【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第171話 飛躍するハーフリングの青年

 問題は、このダンジョンでどれほど稼げるかだ。

 ダンジョンの利用者のほとんどが使用する施設、宿と商店を作成したのは、たしかに大したもんだ。

 だが、このダンジョンがドワーフのところのように、有益な場所かどうかが肝心だろ。

 

 定期的に多くの探索者が訪れる。そんなダンジョンでないと、ロペスの企みは失敗に終わる。

 だが、あいつのことだから、そのへんの調査はしっかりしているんじゃないか?

 つまり、このダンジョンは、危険なだけの場所ではなく、実入りも大きい可能性が高い。

 

「しかたない……ダンジョン探索のほうで儲けるか」

 

 そう切り替えると、案外ロペスの経営する施設は助けになる。

 意外なほどに上質な宿には、やたらと美味い飯までついている。

 商店のアイテムは、どれも他で買うより安く、品ぞろえも悪くない。

 

 そして……なにを考えているのかわからないが、温泉がある。

 いや、むしろこれを発見したからこそ、あんな無理をしてまで宿の経営を始めたのか?

 

 昨晩宿を借りたことで、温泉の利用許可が下りた。

 こちらの目論見が外れたことや、獣人や竜人のやりとりでやたらと疲れていたのだが、その温泉に入ると疲れが嘘のようにとれてしまった。

 ダンジョンの中にあるためか、普通の温泉とは何かが違うようだ。

 これは、今後ダンジョンに潜ったときにも役立ってくれることだろう。

 

「ああ、くそ……こんな施設を経営できるのなら、多少の利益の低さなんて賄いきれるってわけか」

 

 つくづくよくできたものだと感心さえする。

 現に、あれだけ不満そうだった他の連中も、誰一人としてロペスに文句を言わなくなっている。

 竜人の強さと、施設の有用性。その二つの方面から、周囲を味方につけてしまったわけだ。

 

「お、昨日の同業か」

 

「ん? ああ、あんたか」

 

 俺に声をかけたのは、ここにきた初日にロペスと獣人がもめていると、教えてくれたハーフリングだ。

 こいつもここにいるってことは、ダンジョンを探索するってことか。

 

「あんた、今後のあては?」

 

「え? いや、まあ……ダンジョンにちょっと潜ってみようかなって」

 

 突然、先の予定を聞かれた。

 隠すことでもないし、正直に答えると、同業の男はちょうどよかったと話を続ける。

 

「俺のほうは、人間たちに雇われたんだ。だが、ちょっと人数が多くてな。できれば、俺以外にも斥候と鍵開けができるやつを探していてな」

 

「それって、つまり」

 

「あんたさえよければ、今日は一緒に働いてみないか?」

 

 願ってもない話だ。

 あてもなく、一人でダンジョンに潜ろうとしていたのだが、分業できて複数人で潜れるというのなら、それに越したことはない。

 すぐに承諾をすると、俺はその臨時のパーティメンバーの一員となれた。

 

 幸先がいい……。やはり、このダンジョンにきて正解だったようだな。

 

    ◇

 

「思っていたよりも、面倒な場所だな……」

 

 大量の墓。そこから、まれにアンデッドが現れる。

 事前に敵の存在を察知しないと不意打ちを食らうため、常に気を張っていないといけない。

 

 巡回するソウルイーター。

 こいつは、死体に目もくれないようで、囮を食わせての対処は難しい。

 幸いなことに、のろのろと周囲を徘徊しているため、見つからずに進むことは可能だ。

 可能だが……万が一見つかったら、そのまま食い殺されると思うと、こちらも精神が摩耗してしまう。

 

 通路を往復するラッシュガーディアン。

 壊れているのか、こちらの存在を認識することはなく、端から端までを往復している。

 しかし、その軌道に巻き込まれたら、そのまま運ばれてしまい、途中の通路や部屋に入れない。

 巻き込まれないように注意を払い、全力で走り抜ける必要がある。

 

「ああ……まったく、厄介な場所だ」

 

 改めて、疲れからため息とともに、そんな弱音が口から出る。

 

「まあ、そう言うな。幸い、けが人もいないで進めている。それだけで、ずっとましなほうさ」

 

 俺を誘ったハーフリングは、やけに前向きだが、それにしたって負担は大きい。

 さっさとまともな成果の一つでも得たいものだが……。

 

「おい、そっちのほう。また落石がありそうだぞ」

 

「げ……またかよ」

 

 罠もしっかりとあるのがたちが悪い。

 特に多いのは、大きな岩を落とす罠で、知らずに足を踏み入れたら、その時点でリタイアだろう。

 

 罠はそれだけにとどまらない。

 突如、壁から飛び出す鋭利な槍のように殺意の高いようなものもあった。

 床が徐々に凍結し、走り抜けようにも滑って転倒するような、性格の悪い罠もあった。

 俺たちの能力が必要とされる場面ではあるが、こうも気が抜けないと精神的に疲れてしまう。

 

「お、また宝箱」

 

 仲間が宝箱を発見し、さっそく罠の有無を確認する。

 さっきは体が軽くしびれるような、麻痺毒みたいなガスが入ってたからな……。

 そのくせ、中身は空だとか、嫌がらせが多すぎやしないだろうか。

 

「よし……ようやく、宝と呼べるものだったみたいだぜ」

 

「本当か!?」

 

 鍵がかかっていなかったらしいが、罠もなかったらしく、宝箱はあっさりと開いた。

 そこからは、たしかに目に見えての成果と呼べるものが詰まっていた。

 品質はそこまでではないが、この人数でわけても十分儲かったといえるだけの宝石。

 できれば、魔石でもあったら、より高額で取引できたが、まあ文句は言うまい。

 

「ようやく……なにかしらの結果は得られたな」

 

 人間たちのリーダー格である男が、安堵したようにそう言った。

 

「やっぱり、ハーフリングを雇って正解だったよ。あんたらさえよければ、次回も頼む」

 

 おい。もしかして、これで終わる気か?

 たしかに、今回の探索では怪我人もなく、明確に金儲けもできた。

 だが、せっかくここまで進んだんだから、もっと宝を探してほうがいいだろう。

 

「なあ、もう少し探してみないか?」

 

「おいおい、さっきまで疲れていたじゃないか」

 

 うるさいな。

 お前だってハーフリングなら、儲けられるときに儲けるのが正しいってわかるだろ。

 

「いや、今回はこれで引き返そう」

 

「だな。スケルトンやコボルトといえど、戦闘回数もそれなりに多かった。疲れもそれなりに溜まっている」

 

「もう一度潜るにしても、一度休んだほうがよさそうだね」

 

 おいおい……。危険な目にもあっていないのに、そんなに腰が引けてどうするんだ。

 しかし、こいつらがいなくなって、俺一人で潜るとなると、さすがに厳しいか……。

 大人しく諦めよう。そう思ったのだが、俺にとっての救いが現れた。

 

「なんだ。先客がいたのかよ」

 

 それは、先日からなにかと縁のある、牛の獣人の男だ。

 部屋に入るやいなや、その男は俺たちの存在に気づいて舌打ちをした。

 

「おしかったみたいだな。もう少しで、その宝は俺のものだったんだが」

 

「ああ、今回はうちが早かったみたいだ」

 

「雑魚相手に遊びすぎたか」

 

 この男が言う雑魚とは、道中のモンスターたちのことだろう。

 昨日、自分が竜人に言われていた言葉だが、あえて使っているのか、それとも無意識なのか。

 

「だが、俺たちはこれで引き返す。この先にも同じような宝があるのなら、あんたらのものになるかもな」

 

「なんだ? もう帰るのか。人間や小人は体力がねえんだな」

 

 嘲笑しているというよりは、獣人のほうが優れていると本気で思っているんだろうな。

 こいつの仲間であろう他の獣人たちも、この男のセリフに賛同しているらしい。

 そして、今回に限っては俺もどちらかというと、獣人の男の意見に賛同している。

 

「まあ、そういうことなら、この先にあるものは俺たちがいただくぜ」

 

「ま、待ってくれ」

 

 競合相手の脱落に気をよくしていたような牛獣人に、俺はつい声をかけてしまった。

 

「なんだよ? まさか、やっぱりお前らが先を行くとか言うんじゃないだろうな?」

 

「いや、こいつらはもう引き返す。それは本当だ。だが、俺はもう少し先に進みたい」

 

「お前ひとりでダンジョンに挑むってことか?」

 

「さすがに、それはちょっと厳しいな……だから、あんたらのパーティに入れてくれないか?」

 

 見たところ、獣人たちのパーティにハーフリングはいない。

 だから、俺の役割とかぶっているやつはいないはずだ。

 だったら、俺を加入させることへのメリットは十分にあるはずだろう。

 

「なにができる?」

 

「斥候、罠の解除、開錠。要は、一般的なハーフリングと一緒さ」

 

「うちにはいない役割だな。まあいい。それなら役立ってみせろ。そうすれば、分け前はくれてやる」

 

 よかった。なんとか、雇ってもらえたようだ。

 短絡的な獣人に思えたので、俺の役割なんか不要だと言い出しそうだったが、最低限の知能はあるらしい。

 

    ◇

 

「なんだ。力づくで開けるんじゃなかったのか」

 

 罠を解除し、扉を開錠し、わりと順調に俺の働きを見せることはできている。

 脳筋どもは、無理やり扉を開けるか壊すかをしながら、進んでいたらしい。

 どおりで、時間がかかるはずだ。

 だが、こいつらの力に、俺の技術が加われば、もっと深部まで進める。

 

「ずいぶんと広い場所に出たな」

 

 獣人どもの言うとおり、やたらと開けた場所に出た。

 ダンジョン内だというのに、天井もとてつもなく広く、ともすればボスでもいるのかと身構えてしまう。

 だが、ボスもモンスターも、罠も宝箱もなにもない。

 

 単に、でかいだけの部屋か。

 そう判断して、先に進もうとすると上空からわずかに敵の存在を感じた。

 

「おい! 上から……」

 

「なんだこいつら!!」

 

「くそっ! 鳥の分際で調子に乗るなよ!」

 

 注意よりも先に、大型の鳥モンスターたちが一斉に襲いかかる。

 さすがに頑丈な獣人なだけあり、不意打ち気味の頭上からの攻撃でも、そいつらはなんとか耐えていた。

 だが……俺みたいな、戦う力もなく、小さな種族は……。

 

「がっ!!」

 

「おい、小人!」

 

「だめだ! あんな高く飛ばれたら、どうしようもない!」

 

 空を飛ぶ。上へ上へ、体が上っていく。

 まるで……神の国に運ばれるかのようだ。

 ああ、そうか。このまま鳥に襲われて、俺は神の国に行くのか……。

 

「くそがっ! 降りてきて戦いやがれ!」

 

 眼下の獣人たちは、次から次へとグリフィンやヒポグリフに襲われている。

 上空からの攻撃に、反撃もままならず、じわりじわりとダメージを負っているようだ。

 

 突如、浮遊感を感じた。

 どうやら、俺をつかまえながら飛んでいたグリフィンが、俺のことを離したらしい。

 ということは、あとはこのまま落下していくだけ……。

 

 最期に、ニワトリのようなモンスターの姿まで見えてしまった。

 ……ああ、毒か。上空からの毒攻撃。

 これはもう、獣人たちも助からねえだろうな……。

 

 こいつらに、ついていくんじゃなかっ――

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