【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第208話 水天一碧の一点集中

「げえっ! ダスカロス! いいって、言ったのに!」

 

「ほう、それはつまり、私を蘇生させる必要はないと進言したということか。エピクレシ」

 

「いやぁ? 私は、ロマーナが教えるから、別にいいと言っただけでして、怒られたくないとかじゃないんですけど?」

 

「つまり、君はまた徹夜で研究を行い、ろくに食事も睡眠もせずに、マギレマやテラペイアを困らせているということか」

 

「ド、ドラゴンゾンビ。助けて!」

 

「無理です……」

 

 なんなんだろう……。

 僕たちだけでなく、ロマーナさんさえもついていけないこの状況は。

 

「今の方が、ダスカロス先生です」

 

「先生……」

 

 ドラゴンゾンビさんが教えてくれたが、すでにダスカロス先生もエピクレシさんもいない。

 どこかに連れていかれてお説教をされているんだろうなとうことは、僕でさえなんとなくわかった。

 

「あの~……いいんですか? エピクレシさんが、大変なことになりそうですけど」

 

「エピクレシ様は……助けることはできませんので」

 

 それでいいんだろうか、ドラゴンゾンビさんはどちらかというと、エピクレシさんの味方のはずなんだけど。

 

「ここで先延ばしにしても、結局お説教されますから」

 

 あの人が、レイさんに頼んだという先生なのかな……。

 だとしたら、そんな厳しい先生に僕たちが師事するということか。

 いや、そのくらいでないと勇者の力を活かして活躍するなんてできないだろうし、危険な目に遭うくらいなら、厳しく指導されたほうがいいのかもしれない。

 

「ドラゴンゾンビ先輩。ひとまずは、これまでどおり、私がカザマくんたちを指導しておいたらいいでしょうか?」

 

「う~ん……それでいいんじゃないですか? エピクレシ様もダスカロス様も、たぶん長引くでしょうし」

 

 そんなにお説教長いんだ……。

 僕たちを教えるときは、頻繁にお説教で時間を潰すことになりそうだ。

 

    ◇

 

「エピクレシなにしてんの?」

 

「ダスカロスに強制的に休養をとらされているところです」

 

「テラペイアじゃなくて?」

 

「ダスカロスです! テラペイア以上に力ずくなのは、ダスカロスの所業です!」

 

 ガルーダよりも人狼のほうが力が強いのかな?

 

「レイ様。きっとなにか違うことを考えているようですが、ダスカロスは悪辣極まる性格なので加減をしてくれないということです」

 

「えぇ……話した限りでは、悪い魔族だとは思えなかったんだけどなあ」

 

 いや、それもそれで正しいのか?

 魔ってつくし、悪を成すほうが正しい生き方だったりするのか?

 ただ、悪魔であるプリミラが、ガーデニングが好きなだけの女の子だし、それも今さらか。

 

「それで、言いつけを守って宿で休んでいると」

 

「守らされているんです! あの犬! 魔力に干渉して、強制的に昏倒させていったんですよ! ひどいですよね!?」

 

 なるほど、それはたしかにテラペイアよりも力ずくだ。

 そして、そうでもしないと休まないエピクレシにも、問題はあるんじゃないだろうか。

 ……となると、次はピルカヤやマギレマさんあたりか?

 

「ちゃんと休めばテラペイアもダスカロスもなにも言わないのに、みんな休むの下手だよね~」

 

 そこは本当にそう。イピレティスの言うことが完全に正しい。

 エピクレシもそう思っているのか、目をそらして黙ってしまった。

 

「それで、そのダスカロスはどこに?」

 

「私にお説教して、こうしてベッドでぐっすり眠らせてどこかに行ってしまいました!」

 

 ああ、そうか。昏倒させられたのなら、それからどうなったかはわからないな。

 

「ただ、だいたいは見当がつきますよ」

 

「やっぱり、ピルカヤかマギレマさんのところに?」

 

「? いえ。もともとカザマたちの教師という役割を求められていたため、それをこなしているのではないでしょうか」

 

「ああ。そこはちゃんとやってくれているんだ」

 

 自分に求められている仕事もちゃんとこなしつつ、フィオナ様たちをお説教しつつ、ワーカーホリックは無理やり休ませていると。

 なんとも忙しそうだな。代わりにプリミラやテラペイアの負担が減って喜びそうだ。

 

「ところで、レイ様はどうしてここに?」

 

「プリミラとテクニティスと待ち合わせをしていたところ」

 

 リグマに頼んで、これからの作業のための部屋を借りたのだが、先客としてエピクレシがいたというわけだ。

 俺たち魔王軍が自由に作業できるように、リグマは宿の中でも大きな部屋を一室、常に空けてくれているからな。

 さて、きっちりしているプリミラのことだから、時間に遅れずもうすぐ来るはず……来たな。

 

「お待たせいたしました」

 

「いや、そんなに待ってないよ」

 

 頭を下げるプリミラの手には、きちんと武器と宝玉がある。

 以前言っていた、プリミラの武器の強化もこれで見通しがつきそうだ。

 ピルカヤはパワーアップしたし、リピアネムはパワーダウンしたけれど力が制御できるようになった。

 ならば、プリミラもきっと強くなるんだろうけれど、そういえば俺ってプリミラの強さ知らないな。

 

 フィオナ様にお説教できるとか、そういう強さとは別のもっとシンプルな戦う力を知らない。

 まあ、ステータスを見る限りでは、四天王なだけあって相当強そうだし、きっと今後も魔王軍の頼れる存在でいてくれることだろう。

 

「それじゃあ、自分はプリミラさんの武器に、その潮流の宝玉をとりつけたらいいっすね!」

 

「はい、よろしくお願いします。テクニティス」

 

 プリミラ愛用の武器であろう巨大な槌。テクニティスはそれをちょっと重そうに受け取ると、大きな机の上へと置いた。

 テクニティスの筋力だってそれなりのものだが、それがよろめくほどとなると、あの槌見た目相応に重いんだろうな。

 

「それでは、潮流の宝玉を埋め込ませてもらうっす」

 

 一言断ってからのテクニティスは、真剣な表情で武器と宝玉へと向き合う。

 見るからに集中していて、もはや周囲の情報など入ってきていないかのようだった。

 カールのやつも、わりと高い集中力を持つが、テクニティスの場合は、それをも上回るように見える。

 

「すごいな」

 

 作業に取り組む姿勢。それを見ただけでも、思わずそんなことをつぶやいてしまう。

 

「テクニティスは、一流の魔法細工師ですから」

 

「他の職業と違って、魔法細工師って特になじみがない言葉なんだけど、武器とアイテムを組み合わせるのってそんなに難しいの?」

 

「ものによりますが、今回の潮流の宝玉は高い魔力を秘めていますから。カールも言っていたように、下手に加工をするとバランスを崩してしまうのです」

 

 それで、失敗したら宝玉ごと壊れてしまうとかだったか。

 ただ壊れるだけならまだしも、この潮流の宝玉というやつは、壊れたら海流で周囲を満たすって話だもんな。

 ダンジョンでそんなことが起きたら、住んでいる物たちも施設も水没してしまう。

 つまり、テクニティスが失敗したら、そのくらいの被害が発生するということか……。

 まあ、誰一人として彼を知る者たちが心配していないので、きっとそんな失敗は起こらないのだろう。

 

「プリミラは、この武器が完成したら水をもっと自由に操れるようになるんだよな」

 

「ええ、そのとおりです」

 

「そうしたら、やっぱり畑に使うとか?」

 

「そうできたらよかったのですが、あの宝玉の力で引き起こす水は海のものですから……」

 

「ああ、それじゃあ使えないか……」

 

 残念そうにするプリミラの様子を見るに、彼女もできればその力を戦闘よりも畑で振るいたかったようだ。

 まあ、彼女自身も水を操る力があるし、普段はその力を存分に畑に活用しているから、そのあたりは今後も変わらないんだろうな。

 

「できたっす!」

 

 そんな話をしていると、思っていたよりもだいぶ早くにテクニティスの作業が完了したらしい。

 やはり重そうに持っている槌には、たしかに宝玉が取り付けられている。

 素人目にはわからないが、きっとただくっついているのではなく、魔力のバランスとやらも完璧なんだろうな。

 

「ふむふむ……いいですね」

 

 そんな槌を軽々と振るうプリミラを見ると、やはり不思議な光景だなと思う。

 筋力のステータスが高いのはわかるが、普通はテクニティスのほうが力がありそうなんだが、これも種族やレベルによる差というものなんだろうな。

 

「ふむふむ」

 

 槌を振るうと、その槌にまとうように水の流れが発生する。

 振れば振るほどに、その水の量は増え続け、その勢いは強くなる。

 そして、彼女が少し手を加えるだけで、水は自由に姿を変えて、水そのものを武器として扱うこともできるようだ。

 

「ふむふむ」

 

 新たな武器に熱中しているところを見ると、なんだか年相応な姿にも見える。

 武器を試している集中力は、先ほどのテクニティスほどではないが、周囲の様子も気に留めていないようだ。

 

「ふむふむ」

 

 ――だからだろうか。

 だんだんと水浸しになるこの部屋に、彼女はいまだに気がついていない。

 

「プリミラ?」

 

 水を操るのにも集中力が必要ということだろうか。

 呼びかける声が、新たに発生した水音でかきけされる。

 

「プリミラ、なんかやばそう!」

 

 発生した水の量は、すでにとんでもないことになりつつある。

 問題は、彼女がそれを操ることに夢中になっているということだ。

 このままじゃ、この部屋が水没するんじゃないか!?

 

「……レイ様。逃げたほうがよさそうっす」

 

「え?」

 

「ま、待ってください! 私を置いていく気ですか。テクニティス!」

 

 魔力に干渉されたためか、まだ体が思うように動かないエピクレシが焦ったように叫ぶが、その声は水の中に消えていった。

 あ……潮流に飲みこまれた。

 

「逃げるか」

 

「っす!」

 

 急いで部屋を出た背後からは、水が荒れ狂い部屋の中が沈んでいく音が聞こえた気がする。

 我に返ったプリミラは、その後すぐに水を消したようだが、ずぶぬれのエピクレシの横で正座をしながら、ダスカロスにお説教されることとなった。

 ……プリミラがお説教される姿なんて、貴重なものを見た気がするな。

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