【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第203話 目に見える結果、目に見えない費用

「楽しそうに話しているところ悪いんだが」

 

「ほう、楽しく見えますか?」

 

 少し遠慮がちに話しかけてきたロペスだったが、フィオナ様のパワハラ上司みたいな発言に固まった。

 やめてあげてください。あなた魔王なんだから、ちょっとした威圧でも慣れていない者には怖いんです。

 ロペスは、俺みたいにあなたの中身がポンコツでかわいい生き物だって、まだまだ理解しきれていないんです。

 

「あまりロペスをいじめちゃいけませんよ?」

 

「わかりましたよ……」

 

 自覚はあったのか、素直に認めて反省してくれる。

 ほら、かわいい。ロペス見ているか? 魔王のかわいい部分が出ているぞ。

 

「す、すまないな……ええと、それでだ。二人がその金に執着していないことは、なんとなくわかっている」

 

 まあ、使い道ないから。

 せいぜいが従業員たちへの給料として支払うか、食料の買い足しに使うくらいだな。

 

「だったら、俺に預けてみないかい?」

 

「なにか考えがあるのか?」

 

 カジノで働いている従業員たちへのボーナスにでも使うのかとも思ったが、どうにもロペスには別の考えがありそうだ。

 こちらが否定的な態度でなかったためか、ロペスもすっかりと調子を取り戻したように提案を続ける。

 

「商店でできることを増やそうと思うんだ」

 

「商店で……荷物の配達とか、料金の支払いは……だめだな」

 

 商店の機能を拡張と聞いて一番最初に思いついたのが、元の世界のコンビニのように、商品を売る以外の作業の追加だ。

 しかし、公共料金の払い込みとか、うちでできるはずがないし、荷物の配達もダンジョンの外の作業となるので、あまり現実的ではない。

 となると、銀行みたいなことでもするのか?

 

「アイテムの買い取りをするっていうのはどうだい?」

 

「買い取りか……」

 

 たしかに、ゲームとかではアイテムを買うだけでなく売ることもできる。

 ならば、ロペスの提案ももっともなのだけど、正直なところこちらにあまりうまみがない話に思えてしまう。

 客から買い取ったアイテムを、店頭で販売するということもできるが、うちの場合商品はフィオナ様が勝手に補充してくれるからな。

 時任(ときとう)たちからも、現時点で品物が足りなくなったという話はあがっていないので、供給は足りているということになる。

 

「在庫を抱えるだけにならないか?」

 

「ああ、ボスが言いたいことはわかるぜ。たしかに、余分なものの買い取りになっちまう」

 

 だとしたら、商売以外が目的か……。

 商店の用途を増やすことで、客層を厚くする狙いでもあるのだろうか。

 

「カジノで当てたアイテムなんだが、自分で使うやつもいれば、すぐに売っ払っちまうやつもいる」

 

「たしかに、半々くらいに分かれているみたいだな」

 

「だったら、うちで買い取っちまうのはどうかと思ってな」

 

 なるほど……それで買い取りか。ロペスの言いたいことがわかってきた。

 宝箱ガシャで当てたアイテムをうちで買い取ることで、回収してしまおうということか。

 

 宝箱の外装が一定以上の豪華な見た目になったときは、相応の品質のアイテムが出てくるので、危険な兆候はわかっている。

 そのときは時任に中身を確認してもらい、魔王軍にとって害がある場合は中身を変更しようというのがフィオナ様の提案だが、今のところそんな危険なアイテムは出現していない。

 さすがに、魔王軍を倒すほどのアイテムなど、そうそう出てくるものではないようだ。

 

 それでも、それなりに有用なアイテムは出現しているようで、宝箱ガシャで当たりを引いて喜ぶ者は少なくない。

 危険はないとはいえ、人類側にアイテムが出回るよりは、回収できるにこしたことはないか。

 

「いいんじゃないか? 必要なら、今回のお金だけじゃなくて、カジノの売り上げを使ってもいいし。フィオナ様はどうです?」

 

「レイがいいと思ったのであれば、任せましょう」

 

「ということみたいだ。資金以外にも必要なことがあれば言ってくれ」

 

「ああ、任せてくれ。それにしても気前がいいな」

 

 何度も言うが、使い道ないからな……。

 すべてが自給自足できるって、魔王軍すごいよな。クララたちがやたらと感動していたのは、ダークエルフたちも外界に頼れず、最終的には自給自足を強いられそうになっていたからだろう。

 

「そんなに気前がいいのなら、俺の給料も上げてもらえるかい?」

 

「ああ、ロペスは役立ってくれているからな」

 

「え、まじで上げてくれるのか?」

 

「払っている給料に見合った働きをしてくれるなら、いくらでも上げられるぞ」

 

「…………ああ。それじゃあ、今のままでかまわないぜ」

 

「え、いいのか?」

 

 変なやつだな。自分から言い出したのに、こちらが許可を出したらあっさりと撤回してしまった。

 もしかして、ただの冗談だったのに、こちらが本気にしてしまったか?

 冗談の通じない雇用主だと思われたかな……。

 

    ◇

 

 ボスのことだ、きっと本気で俺の給金を上げてくれただろう。

 だが、その後の言葉も本気だっただろうな……。

 上げた給金分の成果を出さなかったその時は……ボスに見限られる?

 

 それは恐ろしいことだ。

 ボスのことだから、それが原因でここを放り出すなんてことはしないだろう。

 しかし、今後は期待されない。ボスは、そういうシビアな判断を下す方だ。

 

「まずは、アイテムの買い取りのほうを進めねえとな。自分で言った以上、失敗するわけにはいかないからな」

 

 ビッグボスがあっさりと手放した金や金塊だけでなく、これまでボスに納めていた資金がすべてこちらに返ってきた。

 俺の提案をあっさりと許諾し、こうも簡単に金を用意するあたり、あの二人には物欲というものがないのだろうか。

 いや、ビッグボスはわりと物欲あるっぽいな。ただ、求めている物以外に興味がないのか。

 ……俺たち転生者はどうなんだろう。せめて、ビッグボスにとって、利用価値があるものだと思われていればいいのだが。

 

「私たちも協力はするが、目利きというか交渉は君の方が得意そうだねえ」

 

「俺もこっちの世界の物の価値はそこまで明るくねえが、まあやってみるさ」

 

 女王様も、ダークエルフやハーフリングも協力的だ。

 ならば、ちょっとがんばってみるとするかね。

 

    ◇

 

「当たった!!」

 

「お~、こりゃあまた大したもんだ。おめでとさん」

 

 思わず大声をあげてしまい、周囲の客に見られてしまうが、そのくらい気にならない。

 それほどまでに、俺はこの宝箱という催し物に熱中していたらしく、それが報われたことに喜んでいるようだ。

 近くにいたハーフリングの店員の祝福の言葉に、握手の一つでもしそうになってしまった。

 

「こりゃあ、魔力の結晶だな。魔法職なら大抵役に立つぜ」

 

「魔法職……」

 

 そうだった。価値のあるアイテムに思わず喜んだが、獣人の近接職である自分には縁がない。

 そもそも、獣人で魔法が得意なやつって少ないからなあ……。

 どうしたもんか。パーティメンバーも魔法を扱うやつはいないぞ。

 

 ……仕方ない。売るしかないか。

 そうなると、先ほどまでの喜びが若干冷めてしまった。

 金が手に入るのはいい。なんなら今日は黒字で終えることができるってわけだからな。

 だが、手元に残るのは金だけというのが、ややさびしいものだ。

 というのは、さすがに贅沢な悩みか。

 

「売りに行くとなると、しばらくここを離れないといけないか……」

 

「ああ、そうだ。そんなお客さんに提案があるんだが」

 

「提案?」

 

 ハーフリングが、思い出したかのように口を開く。

 まあ、ここに通っていてわかったが、このハーフリングは、自分だけが一方的に儲けようとするやつじゃないとわかっているからな。

 それならば、話を聞いてみたほうがいいだろう。

 

「俺はこのカジノだけじゃなく、宿に商店も取り仕切っていてな」

 

「ああ、知っているよ。いつも利用させてもらっているからな」

 

「お得意様だもんな。いつもありがとな。そんなあんただからこそ、もっとうちを便利に利用してもらいたい」

 

 今でも十分便利な場所だと思うけどな。

 寝泊まりできて飯があるだけでありがたいというのに、探索に必要なものまで売っていて、娯楽まである。

 それらすべてを利用している俺は、十分便利に使っているといえるだろう。

 

「最近、商店で不用品の買い取りを始めたんだ。特に、あんたみたいにせっかくカジノで当てたはいいが、扱いに困る品とかなんとかしたくてね」

 

「それは……助かるけど、買い叩かれるのはごめんだぜ?」

 

「そんなことしねえさ。こっちにも得はある」

 

 このハーフリングが言うのなら、それは本当なんだろう。

 互いに得する取引、どうやらそれを信条にしているようだからこそ信用できる。

 

「さっきも言ったが、せっかく当たりを引いたのに、それを持て余すようじゃあまりいい気分じゃないだろ?」

 

「まあ……冷静になって考えると、正直なところ少しガッカリしたというか」

 

 俺が商売に長けた獣人やハーフリングならよかったんだけどな。

 取引の材料として大物を手に入れたというのであれば、手放しに喜ぶこともできただろう。

 だが、そうではない。そのせいで、少しだけ拍子抜けしているのも事実だ。

 

「当たったのに、大いに喜べないとあっちゃ、あんた次もこれに挑戦してくれなくなるかもしれないじゃないか」

 

「そんなことは……」

 

「せっかくの当たりを引いたのなら、100%の喜びを提供したい。それで、せめてその場で換金できたらと思っていたんだ」

 

「なるほどな……あんたの言い分はわかった」

 

 その後も取引について話してみたが、特に不審な点はない。俺も満足できるだけの取引内容だ。

 結局、俺はその場でハーフリングに品物を手渡すことにした。

 なるほど……要するにカジノで金が大当たりしたようなものだな、これは。

 売りに行ったり交渉したりと、そういう手間がなくなるのであれば、思っていた以上にいいものだ。

 

 その日はそれで満足していたが、後日俺はさらなる満足感を得ることになる。

 

「……俺が当てた品を飾ってくれているのか」

 

 金と引き換えに失ったと思っていたものがそこにはあった。

 もう俺のものではないが、なんだかああして飾ってもらえると嬉しくもなる。

 そして、今日もああいった当たりを引き当ててやろうと、やる気も出るというものだ。

 

 俺は、再び宝箱に挑戦すべく、列へと並ぶことにした。

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