【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
長い。ひたすらに長い通路を進む。
そんな道中で、たまに現れるモンスターを倒し、罠を回避し、宝箱からそこそこのアイテムを回収する。
これだけならば、やたらと広いだけのゴブリンダンジョンみたいなものだ。
だから、本命はこのあくびが出るような道の先にある。
「やっと、変化したか」
「噂どおりだな。奥に進んだら単調なダンジョンではなくなり、そこのモンスターも罠も凶悪になる。代わりに回収できるアイテムは期待できると」
そのあたりは、欲望のダンジョンに少しだけ似ているかもな。
もっとも、あちらは序盤から見返りもあるし、ここまで面倒な道のりを進む必要もない。
欲をかかなければ問題ないはずだが、肝心のアイテムへの期待は、あちらのダンジョンと比べてだいぶ怪しくなってきている。
問題は、やはり罠か。
モンスターたちは、はっきりいってそこまで強くない。
ただ、数が多いのでうっとうしく、奥の部屋では、モンスターと罠が同時に襲いかかることもある。
それが実に厄介であり、ここから先はそう簡単には突破できないようだ。
それならば、引き返すしかない。中には、無理に進んで怪我をするか、最悪命を落とす者さえいる。
だけど、俺たちはこのダンジョンは、そこまでして攻略すべきものじゃないと思い始めた。
どうも、アイテムの質がよくない。これならば、欲望のダンジョンに通ったほうがいいだろう。
「はあ……うまみがないな」
「ないわけじゃないけど、少ないよね」
「なんかもっと、危険に見合ったリターンが欲しいところだ」
まあ、無茶は言っているとわかっている。
魔王だって、別に俺たちにアイテムを与えているわけではないのだから、そんなこと言われても困るだろう。
だが、こっちも命がけで探索をしている以上は、危険と報酬が釣り合わないダンジョンなんて入りたくない。
「ここはもう、放棄するか」
「だな。目ざといやつらは、とっくに放棄し始めているし、俺たちもそれに続くべきだろう」
むしろ、今までのダンジョンが良すぎたんだ。
少し前であれば、ダンジョンの攻略中に、満足できるアイテムを回収できることなんて、ほとんどなかったからな。
最近発見されたダンジョンが、やけに効率がよかったせいか、知らず知らずのうちに俺たちは贅沢になっていたらしい。
「モンスターがあふれるようであれば、国が間引くだろう」
それが、ダンジョンの正しい在り方だった。そんな一昔前の在り方に戻るだけ。
俺たち冒険者は、近いうちに全員ここから撤退することになるだろうな……。
うまみがないダンジョンは、国が最低限の対応をすればいいだけだ。
◇
「来た来た! 今度はちゃんと殺せよ!」
「そんなこと言われたって、モンスターにはもう指示を出しているから、今さらできることはないぞ」
「罠も同じ~。なんか、最初のころと違って、簡単に死なないやつばっかりで、嫌になるわね」
そう、最近のダンジョンは空振りばかりだ。
侵入したやつらをしとめることができず、アイテムだけを盗まれていく。
せっかく配置したモンスターも、罠も、だんだんと慣れてきたのか、対処されることばかりだ。
モンスターは弱いからしかたないにしても、罠はそれなりに威力が期待できるはずなのに、なんでこうも上手くいかない。
そもそも、侵入者の数が少なすぎる。おかしい。アイテムはちゃんと用意しているだろ。なにが不満なんだ。
「ああ、くそっ! こっから先が罠ゾーンなのに、逃げすぎだろ!」
「やる気ないなら、来んなっつーの」
「なんか、根性ないやつばっかりになってきてない?」
「それに、ダンジョンにくるやつもかなり少なくなっているみたいだぞ。やっぱり、宿とか商店が入り口にないとまずいんじゃないか?」
何が違うんだ?
俺たちのダンジョンだって、モンスターもアイテムもあるだろ?
この国では情報が多く行き交うから、ダンジョンのことだって散々聞いてきたぞ。
要するに、簡単に倒せて経験値を稼げるモンスターと、金を稼ぐためのアイテムを持ち帰れるようにすればいいんだろ?
そうして、欲につられたNPCたちを好きに殺し続けて、レベルを上げるだけじゃないか。
街の中にダンジョンを作ったから、通うだけならこっちのほうが近いだろ。
それに、宿や商店は、街から通うのであれば、わざわざダンジョンに作る必要はないはずだ。
「わっかんねえ……なんなんだよ」
「ここまで大がかりな準備をしたんだから、今さら引き返せないわよ? なんとかして、NPCたちが大量にここにくるようにしないと」
「いっそのこと、ここに魔王とか魔王軍の幹部みたいなのがいるって噂流す?」
「そうか……そうすれば、さすがに国もほうっておけないからな」
◇
ロマーナさんとダスカロス先生から、勇者として鍛えてもらっている。
カール師匠から、石細工の技術を教えてもらっている。
マギレマさんのレストランで、魔王軍の一員として働いている。
休日は、新《あらた》と友香《ともか》と、外出したり、ダンジョン内を楽しんだり、のんびりと過ごしている。
充実している。それは間違いない。間違いないんだけど……。
「時間と体がもっとほしい」
「
「そうよ。ピルカヤさんやマギレマさん、それに他の魔族やダークエルフの人たちみたいに、テラペイアさんに怒られるわよ?」
「だよねえ……。でも、その人たちの気持ちもわかるよ。やれることとやりたいことがどんどん増えてきて、毎日楽しいから」
城の中で、なにもわからず、なにもできず、ただ無駄な時間が過ぎるのを待っていたのが嘘みたいだ。
あのときに、もっと自分から率先して動いていたら、あの国でももっと充実した日々を過ごせたのだろうか。
思えば、
「おや、カザマたちもご飯っすか?」
「テクニティスさん。いえ、僕たちはマギレマさんのところで働いているので」
「ああ、仕事っすか。お疲れっす。……そういえば、カザマってカールから、石細工習ってるっすよね?」
「ええ。師匠には、まだまだ及第点はいただけていませんが」
まだまだ、いろんなことが中途半端だ。
もっと、強くなって上手にならないといけない。
その点を考えると、ロペスって僕たちの中で特にすごい気がするなあ。
「自分、最近カールに魔法工芸を教えてるっすから、カザマにもそのうち教えてもいいっすよ」
「本当ですか? それは、ありがたいです」
「まあ、カールの許可が下りてからっすけどね」
「う……」
となると、まだまだテクニティスさんの教えは先の話になりそうだ。
きっと師匠も、もっと基礎ができるまで許可を出してはくれないだろう。
というか、焦るなとか生意気言うなとか叱られるかもしれない。
「もっとがんばらないとなあ……」
給仕をしつつ、決意を改める。
別に気もそぞろというわけじゃない。幸いというべきか、こういう給仕の仕事はすでに慣れたもので、マギレマさんからも評価をいただいている。
前の世界でのバイトが、こんな形で役に立つなんて、なにが役立つかはわからないものだ。
だから、仕事をこなしつつも、お客さんの会話まで耳に入ってくる。
「で、どうなんだよ? 例のダンジョン」
「ありゃあだめだ。実入りが全然ない」
「宝は少ないし、質も悪いからな」
「だけど、安全にモンスターを狩ることはできるんじゃなかったのか?」
「それも、あれだけだだっ広いとなあ……。時間がかかりすぎて効率が悪いぞ」
「モンスターたちが密集して強くなる場所は、こっちが死にかける罠も大量にあるしな」
「なんか、ちょうどいいリスクとリターンがない」
「結局は、欲望のダンジョンが一番か」
「距離以外は、あそこに勝るダンジョンなんてないんじゃないか?」
これって、マギレマさんが集めている情報だったっけ。
たしか、ここアルマセグシアに、レイさん以外が作ったダンジョンが出現したとかいう。
最近は、この手の会話をするお客さんも多いし、あとでまとめてマギレマさんに報告しないとな。