるかだ。
ダンジョンの利用者のほとんどが使用する施設、宿と商店を作成したのは、たしかに大したもんだ。
だが、このダンジョンがドワーフのところのように、有益な場所かどうかが肝心だろ。
定期的に多くの探索者が訪れる。そんなダンジョンでないと、ロペスの企みは失敗に終わる。
だが、あいつのことだから、そのへんの調査はしっかりしているんじゃないか?
つまり、このダンジョンは、危険なだけの場所ではなく、実入りも大きい可能性が高い。
「しかたない……ダンジョン探索のほうで儲けるか」
そう切り替えると、案外ロペスの経営する施設は助けになる。
意外なほどに上質な宿には、やたらと美味い飯までついている。
商店のアイテムは、どれも他で買うより安く、品ぞろえも悪くない。
そして……なにを考えているのかわからないが、温泉がある。
いや、むしろこれを発見したからこそ、あんな無理をしてまで宿の経営を始めたのか?
昨晩宿を借りたことで、温泉の利用許可が下りた。
こちらの目論見が外れたことや、獣人や竜人のやりとりでやたらと疲れていたのだが、その温泉に入ると疲れが嘘のようにとれてしまった。
ダンジョンの中にあるためか、普通の温泉とは何かが違うようだ。
これは、今後ダンジョンに潜ったときにも役立ってくれることだろう。
「ああ、くそ……こんな施設を経営できるのなら、多少の利益の低さなんて賄いきれるってわけか」
つくづくよくできたものだと感心さえする。
現に、あれだけ不満そうだった他の連中も、誰一人としてロペスに文句を言わなくなっている。
竜人の強さと、施設の有用性。その二つの方面から、周囲を味方につけてしまったわけだ。
「お、昨日の同業か」
「ん? ああ、あんたか」
俺に声をかけたのは、ここにきた初日にロペスと獣人がもめていると、教えてくれたハーフリングだ。
こいつもここにいるってことは、ダンジョンを探索するってことか。
「あんた、今後のあては?」
「え? いや、まあ……ダンジョンにちょっと潜ってみようかなって」
突然、先の予定を聞かれた。
隠すことでもないし、正直に答えると、同業の男はちょうどよかったと話を続ける。
「俺のほうは、人間たちに雇われたんだ。だが、ちょっと人数が多くてな。できれば、俺以外にも斥候と鍵開けができるやつを探していてな」
「それって、つまり」
「あんたさえよければ、今日は一緒に働いてみないか?」
願ってもない話だ。
あてもなく、一人でダンジョンに潜ろうとしていたのだが、分業できて複数人で潜れるというのなら、それに越したことはない。
すぐに承諾をすると、俺はその臨時のパーティメンバーの一員となれた。
幸先がいい……。やはり、このダンジョンにきて正解だったようだな。
◇
「思っていたよりも、面倒な場所だな……」
大量の墓。そこから、まれにアンデッドが現れる。
事前に敵の存在を察知しないと不意打ちを食らうため、常に気を張っていないといけない。
巡回するソウルイーター。
こいつは、死体に目もくれないようで、囮を食わせての対処は難しい。
幸いなことに、のろのろと周囲を徘徊しているため、見つからずに進むことは可能だ。
可能だが……万が一見つかったら、そのまま食い殺されると思うと、こちらも精神が摩耗してしまう。
通路を往復するラッシュガーディアン。
壊れているのか、こちらの存在を認識することはなく、端から端までを往復している。
しかし、その軌道に巻き込まれたら、そのまま運ばれてしまい、途中の通路や部屋に入れない。
巻き込まれないように注意を払い、全力で走り抜ける必要がある。
「ああ……まったく、厄介な場所だ」
改めて、疲れからため息とともに、そんな弱音が口から出る。
「まあ、そう言うな。幸い、けが人もいないで進めている。それだけで、ずっとましなほうさ」
俺を誘ったハーフリングは、やけに前向きだが、それにしたって負担は大きい。
さっさとまともな成果の一つでも得たいものだが……。
「おい、そっちのほう。また落石がありそうだぞ」
「げ……またかよ」
罠もしっかりとあるのがたちが悪い。
特に多いのは、大きな岩を落とす罠で、知らずに足を踏み入れたら、その時点でリタイアだろう。
罠はそれだけにとどまらない。
突如、壁から飛び出す鋭利な槍のように殺意の高いようなものもあった。
床が徐々に凍結し、走り抜けようにも滑って転倒するような、性格の悪い罠もあった。
俺たちの能力が必要とされる場面ではあるが、こうも気が抜けないと精神的に疲れてしまう。
「お、また宝箱」
仲間が宝箱を発見し、さっそく罠の有無を確認する。
さっきは体が軽くしびれるような、麻痺毒みたいなガスが入ってたからな……。
そのくせ、中身は空だとか、嫌がらせが多すぎやしないだろうか。
「よし……ようやく、宝と呼べるものだったみたいだぜ」
「本当か!?」
鍵がかかっていなかったらしいが、罠もなかったらしく、宝箱はあっさりと開いた。
そこからは、たしかに目に見えての成果と呼べるものが詰まっていた。
品質はそこまでではないが、この人数でわけても十分儲かったといえるだけの宝石。
できれば、魔石でもあったら、より高額で取引できたが、まあ文句は言うまい。
「ようやく……なにかしらの結果は得られたな」
人間たちのリーダー格である男が、安堵したようにそう言った。
「やっぱり、ハーフリングを雇って正解だったよ。あんたらさえよければ、次回も頼む」
おい。もしかして、これで終わる気か?
たしかに、今回の探索では怪我人もなく、明確に金儲けもできた。
だが、せっかくここまで進んだんだから、もっと宝を探してほうがいいだろう。
「なあ、もう少し探してみないか?」
「おいおい、さっきまで疲れていたじゃないか」
うるさいな。
お前だってハーフリングなら、儲けられるときに儲けるのが正しいってわかるだろ。
「いや、今回はこれで引き返そう」
「だな。スケルトンやコボルトといえど、戦闘回数もそれなりに多かった。疲れもそれなりに溜まっている」
「もう一度潜るにしても、一度休んだほうがよさそうだね」
おいおい……。危険な目にもあっていないのに、そんなに腰が引けてどうするんだ。
しかし、こいつらがいなくなって、俺一人で潜るとなると、さすがに厳しいか……。
大人しく諦めよう。そう思ったのだが、俺にとっての救いが現れた。
「なんだ。先客がいたのかよ」
それは、先日からなにかと縁のある、牛の獣人の男だ。
部屋に入るやいなや、その男は俺たちの存在に気づいて舌打ちをした。
「おしかったみたいだな。もう少しで、その宝は俺のものだったんだが」
「ああ、今回はうちが早かったみたいだ」
「雑魚相手に遊びすぎたか」
この男が言う雑魚とは、道中のモンスターたちのことだろう。
昨日、自分が竜人に言われていた言葉だが、あえて使っているのか、それとも無意識なのか。
「だが、俺たちはこれで引き返す。この先にも同じような宝があるのなら、あんたらのものになるかもな」
「なんだ? もう帰るのか。人間や小人は体力がねえんだな」
嘲笑しているというよりは、獣人のほうが優れていると本気で思っているんだろうな。
こいつの仲間であろう他の獣人たちも、この男のセリフに賛同しているらしい。
そして、今回に限っては俺もどちらかというと、獣人の男の意見に賛同している。
「まあ、そういうことなら、この先にあるものは俺たちがいただくぜ」
「ま、待ってくれ」
競合相手の脱落に気をよくしていたような牛獣人に、俺はつい声をかけてしまった。
「なんだよ? まさか、やっぱりお前らが先を行くとか言うんじゃないだろうな?」
「いや、こいつらはもう引き返す。それは本当だ。だが、俺はもう少し先に進みたい」
「お前ひとりでダンジョンに挑むってことか?」
「さすがに、それはちょっと厳しいな……だから、あんたらのパーティに入れてくれないか?」
見たところ、獣人たちのパーティにハーフリングはいない。
だから、俺の役割とかぶっているやつはいないはずだ。
だったら、俺を加入させることへのメリットは十分にあるはずだろう。
「なにができる?」
「斥候、罠の解除、開錠。要は、一般的なハーフリングと一緒さ」
「うちにはいない役割だな。まあいい。それなら役立ってみせろ。そうすれば、分け前はくれてやる」
よかった。なんとか、雇ってもらえたようだ。
短絡的な獣人に思えたので、俺の役割なんか不要だと言い出しそうだったが、最低限の知能はあるらしい。
◇
「なんだ。力づくで開けるんじゃなかったのか」
罠を解除し、扉を開錠し、わりと順調に俺の働きを見せることはできている。
脳筋どもは、無理やり扉を開けるか壊すかをしながら、進んでいたらしい。
どおりで、時間がかかるはずだ。
だが、こいつらの力に、俺の技術が加われば、もっと深部まで進める。
「ずいぶんと広い場所に出たな」
獣人どもの言うとおり、やたらと開けた場所に出た。
ダンジョン内だというのに、天井もとてつもなく広く、ともすればボスでもいるのかと身構えてしまう。
だが、ボスもモンスターも、罠も宝箱もなにもない。
単に、でかいだけの部屋か。
そう判断して、先に進もうとすると上空からわずかに敵の存在を感じた。
「おい! 上から……」
「なんだこいつら!!」
「くそっ! 鳥の分際で調子に乗るなよ!」
注意よりも先に、大型の鳥モンスターたちが一斉に襲いかかる。
さすがに頑丈な獣人なだけあり、不意打ち気味の頭上からの攻撃でも、そいつらはなんとか耐えていた。
だが……俺みたいな、戦う力もなく、小さな種族は……。
「がっ!!」
「おい、小人!」
「だめだ! あんな高く飛ばれたら、どうしようもない!」
空を飛ぶ。上へ上へ、体が上っていく。
まるで……神の国に運ばれるかのようだ。
ああ、そうか。このまま鳥に襲われて、俺は神の国に行くのか……。
「くそがっ! 降りてきて戦いやがれ!」
眼下の獣人たちは、次から次へとグリフィンやヒポグリフに襲われている。
上空からの攻撃に、反撃もままならず、じわりじわりとダメージを負っているようだ。
突如、浮遊感を感じた。
どうやら、俺をつかまえながら飛んでいたグリフィンが、俺のことを離したらしい。
ということは、あとはこのまま落下していくだけ……。
最期に、ニワトリのようなモンスターの姿まで見えてしまった。
……ああ、毒か。上空からの毒攻撃。
これはもう、獣人たちも助からねえだろうな……。
こいつらに、ついていくんじゃなかっ――